シナリオⅣ 2 後章 第8話〈前編〉
シナリオⅣ 2.18〈愛は約束、愛は思い出の品。一度与えられると、忘れ去られることはない。決して愛を失くしてしまわぬように〉
Love is a promise, love is a souvenir, once given never forgotten,never let it disappear
草創歴0449年8月(8/28)〈前編〉
帝国軍第弍新帝都の動力源は、壱號から伍號までの生体動力「ゾイマー炉」によって賄われている。
この「ゾイマー炉」は鑫のテクノ・ミュラー・ウェストエイトによって製造され、人の手によって作られし神の似姿。言わば人造人間に等しい。
英雄戦争の際に採取された「神の卵」(アニマ・オーヴァル)の一部を遺伝子改造し、複製した器。
これを五つの部位に分け隔てる事で、自律稼働の封印を成している。
これを総じて、「八蓮門」槌のゾイマーと称する。
テクノにしてみれば歯痒い。口惜しくも、自らの手で創り上げた傑作を、その手で暴走させねばならぬとは…。
そもそも、ポ・チダムーには煮え湯を飲まされ続けているのだ。
常軌を逸した研究設備群と潤沢なる資金、知識欲の追及。
概ね満足はしている。
だが、私の作品を寝所に連れ込む悪癖には辟易するものがあった。
外見を少年少女のまま留めるのも、奴の性癖に準じてのものだ。
…その報いを受けて貰わねばなるまいな。
第弍新帝都の構造設計図の流出によって、対帝国同盟「カイト」の侵攻ルートは四つに分断されている。
それぞれが中央区画を目指して進軍中にて、順次内壁を突破中だ…。
ポ・チダムー…あの男の指示により、暴走シークエンスに入ってはいたが、流出する膨張エネルギーが伍機全てに連結されるまでには、優に5時間は掛かろう。
だが、その頃には、彼等は軌道廻廊を通過し、摩天楼上空の「空座」にまで至っている筈だ。
問題は残る「八蓮門」の動向か…。
不可解にも、陽のファーサイト・ローレライは不在である。
言うに及ばず、邩のシュルベルトに至っては当初より音信不通(?)。
最大の障害は月のユウト・ラ・ラセン…不死者の末裔か。彼の素性を私も詳しくは知らされていない。
死人を操る魔道術式とは、どうも系統が異なる。
研究心が疼くが、彼だけはポ・チダムー肝入りの「八蓮門」入閣である。
そして、当のユウト・ラ・ラセンは失った駒に代わり、騎士と思しき女性を伴いて出現した。
そこは中央騎士団と紅石騎兵の合流地点に当たる分岐路。
最終内壁「金剛牆」前庭。
これを率いる「ラミナ=プロクルサトール(剣聖)」ショウ・ミンジィアングルス、及び、同盟専任長官のカロン・カイン・ミストは二の足を踏む。
「…あの女は屍人か?」
「あれは、まさか…。」
一種異様な存在を前に、彼等が立ち止まるには、もう1つ理由があった。
ライラティティア・ディス・ユイアン。
その名が示す通り、都市ライラの由来となった女性騎士である。
およそ460年前、「デ・ニア・キア教皇教国」と「大ハルゴニア新興国」との争乱時、ラディウス・ジェーフストヴァンニツァ(至高の乙女)と称される「天杯」の最高位にあった女性に他ならない。
伝説の霊馬「グランホルム」も健在。
翠炎を纏いし幽体の騎馬に跨がり、その契約術式が織り込まれた騎槍「ペッカートゥム・オリジン(原罪)」の一振りが壁面を抉り取り、内壁を崩壊させ、驚異的な雪崩れを引き起こす。
ズガガガッッッ…ドォォォーーーンッ!!
「くっ!?何と言う因果なっ…。」
カロン・カイン・ミストの次元干渉による断絶が降りかかる破片を弾き飛ばし、狼狽える紅石騎兵を救った。それも、どうにかだ。
だが、その損害は計り知れない…。
彼等は瓦礫によって通路を塞がれていたのだ。
「…現状、迂回路を探すリスクは大き過ぎる。これでは合流に間に合わんっ!」
「カロン卿っ、この敵は私にお任せ願いたい…。」
さもありなん。
ショウ・ミンジィアングルスの一族は元来、ライラティティア(幸運の街)出身でもある。
今は無き第三封都の封王リアクウアイデと共に、彼女が中央騎士団を設立したのが草創歴68年。
彼女の血は…ショウにも脈々と受け継がれているのだ。
「なればこそ、我が剣聖(ラミナ=プロクルサトール)としての力を試すに相応しい相手。」
宝刀「鬼童斬り」を正眼に構え、馬上の間合いを図る。
これはある意味、神が与えたもうた試練であると思えた。
一方、悠然と骸の騎馬に跨る月のユウト・ラ・ラセン。
紅石騎兵を逃さんと前方に立ち塞がる。
「噂の死人使いか?」
やむなくカロン・カイン・ミストが前に出る。
冥府の穴「韻律の梯子」(スーカーラ)を通じて、墓守の劣化した因子により、その魂を現世に蘇らせる。
それが「ラセンの都」に住まう者の血統。この血の因子は「暗の勢力」に近しい希少種である。
しかしそれは魔道とは一線を画する異能。
だがそこには厳密なルールがある。
使役する魂が冥府にて無念の鎖に縛られている事。
手綱であるその鎖が強靭である事。
のみならず、鎖を触媒として、膨大な怨念の渦を導き、概念化する。
「奥義!アブ・ホル(奇巌王)来臨。」
瘴気が虚空より噴き出し、形状を視認化させていく。
ゴゴゴゴゴ…ゴゴゴ…ゴゴゴゴゴ…ミシッ!ミシッ!ミシッ!!
一同は言葉を失い、頭上を見上げる。
「…なんと言う、面妖なっ!?」
悍ましい巨大な髑髏の底知れぬ双眸。カロン・カイン・ミストの眼前で、禍々しい白骨の巨人が軋みを立てて起き上がってゆく。
その巨大な手による一薙ぎが、「金剛牆」前庭を成す路面を易々と吹き飛ばした。
ガッシャャャーーーーーャャャン!!
幻術などでは無く、この巨大な骸は実体を有している。
その振動は、帝国軍第弍新帝都を攻略する者、全てが感じ取っていた。
尋常では無い瘴気の収束と威圧感。
だが、足取りをそちらに向ける訳にはいかない。
既に「砂炎の猟団」と合流を果たし、中央区画摩天楼内部に侵入を果たしていたソウマ達は、謁見廻廊の中枢部に向かっていた。
内部の防衛兵装は破壊され、沈黙化している。
一部生き残ってはいたが、フュリエルの「水の結界」(トロプフェン)がこれを防ぐ。
「ソウマ…守りは僕に任せて。」
「うん。今のうちに急ごうっ!!」
施設の内部構造はタマウガードの脳裏に記録されている。迷うことは無い。
「さあ。ここから先は、軌道エレベーターまで一本道です!先行部隊に追い付きますよっ!」
円錐形状の白柱が束ねられて構築された巨大な円柱が内部支柱として、この摩天楼の骨格を支えている。
その内部の巨大な空間、それ自体が軌道廻廊として下層と摩天楼上空に位置する「空座」を繋ぐ軌道エレベーターとなっており、ここに半生体演算回路「煌王サハド・ジ・ハドⅡⅣ世」が納められていた。
駆け付けたソウマ達が見たものは、数人の手練れの「カーテル(刃の党派)」を率いて単独先行したレン・スラスト・ヴァストックが、犠牲を出しつつも、その遺骸を葬った跡であった…。
「レン義兄さんっ!?」
双刃の偃月刀が砕けながらも、半生体演算回路の心臓部を貫いて止まっている。
激しい戦いの痕跡が見受けられた…。
「マリュー!レン義兄さんを早くっ!!」
「はっ、はいっ!」
マリュー・スティーリアが慌てて駆け寄る。
「ええいっ。落ち着け、小僧っ!」
猫目の「美獣覚醒」を用いても、運悪く深手を負ったレンを治癒していたのは、誰であろう、白衣の鑫のテクノ・ミュラー・ウェストエイト、その人であった。
慌てるソウマを叱りつけ、生体活性化溶液を塗布し、一時凌ぎの処置を施している。
しかし、みるみる顔色は回復し始め、ホッと胸を撫で下ろす。
「タマウガード、何をやってる!?予定時刻より遅いじゃないかっ!!」
「…分かっています。それより、手筈の方はどうですか?」
予想外にも2人は旧知の仲と言った様子。
それもその筈、後からソウマが聞いたところによれば、元よりテクノはクリシュナ派に与し、教皇会とも情報のやり取りを行い、裏で手筈を整えていたのだと言う。
「間も無くゾイマー炉が臨界を迎えるギリギリのラインだ。このまま、ポ・チダムーを都市ごと消滅させる事は可能だ。」
その為の見せ掛けの進軍である。
奴が気付く前に、速やかに退避せねばならない。
「都市ごと消滅させる?どういう事ですか、タマさん?」
「申し訳ありません。しかし、敵を騙すには味方から。故に、奴の注目を引きつけなければならなかったのです。」
だが、ここまでやれば充分と言った所か。
「時間がありません。ソウマ、すぐに兵を率いて離脱をしますよ!!」
「ええっ!?」
タマウガードは負傷したレンを傭兵ギルドのマテシス・ハラダーサに担がせ、撤退の指揮を任せる。
と同時に、各騎士団指揮系統への精神感応術式による魔道通信をマリュー・スティーリアに指示した。
『ストラティギスト(軍師)タマウガード・スパエラ及び、総指揮官ソウマ・ヴァストック・キアより緊急連絡を送ります。現時刻を以って、対帝国同盟「カイト」総軍は帝国軍第弍新帝都、中心部からの即時の撤退を指示。尚、動力炉の暴走に巻き込まれないよう、十分に距離を取ること。以上。』
状況によっては、足止めを受けている中央騎士団方面へ、自身が行く必要性も生じてくるだろう。
何よりも、ソウマだけは無事に脱出させねばと…そうタマウガードは決めていた。
「…フュリエル君?フュリエル君が居ない!?」
そんな思惑も露知らず、ソウマは狼狽える。
「どうしました、ソウマ?」
「…そ、それが。」
つい先程まで、我々と行動を共にしていた筈の、瑞のフュリエルの姿が消失していたのである…。




