シナリオⅣ 2 後章 第7話〈前編〉
シナリオⅣ 2.17〈愛は約束、愛は思い出の品。一度与えられると、忘れ去られることはない。決して愛を失くしてしまわぬように〉
Love is a promise, love is a souvenir, once given never forgotten,never let it disappear
草創歴0449年8月(8/28)〈前編〉
…帝国軍第弍新帝都に於ける戦いは帝都内部へと移行していた。
戦場に残されたのは黒の兵団 (チョールヌィ・コルプス)残存兵力780騎程度。損害軽微。
周辺の警戒任務に散開する旨、通達済みである。
だがそんな最中に、王者代理タケ・ディーカヤ・コーシカは、よもやの予期せぬ軍勢の来訪を見やる。
既に本陣は襲撃され、占拠されたようだ。煙がモウモウと上がっている。
「…背後を取られただと。」
魔道による通達報告が無いのが、火を見るよりも明らかであろう…。
ましてや、その整然と並び配され、統制された騎馬の横隊陣形は敵対の構え。
あろうことか、今の今まで対帝国同盟「カイト」からの要請を突っぱねていた「フィデース・レグヌム(教皇國)キア」。その主力たる五のカリスエクェス(聖杯騎士団)のうち、「紅翼」「八座」「山颶」「透影」の計4000騎もの大軍を率いるは、レーギナ(王女)マゥル・ウァルティアン・キアであった。
追随するドクトゥスエクエス(騎士団長)は4名。
「紅翼」のリョウ・ギアラル。
「八座」のアモル・ハヴァーキー。
「山颶」のテサウルス・プルウィア。
「透影」のセルペンス・オプスクリータス。
…どうも、良い予感はしない。
タケ・ディーカヤ・コーシカと、シュン・セクレート・ラズルシェーニエは轡を並べ、陣を進み、これと相対する。
「王者代理、タケ・ディーカヤ・コーシカである。フィデース・レグヌム(教皇國)キアのこの行動は、如何なる趣旨のものであろうか?」
だがその返答、レーギナ(王女)マゥルは憮然として返した。
「我がカリスエクェス(聖杯騎士団)は南部内陸に於ける権威を示すべく出陣した。我等は我等の力を以って、ステラマリス枢機卿位議会の決定に殉ずる。」
暗雲が漂う…。
「して、ステラマリス枢機卿位議会の決定とは?」
「知れたことよ。この地を不法占拠した帝国軍第弍新帝都は、我らカリスエクェス(聖杯騎士団)が接収する。」
マゥルの言葉にタケ・ディーカヤ・コーシカは顔をしかめる。
我が「大ハルゴニア王国」(バリショーイ・ハルゴニア・ツァールストヴォ)が侵略の憂き目には介入せず、攻略戦半ばに漁夫の利を得ようと言うのか?
それを機に、シュンが激昂した。
「…何という浅ましさ。貴様ら、騎士としての誇りは無いのかっ!?」
マゥルの顔には苦悩が伺われる。
だが、國の威信を預かる身として、レークス(國王)の名代として、実兄率いる同盟軍と合間見える心苦しさも、王族の責務の前では露と消えた。
「シュン・セクレート・ラズルシェーニエ卿。我が兄を誑かしている者達の言葉など、聞く耳持たぬわ。」
…故にこそ兄、ソウマ・ヴァストック・キアの行動が理解出来ぬ。きっと、心優しき兄を祭り上げ、懐柔せし者がいるのだろう、と。
「何を馬鹿なっ!?我等が殿下を誑かしているなどとっ!」
「問答は無用。我等、カリスエクェス(聖杯騎士団)の前に立ち塞がる者は全て敵。道を開けよ。」
多勢に無勢。
とは言え、後方を託された黒の兵団 (チョールヌィ・コルプス)。ましてや恩義に尽くすが騎士の務め。
ここで無下に降る訳にはゆかぬ。タケ・ディーカヤ・コーシカは断固として譲らず。
…交渉は決裂した。
互いの陣形に踵を返すが、唯1人、そこに留まる者があった。
「…ギアラル卿、まさか貴公、血迷ったのではなかろうな?」
「透影」セルペンス・オプスクリータスの疑いの眼差し。さながらそれは恫喝とも言えた。
「…すまんな。俺は騎士である前に、1人の人間でありたい。」
だが、その恫喝も彼を止める術とは成らなかった。
「紅翼」のドクトゥスエクエス(騎士団長)リョウ・ギアラルは、カリスエクェス(聖杯騎士団)を見限るや、迷うことなく黒の兵団 (チョールヌィ・コルプス)陣営へと騎馬を走らせる。
…その衝撃や、聖杯騎士達の動揺は計り知れない。
ドクトゥスエクエス(騎士団長)の中でも唯一の「六翼将」が地位も名誉さえも捨て、唯1人の忠誠を誓う主人の為に走ったのだ。
「ええぃ。静まれっ!!隊を乱すなっ!!」
古豪のセルペンスが場を一喝し、規律を修正する。
元よりリョウ・ギアラルは親ソウマ派と知られている。
案ずるべきは「紅翼」騎士の動向を制する為にも、その管轄はレーギナ(王女)に就いてもらうべきか。
「マゥル殿下、紅翼の統制に入って頂くが、よろしいか?」
「えっ、ええ…それは、ハイ。」
マゥルの落胆を生真面目にも、優男のアモル・ハヴァーキーが慰めている。
あれは任せておけば良いか…。
ともあれ問題はそれのみに非ず。
「山颶」テサウルス・プルウィアは、今回が初陣である。
まだ少年と言っても良く、キアレークス(國王)ルゥライとの盟約に従い、必ず護らねばならぬ案件だ。彼の側を離れる事は出来ない。
戦力比云々では無く、リョウ・ギアラル程の腕を持つ者が抜けたのは正直、痛い。
一方、無勢な黒の兵団 (チョールヌィ・コルプス)は、帝国軍第弍新帝都外壁を背に、背水の陣を敷く。
「良かったのか?」
「…構わんさ。」
シュンに問われて返した言葉は、ぶっきらぼうではあったが、心は澄み切るように晴れやかであった。
リョウ・ギアラルに後顧の憂いなし。
…だが、迎え討つ軍勢は山の如しだ。
余力を残さず、全勢力を以って打ち崩さんが構えか。古参の「透影」セルペンス・オプスクリータスの考えそうな選択肢だ。
マゥルを指揮官として、「紅翼」と「八座」による左翼偃月の陣形で突撃。右翼も同様、「山颶」と「透影」による合同陣形での挟撃の様相。
一旦は静まり返った戦場を、激しい喧騒が再び包み込む。
「押されるなっ!!黒の兵団 (チョールヌィ・コルプス)の意地を見せつけよっ!!」
うおおおっっっっ!!!
王の帯剣「リトゥアール」を振るい、タケ・ディーカヤ・コーシカも一騎当千の活躍であり、追い詰められた黒の兵団 (チョールヌィ・コルプス)の意地が奮起する。
そしてまた、古巣を抜けたリョウ・ギアラルに至っては、その比では無い。
無論、同胞ではある。気に病まないわけでは無い。
「幽境の極地」(ヒエラ・ホドス)の一太刀が次々と聖杯騎士達を屠ってゆく。
だがリョウにとって、如何なる理由があれ、戦場で刃を向ける者は敵だった。
ガキィィィーーン!!
一合と剣を交える者も無く、防いだ「カリス・アスピス(聖杯の盾)」ごと、その戦意を打ち砕く。破片が戦場に散らばってゆく。
「邪魔をするならば、容赦はせんっ!」
かつて「鬼の子」と呼ばれし本能が目を覚ます。
「幽境の極地」(ヒエラ・ホドス)の副作用により、リョウには破壊点(カースス=プンクトゥス)が見えた。
それは無機物のみならず、有機物にも及ぶ摂理である。
「俺は必ず約束を果たす…。」
…忘れもしない、あの約束。
それはリョウがまだ幼い頃、とある事故に遭遇し、命を落としかけた折のこと。
死をまぬがれぬ傷を、その優しい手で拾い上げてくれた恩人。
自らの生命を分け与え、死と再生の門をくぐり抜け、幽境へと導いてくれた人。
彼女の導きで現世へと立ち戻り、この魂の力を得た。
いつまでも、あの子の力になってあげて、と。
母を知らぬ身に、その無償の愛は眩しく、また永遠の忠誠を誓うに相応しい女性、それがソウマの母「ファナール・ヴァストック」であると信じた。
それ故あって、裏切りと蔑まれようとも、今のリョウは何一つも変わりはしない。
その細剣「シルヴァヌス(荒地の精)」に一点の曇りなく、破壊点(カースス=プンクトゥス)を切り結ぶ。
そして戦況は徐々に混沌となりつつあった…。
「貴様ぁぁぁ!!何故、裏切った!?」
そんなリョウに向けられる新たな刃。
「…ん?」
それは「アトマ・イシム(麗人)」因子を受け継ぐアモル・ハヴァーキーであり、その後方に就けるレーギナ(王女)マゥルの姿も確認してとれた。
言わんや、既に背水の陣形は崩壊しつつある。
リョウは孤立しつつあったのは承知の上で、少しでも黒の兵団 (チョールヌィ・コルプス)の撤退の時間を稼ぐ為にも、孤立奮闘やむなしと考えたのだ
「フッ。裏切るも何も…俺は聖杯騎士である前に、1人の騎士でありたいのだ。」
「馬鹿なっ…我等、崇高なるカリスエクェス(聖杯騎士団)を愚弄すると言うのか!?」
アモル・ハヴァーキーはあまりにも大袈裟に嘆きつつ、その細剣「ファウンテン(清き噴水)」を華麗に引き抜いた。
この過剰なアピールはマゥルに対するものか?もしくは配下である「八座」のエクェス(騎士)達に披露したものか。
「…崇高が聞いて呆れよう?殿下の功を横から掻っさらうのが、カリスエクェス(聖杯騎士団)のやることか?」
「おのれぇぇ!その口を永遠に噤ませてやるわっ!!」
アモル・ハヴァーキーは顔を怒りに染めて喚き立てる。
一騎討ちに持ち込みたいのだろうが、ともあれ、その虚しき計画もまた、次の想定外の事態に阻まれ、睨み合ったままの膠着を余儀無くされた。
「あれはっ…何処の軍隊かっ!?」
マゥルは至急、確認を急がせる。
突如、戦場に現れし第三勢力が彼我の均衡を崩そうとしていたのであった…。




