シナリオⅣ 2 後章 第6話〈後編〉
シナリオⅣ 2.16〈愛は約束、愛は思い出の品。一度与えられると、忘れ去られることはない。決して愛を失くしてしまわぬように〉
Love is a promise, love is a souvenir, once given never forgotten,never let it disappear
草創歴0449年8月(8/28) 〈後編〉
紫電の鞭がソウマを襲撃する。
「ソウマっ、危ないっ!!」
バシュッッ!!
瑞のフュリエルが咄嗟に「水の結界」を産み出し、その攻撃を融解分離させる。
「ありがとうっ、フュリエル君!!」
騎馬の踵を返し、ソウマは襲撃者に銃口を定める。
…それは狂気に歪んだ少年。
その身に紫電の雷球を纏い、宙空に鎮座したまま動く気配はない。
『ふひゃひゃひゃひゃぁぁぁあああ。』
「八蓮門」杢のフレウレッティ・ガーランドだ。
魔界族の副王の名を与えられ、十歳の誕生日に実の父母により生贄に捧げられ、死と同時に「人ならざる者」と化した。
だが、フレウレッティ・ガーランドはその力で両親を殺害し、その魂を喰らい、この因果によって「狂気の精霊」へと転成する。
ここに我園家は断絶し、ソルティア公国の正統後継者の血は終ぞ失われたのだ。
それが今や、第弍帝国総軍の尖兵である。
そんな狂気の精霊からソウマを庇うように、フュリエルが前衛に回った。
「ソウマ、コイツは強い…気をつけて。」
フュリエルにとっては、言わば元同胞。その強さは「八蓮門」の中でも筆頭に位置する存在である。
それを肌に感じ、ソウマは偃月刀「砂漠の青」(アズラク)を抜き放つ。
「うん。君も無理しないでね、フュリエル君。」
ソウマとフュリエルの2人は、この狂気の精霊を取り囲むように移動する。
…だが、その間合いの境界へと雪崩れ込む騎影が二つ。
任されていた陣から離れてまでも、彼等にとってそれは、必ずや討たねばならぬ存在に相違なかった。
「王者代理」タケ・ディーカヤ・コーシカと、「北剣の末裔」シュン・セクレート・ラズルシェーニエの両名である。
双方の決意は揺るがない。
必ずや、我らが「王者」ローディアス・リュッセンの仇を討つ、と。
「殿下っ!どうか、この敵を我らにお譲りください!」
「ラズルシェーニエの名にかけ、必ず討ち果たす所存っ!!」
生憎、混乱の最中、ストラティギスト(軍師)であるタマウガードとは距離が空いてしまった。
やむ負えず、この場はソウマ自身で決断を降すしかない。
「…分かりました。では、後詰めを変更し、僕達の本陣が第弍新帝都に入ります。黒の兵団 (チョールヌィ・コルプス)は戦域の確保に付いてください。」
この決断が凶と出るか、吉と出るかは、判断の付きかねぬ所だ。
「感謝いたします、殿下!」
敬礼と共に、既にシュンが真っ向勝負に騎馬を疾駆させていた。
「シュン殿。必ず、生きて会いましょう!」
「…ソウマ、急いで。」
フュリエルに急かされ、タマウガード等と合流すべく、ソウマ達は帝国第弍新帝都開口部、その合流ルートへと急ぎ騎馬を走らせる。
バチッ!バチバチバチッッッ!!
後にした背の向こうで、紫電の閃光が幾重にも瞬いた。だが、今は振り向く時ではない。
ソウマには、彼等の仇討ちが成し遂げられる事を祈る事しか出来なかった…。
一方、ソウマ達が去った戦場では、激しい雷の応酬が繰り広げられていた。
杢のフレウレッティ・ガーランドは厳密に言えば異なるも、「怨形鬼」に極めて等しい精霊である。
三次元の肉体を持ち得ず、幽体による構成存在であり、通常武器ではダメージを与える事は出来ないのは同様だ。
無論、シュンの振るう黒刀「勢子餓鬼」は闇の属性を宿し、人ならざる存在を喰らう。
しかし、それでもまだ足りない。
狂気は精霊までも狂わせ、尋常ならざる生存本能で、強靭な障壁を生み出し、シュンの剣撃をも跳ね返すのだ。
「ええいっ!これも跳ね返されるかっ!?」
ならばと、「絶対防御遮断結界」の「静の剣」(チーヒィミェーチ)が閃くも、その斬撃を危険視しては、宙空に逃れる。
しかしそれは、当たりさえすれば致命傷を加えられる可能性があるとの証明でもあった。
「…くっ!?」
と同時に、フレウレッティは紫電の雷球を無尽蔵に地表に投じ始める。
バリバリバリッッッーー!!!
避けきれるわけもなく、シュンは「静の剣」(チーヒィミェーチ)で全てを正確に切り捨てる。
無論、シュンの反射神経あっての神技である。
そして、フレウレッティの攻撃が止んだ今、この一瞬が勝機!
「…魔眼槍杖よ!我が青き血の術式を吸い上げ、その契約を果たせっ!」
タケ・ディーカヤ・コーシカは、黒曜石の城 (クリェーポチス)の最下層牢獄室から、建国当初より封じ続けられてきたソレを持ち出し、自らの青き血を捧げた。
彼が捧げ持つ長大な「槍杖」は魔道の触媒では無い。
むしろその逆である。
彼自身が触媒となって、その魔眼を開かせるのだ。
ゴゴゴゴゴ…ゴゴゴォォォ。
古の契約に基づき、末裔たるタケの内側から青き血が消費されていく…。
血の気が失せてゆく。
意識が朦朧となる。
「…だがっ、私はまだ死なない!死ぬわけにはいかないっ!!」
その覚悟を飲み込んで、魔眼槍杖の中央宝飾部形状が変容してゆく。
…我を呼ぶのは…お前か?
青き血の術式により構築された単眼状文様の瞳が、刹那に開眼する。
ビシィィ…ッ!!
『お前ぇぇぇ!?…僕に何をしたぁぁあアアア???』
フレウレッティを構成する幽体が激しく揺らぐ。思いもかけぬ呪縛。
初めて、その幼子の顔に恐怖が生まれた瞬間であった…。
「伯爵の魔眼(グラーフ=グラザー)」が標的を捉えたのだ。
「…我らが王者の仇っ!!しかとその身に受けよ!!」
憎しみと共に、タケの手から放たれる、孤を描いて投じられた魔眼槍杖。
『お母さぁぁぁんンン、助けてぇぇぇェェェ!!!』
それは幾千里逃れようとも、もはや逃れられぬ呪詛の槍。
悲鳴を上げて逃走するフレウレッティの胸部を貫き、狂気の核を破壊した。
ぎゃあああぁぁぁあああアアア!!!
狂気の雄叫びが木霊する…。
常ならば、半径100メートル範囲内の生命体を狂乱させる波動。
だが幽体が崩壊しつつある今のフレウレッティに、それを維持する事は困難であった。
破片を振りまきながら地に堕ちる寸前、シュンの「静なる剣」(チーヒィミェーチ)が一凪ぎで四肢を粉砕した。
「これで終わりだっ!!」
更なる二撃目が頭部を粉微塵に粉砕する。
ガシャーーン!!
仇討ちを果たし、シュンは感慨深げに黒刀を収めた。
タケ・ディーカヤ・コーシカもまた、魔眼槍杖を手元に呼び戻し、伯爵との共鳴を断つ。
「ローディアス様…仇を果たしましたぞ…。」
この私闘を尻目に、戦域は既に帝国軍第弍新帝都内部に及んでいた…。
…同刻、リア域を離れる一行がいる。
何の因果か、ザンマルコ自治区(セルフ-ガバニング・ザンマルコテリトリー)の元国防長官であったハウル・サーガイアは、リョーガ・アベミグラトリアを伴い、「アルピュタス聖不可侵域」へと向かう事となってしまった。
「…今一度、角獣の座が覚醒する前に、神の卵 (アニマ・オーヴァル)を破壊しなければならないの。」
そう、ラーシャ・ヴィは言う…。
この謎めいた女性は、先日の8月上旬、シャオメン(扉)海岸で拾い上げて以来、サーガイアと行動を共にしていた。
すっかり、邩のシュルベルト爺さんとも懇意の上、予言と言うよりも、未来を見る力が在るようなのだ。
このままでは、再び「英雄戦争」の時分と同じく、「角獣の座」(アイゴケロス)から異貌の神が産まれてしまうと言う。
言わずとも、その光景をかつて間近で見た者としては、そのリスク回避が出来うるものなら尽力したいとは思う。
ああ、面倒ではあるがな。
あの闘いで「シリウス王国」(シーリウストラナー)と「ヨシュア連邦」は滅び、生き残った六人の英雄は讃えられたが、同時に何千人もの尊い命が散った…。
「ところで…爺さんは帝国に戻らなくていいのか?今、同盟軍の攻撃受けてるんだろ?」
「くだらん。そんなものに興味は無いし、この儂をあんな踊り子ごときの色香で支配出来ると思うのが間違いだ。あんなものは、子供の精霊ぐらいにしか通用せんわいっ!」
見た目は少年であるにも関わらず、その老獪さは一筋縄ではいかない。
「さすが師匠ですっ!!ところで師匠に昨日付けて頂いた、この右手の火の眷族召還の術式なんですが…勝手に出てくるんですけどぉ…。」
はてさて、リョーガは右手から生えた真紅の蛇に困惑顔。
魔道とは強靭な精神力の鍛錬の賜物じゃ!修行が足りんと怒られる始末…。
「面目ないですっ!」
「あら、じゃあ左手に水色の蛇さんがいるとバランスいいわね?」
ラーシャのアイデアに即座に賛同するシュルベルト爺さん。何をやっているんだ、お前達は…?
「そんな事より剣の修行だ!!」
「はいっ!先生っ!!」




