シナリオⅣ 2 後章 第5話
シナリオⅣ 2.15 〈愛は約束、愛は思い出の品。一度与えられると、忘れ去られることはない。決して愛を失くしてしまわぬように〉
Love is a promise, love is a souvenir, once given never forgotten,never let it disappear
草創歴0449年8月(8/23)
陥落せし「大ハルゴニア王国」(バリショーイ・ハルゴニア・ツァールストヴォ)の首都、リトグラーフィヤストラナ(石碑の国)を臨む丘陵に陣を張る対帝国同盟「カイト」。
リア域との折衝を早々に切り上げ、ソウマとタマウガードは、この地にて合流を果たしていた。
本陣の動きは慌ただしい。
その最中、ソウマは彼を制止する。
「君が僕達と一緒に戦う必要は無いよ、フュリエル君。」
そもそも、第弍帝国総軍から刺客として放たれた身で、虜囚という立場の「瑞のフリュエル」だ。
その叛意をあえて、敵方に晒す必要もないだろう、と。
今回の大ハルゴニア王国 (バリショーイ・ハルゴニア・ツァールストヴォ)、解放戦の主体は、6日前に故国より脱出を果たし、ライラに保護された「黒の兵団」(チョールヌィ・コルプス)の残存兵力600騎余りである。
その指揮をとるのは「北剣の末裔」たる、シュン・セクレート・ラズルシェーニエであった。
正面から打ち破り、解放を成してこそ意味がある。
そう、タウマガードは正論を言ってのけた。
正面、方円の陣を構成する「黒の兵団」(チョールヌィ・コルプス)に、「紅石騎兵」大隊500騎、アルカサンドリア(砂漠の民)「砂炎の猟団」500人が加わり、リトグラーフィヤストラナ(石碑の国)近辺にひしめく死人の群勢と対峙する。
悍ましくも、顎を打ち鳴らす白骨化した戦士と、不恰好にも蠢く腐臭漂う骸の群れ…。
この「裁きの門」(スゥート・ヴァロータ)を塞ぐ汚らわしき障害を前に、シュン率いる騎士達は血気にはやる。
これに補佐として追随するのはレン・スラスト・ヴァストック。
並びに、ザンマルコ自治区(セルフ-ガバニング・ザンマルコテリトリー)「同盟専任長官」、カロン・カイン・ミストが初参戦する。
「…進軍開始っっ!!」
シュンの号令を受け、方円の陣を維持したまま、同盟軍は進路を右翼方向へと展開。
…迷う事なく突撃を開始する。
右翼を担うレンの双刃の偃月刀が縦横無尽に乱舞し、腐肉を両断する。
そしてまた、先頭を駆け抜けるシュンの振るう黒刀「勢子餓鬼」が、戦場に骨片を撒き散らす。
グシャッッッ!!!
「…この程度かっ!!」
悍ましきは見た目だけか。そもそも、思考を共なわぬ鈍重な骸など敵では無いとばかり、猪突猛進の構えのシュン。
くれぐれも掃討戦へと移行しないように、とはタウマガードからの指示ではあったが、混乱戦が長引けば陣が乱れるは必至。だが二の轍は踏まない。その後は臨機応変に動かざるを得まい。
…とは心に誓いつつも、シュンは敵陣にソレを見出すや、我を忘れて怒涛の勢いで疾走を開始した。
「見付けたぞっ!!」
それは言わば報復の刃。
腐敗の騎馬に跨がりし死人、「騎士王」たるデュークライト・ラズルシェーニエの胸部を狙い、シュンは水平に黒刀を打ち出す。
ガキィィィン!!
「まだまだっ!!」
返された刃を、力技でギリギリと押し返す。
激しく反発する互いの「絶対防御遮断結界」因子。
それでも刃を交えること、数合。
我が祖を敵に回し、だが死人特有の相貌故にか、黒刀を振るうシュンの心には、何の高揚感も芽生えなかった。
敵として闘うも、「紅翼」を受け継ぎしリョウ・ギアラルと刃を交えた際の、あの高揚感。
互いに競い切磋琢磨し、昇華する昂ぶりはいずこか。
「…所詮は屍人よっ。」
それは反発する因子ゆえにか?
冷静に刃の応酬を受け流していたシュンの、思わぬ「静の剣」(チーヒィミェーチ)がデュークライトの片腕に、刃の間隙を縫ってめり込んでいた。
ザシュッッッ!!
力を入れずとも、それは容易に斬り飛ばされ、空を舞うのであった…。
一方、カーミェンシチクの間に通ずる地下坑道通路を駆け上がり、タマウガード及び、テオ・スティーリア・タクナリは「傭兵ギルド」の精鋭100人を率い、「黒曜石の城」(クリェーポチス)内部への潜入を果たしていた。
この通路は王族専用の脱出口であり、正面攻撃を囮にしての陽動作戦である。
無論、この通路の情報の出所はシュンだ。
黒曜石の講堂・塔・王宮による渾然一体と化した「黒曜石の城」(クリェーポチス)は既に半壊していたが、所々に配されし機械の獣との、苛烈な戦いは始まっている。
「帝国は厄介なもんばっかり作りやがるなっ!しかも美しくないしっ!!」
屁理屈をごねる「迴天の双剣客」ことテオ。
言葉とは裏腹に、テオは確実に機械獣を葬っていく。
その無形を以って、振り落とされる機械製の四肢を見切り躱しつつ、関節を寸断する妙技を見せつける。
スパーーーンッ!!
既に、その双剣で斬り落とした数は4体にものぼる。
これは巨蟹型と思しい機械獣が自立を維持できず、音を立てて頓挫した。
「おいっ、そっちはどうだぁ!?」
テオの呼び掛けに、傭兵ギルドの「マテシス・ハラダーサ」が人馬型を仕留め、彫刻じみた首を素手でギシギシと捻じりとる。
「俺様に敵はいねえぜ、旦那っ!!」
二重人格変容による彼の「怪力現象」だ。
「さあ、次々行きましょうか!」
タマウガードが先陣を切り、突進して来た雄牛型機械獣を「獣気」で殴り倒し、その勢いで対面壁に大穴を開ける。
ガッシャーーン!!
おっと、どうやら正解の場所に通路を作ってしまったようだ。
所狭しと、異能を有する者達が開いた大穴へと雪崩れ込む。
と、事前に仕掛けられていたと思しき結界が発動し、これに足を囚われ、タマウガードを含め、彼等はその場に硬直する事を余儀無くされてしまった…。
「くっ…図られたか!?」
…描かれた術式「円環紋」は天井と床面、双方で増幅する用意周到さ。
それを為すのは「第三宗家」タケ・ディーカヤ・コーシカ。
背後には「王者」ローディアス・リュッセンの両名が待ち構えていた。
「おっ?策士が策に嵌ったみたいだなぁ?」
結界に足を踏み入れるを免れたテオが、外側からタマウガードに皮肉を投げ掛ける。
…はいはい、その通りですが、そろそろ突入から30分。
こちらの策はもっと大きい。
首都リトグラーフィヤストラナ(石碑の国)の後方、ようやくにして準備相成った「白翼の十字騎将」が顔を上げる。
南部最強「六翼将」が1人、ヒュークリスタル・ヴォーグスは、その全霊力「コキュートスコル(氷結心臓)」を展開し、南部統括大神官の奥義を発動する。
「コントラエレクトローデ=アルス(対極陣)」
正なる気の流れと、負なる気の流れの縮図。即ち正常なるマイクロコスモス(小宇宙)の具現化。
この円環の中では、不浄なる力は朽ちるが道理。
「…さあ、いきますよ殿下!」
ヒュークリスタルが聖刻術式を解き放つ。
他方、同盟軍本陣、天幕下に急遽設えられた巨大術式円環紋。
その中央にて、ソウマは「コントラエレクトローデ=アルス(対極陣)」の片翼を担う感応力場の術式を起動せんとしていた。
長らく大司教の術式修練に励んだ成果か。術式の構築と複雑な結合を難なくこなし、ヒュークリスタルからの感応波を誘導する事に成功する。
「…ええ、始めましょう!」
点と点とが結ばれる…。
ソウマの意識とヒュークリスタルの意識が繋がる…。
開くマイクロコスモス(小宇宙)の因果は半径400メートル。「黒曜石の城」(クリェーポチス)と戦場を包み込み、世界が加速する。
ゴゴゴ…ゴゴゴゴゴ…ゴゴゴゴゴォォォ。
…突如に死人の群勢が崩壊し始めていた。
摂理と言う名の拘束が、白骨を地に散らばせる。
「…安らかに眠られよっ!」
既に勝敗は決していたものの、シュンは一振りにて、「騎士王」デュークライトの首を打ち落としていた。
これが「絶対防御遮断結界」を極限にまで細く絞った「静なる剣」(チーヒィミェーチ)の冴えと実感する。
「…我が祖よ。この静なる剣…授けて頂き、感謝いたします。」
馬上にて敬意を示す黙祷を捧げるシュンの姿が、そこにはあった。
そして、この「コントラエレクトローデ=アルス(対極陣)」の恩恵を受けたのは彼等のみにあらず。
タマウガード等の身を縛っていた張本人、「タケ・ディーカヤ・コーシカ」は急激な覚醒に身を捩った。
「生命の木」(セフィーロト)に魂を統合され、洗脳された精神を即座に凌駕する事が出来たのは、まさに「青き血のディーカヤコーシカ(山猫)家」ならではであろうか。
「…僕はっ…今まで何を…?」
同時に結界は消失し、タマウガード達は自由を得た。
だが、タケ・ディーカヤ・コーシカが見たものは、未だ操られたまま、己が愛剣「リトゥアール」を以って、その身に突き立てるローディアス・リュッセンの最期の姿であった。
「ああっ、ローディアス様っ!?」
悲痛な叫びがこだまし、杢のフレウレッティ・ガーランドの嬌声と重なり合う。
『ふひゃひゃひゃひゃぁぁぁ……。』
効果を発揮して後、急速に力を消失しつつあった「コントラエレクトローデ=アルス(対極陣)」。
その片翼を担うソウマは、あらん限りの霊力を消費し、術式の維持に精神力を費やし、もはや立つこともままならぬ状態で片膝を突いた。
「はぁ、はぁ、はぁ。」
玉のような汗が目に入る。激しい疲労感がソウマを包み込んでいた…。
だが急転直下、天幕を襲撃する旋風の刃があった。
ズザザザッッッ!!!
天幕を上空から引き裂き、貫き、それが描かれた円環紋を損傷し、術式を崩壊させてしまっていたのだ。
「…ぐっ!?」
ソウマの意識が遮断され、昏倒する。
それと引き換えに、天空より舞い降りる異形の少女…。
アーモンド型の瞳。
若葉のごとき深緑の髪。
その少女は妖精族の特徴を兼ね揃えてはいたが、頭部に生えた双角は雄々しく、背には猛禽類のごとき翼が生じていた。
「…我が主の命にて、お命を戴きましょう。」
彼女の名は「八蓮門」諷のアネモス。
「風精獣」を移植融合された悲運の半妖精族。忌まわしき混成体。
そんな彼女もまた、鑫のテクノ・ミュラー・ウェストエイトによる芸術作品の一つであった。
気を失い倒れた、力無きソウマに迫る風塵の爪…だが、それはピタリと止まる。
「…そう、あなたは自分の居場所を見つけたのね…良かったわ…。」
自らの胸を貫く、強く清廉な意思を宿した水の柱…。
それを放ったのは同胞である筈の、瑞のフュリエルであったのだ。
だが、彼女はこの結末に安堵した。
ありがとう…私もこれで解放される。
あの男からも。
あの忌まわしき寝所からも。
フュリエル、あなたは生きなさい。
泣いてはダメよ…男の子でしょ…?
アネモスは塵となって消えるのであった…。




