シナリオⅣ 2 後章 第4話
シナリオⅣ 2.14〈愛は約束、愛は思い出の品。一度与えられると、忘れ去られることはない。決して愛を失くしてしまわぬように〉
Love is a promise, love is a souvenir, once given never forgotten,never let it disappear
草創歴0449年8月(8/17)
…私はその日、密命を帯び、単独で「アルピュタス聖不可侵域」に侵入を果たした。
先月の27日。あの日、この場所で何が起こったのかは定かでは無い。
しかし「アイゴケロス(角獣の座)宮」までの道程は、あわよくばと浅慮するが、法皇「ラハ・スィドロフォス」との接触ともなれば、我らの真の敵に悟られる可能性も高い。
「北部の真珠 (ペルラチッタ)の悲劇」に端を発する、禍の流出。
それが、アルピュタス聖不可侵域に封じられていた「神の卵」(アニマ・オーヴァル)を活性化させている確証を得た。
ならば、今はそれで良しとしよう…。
その後、人目を偲び、キカートリックス(傷痕)の荒野を南下し、リア域へと足を伸ばす。
このリア域はフィデース・レグヌム(教皇國)キア及び、教皇会から最も影響力の薄い地域である。
その特殊性からも、帝国の進軍はあり得ぬものと目された。
で、あるならばこそ、リア域が今話題の対帝国同盟「カイト」に加わる余地は皆無とも言えよう。
繁華街とスラム街が混在し、間者もまた蔓延るも、その混迷さが「ゾンシン・リア(追放王の中央集権国家)」の特徴でもあった。界隈は人混みに溢れている。
間者からの接触を待つ間、オリエンタル漂う閑散な露天カフェに腰を下ろし、周囲に視線を凝らす。時間的にはまだ余裕がある筈だ。
…と、相席の椅子が引かれ、その男がドッシリと腰を落とした。
間者かと思いきや、全くの想定外の相手が同席していたのだ。
「…あなたを待っていたわけでは無いのだがな。」
そんな私の皮肉の言葉もお構い無し。
怯む気配をタマウガード・スパエラは、おくびにも出さない。
「と、なると…殿下も御一緒と言うわけかな?」
少し離れた座席に、それと思われる人の輪と、再会を喜び合う嬌声が耳に入ってくる。
歓喜する少年が2人。
お元気ですか?
君こそ、修行の方はどう?
和気あいあいと、それを見守る青年と女性。
僕の先生ですと紹介され、ちょっと顔を背ける青年であった。
「まあまあ、そんな事はとっくにご存知でしょう?それにしても、まさか教皇会側の立会人が、あなたになるとは思いもしませんでしたがね。」
「…何の事だ?」
今や対帝国同盟「カイト」のストラティギスト(軍師)と名高い男だ。
よもやの、嵌められた感が強い。
あれ?ハウルさん?
そんな奴は知らん。他人の空似だ。
向こうでは何事か、すったもんだし始めた様子…。
「悪いが…私を巻き込まないでもらおう。私は会わねばならない者が居るのでな?」
「ああ。帝国の間者さんですよね?ちょっと手を回させて貰いました。」
ニコリと微笑む顔は、してやったりを体現する。
「しかもあの子、二重指令でソウマの暗殺も兼任していたみたいで、襲ってきたから捕まえちゃいましたよ。今では殿下と大の仲良しです。」
逆に怒りが込み上げてくるのをジッと我慢する。
ここで怒りを顔に出しては、相手の思う壺とばかり、平静を装う。
そうこうしている内に、本日の主役が姿を現した…。
「星寳」の家長ウォークス・エクスに導かれ、平服なれど、一見して強靭なまでに鍛えられた肉体と知れる。
ましてや騎士独特の品行方正。眉目秀麗際立つ長髪の青年だ。
「…このような場所で失礼いたします。中央騎士団、全剣大使のショウ・ミンジィアングルスと申します。」
深々と頭を下げる騎士。
この場を取り仕切るのは死の商人ウォークス・エクスか。奴もタマウガードの手の平の上と言うわけか…。
「では簡略化なれど、ここにフィデース・レグヌム(教皇國)キアの王位継承権を持つ者、及び教皇会アルキエピスコプス(大司教)以上の階位を持つ者の同席を得て、剣聖(ラミナ=プロクルサトール)授与の剣儀を私、ウォークス・エクスが執り行いたく思います。」
何だとっ…?
誉れ高き「ラミナ=プロクルサトール(剣聖)」の称号は、一時代に1人のみ教皇会が授与する称号。
それも前代の剣聖(ラミナ=プロクルサトール)からの授与、もしくは法王立会いと言う、厳密化されたルールが存在する。
緊急時の簡略化も認められているが、上記2つのルールは絶対条件。
「…貴公ら、何を考えている?」
ましてや現剣聖(ラミナ=プロクルサトール)は健在だ。
中央大陸北西部、公国諸国共同運営「ハイランド騎士団領」のハイランダー(貴戦士)十三名の1人、宝槍家のマリティネーテ嬢がそれだ。
それを受けてタマウガードがほくそ笑む。
「だがね…公国諸国は、ほぼ帝国によって、その半数が陥落。ハイランド騎士団領も壊滅。教皇会が情報統制して隠蔽した所で、そのマリティネーテ嬢が帝国軍の将校に降った事が広まるのは必至なのでは?」
タマウガードめ、そう言う魂胆かっ。
「六翼将」が1人、このヒュークリスタル・ヴォーグスも焼きが回った。
教皇会の最高位、光集団たるボヌム・レギオー(聖紋団)の指導者である彼にとっても、その事案は最重要である。
その解決策があるのならば、と。
…一方、焼きが回ったとなれば、それこそこちらのセリフであった。
「あらっ…もう諦めなさいな、サーガイア。」
彼女は奥ゆかしくも、ふふふと笑って促した。
この海で拾った女性は、全くもって謎めいた人物である。
「やれやれ、冗談だろ…。」
サーガイアは面倒くさげに頭をボリボリと掻く。
「まことに…あのサーガイア卿であられましょうかっ!?」
全剣大使ショウ・ミンジィアングルスは歓喜に震える。
恐悦至極とはこの事か…。
さすがのヒュークリスタルも驚愕に慄く。
「そっ…そんな馬鹿な事がっ!?」
不本意ながら、それにはタマウガードも同意する。
「そう…私も驚きましたけどね…。」
草創歴50年「第一次公国紛争」を納め、その功績を讃え、初代剣聖位を教皇会から賜ったとされる「サーガイア・ニヒル」。
だがそれは400余年前のこと。
通常で考えれば生存などと、有り得ならざる余興であろう。
「まあ、いいや…やるなら早く済まそうか?」
ぶっきらぼうに言い放つサーガイアは、椅子から立とうともせず、座したまま動じない。
背を向けたまま、剣聖授与の剣儀を行うと言うのか。
対して、ショウ・ミンジィアングルスは恭しく、懐の宝刀「鬼童斬り」を抜き放つ。
「…失礼いたしますっ!」
一気呵成。
意思の力で世界の因果律に干渉し、事象を捻じ曲げ、回避不能の一撃を繰り出す。
空間さえも両断する、全身全霊鬼気迫るショウの斬撃。
対して、返し刀の無造作な反撃。
右上段からの、極論すればその体勢から剣を振り下ろす事だけの、斬り下ろす攻撃に限れば最速の剣撃。
更には、それは無銘の鋼剣に過ぎない。
だが、その無造作な攻撃こそが力の真髄。不動の余地無き物理現象「第五因子」。
「こ、これがっ!?」
刹那にショウ・ミンジィアングルスの胸部を切り裂くそれは、彼の一気呵成の一撃を容易に粉砕し、深き裂傷を与えていた。
ザシュッッッ!!!
中央騎士団最強と目されし「全剣大使」が、何が起きたかも分からぬままに薙ぎ倒され、無様にも路面に横転する。
「お見事。俺の一撃を受けてまだ息があるとは大したものだ。剣聖の位をお前にやろう。」
…これにて剣聖授与の剣儀を終了とする。と、ウォークス・エクスが場を閉めた。
はてさて、厄介な事態になったものだ。
ヒュークリスタルは冷や汗を浮かべる。
一方、リョーガとソウマは感動の嵐。リョーガのサーガイアに対する尊敬の念と羨望は天井知らずに高まるばかり。
全てはタマウガードの思い通りか…。
ここに新代の剣聖(ラミナ=プロクルサトール)がリア域に誕生したとなれば、帝国側の剣聖(ラミナ=プロクルサトール)を見過ごすわけにはいかず、遠からずも対帝国同盟「カイト」加入を確約したも同然である。
対帝国同盟「カイト」がリア域に恩を売ったと同時に、ここに存在した自分もまた、もはや巻き込まれたも同じ状況…。
「…見事に図ったものだな。タマウガード…。」
それほどでも?その囁きに苛立ちを覚えるヒュークリスタルであった。




