シナリオⅣ 2 前章 第1話
プロローグ(序の2)
草創歴0449年
草創歴元年(冬歴4440年)。
「聖堂戦士同盟」の援助を受け、デ・ニア・キア教皇国が興された。
草創歴20年、同国は統治権を有する「フィデース・レグヌム(教皇國)キア」と、祭事権を有する「教皇会」に分権され、「聖ラムサ王國」(ハインリッヒ・ラムサ・ケーニクライヒ)から「法皇」の霊位を贈られる。
草創歴92年、「南大陸覇権戦争」に勝利し、フィデース・レグヌム(教皇國)キアは名実共に南部内陸を統治する大国となった。
中央大陸に於いて、年間を通してもっとも乾季が多い地域である。
熱帯地域でもあり、緯度が極端に低く温暖であり、一部は砂漠化も著しい。
熱帯モンスーン気候によって、夏季には陸部が冷やされ、季節風が陸風になると、乾燥した空気が運ばれ乾季となる。
熱帯雨林と砂漠地帯とが同在する熱砂の国である。
教皇会の本拠地「サンクトゥアーリウム(聖域)」は北沿岸部近郊、中央海溝を臨む「アルターリア・ウルブス(祭壇都市)」に面し、バロック様式の建築美を体現する勇壮な大聖堂である。
内部もまた、彫刻や絵画を含めた様々な芸術によって空間を構成し、複雑な多様性を示している。
法皇「ラハ・スィドロフォス」を象徴とし、「ステラマリスの六皇」を頂点とするヒエラルキーに於いて、その対立は起こるべくして起きた事か…。
帝国を批判する急進派の「ミュンヘン・サルヴァーティオ」と穏健派代表格の「サキシュヴァ・アオゥル」との間の亀裂はもはや、修復不可能の様相。
法皇による1年に1度の「アルピュタス聖不可侵域」巡礼の日を目前に控えた落日であった…。
シナリオⅣ 2.1〈人は、誰かから深く愛されることで力を得て、誰かを深く愛することで勇気を得る〉
Being deeply loved by someone gives you strength,while loving someone deeply gives you courage
草創歴0449年7月(7/9)
寒暖の落差激しい荒野を走り抜ける2頭の人馬の孤影…。
日差しも落ち、宵闇が天蓋を覆う時刻が迫っている。
にも関わらず、手綱を握る手は一向に弱まる気配は無い。
この「キカートリックス(傷痕)の荒野」を抜けると砂塵地帯に突入する。
防塵用のマスクと麻のマントはその為の用意か。隠された素顔からは素性を見定める事は出来ない。
だが、先頭を行く馬影の操者の体格は小柄で、一見すると女性か少年かと見紛うほどだ。
沿岸部を並行し、これでも最短ルートを選択しての陸路である。
フィデース・レグヌム(教皇國)・キアの首都「アポストルス・ウルブス(使徒の都市)」を出奔して早3日。
間も無く「モディアブル騎士団領」の領域に達する頃合いであった。
シナリオⅣ 2 前章 序説
同刻、教皇会の本拠地サンクトゥアーリウム(聖域)に於いて、「ステラマリス枢機卿位議会」は紛糾して閉じられた。
目に余る帝国(旧ソルティア公国)の交易路侵害、黄金宮の占有、他国の占領。
上記を挙げると枚挙にいとわない。
北西部では帝国の支配に反旗を翻す民間組織「クリシュナ派」が勢力を拡大している。
帝国を批判する「急進派」が制裁条件を提示するも、損害を考慮する「穏健派」の慎重論を覆す事は難しく、多数採決を鑑みれば、戦況の観察維持に留まるは致し方無しだった…。
「ステラマリスの六皇」でもある、キアレークス(國王)「ルゥライ・ウァルティアン・キア」も穏健派に属する慎重派であり、フィデース・レグヌム(教皇國)・キアは教皇会から独立性を持つ統治国家の態ではあるが、聖ラムサ王國 (ハインリッヒ・ラムサ・ケーニクライヒ)と同様、その影響は免れない。
とはいえ同月2日、第弍帝国総軍が南部内陸北東区、旧「シリウス王国」(シーリウストラナー)跡地を不法占拠。上陸を許す事となった。
その後7日を経ていたが、監視対象に動きは見られていない。
旧「シリウス王国」(シーリウストラナー)跡地は草創歴412年、38年前の「英雄戦争」以来、放棄されて久しく、人も踏み込まぬ廃都ではある。
だが、これを放置する理由もあるまい。
「…いい加減に諦めろよっ!」
後方を走る孤影から投げ掛けられた声。
若干、諦め気味ではあったが、巻き込まれた以上は仕方あるまい。
「だったら、付いて来なくてもいいんだよっ!」
受け取った側も半ば意固地に返答する。
だが双方共に、まだまだ年若い少年の声だ。
諦めろと言われて諦めるぐらいならば、そもそもこんな事態には陥ってはいまい。
見た目にそぐわぬ強情さは誰に似たものかと、皆は一様に彼を笑う。
軟弱と思われるのが嫌で、馬術や剣術を義兄から倣い、こうして役立っているのも事実。
それにしても、何かにつけて「諦めろよ。」が口癖の親友を巻き込んでしまったのは、心から申し訳ないとは思うものの…彼が楽しんでいる気配は拭えない。
彼…カイト・オセアノ・シュルンはそう言う青年であった。
シュルン家と言えば、かつては「傭兵貴族」と称される南部有数の家門にて、38年前を期にフィデース・レグヌム(教皇國)・キアに帰属した。
以降はカリスエクェス(聖杯騎士団)「紅翼」に籍を置く家系である。
カイトはその直系であり「紅翼」の中枢メンバーでもあったが、その経緯ゆえにか、騎士団の範疇に囚われぬ友人関係にあった。
それはドゥクスエクエス(騎士団統括長)「アストラル・ヴィ・アンゲリ」の黙認にもよる。
「あのねぇ。だから諦めろって?教皇会が動かないんだから、キアのカリスエクェス(聖杯騎士団)が動ける訳ないだろぉ?」
バロック様式の何もない空間を取り巻き横切る壮大な階段を、その後を追い掛けながら引き止めようとするも、カイトはつい笑顔を漏らしてしまう。
悪い癖であった。
実際、それで何度も上司である「紅翼」のドクトゥスエクエス(騎士団長)に憤怒される始末。しかし性格は変えられない。
通路は奥に行くにつれて徐々に豪華になる。
装飾の重点は力強いマッス、柱、ドーム、キアロスクーロ、絵画的な色彩効果が相まり、量感と空間との取り合わせによる華麗な内装が謁見室を彩る。
それでも、その足は止まらない。止められる者も居なかったが、そこから先はカイトには無理だった。
だがカイトにとって、失意に暮れる彼を待ち受けるに、そう時間は掛からなかった。
謁見室から出てきた彼は、意気消沈の面持ち。何と言葉を掛ければいいかと戸惑いつつも。
「だから言っただろ?いくらお前が言ったって、こんなの法皇に直訴するぐらいしか方法が無いだろ?」
「……。」
言ってから、短髪碧眼のカイトはハッと口を抑えた 。やってしまった。
温厚で柔和な印象を与える歳下の親友の顔が、見る見る上気する。
キアレークス(國王)にして父である「ルゥライ・ウァルティアン・キア」には無下にも却下された。
「…お前が口を挟む件ではない。」と。
それよりも、「大司教」の術式修練に励めと念を押される始末。
そもそも、教皇会の枢機卿位を取得せよとは、王位継承権の降格と同義である。
直系の王位継承権を有するのは、自分を除けば異母兄妹の「マゥル・ウァルティアン・キア」のみである。
母が王家に所縁無い故か?父上が何を意図するのか、それは問うたところで応えてはくれぬであろう。
しかし、フィデース・レグヌム(教皇國)キアの第二レグルス(王太子)「ソウマ・ヴァストック・キア」は聡明な男子あった。
國民からの期待も大きい。
それは先の第一レグルス(王太子)「ロゥヴ・ウァルティアン・キア」が英雄戦争の際に落命して以来の、待望の男子出生にもよるのだろう…。
キア王家特有の黄金色に燃える髪色も受け継いでいる。
「そうだね…でも、直訴だけじゃダメなんだ。これは南部内陸共通の問題なんだよっ。」
「ソウマ…えー?」
カイトには悪い予感しかしない。
だが同時に期待が膨らむ。
楽しい事が起こりそうだ。
すぐさまソウマは人目を忍び、夜風と共にアポストルス・ウルブス(使徒の都市)出立の準備を整える。
半年前より「カエルレウス・パラティウム(碧の王宮殿)」から離れ、修練を兼ねて「プルト・カペラ(礼拝殿)」に居住地を移されていたのが幸いした。
脚(馬)に関しては、1週間前から同居しているテオさんの馬を内緒で拝借しよう。
非常に心苦しいが、ソウマにとっては子供の時分より兄達と慕う、噂の「キア三悪人」の1人でもある。後で謝れば許してもらえるだろう。
さあ、行こう。
僕達の時代は自ら切り拓く。
それが戦火への道程であったとしても…。




