シナリオⅣ 2 前章 第2話
シナリオⅣ 2.2〈人は、誰かから深く愛されることで力を得て、誰かを深く愛することで勇気を得る〉
Being deeply loved by someone gives you strength,while loving someone deeply gives you courage
草創歴0449年7月(7/8)
ドゥクスエクエス(騎士団統括長)「アストラル・ヴィ・アンゲリ」は齢を重ねてはいたが、その眼光鋭く、荘厳な佇まいは若かりし頃から依然変わることがなかった。
1週間後、「スカラ・レジア外宮」にて、ようやくにして面会があい適ったと言うものの、現状はそれどころでは無かった。
これは面会と言うよりも、事情聴取に等しい扱いである。
「ソウマのやつ、やってくれやがった…。」
思わず第一感想が口に出た。
しかも、俺の愛馬「ベッルルス(可愛い子)」まで持ち出す始末…。
元来、テオ・スティーリア・タクナリが古巣である南部内陸へ戻って来たのは、キア王家に協力嘆願の親書を携えての事だ。
中央大陸北西部に本拠地を置いていた「黄金宮」は、全ての職種ギルドを統括してきた。
だが黄金宮は帝国の圧政により解体され、その下部組織であった「金眼の社」を推し立て、実質占有している。
各地のギルドはこれに反発し、ギルド間の仲裁を司る「巡検士機関」は、各地域で独立した組織の再編成を行なう決定を下した。
無論、これは「金眼の社」と帝国の方針に反旗を翻す結論であり、混乱は必至である。
テオは、南部内陸に於けるギルド再編成の任を請け負った「調停騎士(ロゴス=シュヴァリエ)」である。ギルド間の調停に於いては実力行使を許された、唯一無二の独立機関に属する騎士だ。
「お前の関与を疑う証拠も無いが、今回の事態が公になろうものなら、対外的な信用問題にもなりかねん。巡検士機関としても、それは困ろう?」
何とも威圧的かつ、独断的な脅し文句であろうか。
そもそも、未だ南大陸最強の「六翼将」に数えられる程の、一筋縄ではいかぬ御老体である。
「いや、言いたい事は分かりましたがね…俺に何をしろって言うんです?」
「…もう1人、呼び出してある。しばし待て。」
ああ、これは悪い予感。
そして、入室を許された若き騎士が一名、案の定とばかりに、互いに視線を見合わせる。
「…失礼いたします。「紅翼」ドクトゥスエクエス(騎士団長)リョウ・ギアラル入室します。」
獅子の如き威風堂々と、痩躯ながらも鋼の肉体に宿る覇気。
肌色も褐色なれど、カリスエクェス(聖杯騎士)と呼ぶに相応しい気品を宿している青年だ。
フィデース・レグヌム(教皇國)・キアの首都「アポストルス・ウルブス(使徒の都市)」に3年ぶりに戻って以来、久しぶりに顔を見たが、なかなかの男前に成長しているではないか。
今は18歳か。
國内では2席しか持ち得ない「六翼将」の座位を、カリスエクェス(聖杯騎士団)入団と共に、ステラマリス枢機卿位議会の満場一致で承認された若き英雄殿である。
「キアの三悪人」の汚名は、もはや忘れ去りたい過去であろう。
テオは苦笑する。
「…笑っている場合ではあるまい。殿下が未だに無茶をするのは、お前たち3人の悪影響だろうに?」
アストラル・ヴィ・アンゲリが窘める。
ごもっともな意見だ。
「…いやぁ、あれは若気の至りでしてね。」
誤魔化してみるも、御老体の目は笑っていない。
リョウ・ギアラルも直立不動のまま動かない。
にしてもコイツ、騎士っぽくなったものだと感心する。
「さて、本題に入るが…昨夜、私宛てに匿名の書簡が届いてな。」
そこには、こう書かれてあったと言う。
相変わらず、シュルン家の倅は字が汚いだのブツクサ批判をしながらだ…。
『ソウマ殿下のお供をしてきます。ちなみに、リヒト(座標点)されると嫌なんで、聖杯の盾は置いていきます。カイト・オセアノ・シュルン。』
今回の件は公にしないとの、キアレークス(國王)ルゥライ・ウァルティアン・キア陛下の賜下を得ているとの事。
アストラル・ヴィ・アンゲリの提言により、リョウ・ギアラルが選ばれた意図はともかく、テオは巻き込まれた感が非常に強い。
むしろ被害者に近い。
「…あの〜?で、俺は何をしたらいいんですかねぇ?」
「お前達2名については、ただちにレグルス(王太子)ソウマ・ヴァストック・キア殿下を追跡し、合流後は無事にお戻り頂けるように尽力する事。尚、期限は問わないし、國家として最大限の助力はする。」
あ〜あ。
そんな事だと思ったよ…テオは先行きの見えぬ不安に襲われた。
連れて行かれた馬の代わりに、カリスエクェス(聖杯騎士団)から騎馬を代用する事となり、軍馬徴用オブリクァ広場(楕円形の広場)に面する城館施設にて、様々な携帯品の借用規約に目を通す。
天幕、ランタン等の野宿に於ける必需品は元より、食糧品まで数は豊富だ。
それらは「紅翼」の名の下に、ほぼ無償のものであったが、とりあえずテオは在庫確認をストップさせた。
リョウが指定する必要品の項目であるが、一週間分やそこらの備品じゃないよな?
「あのなぁ、ソウマを連れ戻せってことだろ?すぐに追い掛けて、捕まえればいいじゃないか。お前は何だ?こんな大荷物をぶら下げて、仲良く焚火でもする気かぁ?」
「…期限を問わないと言うのは…ただ連れ戻せと言う意味ではないと思います。」
あ〜ん?いや、言いたい事は分かるが、相変わらず頭の堅い奴だ。ガッチガチだよ。
昔はもうちょい丸かった気がするが、カリスエクェス(聖杯騎士)様になった途端にこれだ…。
「いいかぁ、今からソウマを追いかけようってのに、そんな大荷物持って行けるか?最低限の物でいいんだよぉ。これと…それと、これだっ!以上。」
「……。」
「後は現地調達用の金だ!金さえあれば何とでもなるんだよぉ!」
ちなみに、この世で1番大事なものであると付け加えておこう。俺が信じるのは金だけだ。
一方、まくし立てられ呆気に取られていたが、リョウは思わず吹き出していた。
「ばっ、馬鹿やろう、笑うなよっ!」
「はははっ…相変わらず、タクナリんは変わらないなあ。」
リョウは、こんなに心から笑ったのは久し振り過ぎて思い返せなかった。
まるであの頃に戻ったかのようで、後ろをついて来る幼いソウマを尻目に、3人で農園を荒らし回った記憶が脳裏に蘇る。
その頃からの、タクナリんの「お金第一主義」は変わらないようだ。
ともあれ、俺に任せろと言わんばかりに、テオは出立の準備に取り掛かる。
「あれっ?ところでリョウ、お前ってソウマの行く先に見当あるのかぁ?」
割り当てられた栗毛の騎馬に鞍を付けながら、肝心な事に今気付く。
そもそも、何処に何しに向かったかも分からないんじゃ、探しようが無いぞ?
「それなら、ソウマについて行ったカイトが残したヒントがある…。」
ヒントだとぉ?面倒な事をする子だなぁ。愉快犯じゃあるまいし…。
『追伸、噂の3悪人に会いに行きます。』
…これはあれか?あいつの居る場所に向かったって事なのか?
「あいつも南部内陸に戻って来てるって事かぁ?」
「機密事項ではあるが、モディアブル騎士団領に留まってる筈だよ。」
おいおい。キアの機密事項に絡み、反帝国民間組織「クリシュナ派」の中核人物であるアイツが、中立地帯で何をしているって言うんだ?
「さあ…。」
リョウは涼しい顔色で答えたが、まあ、2人きりの旅路は長い。色んな事を聞き出してやるさぁ。この色男め。
心の中でテオはほくそ笑むのであった…。




