★死ぬかと思ったら、美少女に助けられた。
「なんでこんなことに……」
放課後のコンビニ帰り。あたりはすっかり暗くなり、月の光すらも照らされない裏路地で、三人の黒いサングラスをかけた 黒スーツ姿の男たちに追い込まれ拳銃を突きつけられる。
最初は、例の人気恒例テレビ番組の黒いのが出演者と間違い、ここまで追いかけてきているのかと思ったがどうも違うらしい。
すぐ後ろは、硬いコンクリートの壁で逃げ場はない。
このままでは確保どころか殺される。
この絶体絶命な盤面を潜り抜けるには、まず三方向から放たれた銃弾を瞬時にかわし、男たちを一網打尽に——。
できるわけがない。
できるわけがないだろうそんなこと。
まあ、どこぞのスーパー高校生なら銃口の向きと引き金の指の動きに集中していれば、避けられるのだろうが……あいにく俺はノーマル高校生のため、避けることはできない。
というか、なぜ拳銃を突きつけられている。
まったく身に覚えがない。
——あ。
身に覚えあるわ。
そういえば今日、遅刻しそうな時、荷物をたくさん持ったおばあちゃんを見捨てたわ。
まさか、それに怒り狂ったおばあちゃんが手先を送ったのか?
……そんなバカな。あんな優しそうな顔してたのにありえない。
なら、聞いた方が早いか。
「あんたら、なんで俺の命を狙っているんだ?」
「「「……」」」
——沈黙。沈黙の黒スーツ。
なあ、訳も分からず死ぬってか。
そんなのあんまりだぞ。
こんな結末、到底認められない。
いっそのこと、カッコよく死ぬためにスーパー高校生を演じてみるか。
それならカッコいい死に方が……と余計なことを考えているとカチッと金属同士が衝突したような音が。
どうやら拳銃のセーフティが解除されたらしい。
つまり、いつでも引き金を引くことはできるということだ。
「ここまでか——」
俺の人生に悔いはないと言いたいところだが、残念ながら悔いしか残ってない。
あんなこと言わなきゃ良かったし、やらなきゃ良かった。
好きだったあの子に告白すれば良かったし、もっと話に行けば良かったとか。
——そう。人間は思い返せば、ああしておけば良かったというのが山ほどある。
ただそれは、悪いことじゃない。
そう思えるのなら、次は後悔しないように生きていけばいいから。
「さらば世界。また逢う日まで——」
ゆっくりと瞼を閉じた瞬間、拳銃の発砲音がこの薄暗い裏路地で鳴り響く。
だが、不思議と痛みは感じなかった。
最後の最後で神が味方してくれたからだろうか。どちらにせよ痛くないのは非常に助かる。
これで楽に逝けるというものだ。
……しかし、なんだこの感じは。
向かい風がすごいな。苦しいまであるぞ。
俺をあの世に運ぶ天使の乱暴さがうかがえる。
どれ。どんな天使なのか一目見てみるとするか。
「……は?」
今の状況を端的に話そう。
俺は今——
誰かに片腕でガシッと身体を掴まれ地上を高速移動している。
いやどういうこと?
さっきまで命を狙われていたが今度は誘拐か。
それとも助けてくれたのだろうか。
薄暗く、黒色のローブに身を包み容姿は確認できないが俺よりも体格は小柄な気がした。
余計に気になるな。小柄な体格にして十七歳の男子高校生を片腕で持ち、駆け抜けるこの人物が。
「あ、あの……」
まだ、敵である可能性もあるため恐る恐る尋ねると、返ってきた回答は予想以上で。
「うるさい」
聞き間違いか……?
透き通った女声で、今ありえない言葉が聞こえてきたのだが——ん?女性?
ちょっと待て。もっとありえない現象に身を置いている気がする。
女の子が片腕で俺を……?
そんな軽い男ではないはずなのだが、こうも軽々と持たれるとなんかなあ……
「あの、もう下ろしてもらって大丈夫です……」
この状況に耐えきれず、自ら歩くことを決意するも。
「死にたいならいいよ」
「え」
「ほら後ろ」
身体を掴まれながら後ろを向くと、さっきの黒スーツ男たちが走って追ってくる。
それも、だんだん距離が短くなっていく。
確かに下りていたら死んでたかもしれない。
「なあ、あいつらは一体なんなんだ?」
「うるさい。今、あなたに発言権はない」
「お前、ムチャクチャだな!」
「だってそうでしょう? あなたが重いせいで結構ピンチなんだから。荷物は大人しくしてて」
あ、やっぱ重かったんだ。
ダイレクトに重いって言われるのもなんか嫌だかも。
「チッ。しつこい連中だね」
「おいどうする。これ以上近づかれたら撃たれるぞ」
「——じゃあ飛ぶ」
「……今なんて?」
すると女は、もう一方の手になにかを持ちそれを上に構える。
「それは……?」
「グラップルガン」
グラップルガンってあの高くて遠いところに撃って自分を引っ張るやつか?
なぜそんなもの持っているんだよ。
「しっかり捕まってて。あ、変なところ触った瞬間、あなたのこと離すから」
「触る以前にガッチリ掴まれていますが」
「よろしい。じゃあ行くよ!」
グラップルガンは建物の上へ放たれ、俺たちはありえない速度で引っ張られ美しい夜空に放り出される。
「ウ、ウッウワァァァァァァ!」
それはまるで遊園地のアトラクションのような爽快感。ジェットコースターに乗っているようだった。
心臓の鼓動は今までにないくらいバクバクして気分は最高潮——退屈だった俺の人生が今日で覆る予感がした。




