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09 教訓詩(モラリテ)

ペローは完成しつつある原稿の途中で一度ペンを止め、羊皮紙の上を走る文字を見つめながら、深く思考を巡らせました。そして、アニエスの語った本来の民話には存在しなかった、ある決定的なひとつの属性を少女に与える決断を下したのです。


それは、鮮烈で美しい「赤い頭巾(シャプロン)」でございました。


この「赤」という色には、ふたつの相反する世界の視線が巧みに潜まされております。


裏側に隠されているのは、あのアニエスが冷ややかに語った、泥と血にまみれた真実でございます。村人たちから露骨に避けられ、石を投げられる「疫病患者の家族」という忌まわしい目印としての烙印。そして同時に、我が子を恐ろしい森へ送り出さざるを得なかった母親が「せめて病魔から守られますように」と切なく縋った、哀れな魔除けの色の記憶でございました。


しかし、ペローはこの凄惨な背景を、完璧な宮廷風の意匠へと塗り替えてみせます。


サロンの貴族たちや都市の富裕層の目には、この赤い頭巾が「世間知らずで愛らしく、どこか早熟で危険さを漂わせる可憐なファッション」として映るように仕立て上げたのです。身に纏う者の無垢さと同時に、やがて猛獣に欲望の的とされる運命を予感させる、艶やかな装飾として提示されたのでございます。


ペローは羽ペンにたっぷりとしみ込ませた黒いインクで、少女の頭の上に「美しい赤い頭巾」を被せました。


貴族たちが「まあ、なんて可憐で華やかな装いでしょう」と頬を緩ませて眺めるその布地の奥底に、排除された者たちの血の匂いと、虐げられた者たちの切ない祈りが永久に潜み続けることを、静かに確信しながら。


夜が静かに更けていく書斎のなかで、ペローは机の上に広げた古びた手帳にじっと目を落としておりました。アニエスの暗い小屋で書き留めた手帳のページには、この地に古くから伝わる本来の結末が記されております。


アニエスが語るこの土地の古い民話において、少女は決して無力な犠牲者などではございませんでした。ベッドの中で異形のものに追い詰められた少女は、「外へ出て用を足したい」と巧みな嘘をつき、オオカミの差し出した縄を自らの足首から外し、暗闇の中で庭の木へと固く結びつけて、まんまと森の深みへ逃げ延びるのでございます。凄惨で苛酷な生活の中で培われた、泥臭い知恵と図々しさによって、民衆はしたたかに生き残る——それこそが、生き去るための現実の力強さでありました。


ペローはゆっくりと羽ペンを持ち上げ、黒々としたインクにその先を深く浸しました。


そして、手帳に記されたその「脱出の場面」の上へ、静かに、しかし迷いのない力強さで、すっと一筋の横線を引いて消し去ったのでございます。


「……これでは、あまりに親切すぎる」


ペローの薄い唇に、どこか陰惨で冷徹な笑みがすっと浮かび上がりました。


彼の手帳をなぞる指先と胸中には、恐ろしいほどの確信が渦巻いておりました。


農民たちは過酷な現実のただ中で、知恵を絞り、必死に手を伸ばしてオオカミの爪から逃げ出す強さを持っております。彼らは飢えや病、圧政の恐怖を身をもって知り尽くしているからこそ、土に這いつくばりながらも生き延びる術を身につけているのです。


だが、この物語を優雅なお茶会の場で朗読として耳にする、サロンの貴婦人や貴族たちは一体どうでしょう。


豪華な絹やベルベットの衣服に身を包み、安全で温かな室内の高みに腰掛け、上品な笑みを浮かべ合っている者たち。彼らは自分たちが一体何に捕食されようとしているのか、あるいは自分たちが足元の民衆から何を凄惨に搾取しているのかすら、何ひとつ分かってはおりません。


逃げられないのは、泥にまみれて知恵を絞る少女でも、虐げられた民衆でもありません。


逃げ場もなく破滅へと向かっているのは、無自覚なまま肥え太る、あなた方貴族なのだ——ペローはその強烈な意図を込め、少女がオオカミの暗い腹の中に呑み込まれ、二度と外へ出てくることのない、完全なる終わりの闇としての「バッドエンド」で原稿を締めくくったのでございます。


少女が惨めにも食い殺されて終わるこの結末は、サロンの連中にとっては「怪しい男の言葉を真に受けた、愚かで軽率な田舎娘の自業自得な末路」という、愉悦に満ちた教訓劇に見えることでしょう。


しかし、その皮肉な表皮の裏に隠された真の意図は、この不条理な支配構造に無自覚なまま高笑いを続け、いつか訪れる本物の破滅——民衆の底知れぬ怒りと社会の崩壊という巨大な口に呑み込まれ、全滅していく構造の破綻を予見するような静かな呪詛にほかなりませんでした。


ペローは書き終えた原稿のインクをそっと乾かし、自らの胸の奥で不敵な笑みを深く潜ませるのでございました。


夜明けの薄青い光が書斎の窓から静かに差し込み、机の上に並べられた羊皮紙の束を冷ややかに照らし出しておりました。ペローは疲れの滲む目を軽く閉じ、深呼吸をひとつ吐くと、最後の仕上げに取りかかるべく、再び羽ペンを手に取りました。


彼が白紙の末尾に書き加えたのは、あらかじめ計算し尽くされた、白々しいほどに優雅で美しい「巻末の教訓詩(モラリテ)」でございました。


「美しく、可憐で、気品ある若き娘たちよ。どのような男の言葉にも軽々しく耳を傾けてはなりません。世の中には、従順で、親しげで、心優しく見えながら、その陰で娘たちの後を追い、部屋の奥やベッドの脇まで忍び寄ってくる恐ろしいオオカミが溢れているのですから……」


黒々としたインクで紡がれたその詩句は、完璧な毒薬を極上の甘いお菓子で包み込んだかのような、恐ろしいまでの美しさを放っておりました。


サロンの貴族たちは、この詩を読んで「まあ、なんて素晴らしい教訓でしょう」「年頃の娘たちへの見事な戒めですわ」と、優雅に扇子を打ち鳴らして称賛することでしょう。自分たちの足元で静かに磨ぎ澄まされた、支配構造そのものへの小さな抵抗だと、誰ひとりとして気づくことのないまま。


ペローは羽ペンをそっと置くと、完成した原稿の上に砂を振りかけ、余分なインクを慎重に乾かしました。パサリと砂を払い落とす小さな音が、書斎の静寂の中に心地よく響きます。


彼は一ページ目から最後の一行まで愛おしむように視線を走らせた後、手帳と原稿を静かに重ね合わせ、重厚な革の表紙を閉じました。


明日の夜、絢爛豪華なサロンの灯りの下で、あの無自覚な捕食者たちの前でこの物語を朗読する瞬間に思いを馳せながら、ペローは深く息を吸い込み、静かに立ち上がったのでございます。

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