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1-22



 週末は引っ越しの残り作業に追われ、気づけば月曜日になっていた。

 朝9時少し前。深は地下訓練場へ向かう。


 今日からは午前中も地下での訓練に参加することになっており、深は珍しく朝からやる気満々だった。勢いよく訓練場の扉を開けると、入口近くにいた春がすぐに気づいて声をかけてくる。


「あれ? 深君、今日から午前も参加?」

「はい。講義が全部終わったんで!」


 他のメンバーと同じカリキュラムに入れるのがうれしいのだろう。深のテンションは朝にしてはかなり高めだった。

 だが、その直後。春が深の右腕に巻かれた包帯へ視線を落とす。


「腕は? もう大丈夫なの?」

「ん? ああ、これっすか。ほら!」


 深は右腕をぶんぶん振ってみせる。まだ包帯は残っているが、痛みはほとんどない。

 そんな様子を見て春は小さく笑った。


「あはは。なら平気そうね。それより深君、今のうちに武器取ってきたほうがいいわよ。あとで行く時間なくなるから」

「了解っす。行ってきます」


 深は武器倉庫へ向かい、先週、長谷川との手合わせで使った長めの木刀を手に取った。




 そして訓練開始。

 午前中は体力強化のための基礎訓練だった。


(……高校の部活みてぇだな)


 ランニング、ストレッチ、短距離ダッシュ――。

 全員が同じメニューを淡々とこなし、深も見よう見まねでついていく。

 約1時間のウォームアップが終わると、今度は武器の種類ごとにグループ分けが始まった。


「ん? 俺はどこ行けば……?」

「深君、こっちこっち」


 瞬が手招きする。

 ついて行くと、そこには近接戦闘を主体とするメンバーが集まっていた。礼子も後から合流し、総勢は十二、三人ほど。

 一方、弓を扱う春たちは別グループへ移動していく。そちらには五人ほどの弓術士が集まっていた。


 さらにそこから細分化され、深は日本刀グループへ。


「あ……どうも……今日からよろしくお願いします……」


 初対面に近いメンバーばかりで、深は若干ぎこちない。

 すると隣に立っていた女性が吹き出した。


「くくっ、何それ? 怯えすぎでしょ」


 肩までの髪を揺らしながら、彼女は気さくに笑う。


「私は奥原理恵。よろしくね」


 簡単な自己紹介が一巡すると、全員が木刀を構え始めた。

 深も最後尾へ並び、掛け声に合わせて素振りを始める。

 その途中、理恵が深のそばへ歩いてきた。


「深君、刀って使ったことないでしょ?」

「え? あー……まぁ、ないっす」

「あと敬語いらない。私、深君と同い年だから」

「え、マジで?」

「マジ。それと――構え、ひどすぎ」


 さらっと言い切られた。


「私が教えてあげる」


 どうやら理恵は幼い頃から剣術を習っていたらしい。

 この日、深は初めて“刀の正しい振り方”を教わることになる。

 内容は基本の基本。それでも構えが少し形になるだけで、深は妙にうれしくなった。


(おお……なんかそれっぽい……)


 内心でかなりテンションが上がる。

 再び素振りが始まった。

 理恵のほうを見ると、彼女は短めの木刀を両手に一本ずつ持っている。


(あれが二刀流ってやつか)


 またしても脳裏によみがえる時代劇。

 理恵の動きは鋭く、美しかった。まるで二本の刃が別々に意思を持って動いているように見える。


 そこからさらに一時間。

 右、左、上段、袈裟斬り――。

 深は周囲よりワンテンポ遅れながらも、必死に木刀を振り続けた。


(お、あっちも始まった)


 ふと視線を向けると、少し離れた場所では瞬と礼子が実戦形式の訓練を始めている。

 さらに向こうでは、春たち弓術班が射撃練習を開始していた。


 そして十一時。

 全員が一度休憩に入る。

 そのタイミングを見計らい、深は理恵に声をかけた。


「理恵さん、テーピングとかある?」

「あそこに救急箱あるよ」


 深の手のひらには、すでに豆ができていた。

 しかもいくつか潰れて血がにじんでいる。

 理恵がペットボトルの水を豪快に飲みながら笑う。


「最初はみんなそんな感じ」

「うぅ……いてぇ……」


 深が救急箱へ向かうと、今度は礼子が寄ってきた。


「わーっ、豆できちゃいましたぁ?」

「見てくれよこれ。めちゃくちゃ痛ぇ」

「うわぁ……痛そう……」


 礼子は興味津々で深の手をのぞき込む。


「私も最初すごかったですよぉ。泣いてましたもん。今なんてほらっ」


 礼子が自分の両手を見せる。

 厚く硬くなった掌。完全に鍛え上げられた戦士の手だった。


「おお……すげぇ」

「女の子の手じゃないですよねぇ……」

「いや、そこらの男より男らしい手してる」

「深さんひどーい!」

「あっ、やべ」


 次の瞬間、礼子の拳がぽこぽこと飛んできた。


「ちょっ、待って! 礼子ちゃん! それ武器! 武器だから!」

「知りませーん!」


 そんなやり取りをしながら、深は両手にテーピングを巻き終える。

 十分ほど休憩した後、訓練は一対一の実戦形式へ移行した。

 ここからは瞬や礼子たちとも合流である。


 深もローテーションで何人かと手合わせをすることになった。


(金曜の長谷川さん戦、攻撃だけだったから楽だったんだな……)


 相手が攻撃してくるだけで難易度が跳ね上がる。

 防御が追いつかない。

 何度も木刀を弾かれ、何度も打ち込まれた。


(防御むずすぎるだろ……)


 ただ、この訓練は技術重視らしく、相手も本気では打ち込んでこない。

 胴を取られてもダメージはほぼなかった。

 深も力を抜きつつ、必死に相手の動きへ対応していく。

 当然ながら、周囲は全員格上。

 それでも深は食らいつき続けた。




     ◇




 そして正午。

 午前の訓練が終了し、一同は食堂へ向かう。

 深はカレーを注文したが、手のひらが痛くてスプーンがうまく握れない。

 それでも無理やり食べ進める。


 そんな深を見ながら、春が楽しそうに笑った。


「午後からが本番ね。今日こそ長谷川さんをぎゃふんと言わせないと」

「でもぉ」


 礼子が口いっぱいに食べ物を詰め込みながら話し出す。


「このカリキュラム、二か月くらい続くらしいですよぉ?」

「それ違うわよ」


 瞬が訂正する。


「後半はチーム戦になるの。最初は全員対長谷川さん。次は四人チームで挑む感じ」

「へぇ……」


 つまり、いずれは長谷川を倒す前提の訓練。

 深の胸の奥で、静かに闘争心が燃え始める。

 すると瞬がニヤリと笑った。


「でもうちには期待のルーキーがいるしね?」

「え? いや……まぁ……そのうち……」


 突然話を振られ、深はしどろもどろになる。


 そんな反応が面白いのか、三人は楽しそうに笑っていた。




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