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 一方その頃。

 長谷川は着替えを終え、自室へ戻っていた。

 すぐに電話を取り、サイの部屋へ内線を入れる。


「……」


 しかし三十秒待っても反応がない。


「いないのね……」


 一度受話器を置き、今度は総務へかけ直した。

 ちなみにサイはメールも携帯電話も使えない。

 そのためスケジュール管理は総務が担当している。


「すみません。戦闘術班の長谷川です。サイさんの予定を確認したいのですが」


 電話口の男性がすぐに答えた。


「少々お待ちください。えーっと……現在は防衛大臣と平岡局長との三者会談中ですね」


(うわぁ……)


 さすがに、そのメンツを邪魔するわけにはいかない。


「その後の予定は?」

「十八時から恐山部隊とのオンライン定期会議が入っています」

「それ、たしか一時間ぐらいですよね?」


 時計は十七時半を指していた。


「はい。その後は空いています」

「でしたら会議後に、“長谷川が一時間ほど相談したい”とお伝えください。中川深の件で」

「承知しました」


 電話を切る。

 すると、ちょうど春からメールが届いていた。


『中川深を治療室へ連れて行きました。肘の怪我は軽傷です。ただ疲労がかなり強く、少し休んでから帰るそうです』


 それを見て、長谷川は小さく笑った。


(あれだけ動けば当然よね)


 春へ礼の返信を送り、そのまま椅子へ深く腰を下ろす。

 そして今日の訓練を頭の中で整理し始めた。


(……面白すぎるわ、あの子)


 育成担当として、これほど興味をそそられる人材は初めてかもしれない。

 長谷川はしばらく、楽しそうに笑っていた。



     ◇



 二時間後。

 サイから呼び出しを受け、長谷川は六階の部屋を訪れていた。


「失礼します」

「おう、入れ入れ」


 部屋へ入ると、サイが上機嫌な様子で手招きする。


「すみません。急にお時間いただいて」

「ええわいええわい。深の件じゃろ? わしも興味津々じゃ。まぁ座れ」


 長谷川が席へ着く。

 するとサイは立ち上がり、お茶の準備を始めた。


「いえ、お構いなく……」

「ええ茶葉が入ったんじゃ。飲んでいけ」


 そう言いながら急須へ湯を注ぐ。

 だが長谷川は、一刻も早く疑問を共有したかった。


「実は今日の訓練で――」


 そして。

 訓練中に起きた出来事を、順を追って詳細に説明していく。




「……なるほどのう」


 話を聞き終えたサイが、腕を組みながら唸る。

 長谷川も難しい顔をしていた。


「才能があるのは間違いありません。ただ……能力の性質が、他の誰とも違います」

「まぁ霊粒子の扱いには個性が出るもんじゃが……それにしても変わっとるのう」


 サイは楽しそうだった。

 完全に研究対象を見る目である。


「現時点では接近戦特化でしょう。武器も日本刀系が合っていると思います。しかもスピード型です」

「ふむ」

「ですが……まだ別の能力がありそうなんです。頭部から霊粒子が出始めた瞬間、急激に速度が変化しました」

「戦闘中の異常反応と関係ありそうじゃな……」


 長谷川は頷く。


「本人にも自覚はありません」

「となると、本人から直接聞くしかないかのう」


 サイが笑う。


「まなみ、お前しばらく様子見てくれんか? 戦闘関連はお前のほうが詳しい」

「わかりました。何かわかれば随時報告します」

「頼んだぞい」



 その後。

 サイの淹れた香りの良いお茶を飲みながら、長谷川は静かに考えていた。



 脳裏によみがえる、かつての忌まわしい戦い。



 そして――あの日と、どこか似た気配を持つ青年のことを。


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