1-23
午後になり、全員が再び地下に集まる。
遅れて訓練場へ入ってきた長谷川が、開口一番に深を呼んだ。
「深君? 今日は見学してなさい」
「はい……?」
「ただ見るんじゃないわよ。誰がどう動いているか、ちゃんと観察するの。今のあなたを混ぜると、連携が噛み合わなくて後ろから味方に斬られかねないわ」
「わかったっす」
「その代わり、あとでたっぷり相手してあげるから」
長谷川がにこりと笑う。
(……言い方がちょっと危ないんだよなぁ)
余計な妄想を振り払うように、深はそそくさと壁際へ移動した。
ほどなくして訓練開始。
改めて見学に回ってみると、他のメンバーの技術の高さがよく分かる。
「うーん……みんな上手ぇ……」
同じ刀を使っていても、戦い方はまるで違う。
霊粒子の放出方法、踏み込み、間合い、攻撃の癖――誰一人として同じ戦闘スタイルではなかった。
そして何より目を引くのは長谷川である。
昨日、自分と戦った時とは別人のようだった。
今日は完全に攻撃型。鋭く、速く、迷いがない。
(やっぱ長谷川さん、戦うの好きなんだな……)
時間が経つにつれて、長谷川の動きはさらに冴えていく。
深は心の中でそっと新しいあだ名をつけた。
(戦闘狂……)
もちろん口には出さない。
そして三時間後。
メンバーが次々と床へ倒れ込み、最後に深が呼ばれた。
「今日は私から攻撃してもいいかしら?」
「はい……わかりました」
一瞬だけ身構える。
だが、ここで「手加減してください」と言うのも情けない気がして、深は木刀を握り直した。
向かい合った瞬間、長谷川の霊粒子が膨れ上がる。
(来るっ!)
深は即座に踏み込み、先手を取った。
見学していたおかげで、長谷川がどう攻撃へ繋げるのかは何となく見えている。
問題は――それをどう防ぐかだった。
長谷川は深の攻撃を軽やかにいなし、数合受けたところで反撃へ転じる。
(うぉっ!?)
初撃をどうにか回避。
しかし、そこからが止まらない。
連撃。
鋭い斬撃が次々に飛んでくる。
見ている時とはまるで違う。
実際に向き合うと、長谷川の剣は異様な圧力を伴っていた。
だが、深は気づく。
(……少し遅い?)
おそらく、合わせてくれている。
(最初は慣らしってことか。多分、ここから速くなる)
深は呼吸を整え、攻撃へ転じた。
数分後。
再び頭に違和感が走る。
(またか……)
頭の奥が重い。
だが今度は、そこまで嫌ではなかった。
そして世界がゆっくりになり始める。
長谷川の剣筋。
足運び。
服の揺れ。
髪の流れ。
すべてが鮮明に見えた。
同時に、木刀が重くなる。
(疲れてんのかな……)
しかし違う。
木刀の奥から、また“意志”が伝わってきた。
(やっぱり来た)
次は右。
その次は踏み込み。
防御はここ。
流れに従えばいい。
深は半ば遊ぶような感覚で、木刀の導きに身を任せ始めた。
(こりゃすげぇ。達人ってこんな感じなのか?)
◇
一方、長谷川は困惑していた。
(……また成長してる)
こちらの攻撃速度に合わせるように、深の対応速度も上がっていく。
読みではない。
攻撃を見てから反応している。
それなのに間に合っている。
(本当にどういう反応速度してるのかしら……)
さらに深は、防御の精度まで急激に上昇していた。
(なら――これは?)
長谷川はわざと隙を見せた。
誘導。
深が大振りになるよう仕向ける。
狙い通り、深の木刀が大きく振り下ろされた。
轟音。
地面に亀裂。
その瞬間、長谷川は背後へ回り込む。
死角からの一撃。
だが、深は反応した。
(やばい!)
視界にはいない。
それでも分かる。
右後方。
長谷川が振ってくる。
木刀もそう告げていた。
深は反射的に木刀を背中へ回す。
激突音。
長谷川の攻撃が止められる。
(……防いだ?)
今度は長谷川が驚く番だった。
(死角に対応した……?)
試すように再度背後へ回る。
突き。
しかし深は滑るように回避。
さらに反転しながら斬り返してくる。
長谷川は後方へ跳躍して距離を取った。
(やっぱり……この子、死角がない)
静かに構えを解き、長谷川は息を吐く。
「今日はここまでにしましょう」
その声で、深も我に返った。
時計を見る。
すでに十七時を回っている。
「ふぅ……やっぱ勝てる気しねぇ……」
その場へ座り込み、深は肩で息をする。
体力以上に、神経を削られていた。
すぐに春たちが集まってくる。
「やっぱ深君すごいわね」
「自信なくしちゃうわ……」
「私、もう敵わないですぅ」
口々に褒められる。
だが深には実感がない。
結局、一撃も届いていない。
長谷川は最後まで余裕だった。
観察されている感覚すらある。
(……どこまで行けば、この人の本気が見れるんだ?)
「浮かない顔ね」
長谷川が近づいてくる。
「別に……疲れただけです」
「ふふ。深君、この後少しいいかしら? あなたの能力について話したいの」
「俺の能力?」
「ええ。十八時半ぐらいでどう?」
「大丈夫です」
すると礼子がニヤニヤしながら割り込んできた。
「長谷川さん、深さんになにするつもりですかぁ?」
「うふふ。内緒♪」
(やめろ。その返しは危ない)
「花南ちゃんに言うぞぉ?」
「いや、花南さん関係ないじゃないですか!」
春がケラケラ笑う。
「冗談よ、冗談!」
そんな軽口を交わしながら、その場は解散となった。




