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 午後になり、全員が再び地下に集まる。

 遅れて訓練場へ入ってきた長谷川が、開口一番に深を呼んだ。


「深君? 今日は見学してなさい」

「はい……?」

「ただ見るんじゃないわよ。誰がどう動いているか、ちゃんと観察するの。今のあなたを混ぜると、連携が噛み合わなくて後ろから味方に斬られかねないわ」

「わかったっす」

「その代わり、あとでたっぷり相手してあげるから」


 長谷川がにこりと笑う。


(……言い方がちょっと危ないんだよなぁ)


 余計な妄想を振り払うように、深はそそくさと壁際へ移動した。

 ほどなくして訓練開始。

 改めて見学に回ってみると、他のメンバーの技術の高さがよく分かる。


「うーん……みんな上手ぇ……」


 同じ刀を使っていても、戦い方はまるで違う。

 霊粒子の放出方法、踏み込み、間合い、攻撃の癖――誰一人として同じ戦闘スタイルではなかった。


 そして何より目を引くのは長谷川である。

 昨日、自分と戦った時とは別人のようだった。

 今日は完全に攻撃型。鋭く、速く、迷いがない。


(やっぱ長谷川さん、戦うの好きなんだな……)


 時間が経つにつれて、長谷川の動きはさらに冴えていく。

 深は心の中でそっと新しいあだ名をつけた。


(戦闘狂……)



 もちろん口には出さない。

 そして三時間後。

 メンバーが次々と床へ倒れ込み、最後に深が呼ばれた。


「今日は私から攻撃してもいいかしら?」

「はい……わかりました」


 一瞬だけ身構える。

 だが、ここで「手加減してください」と言うのも情けない気がして、深は木刀を握り直した。

 向かい合った瞬間、長谷川の霊粒子が膨れ上がる。


(来るっ!)


 深は即座に踏み込み、先手を取った。

 見学していたおかげで、長谷川がどう攻撃へ繋げるのかは何となく見えている。

 問題は――それをどう防ぐかだった。

 長谷川は深の攻撃を軽やかにいなし、数合受けたところで反撃へ転じる。


(うぉっ!?)


 初撃をどうにか回避。

 しかし、そこからが止まらない。

 連撃。

 鋭い斬撃が次々に飛んでくる。

 見ている時とはまるで違う。

 実際に向き合うと、長谷川の剣は異様な圧力を伴っていた。


 だが、深は気づく。


(……少し遅い?)


 おそらく、合わせてくれている。


(最初は慣らしってことか。多分、ここから速くなる)


 深は呼吸を整え、攻撃へ転じた。

 数分後。

 再び頭に違和感が走る。


(またか……)


 頭の奥が重い。

 だが今度は、そこまで嫌ではなかった。

 そして世界がゆっくりになり始める。


 長谷川の剣筋。

 足運び。

 服の揺れ。

 髪の流れ。


 すべてが鮮明に見えた。

 同時に、木刀が重くなる。


(疲れてんのかな……)


 しかし違う。

 木刀の奥から、また“意志”が伝わってきた。


(やっぱり来た)


 次は右。

 その次は踏み込み。

 防御はここ。

 流れに従えばいい。


 深は半ば遊ぶような感覚で、木刀の導きに身を任せ始めた。


(こりゃすげぇ。達人ってこんな感じなのか?)



     ◇



 一方、長谷川は困惑していた。


(……また成長してる)


 こちらの攻撃速度に合わせるように、深の対応速度も上がっていく。

 読みではない。

 攻撃を見てから反応している。

 それなのに間に合っている。


(本当にどういう反応速度してるのかしら……)


 さらに深は、防御の精度まで急激に上昇していた。


(なら――これは?)


 長谷川はわざと隙を見せた。

 誘導。

 深が大振りになるよう仕向ける。


 狙い通り、深の木刀が大きく振り下ろされた。


 轟音。

 地面に亀裂。


 その瞬間、長谷川は背後へ回り込む。

 死角からの一撃。




 だが、深は反応した。


(やばい!)


 視界にはいない。

 それでも分かる。

 右後方。

 長谷川が振ってくる。

 木刀もそう告げていた。


 深は反射的に木刀を背中へ回す。

 激突音。

 長谷川の攻撃が止められる。


(……防いだ?)


 今度は長谷川が驚く番だった。


(死角に対応した……?)


 試すように再度背後へ回る。

 突き。

 しかし深は滑るように回避。

 さらに反転しながら斬り返してくる。


 長谷川は後方へ跳躍して距離を取った。


(やっぱり……この子、死角がない)


 静かに構えを解き、長谷川は息を吐く。


「今日はここまでにしましょう」


 その声で、深も我に返った。

 時計を見る。

 すでに十七時を回っている。



「ふぅ……やっぱ勝てる気しねぇ……」


 その場へ座り込み、深は肩で息をする。

 体力以上に、神経を削られていた。

 すぐに春たちが集まってくる。


「やっぱ深君すごいわね」

「自信なくしちゃうわ……」

「私、もう敵わないですぅ」


 口々に褒められる。

 だが深には実感がない。

 結局、一撃も届いていない。

 長谷川は最後まで余裕だった。

 観察されている感覚すらある。


(……どこまで行けば、この人の本気が見れるんだ?)


「浮かない顔ね」


 長谷川が近づいてくる。


「別に……疲れただけです」

「ふふ。深君、この後少しいいかしら? あなたの能力について話したいの」

「俺の能力?」

「ええ。十八時半ぐらいでどう?」

「大丈夫です」


 すると礼子がニヤニヤしながら割り込んできた。


「長谷川さん、深さんになにするつもりですかぁ?」

「うふふ。内緒♪」


(やめろ。その返しは危ない)


「花南ちゃんに言うぞぉ?」

「いや、花南さん関係ないじゃないですか!」


 春がケラケラ笑う。


「冗談よ、冗談!」


 そんな軽口を交わしながら、その場は解散となった。




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