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その日の午後から、深はようやく他のメンバーと同じ時間帯に地下施設へ入ることを許された。
結果から言えば、体調に異常はなかった。
むしろ以前よりも、ガラス越しに伝わってくる彼女たちの霊粒子をはっきり感じ取れるようになっていた。
そのおかげで、深は初めて彼女たちの本格的な訓練を目にすることになる。
「……すげぇ」
訓練室には二十人近いメンバーがいた。
そこから放たれる霊粒子が、空間そのものを震わせている。
しかも全員、微妙に違う。
放出量も、激しさも、性質も。
荒々しいものもあれば、鋭利な刃物のようなものもあり、静かな圧力を漂わせる者もいる。
ここまで差があるなら、目を閉じていても誰が動いているか分かりそうだった。
そんな異様な気配をまとったメンバー達が、それぞれ武器を手に長谷川へ襲いかかっている。
木刀。
先端を丸めた矢。
訓練用の武器ではある。
だが、二十人近い人数で一斉に攻撃を仕掛ける光景は、それだけで十分すぎる迫力だった。
そして長谷川が反撃へ転じた瞬間、空気が変わる。
全員の霊粒子が一気に膨れ上がり、戦闘の激しさも明らかに一段階上がった。
深は思わず息を呑む。
観察を続けるうちに、さらに驚かされることになった。
まず礼子。
彼女は身の丈ほどもある西洋風の巨刀を軽々と振り回していた。
その一撃が床へ叩き込まれるたび、地面に二メートル近いクレーターが生まれる。
(……だから床が土なのか?)
今さらながら訓練室の構造に納得する。
床は全面が土だった。
コンクリートや木材では、一週間も持たず粉砕されるのだろう。
どうでもいいことを考えつつも、深の視線は自然と次の人物へ向かう。
春だ。
礼子の猛攻の隙間を縫うように矢を放っている。
だが、その威力が異常だった。
長谷川に弾かれた矢が、そのまま壁へ突き刺さる。
しかもコンクリートの壁面に、綺麗な円形の亀裂まで生まれていた。
(ライフルかよ……)
華奢な春にそんな腕力があるとは思えない。
やはり霊粒子が作用しているのだろう。
そして最後は瞬。
――なのだが、姿が見えない。
必死に目を凝らしてようやく、黒い影が空間を飛び回っているのを確認できる程度だった。
(何やってんのか全然わかんねぇ!!)
深は呆れ半分、感心半分で全体を見渡す。
「……人間業じゃねぇな」
もはや感想はそれしか出てこなかった。
圧倒されながらも、深は自分のトレーニングを始める。
――三時間後。
深が筋トレを終え、腕のストレッチを始めた頃には、隣室から感じる霊粒子の数がかなり減っていた。
ガラス越しに見ると、立っているメンバーはもう数人しかいない。
だが、その中心にいる長谷川だけは別だった。
今なお鋭く密度の高い霊粒子を放ち続けている。
「長谷川さんがすごいって……こういうことか」
ほぼ全員を相手に、長時間戦い続けたはずだ。
それなのに彼女は、まだ余裕の笑みすら浮かべている。
最後まで残っていた春でさえ、ついに膝をつき、その場から動かなくなった。
「……終わりかな?」
深がそう思って見ていると、長谷川が満足そうに全員へ指示を飛ばし始めた。
倒れた春の腕を支えながら、壁際へ連れていく。
そこには既に戦線離脱したメンバー達が並んでいた。
どうやら動けなくなった者から壁際へ避難するルールらしい。
(やっぱ終わりか。ちょっと行ってみるかな)
深が隣の訓練室へ入ると、長谷川が振り返り、笑顔で手招きした。
「俺?」
近づくと、長谷川が機嫌よさそうに口を開く。
「どうだった? みんなのトレーニング。すごいでしょ?」
多少汗はかいている。
だが呼吸はまるで乱れていない。
壁際で倒れている他のメンバー達と比べると、実力差は明らかだった。
「いや……びっくりしました。
人間の戦いじゃないっすよ、あれ」
さすがに“化け物みたい”とは口にしなかった。
ここで敵を作るのは危険すぎる。
「ふふ。でも、みんな三ヶ月でここまで成長したのよ?」
「すげぇな……俺には絶対無理そうですけど」
「午前中にあんなことやった人がよく言うわね。
どう? 試しにあなたもやってみる?」
(マジかよ……)
深は内心で顔をしかめる。
久々の筋トレで、既に腕はかなり重い。
だが同時に、長谷川の霊粒子を間近で体験してみたい気持ちもあった。
結局、深は頷く。
「いいですけど……俺、霊力のコントロールとか全然できないっすよ?
武器の使い方も分かんないし」
「いいのよ、そんなの。
好きに向かってきなさい」
長谷川は楽しそうに笑う。
「そうね。今日からこの時間、特別に一対一の乱取りにしましょうか。
――こっち来て」
案内されたのは、訓練室脇にある『武器倉庫』と書かれた部屋だった。
中へ入った瞬間、深は思わず目を輝かせる。
(おお……! みんなの武器、ここにあったのか!)
倉庫の中には様々な武器が並んでいた。
木刀。
弓。
木製の斧。
槍。
鎖付きの武器まである。
どうやら各自、自分の戦闘スタイルに合うものをここから持ち出しているらしい。
興味津々で見回していると、長谷川が後ろから声をかけた。
「まだ自分の武器、決めてないんでしょ?」
「……はい。全然」
「戦い方ってね、すぐ決まる人もいれば、色々試してやっと見つかる人もいるの。
もちろん、複数扱えた方が任務では有利だけどね」
「はぁ……」
適当に返事をしながら、深は倉庫内を歩き回る。
一分ほど悩んだ末、少し長めの木刀を手に取った。
「やっぱ基本はこれかな……」
弓なんて扱った経験はない。
礼子みたいな巨大武器など論外だ。
子供の頃、祖父と見た時代劇。
唯一、自分が戦う姿を想像できたのが木刀だった。
(たぶん……こんな感じで戦えばいいんだろ)
「これでいいっす」
「そう。じゃあ始めましょうか」
そうして二人は武器倉庫を出て、再び訓練室へ戻っていった。




