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Lesson86 『無理筋でも駄目元で頼んでみろ。』

さて、出立を決めたはいいがカネがない。

路銀の足しにと何か私物を売ろうとしたのだが、特に金目の物は持ってなかった。

仕方ないので気心の知れたポーターに泣きつく。



「で?

幾ら必要なんだ?」



『銀貨500枚もあれば、後は流れで。』



「え!?

オマエの立場なら銀貨どころか金貨で500だって余裕だろ?」



『ははは、恥ずかしながらカネに縁のない人生でして。』



「…馬鹿野郎が。

で?

今は銀貨何枚持ってるんだ?」



俺はポーターの前で銭袋を裏返す。



「え!?

これ、全部鉄貨じゃねーか!?

こんなモン持ってどうするんだ?」



『いや、ゴブリンに会ったら団子を売って貰えるので。』



「なあ。

冒険者関連でかなりの額が動いていただろ。

それなりのカネが集まってた筈だが?」



『アレは冒険者の宿に集まったカネであって、私の物ではありませんので。』



「…なるほど。

どうやら俺はオマエの主張を分かった気になっていただけのようだ。」



『?』



「路銀が必要なんだな?

それも正当性のあるカネが。」



『そりゃあ、正当性の無い資産を持ってる者は泥棒でしょう。』



「政府やギルドの屑共に聞かせてやりたいぜ。」



『…。』



「目的地はどこだ?」



『ブラックタウンです。』



「俺も若い頃に1度だけ行った事があるが、結構遠いぞ。

銀貨500枚じゃ…

いや、オマエのサバイバル能力なら何とでもなるか。」



『ええ、基本的に馬車泊・釣り・狩猟・採集で食い繋ごうかと。

無茶ぶりで恐縮なのですが、何とかして貰えませんか?』



「…分かった。

何とかしてやるから、今日はのんびりしておけ。」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



特にやる事もないので、鹿の皮剥ぎを手伝う。

戦争が始まり、周辺の野山が立ち入り禁止になったので鹿やモンスターの間引きが滞っていたからな。



「おう、冒険者共。

良かったじゃねえか、鹿が増えたならオマエらも食いっぱぐれがないだろう。」



フェンスの向こうから王国兵たちが茶々を入れて来る。

口ぶりからすると皮肉や厭味で言ってる訳ではなく、本心から祝福してくれているようだ。



『え?

鹿が増えたら収量が減りますよ?』



「え?

何で減るの?」



『いや、増えた鹿は田畑を荒らしますから。』



「ほえー、そういう仕組みなんだ。

俺達、都会の師団だから知らなかった。」




別に都会の連中が物を知らないのは勝手なのだが、権力って都会人が独占しているからな。

勘弁して欲しいよ。



『あ、はい。

ちなみに田舎では有名な話です。

獣害は飢饉の原因ランキング2位ですから。

百姓衆にとっては死活問題なんです。』



1位が何かって?

悪政に決まってるだろ。

一々言わせるなよ。



「ふーん、貴重な情報ありがとう。

早速上官に報告してくるよ。」



最初は一種のギャグかと思ったのだが、報告が伝言ゲーム式に上に伝播し、幾つかの立入り禁止令が解除される方向で動くとのこと。

駆除現場に居た俺としては呆れて物も言えないのだが、中央から見た地方の生産現場など、この程度の認識らしい。



「ウォーカーさん。

はい、報酬の銀貨12枚。

内訳は1匹3枚×4匹分ね。」



しばらく汗をかいて、皮剥ぎ作業のリーダーであるノリス老人に報告。

大手の養豚場で管理職まで務めた人物だけあって、仕事には厳しいが万事において手際が良い。



『ありがとうございます。

金欠なんで助かりました。』



「アンタはリーダーだろ?

ちゃんと貯金しとかなきゃダメだよー。

若者の手本になって貰わにゃ。」



『ははは、お手厳しい。』



受領書にサインして銀貨を受け取る。

へー、冒険者システムって便利だよな。

利用してみて初めて、人が集まる気持ちが分かったわ。

後腐れがないから、多少キツい作業や嫌な同僚にも我慢出来る。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「おうウォーカー。

励んどるオマエに差し入れだ。」



『ポーター社長。

どもです。』



皮剥ぎ作業で疲れたので喜び勇んで包み紙を開けるが。



『ウナドンかぁ…』



「差し入れにケチつけんな馬鹿。

聞くところによれば、鰻は滋養強壮に良い万能食材なんだぞ。」



そのコピーを考えさせたのは俺なので、あまり有難みを感じない。



『あー、でも疲れてる時に食うと結構旨いっすね。』



「ブラックタウンは遠い。

ちゃんとスタミナ付けとけ。」



『はーい。』



「それとな、ブラックタウンまでの荷運び仕事があればオマエに任せようと思ったんだが、あいにくそんな依頼は無かった。」



『まあ、国内の端から端ですものね。』



「スマンな。

運送屋としてのノウハウをオマエにこそ活かしてやりたかったんだが。

この季節にブラックタウン方面に向かうのはカウボーイくらいのものだ。」



『カウボーイが?

何で?』



「ここらで徴発した牛を王都に運ばせるんだとさ。

たっく、街の連中は俺達から全部奪っていきやがる。

それも当然の権利みたいな顔をしてな。」



『酷い話ですね。』



「だろ?」



『ところで、カウボーイ仕事って人手は足りてます?』



「オマエも地味に酷い男だよな。

まあいい。

聞いてみる。」



『どもです。』



ポーターが文字通り駆け回ってくれて、俺もカウボーイ・キャラバンに同行させて貰えることになった。

予備チャックワゴンという、ふんわりした立ち位置。



「オマエも用事があるんだろ?

だから、キャラバンのメインメンバーにはならない方が良いと考えてな。

あくまで助っ人ポジションだから、責任は薄い。

但し、給金も殆ど出ないから覚悟しておけよ。

帰りの路銀にすらならんぞ!」



問題無い。

俺が欲しいのは片道切符だけだ。



「王国の偉いさんがオマエに目を付けてるようだから気を付けろ。」



『え?

何で?』



「さあ、ゴブリンやドワーフや帝国とだけ仲が良いからじゃないか?」



『王国は私に仲良くしてくれなかったですから。』



「ばーか。

冒険者の宿のトップになったんだから、そのうち手のひらを返すよ。」



『もうトップは辞めたつもりなんですけど。』



「あっそ。

じゃあ更に半回転するだけの話だ。」



軽口を叩きながら、ポーターはカウボーイ団の親方に紹介してくれる。

荷主は御用商人(今の王様の御学友とのこと)。

無論、王都在住の資本家なのでカウボーイ業務は1ミリも知らない。

彼の任務は王都に徴発家畜を移送させることのみ。

実務は彼らカウボーイ団が務める。

無論、安い賃金で。



『初めまして、テッド・ウォーカーです。

未熟者ですが宜しくお願いします。(ペコリ)』



「…ええ、存じております。

あの?

本当に良いのですか?」



『え?

あ、はい。』



「分かりました。

こちらも比喩ではなく首が掛かってますので、色々頼らせて下さい。」



『あの、親方は貴方で私は単なる新米ですので、あまりお気遣いなく。』



「いえ、好きで遣ってます。

ポーター君とも長い付き合いですし。

彼らからの提案も極めて好ましいものでした。」



俺は横目でポーターを盗み見るが不愛想にそっぽを向かれる。

どうやら不要の気を回してくれたようなので、心中で感謝しておく。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「道中は気を付けろ。

じゃあな、カウボーイ。」



『色々申し訳ありませんでした。

結構無茶してくれたんじゃないですか?』



「…好きでやったことだ。」



『ありがとうございます。

この御恩は忘れません。』



「バカヤロウ!!

着せたことの無い奴に恩を着る資格はねえ!!」



『…そうかも知れません。』



「そこまでして、縁を作りたくなかったのか?」



『…流れ者ですから。

不要な絆は相手に負担を掛けてしまうだけかな、と。』



「オマエはもっと人に頼る事を覚えろ。」



『迷惑を掛けたくないんですよ。』



「馬鹿野郎!!

1人で抱え込まれる方が迷惑なんだよ。」



『はい。』



「いいか、世間はオマエが思っている以上に助けてくれるもんだ。

オマエがそうして来たように助けてくれる奴もいるんだよ。」



『…。』



「困ったら、周りに頼れ。

救いを求めろ。

無理筋でも駄目元で頼んでみろ。」



それが最後の会話。

ポーターはいつまでも城門から俺達の車列を見守っていた。




Lesson86 『無理筋でも駄目元で頼んでみろ。』

【名前】


テッド・ウォーカー



【職業】


カウボーイ



【スキル】


特殊清掃

食材鑑定

高速学習

ウナギ捕獲



【資産】


銀貨12枚

鉄貨59枚



【所持品】


折り畳み釣り竿

簡易テント

大型リュック

万能ナイフ

騎士用手袋

ハンモック        

荷馬車

ゴブリン漁網

ブンゴロド通行証

帝国通行証

身分証明証




【生産可能品目】


山椒粉

フカヒレ

ラー油

肉醤

ジャガイモ (少量)

ウナ肝

マーガリン

墓穴

鹿皮




【冒険者知識】


ホーンラビット

スライム

サンドシャーク

山椒

ドブネズミ

薬草概要

蝶類概要

風琴鳥

ドワーフ

蛇モグラ

廃棄物処理法

ウナギ

ジャム

バター

共和制

対ゴブリン史




【仲間】


ジェフリー・フィッシャー  (漁師)

キース・ポーター      (運送業)

レオナ・レオナール     (受付嬢)

グスタフ・グリルパルツァー (狩人)

トーマス・トンプソン    (養鶏指導員)

ヘレン・ヘイスティング   (冒険者)

ノリス・ノーチラス     (修理屋)

ハンス・ハックマン     (農夫)

マーガレット・リンドバーグ (油脂製品製造業)

グレッグ・グッドマン    (支部長)

テルマ・テイマー      (飼育員)

^7@7@:;++         (先導者)

ブルース・ボブソン     (漬物職人)

クロード・クーパー     (田舎支部長)

ケヴィン・コリンズ     (宿屋の入婿)

ジム・スウィーパー     (清掃員)

パット・グーニー      (雑用夫)

ヘルマン・マイヤー     (新人冒険者)



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



(あとがき)


最後までお読みいただきありがとうございました。

このLesson(教訓)が有意義であったと感じていただけましたら、冒険の道標としてページ下部の【☆☆☆☆☆】やブックマークで評価して下さると幸いです。


ご安全に。

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