Lesson83 『人間の価値は全て時価。』
実は水面下では話がついているらしい。
そう。
グリーンタウンから王国・帝国共に完全撤兵することが決まっている。
今は年末を目途に共同声明に向けての調整中。
これは両国が平和主義的だからという訳でもなんでもなく、双方共に戦線が広がり過ぎてグリーンタウンのような辺境に大軍を張り付けておく余裕がないだけの話。
俺もマイヤー大佐に具体的な数字を教わって愕然としたのだが、軍隊を遠征地に駐屯させるだけでも膨大な兵糧を消費する。
例えば両国がグリーンタウン郊外に布陣させている、たったの1個師団。
これだけでもアホみたいな量の食糧・水・飼葉を消費する。
無論、職業軍人には給料を支払わなければならないし、しかも戦時には戦時手当・遠征手当を上乗せさせなければならない。
今回の様な睨み合いは封建君主にとって最も不本意な形なのだ。
「ただ、国家には面子があるからね。
幾ら懐事情が苦しいからと言って、そのまま撤兵するのは難しいのだ。」
マイヤーは他人事のように話を続ける。
どことなく呑気に見えるのは、今回の戦争が終始帝国有利に推移したから。
王国側は頑として認めないが、この戦争は実質的に帝国の勝利なのだ。
「我が国は得る物が多少はあった。
例えば、キミ達が住むあの川沿い。
あそこまでが帝国版図と国際社会に認めさせたのはありがたい。」
『…。』
「安心して欲しい。
約束は守る。
住民にはあくまでブンゴロドと同様の恩典が与えられる。
内々では【現地人租借地】と呼称されているが、そのうち正式名称が発表されるだろう。」
まだ確定ではないのだが、瓢箪池から川沿いの村落までは【王国系の住民が住んでいる土地】というアヤフヤなものに落ち着くらしい。
グリーンタウンも含めて【両国の徴税権が及ばない地域】と条約に明記される見通しとのこと。
王国側が強硬に帝国軍(ブンゴロド族・ゴブリン種含む)の総撤兵を主張しており、かつ帝国皇帝も納得はしているので、広大な中立地帯が誕生する可能性は高い。
ただ、当然の話だが完全な無主の土地になる訳ではなく、罪人の通報などの諸義務を両国から課せられる流れになるであろうとの見込み。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
こうして両大国は和平に向けて動きだした。
動き出したタイミングで、俺の策が完全に効果を発揮し始めた。
やはりレッドタウンのような大都市からゴミ清掃員が消えたのは痛恨事だったらしい。
「あの、ウォーカーさん。
少し相談いいですか?」
『やあスウィーパーさん。
グリーンタウンには慣れましたか?』
「ええ、皆さんが良くして下さるので…
俺は快適です。」
男の名はジム・スウィーパー。
レッドタウンの清掃員である。
冒険者登録こそしていないが、何度かメンバーの仕事を手伝ってくれた事があり、俺と面識があった。
このジムを通じて、レッドタウンの清掃員を全員引き抜いたのだ。
「…他にもグリーンタウンに来たがってる奴が居るんですけど。
流石にこれ以上は迷惑ですよね?」
『ほう。
どんな人達ですか?』
「あ、いえ。
単なる荷運び人夫です。」
スウィーパー曰く、レッドタウンに大軍が駐屯した事で従来の住民が市街地から追い出された。
追い出された連中が半強制の形で軍に使役されているのだが、キツイ扱いを受けている。
何せ兵隊さんは人使いが荒い。
民間人相手に平然と暴力を振るう者も居るし、何より報酬が銀貨ではなく軍票で支払われる。
「軍票はちゃんと銀貨に換えられるのだから文句を言うな!」
兵隊さん達はそう言うが、軍票の引き換え期限や引き換え場所はかなり限られている。
例えばパープルタウンから派兵されている師団はパープルタウン軍区の軍票でしか支払ってくれない。
当然、パープル軍票はレッドタウン軍区では銀貨に換えて貰えない。
『私も軍の仕事を請け負ったことがあるのですが…
前線でリストラされて、給料も支払われず泣く泣く歩いて帰還しました。』
「うわー、ウォーカーさんも酷い目に遭ってるんですねぇ。」
その酷い目が切っ掛けで、このグリーンタウンに辿り着いたのだから人生というのは分からないものである。
「実は…
グリーンタウンに来たがってる連中は300人以上居るんですよ…」
『ほう、そんなに!?』
「雇われの大工とか左官とか…
そんな連中が泣く泣くレッドタウンでコキ使われてて…
グリーンタウンに仕事はあるか水面下で調べてるみたいなんです。」
『ああ、そういう事情なんですね。
でもまあ、仮に仕事がなくても私は歓迎しますよ。』
「え!?
そうなんですか?
念を押しておきますが、貴族でも資本家でもない単なる労働者ですよ?」
『ははは、私もこういう身分ですから…
労働者が悪いとは思いません。』
「あ、じゃあ申し訳ないですけど
仲間にその旨伝えますね。」
『ええ、私も皆が生活出来るように考えておきますね。』
「ありがとうございます!!」
大体、こういう話の流れで労働者を引き抜き続けている。
当たり前だが、労働者が100人単位で流出するレッドタウンの日常が正常に回る筈もなく、各所で数々のトラブルが頻出しているとのこと。
特にゴミと水回り。
王国軍が処理を命じていた労働者が全員失踪した。
レッドタウン市街では早くも異臭が立ち上り、兵卒と将校の対立が日に日に激化し始めているらしい。
そして先日、北方から参陣していたイーグル傭兵団が契約延長を否定する声明を発表した。
また王家への忠誠心が強いことで有名なブラフォード家も騎士団の帰還を軍部に申請中とのこと。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ねえ師匠。」
『んー?』
ここはすっかり冒険者の拠点となった胡桃亭。
入り婿のケヴィン・コリンズが妻に嘆願した甲斐があって、状況が落ち着くまでは冒険者がフリーハンドで宿泊出来る取り決め。
俺とトムは数日前から1階のドミトリー区画でマットに寝転がっている。
「俺、最近師匠の考えが少しずつ読めて来たんですけど。」
『うん、正解。』
「まだ何も言ってないっすよ。」
『でも正解。』
「個室を断ってドミトリーで雑魚寝してるって事は…
冒険者仲間を増やすつもりなんでしょ。
ひょっとして、生活自体が面接も兼ねてるんですか?」
参ったな。
ここまで見透かされるとは…
まだまだ俺に驕りがあったか…
「いや、多分殆どの人はそこまで考えてないですよ。」
『うん、そうか。』
「独断で申し訳ないんですけど。
【師匠は労働者の公平な扱いを望んでいる】
【だから自分だけが個室で暮らすことを避けている】
と周りには答えてますよ?」
聞けば、俺がドミトリーで寝泊まりしている事を不審に思う者も僅かにいて、そういう連中がトムに真意を尋ねているとのこと。
『えー、そうなの?
私、そんなこと望んでるの?』
「他に回答のし様がないじゃないですか。
それとも何ですか?
【師匠は新参を疑ってるから一緒に泊まって監視している】
とでも答えれば良かったんですか?」
本当にコイツは俺の根底を見抜いてるな。
そう、ぶっちゃければ監視である。
厳密に言えば、一緒に寝泊まりすることで不義理を行いにくい心理に誘導している。
これは労働者生活の長い俺が体感的に知っていることだ。
人間は面識の薄い相手は平気で裏切ることが出来る。
例えばバイト先で見掛けたことがある名も知らぬ同僚とかね。
だが、気心が知れてくるとそれが徐々に難しくなるのだ。
・夜通し女の好みで盛り上がった。
・掃除当番でしんどい部署を一緒に割り当てられた。
・飲み会の後片付けをした。
・ムカつく上司に共に割り当てられた。
・突発的な事件や事故に遭った。
・食卓を何度か囲んだ。
・共通の友達がいる事が分かった。
こういう体験を重ねれば重ねる程、相手は身内枠に入って来る。
そして身内を害するのは他人を殺すよりも難しい。
情誼においてもそうだし、実利においても【身内】という味方を減らす愚を誰も犯したくないからだ。
『やあやあ、ウッダーさんにパウエルさん。
グリーンタウンには慣れましたか?
あ、カーソンさん。
就寝マットがこっちに2枚余ってます!』
ドミトリーに居る時の俺は意識して皆の名を呼び、1人1人に話し掛けている。
そして当然、同じ宿所で眠り、同じ食事をして、同じ労働に勤しむ。
実は俺がやっているのは、ただこれだけの事なのだ。
無論、何も持たなかった頃の俺がこんな事をしても、そこまでの親しみは持たれなかった。
それどころか、軽侮してくる輩の方が多かったくらいなのだ。
だが今は違う。
テッド・ウォーカーは準名士的な存在として知れ渡り始めている。
少なくとも労働者達は、ブンゴロドやら帝国やらが俺のケツモチであると認識している。
だから、力関係が確定した今なら。
遜ることに特別な価値が生まれるのだ。
現実問題、俺と労働者達はもはや平等でもなんでもない。
寧ろ懸絶した立場にある。
だからこそ。
俺の提示する【平等とやら】には途方もない価値が伴っているし、一緒に寝泊まりしていれば、その価値に気付く知能があるか否か、かつ提供された価値に対して報いようとする義侠心を持ち合わせているか否かは嫌でも見える。
そして、ここで選抜した者は後方を守っているジェフの元に送り込んでいるのだ。
『じゃあ、トム君。
マイヤー大佐が放出レーションを支給して下さるそうだから、手伝ってくれる人を募っておいて。
重労働になると思うから、その旨は周知徹底しておいてね。』
「はい!!
直ちに!!!」
俺は愚者なれど、自分の売り時を間違える程の莫迦ではない。
それが、この戦争に勝利するのが帝国でも王国でもなく俺である理由。
Lesson83 『人間の価値は全て時価。』
【名前】
テッド・ウォーカー
【職業】
神聖教団代表
冒険者
フカヒレの人
ウナギの人
黒鍬者
【スキル】
特殊清掃
食材鑑定
高速学習
ウナギ捕獲
【資産】
銀貨9枚
鉄貨59枚
【所持品】
折り畳み釣り竿
簡易テント
大型リュック
万能ナイフ
ポートフォリオ
騎士用手袋
トラバサミ
ハンモック
業務用肉醤製造セット
荷馬車
討伐チップ (ウナギ)
ゴブリン漁網
ブンゴロド通行証
ドワーフ式の軍用テント
グリーン図書館蔵書 (2万2918冊)
帝国通行証
身分証明証
【生産可能品目】
山椒粉
フカヒレ
ラー油
肉醤
ジャガイモ (少量)
ウナ肝
マーガリン
墓穴
【ポートフォリオ】
ホーンラビット
スライム
サンドシャーク
猪
山椒
ドブネズミ
薬草概要
蝶類概要
風琴鳥
ドワーフ
蛇モグラ
廃棄物処理法
ウナギ
ジャム
バター
共和制
対ゴブリン史
【仲間】
ジェフリー・フィッシャー (漁師)
キース・ポーター (運送業)
レオナ・レオナール (受付嬢)
グスタフ・グリルパルツァー (狩人)
トーマス・トンプソン (バディ)
ヘレン・ヘイスティング (冒険者)
ノリス・ノーチラス (修理屋)
ハンス・ハックマン (農夫)
マーガレット・リンドバーグ (油脂製品製造業)
グレッグ・グッドマン (支部長)
テルマ・テイマー (飼育員)
^7@7@:;++ (先導者)
ブルース・ボブソン (漬物職人)
クロード・クーパー (田舎支部長)
ケヴィン・コリンズ (宿屋の入婿)
ジム・スウィーパー (清掃員)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
(あとがき)
最後までお読みいただきありがとうございました。
このLesson(教訓)が有意義であったと感じていただけましたら、冒険の道標としてページ下部の【☆☆☆☆☆】やブックマークで評価して下さると幸いです。
ご安全に。




