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Lesson76 『敵失に己の常道を被せよ。』

ウナギのカット作業に忙殺されていたので詳細はよく分からないのだが、グリーンタウン前でかなり大規模な戦闘が発生したとのこと。


大軍同士の激突で互いに被害甚大。

戦死者の数は測定不能と聞いた。



『あの、我々も黒鍬仕事しましょうか?』



「うーん、本当なら頼みたいのだが…

侍従長に禁止されたのだろう?」



『あ、はい。

宮廷食材を扱う業者が黒鍬仕事に携わるのは、皇帝陛下の権威を損ないかねないと。』



「うむ、そうだな。

特にフカヒレのような主食材を扱うキミ達が死穢に触れるのは…

世論も納得しないだろうなぁ。」



結局、冒険者は黒鍬仕事に派遣しない事に決まる。

その日は特にやる事も無かったので、大根村で猪肉鍋を皆で楽しむ。

懇意のゴブリンが雉を持って来てくれたので、串焼きもメニューに追加。

久し振りに和気藹々とした雰囲気で盛り上がった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



事態が動き出したのはその翌々朝からである。

皆で干し肉を作っている最中にケーニッヒ卿が来訪したのである。



『お疲れ様です。

こんな何もない所にようこそ。』



「あ、ゴメン。

村落内への立ち入りは厳禁されてるから。

入り口で話させて。」



言いながらも俊敏に眼球を動かして村の様子を観察している辺り、この男もしっかり官僚なのだろう。



「急ぎなので挨拶は抜きね。

結論から言うと、戦死者の遺骸を処理出来ずに困っている。」



『あ、そうなんすね。

人手不足ですか?』



「というよりねえ。

両軍の布陣位置が近すぎるんだよ。

で、当然遺骸はその中央に所属入り乱れて重なり合っている。」



『なるほど。

片付けたくても人手を出せないと。』



「こういう時って、兵卒を動員して片づけさせるんだけど。

彼我の陣地がこうも近いと迂闊に人手を出せないんだよ。

そのまま偶発戦闘が始まっちゃうからね。」



『え、ええ。

確かに。』



先日の戦闘だが、どうやら大軍同士が真正面から激突する大混戦だったらしい。

数に厳密な事で有名な帝国軍ですらまだ正確な死傷者数をカウント出来ていないというから、想像を絶する規模なのだろう。

ケーニッヒが述べた通り、未だに両軍がかなり近い位置で布陣している為に負傷者の救援と戦死者の回収が困難な状況に陥っているとのこと。

(迂闊に動くと偶発戦闘が発生しかねないほどに両軍が接近している。)



「我が国にせよ王国にせよ属国兵・属州兵を大量に前線投入しちゃったからねえ。

早急に救援埋葬しなければ宗主国としての信頼を失いかねないんだよ。」



『なるほどー。』



現在、王国は合衆国&連邦に帝国は首長国&共和国にそれぞれ背後を脅かされている。

この苦しい状況で属国に離反されては命取りになりかねない為、人道上の観点を口実に緊急停戦を呼びかけあっているとのこと。

そりゃあね、属国兵からしたら自分達に関係の無い宗主国同士の戦争に駆り出されて、負傷者の救援すら行われないなんて事態に陥れば、不満は高まるよね。



「何とか停戦は成立したんだけど…

救援隊の投入条件で揉めていてね。

言うまでもないことだが、我々としては王国兵に救援を委ねたくないし、先方も思いは同様だ。

というより、敵味方の死体が入り乱れていて…

分かるでしょ、そういうの。」



『まあ、あまり好ましくないですね。』



「それで皇帝陛下がキミを指名した。」



『え?

私ですか?』



「仕方ないだろー。

王国さんが我が軍の立ち入りに激しく難色を示しているんだから。」



『まあ、嫌でしょうね。』



「我々にしたって同胞の遺骸を王国兵には触って欲しくない。

何より彼らは埋葬や供養と称して火事場泥棒をした前科があるからね。

ほら、シュタットフェルト戦役の話。」



『あ、すみません。

私は無学なので。』



「ああ、ゴメンゴメン。

30年ほど前にそういう事件があったんだよ。

停戦協定に偽装した死体漁りっていうの?

いや、どこの国も多少はそういう事あるんだけどさ。

王国さんは組織ぐるみでやるから…

信用出来ないんだよね。

ゴメン、話しが逸れた。

とりあえずキミに頼めないかな。

っていうか、王国側とその条件で合意しちゃった。」



『えー、そんな急に言われても困りますよ。』



「ゴメンゴメン。

でも国際条約で決まっちゃったことだから。

我が国も王国も首長国も共和国も合衆国も連邦も、各属国代表も。

全員がキミ達に戦場整理させることで合意しちゃたから。」



『ぐぬぬ。』



なーにがゴメンだ。

理由を付けて断るつもりだったが、流石に全世界には逆らえんわ。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



地獄絵図とはよく言ったものである。

見渡す限りの屍山血河、そして立ち込める死臭。

俺を含めて全員が嘔吐してしまう。



「じゃあ、早速始めて。」



『あ、はい。』



両軍の兵士が厳しい表情で俺達冒険者の救助作業を監視している。

曰く、俺達の様な卑賤は目を離すと泥棒をするに決まっているので見張りが必要ならしい。

…いや、その監視リソースを救助に注げよ。

俺は納得出来ない。

両軍共に動ける兵士は大勢残っているのだ。

にも関わらず、そいつら腕を組んだまま俺達をまるで犯罪者でもみるような目で睨み付けている。

なーんか、この戦場って世界の縮図だよなー。



「ウォーカーさん!

生存者だ!! 薬を頼む!!」



『了解!

所属は!?』



「王国麾下のドルンガ族と名乗っている!!」



『みんな、担架で運ぶぞ!!』



「「「応ッ!」」」



生存者はそこそこ居るので、皆で掘り起こして所属陣営まで運ぶ。

こに辺は王国の部隊が壊滅した地点なのか王国兵が多い。



『王国陣営開けて下さい。

負傷者を連れて来ました。』



「おお、でかした!!


…何だ、属州民ではないか。」



『は、はい?』



「救助するなら優先順位を考えたまえよ。」



『…と仰いますと。』



「決まっているだろう。

まずは我が国の将校を最優先するべきである。」



『あ、いや。

もう皆さんの御遺骸が敵味方折り重なっておりまして。』



「そんな事は見れば分かる。

それでも臨機応変するのがキサマらの仕事だろうが。

属州民なんぞを助けてどうするっていうんだ。」



階級章から見て師団長クラスだろう。

好き放題言いやがる。

問題はその背後で整列している連中が恐ろしい形相で師団長氏を睨み付けていることだ。

軍服が異なるということは、恐らくは属国軍・属州軍の将校であろう。

どうしてそういう無神経な表現するかなあ。

俺は無用の恨みを買うのが怖かったので無難に答えておく。



『出来るだけ閣下の御意に沿いますが、軍人さんは皆偉い人達です。

誰に対しても粗相のない様に振舞いたいと心掛けます。』



師団長氏は「そりゃあ黒鍬から見ればみんな偉いだろうさ。」と毒づいて去って行ってしまう。

俺が作業に戻ろうとすると1人の属国将校がさり気なく俺に近づいた。



「キミ、帝国の占領統治はどんな感じかね?」



『え?

感じといいますと?』



「圧政か寛治かという話さ。」



『いやー、どうなんでしょう。

あー、でも兵隊さんが村に立ち入らないように厳命されてたり…

割ときっちりとした印象ですね。』



「…それは皇帝が命令しているの?」



『うーん、皇帝陛下も100%我を通せる立場ではなさそうですが…

陛下の御意向も多少は反映されているように見えますね。』



「…その口ぶり、皇帝を直接みたのか?」



『いえ、たまたまお声を何度か掛けて下さって。

気さくで真面目な方でした。』



属国将校氏は素早く左右を振り向いてから俺に耳打ちする。



「…何とか伝えてくれ。

ヤップ藩国は好きで王国軍に従軍している訳ではない。」



『え?』



「これは私の博打だ。

勝たせよとまでは言わんが、サイコロを届けてくれると助かるな。」



『…はい、何となく文脈は理解しました。』



「スマン。

確かウォーカー君だったな?

借りは返す。」



背中でそう言いながら属国将校氏は立ち去ってしまった。

そりゃあね、好きで戦争している奴の方が少ないよね。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



そんな事があったので、俺は意識して両陣営の属国兵を優先して救命した。

口には出さなかったが意図は伝わったのだろう。

冒険者達もさり気なく俺に合わせてくれた。



『すみませーん。

追加の負傷者です。

自力歩行は難しいようですが、意識はハッキリとされておられます。

ノルディ島民兵団のイザーク上等兵です。』



王国将校は興味なさげに一瞥しただけで向こうへ行ってしまった。

代わりにノルディ島の代表が駆けて来る。



「おお!!

我が島民を救助してくれてありがとう!!

心からの礼を述べさせてくれ!!」



『いえ、人間として当然のことをしているまでですよ。』



若きノルディ島主は俺に向かって真摯に頷いた後、拳を握り締めて王国将校達を睨み付ける。

流石に鈍感な俺でも状況は理解出来た。

なので、ちょとした賭けに出る。



『…島主様。』



「ん? 

何だね?」



『何かお困りのことがあれば気軽にお申しつけ下さい。』



普通なら一笑に付される場面だが、若き島主は真っ直ぐに俺を見据えている。



「見ての通り困っている。

我が同胞が51人も死んだ。

島の歴史始まって以来の悲劇だ。

残された家族にどんな言葉を掛けていいのか分からない。」



『お悔やみ申し上げます。』



「…帝国は戦争継続を望んでいるのか?」



『私は無学なので難しいことは分かりませんが…

グリーンタウン周辺を緩衝帯にしたいと皇帝陛下が仰ってました。』



「…そうだよな。

地政学的にも普通はそう考えるよな。」



『…。』



「キミはどうだ?」



『え?』



「見たところグリーンタウンの人だろ?

王国に復帰したい?

それとも帝国に編入されたい?」



『…こういう事を言うと怒られるかもですけど。

税金が安い方でお願いしたいですわ。』



「いや、健全な答えだよ。」



その答えが気に入ったのか、島主は数分間の雑談に応じてくれた。

そして無造作に懐から印章を取り出して俺に握らせる。



『え?』



「ノルディ島の23代目島主。

トーマス・ノルディ。

軍船は小早を100隻、楼船を3隻保有している。

ブルータウンになら寄港した経験がある。」



それだけ言うとノルディ島主は一文字に口を閉じて深々と一礼して去って行った。

世界は広いな。

彼の方が俺なんかより遥かに命を懸けて冒険をしている。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



ヤップ藩国とノルディ島に加えて、ハイランド市国とも似た様な遣り取りがあった。

帝国兵の重傷者を搬送する際にケーニッヒ卿に御注進。

内容が内容だけに侍従長の帷幕に通され、更に皇帝への直接報告を命じられる。



「本当にそう申したのか!?」



『はい。

ただ、私も彼らと面識がないので本当に代表者であるのかは確認出来ませんでした。

王国側の偽情報作戦なのかも知れませんし。』



「いや、そんな精緻な連中なら私はこんなに苦労しない。」



『こちらが島主を名乗る人物から託された印章です。

彼は名乗っただけですし、この印章も…』



「でもキミは策では無く、本物の島主の本音だと確信しているのだろう?」



『まあ、流石に…

あれだけ死者が出たら、不満も収まらないでしょう。

大体、属国の人からしたら宗主国が勝手に始めた戦争に連れて来られた訳ですし。』



「耳が痛いな。」



『あ、すみません。

皇帝陛下に当てつけた訳ではないですが。』



「いや、これも何かの機会だ。

真摯に受け止めよう。

勿論、武略の一環としても活用するが。」



その夜。

皇帝はグリーンタウン城内の全ての将兵に対して演説を行った。

犠牲者への哀悼と負傷者への労い、そして属国人に対する補償の約束だった。


なるほど。

戦争というのは、こうやって勝つものなのか。

今まで俺は兵士をかき集めてチャンバラで勝った方が戦勝国になるものだと思っていた。

なるほどー。

流石は大国の元首である。

感心させられるな。


闘争に勝つコツはシンプルだ。

まずは敵の失点を発見すること。

そして何食わぬ顔で如何に自分が敵とは異なるかをPRする。

その際、突飛な表明で人目を惹こうとする必要はない。

世間という物は、まず健全な常識を求めているのだから。

それが欠如していると思われた時点で人は離れてしまう。

まずは、己が常道を歩む者であると世間に訴え示し続けることが肝要。

これを繰り返すうちに味方が増えて、徐々に有利になっていくのだ。


ふむふむ、なるほどなるほど。

勿論、戦争というのは複雑怪奇な現象であり、これだけで勝てる訳ではないのだろうが…

だが、勝利への原理は掴めた。



『うん、これはいいな。

俺個人でも実践可能だ。』



「師匠、いきなりどうしたんですか?」



『ああ、すまないな。

独り言だよ。』



「そうですか、かなりお疲れのようですから心配です。

少しは休憩して下さい。」



『…。』



「師匠?」



ふむ、休憩か。

使えるな。



『トム君。

皆に伝えてくれ。』



「は、はい!」



『両軍共に休憩中であるが、私一人は作業を続けようと思う。』



「えー!

もう真っ暗ですよ!」



『うん、確かに夜間作業は大変だ。

だが、救援を待つ兵隊さんはもっと大変だ。

きっと傷の痛みに苦しんでいることだろう。』



「いや、まあ、それはそうですけど。

だって俺達、働きっぱなしですよ。」



『うん、だから皆に通達して欲しい。

今夜は休憩に専念してくれと。』



「それは、師匠おひとりで作業されるということですか。」



『…伝えてくれ。

私は困っている人や苦しんでいる人が救われるように持って行きたいだけだ。

無論、その原因を作るような愚かな真似もしない。』



「いや、その発言は、流石に。」



『じゃ、行って来る。』



「その発言は流石にマズいので勝手にオブラートに包みますよ!!」



『ふふふ、いつもゴメンね。』



俺は両国の許諾を得た上で深夜の救助作業に取り組む。

少なくない数の冒険者が助力を申し出て、救助隊は総勢100名ほどに膨れ上がった。

ここまでは計算内。


やがて、両陣営から軍服を脱ぎ捨てた兵士達が救助隊への助力を申し出る。

暗くてよく見えないが、訛からして地方から連れて来られた者が大半だった。

流石にこちらは計算外。


結局、決戦から時間も経っていたこともあり、その夜発見出来た生存者は5名のみ。

だが、俺の武略にはこれだけで十分だった。





Lesson76 『敵失に己の常道を被せよ。』

【名前】


テッド・ウォーカー



【職業】


神聖教団信者総代

フカヒレの人

黒鍬者

冒険者

ウナギの人



【スキル】


食材鑑定

高速学習

ウナギ捕獲



【資産】


銀貨28枚

鉄貨62枚



【所持品】


折り畳み釣り竿

簡易テント

大型リュック

万能ナイフ

ポートフォリオ

騎士用手袋

トラバサミ

ハンモック

業務用肉醤製造セット

荷馬車

討伐チップ (ウナギ)

ゴブリン漁網

ブンゴロド通行証

ドワーフ式の軍用テント

グリーン図書館蔵書 (2万2918冊)

帝国通行証



【生産可能品目】


山椒粉

フカヒレ

ラー油

肉醤

ジャガイモ (少量)

ウナ肝

マーガリン

墓穴



【ポートフォリオ】


ホーンラビット

スライム

サンドシャーク

山椒

ドブネズミ

薬草概要

蝶類概要

風琴鳥

ドワーフ

蛇モグラ

廃棄物処理法

ウナギ

ジャム

バター

共和制




【仲間】


リコ・クラーク       (司書)

ジェフリー・フィッシャー  (漁師)

キース・ポーター      (運送業)

レオナ・レオナール     (受付嬢)

グスタフ・グリルパルツァー (狩人)

トーマス・トンプソン    (バディ)

ヘレン・ヘイスティング   (冒険者)

ノリス・ノーチラス     (修理屋)

ハンス・ハックマン     (農夫)

マーガレット・リンドバーグ (油脂製品製造業)

グレッグ・グッドマン    (支部長)

テルマ・テイマー      (飼育員)

^7@7@:;++         (先導者)

ブルース・ボブソン     (漬物職人)

クロード・クーパー     (田舎支部長)

ケヴィン・コリンズ     (宿屋の入婿)



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



(あとがき)


最後までお読みいただきありがとうございました。

このLesson(教訓)が有意義であったと感じていただけましたら、冒険の道標としてページ下部の【☆☆☆☆☆】やブックマークで評価して下さると幸いです。


ご安全に。

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