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Lesson72 『官命は全てを正当化する。』

丸2日ほど河を流れる遺骸を埋葬し続けた。

最初冷淡だった帝国兵達も、俺達の埋葬対象に帝国人が含まれている事を知ると態度が目に見えて軟化した。

石や罵倒が投げられたのは初日だけだった。


大佐は監視と称して俺達の立場を守り続けている。

俺達に攻撃的な態度を取る部下が現れる度に滾々と彼なりの道理を解いた。

人道がどうの、霊魂がどうの、統治がどうの、信義がどうの。


心底愚かな男である。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「まずは礼を述べる。

キミの達おかげで同胞の…

いや、この戦役で散っていた全ての英霊の尊厳が守られた。」



『…恐縮です。』



相変わらず大佐は表情も感情も押し殺している。

きっとこの男はそうやって何十年も軍務を遂行して来たのだろう。



《ヘルマン・マイヤー陸軍大佐》



今回のグリーンタウン攻防戦も含めて数え切れない武勲を挙げて来た男。

彼の部下曰く、実務経験が豊富な上に出身身分が低いので、軍内では貧乏籤を押し付けられがちとのこと。

(黒鍬者の調達とかね。)



「申し訳ないがキミの身元を調べさせて貰った。」



『…。』



「冒険者。」



『生計の為にそう名乗ってますが…

本質は浮浪者です。』



「…いや、逆だな。」



『解釈は皆様それぞれにお任せしております。』



「こういう人手を集める新商売というのは往々にしてギャングの隠れ蓑であるケースが常だ。」



『何度か同様の御指摘を賜った経験があります。』



「我々も相当念入りに調査した。

解放者たる我が軍が現地のギャングと結託するなどあってはならない事だからな。」



『ええ。』



「諜報部も胸を撫で下ろしていたよ。

厳重な照会の結果、キミが如何なるギャング勢力とも無縁であることが立証された。

潔白だ。」



『ありがとうございます。』



「私も資料に目を通したが、本当に清廉潔白な立ち振る舞いだ。

それも不自然なほどに反社会的勢力との関係性が見られない。」



『…。』



「…完全なる純白は闇よりも昏い。」



『…。』



「安心して欲しい。

捻くれ者は私だけのようだから。」



こういう下らない男だ。

俺がマイヤーの上官なら、絶対に部隊を預けない。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



さて、本題に入ろう。

まずは戦況から。



「テッド。

あくまで兵士達の雑談を総合しての情報だぞ。」



『うん、聞かせて欲しい。』



ジェフの情報収集策は極めてシンプル。

冒険者の中で一番耳の良いピーター・ギャリットを兵士の輪の近くで作業させていたのだ。


このギャリット氏(52歳)は中洲の村の農夫。

父から継いだ芋畑と母方から継いだ木皿製造業を淡々とこなすだけの人生だった。

特に目立った存在では無かったし、本人も《自分は何の取り得もない小者》と卑下することが多かった。


ただ、冒険者依頼を請けるうちに、鳥類・小動物の発見が得意である事で評判になり、やがて聴力が人より遥かに優れている事が証明された。


小心なノンポリをこういう局面に投入するのは心苦しいが、どう考えても今が勝負所だった。

ギャリット氏には銀貨を多く握らせ、万が一のことがあっても老母の面倒を見る約束をした上で盗み聞きに専念して貰う。



「帝国軍は撤兵したがっている。」



『まさか。

グリーンタウンの占拠なんて彼らの悲願だろう。』



「あくまで兵士の噂だけどな。

共和国と首長国が対帝国の軍事同盟を締結したみたいなんだ。」



『…まあ、あの2国はずっと帝国と燻ってるけど。

そうなの?』



「分からん。

ただ帝国の兵士達は予定していた増援が中止になった事を怯えている。」



このグリーンタウンを陥落させたのは帝国第6軍団という対王国戦の為に編成された軍団なのだが、総勢が3万しか居ない。

1個軍団で戦線を維持出来る訳がないので、第1軍団という皇帝直轄の最精鋭軍団と第9軍団という遊撃特化の軍団が合流する予定だった。

第6軍団の将兵達も王国の反撃に怯えながら、増援を心待ちにしていた。

それがどうやら来ないらしいのだ。

こちらに向かっていた第1も第9も大慌てで反転して帝都に戻ったらしい。



『3万でアウェイを守れるものなの?』



「いや、無理だろ。

俺も素人だからよく分らんけど…

王国の主力はレッドタウンに集まってるんだろ?

最低でも5万は集結している計算になるぞ。」



俺はマイヤー大佐と部隊付参謀の会話を何度か耳にしたが、帝国軍はこの辺りの地理をあまり把握出来てない。

一通りの資料は頭に叩き込んでいるようだが、王都や主要街道の位置を微妙に誤認しているので、この付近で広域的な作戦を遂行出来るとは思えない。

もしも王国軍が5万で3万の帝国軍を攻撃したら、多分ワンサイドゲームになるんじゃないかな。

早々にこの付近は王国が奪還するだろう。



『奪還したら…

七公三民になるかなあ?』



「なるだろ。

今回の被害額は洒落にならないからな。

役人共は俺達で元を取ろうとしてくる。」



『じゃあ、帝国の税率はどうなるかな。』



「アイツらだって本音は七公以上ブン獲りたいに決まってる。」



『でも、それが出来ないと。』



「ギャリットさんの聞いた話を総合すると帝国もギリギリみたいだからな。

これ以上、摩擦を増やす余力が残ってないみたいだ。

兵士達も上官から略奪禁止を厳命されてるみたいだぞ。」



『え?

そうなの?』



「グリーンタウンでは民家に盗みに入った兵士が斬首されたらしい。」



『あ、結構真面目なんだな。

帝国軍って、もっと粗暴なイメージがあった。』



「いや、軍規に関しては王国よりも厳しいよ。

命令が無いと殺さないけど、命令されたら徹底的に殺し尽くすイメージ。」



…怖。



『話を戻すぞ。

最悪の場合、グリーンタウンがすぐに奪還される可能性もあるんだな?』



「俺はその可能性が高いと思う。」



参ったなー。

年貢を有耶無耶に出来ないじゃないか。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



別に俺は村長でも何でもないのだが、占領部隊の布告書を受領する係に指名されてしまった。

グリーンタウンから近い馬借村の作業小屋に寝泊まりしながら、帝国側の通達にペコペコ頭を下げる羽目になる。

布告には重複もあるが、概ね下記の通り。



・村人は農作業に戻るように。

・馬車の使用は許すが騎乗は不許可。

・村外に出る時は監視部隊の許可を取ること。

・3人以上で集まる事は禁止。

・王国旗の掲揚は絶対禁止、発見次第即座に斬首刑とする。



だ、そうだ。

口ぶりから推測するに、寛容に振舞っているつもりらしい。



『あのー、監視員さん。』



「何だ!?」



『3人以上というのは…

3人で話すのはいいのですか?

駄目なんですか?』



「…隊長に聞いてくる。

少し待ってろ!!」



『あ、はい。』



(90分後)



「3人は問題ない!

但し、4人は許さんぞ!!」



『あ、はい。』



万事、こんな感じ。

じゃあ、四人家族はどうするんだよと思うが、屋内なら何人居ても大丈夫だそうだ。

謎ルールだが、現場の帝国兵達も試行錯誤している気配があるので、占領というのはされる方もする方も大変な作業なのだろう。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



川での埋葬が一段落すると、今度はグリーンタウン城内に呼び出される。

落城時に逃げ遅れた民間人の遺骸が大量に満ち溢れているので何とかせよ、とのこと。

今度は50名を引率した。



『マイヤー大佐。

本日の作業が完了しました。』



「ああ、ご苦労。

主計部には話を通している。

日当を受け取るように。」



『ありがとうございます。』



「キミは50人も人手を集める事が出来るんだな。

皆が驚いていたよ。」



『たまたま人に恵まれただけです。』



「違う。

50人も引率出来る癖に一番手を動かしている事に驚いていたのだ。」



『…。』



「…ピンハネもしてないそうだな。」



『自分がそれで泣かされてきましたからね。』



「日頃は1割だけマージンを取っている。

この情報は事実?」



『相違ありません。』



「そして現在は銀貨1枚たりともマージンを取っていない。

そうだな?」



『…非常時ですから。』



「…。」



『…。』



「退室を許可する。

何か望みあれば申し出てくれ。」



『遺品を遺族の元に送る許可を下さい。』



「…分かった。

週明けには停戦協議が開始される。

その際に議題に上げる事を約束しよう。」



『ありがとうございます。』



「…ウォーカー君。」



『はい。』



「望みはあるか?」



『今、遺品の件を聞き入れて下さったばかりです。』



「それは公益だ。

私はキミ個人の望みを聞いている。」



『…戦争の無い平和な時代が到来すれば良いと考えております。』



「そうか。

叶えてやりたいのは山々だが、私は一介の軍人に過ぎない。

もう少しささやかな望みはあるか?」



『…このグリーン州が戦火とは完全に無縁になる事を望んでます。』



「ささやかとは程遠いな。

具体的過ぎる。

まるで自治権獲得を望んでいるように解釈されてしまうぞ。」



『自治権ですか?』



「私は政治や歴史に疎いから何も分からないが…

共和国はそのように建国されたらしいな。」



『…。』



「…。」



俺は無言で一礼して退室する。

この異常者め。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



たまたま俺は大佐と話す機会に恵まれたが、実務は尉官やら下士官やらの指示を受ける。

言うまでもなく、無茶振りをしてくる者も多い。

当然、相手は占領軍なので逆らえない。

なので、それを逆手に取る事を決めた。



「何だ黒鍬。」



『すみません。

死体の片づけだけで良いと伺っているのですが…』



「おいおい。

黒鍬の分際で我々に意見するのか?

瓦礫の撤去もキサマらの仕事だ。

日当はちゃんと恵んでやっているだろう。

つべこべ言わずに邪魔な瓦礫を搬出せよ!」



『畏まりました。

ではロバ馬車をグリーンタウンに入れても宜しいですか?』



「うむ。

査証を渡す。

何台くらい集められる?」



『10台くらいでしたら、何とか…』



「うむ、それでは10枚だ。

ちゃんと御者台に掲示するんだぞ!」



『畏まりました。』



「よーし、それじゃあ早速作業を開始せよ。

死体処理もサボるんじゃないぞ!」



これは俺の勘だが、瓦礫撤去は本来この小隊が命じられていた作業なのだろう。

そしてそれを立場の弱い俺達に押し付けたのだ。

好ましくない振舞ではあると思うのだが、焼け落ちた建物があまりに多いしな…

(俺の行きつけの食堂が焼け落ちていたのは本当に哀しかった。)

それに小隊にしたって汗を掻いて撤去作業に邁進している。

俺達に声を掛けたのも駄目元なのかも知れないな。



「で、ウォーカーよ。

俺様の馬車を借りたいって?」



『ポーター社長。

報酬は弾みます。

ちょっとヤバい橋を渡ってくれませんか?』



「ふふっ、オメーと会ってからずっとヤバいよww」



『スミマセンw』



「報酬は前金で払え。

最近のオマエ、いつ殺されても文句は言えない行動が増えてるからな。」



『銀貨3000枚程度であれば予算から割けます。

そのカネでレッドタウンまで避難して貰っても構いません。』



「ばーか。

ポーター運送㈲の日当には上限規定があるんだよww」



ポーターは俺から銀貨5枚をひったくると、こちらの指定通りに荷台を空にしてくれた。



「で、俺は何をすればいい。」



『他の車両が撤去作業をしている間に、運び出したい物がありまして…』



事情を察したのかは不明だが、ポーターは無言で一番の健馬を荷台に繋いで手綱を取った。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「停まれ!!

この先は封鎖区画だ。」



『あ、すみません。

こっちへの道路を整備するように指示を受けまして。』



「…ひょっとしてライナー曹長の指示?」



『瓦礫ですよね?』



「…まあな。

俺達だけじゃ片付けきれない。

偉い人達はオマエらに黒鍬仕事以外はさせないつもりらしいが…

少しだけ男気を見せて欲しい。

それも他言無用でな。」



『ええ、男気として馬車10台を引率して来ました。』



「おお!!

そりゃ助かる!!


…俺達も立場上公式記録には残してやれんのだが。

倒れてる街路樹だけでもなんとかしてくれんか。」



『承知しました。

この作業に関しては他言しません。

あくまで我々が携わっていたのは黒鍬仕事だけです。』



「…助かるよ。」



彼なりの詫びのつもりなのか無言でレーションをくれた。

ポーターと半分こして封鎖区画を進む。



「懐かしいなぁ。

ついこの間、オマエとリコちゃんを送ったばかりなのになあ。」



『ええ、まさかこんな日が来るなんてね。』



10台のうち3台をこの作業に投入した。

冒険者の中でも口が堅く力仕事に慣れている者を選抜した。



『それでは皆さん!

帝国軍の要請に従い瓦礫撤去作業を開始します!!』



「「「「応ッ!!」」」」



俺が指さしたのは勝手知ったるグリーン図書館。

助走を付けて補助扉を蹴破った。



『全ての瓦礫を瓢箪池に後送します!!』



グリーン図書館の蔵書数は2万2千冊。

俺が有効活用する事にした。

これまでそうであったように。




Lesson72 『官命は全てを正当化する。』

【名前】


テッド・ウォーカー



【職業】


黒鍬者

冒険者

ウナギの人



【スキル】


食材鑑定

高速学習

ウナギ捕獲



【資産】


銀貨28枚

鉄貨62枚



【所持品】


折り畳み釣り竿

簡易テント

大型リュック

万能ナイフ

ポートフォリオ

騎士用手袋

トラバサミ

ハンモック

業務用肉醤製造セット

荷馬車

討伐チップ (ウナギ)

ゴブリン漁網

ブンゴロド通行証

ドワーフ式の軍用テント

グリーン図書館蔵書 (2万2918冊)



【生産可能品目】


山椒粉

フカヒレ

ラー油

肉醤

ジャガイモ (少量)

ウナ肝

マーガリン

墓穴



【ポートフォリオ】


ホーンラビット

スライム

サンドシャーク

山椒

ドブネズミ

薬草概要

蝶類概要

風琴鳥

ドワーフ

蛇モグラ

廃棄物処理法

ウナギ

ジャム

バター

共和制




【仲間】


リコ・クラーク       (司書)

ジェフリー・フィッシャー  (漁師)

キース・ポーター      (運送業)

レオナ・レオナール     (受付嬢)

グスタフ・グリルパルツァー (狩人)

トーマス・トンプソン    (バディ)

ヘレン・ヘイスティング   (冒険者)

ノリス・ノーチラス     (修理屋)

ハンス・ハックマン     (農夫)

マーガレット・リンドバーグ (油脂製品製造業)

グレッグ・グッドマン    (支部長)

テルマ・テイマー      (飼育員)

^7@7@:;++         (先導者)

ブルース・ボブソン     (漬物職人)

クロード・クーパー     (田舎支部長)



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



(あとがき)


最後までお読みいただきありがとうございました。

このLesson(教訓)が有意義であったと感じていただけましたら、冒険の道標としてページ下部の【☆☆☆☆☆】やブックマークで評価して下さると幸いです。


ご安全に。

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― 新着の感想 ―
おそらくは「余計な事はさせない」目的で黒鍬仕事のみさせるのが上層部の目的だと思いますが、これが発覚した際に軍隊という組織は誰を処罰するのかな、本来あるべき理屈と現実での結果を知りたいと思った今話
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