Lesson71 『カモの琴線をピンポイントで突け。』
帝国が立てた制札は詩的に長々と綴られていたが、要約すれば以下の通り。
【年貢率は帝国本土と同率にしてやるから感謝せよ。】
帝国は六公四民。
王国同様に七公三民への移行が噂されている。
要するに【七公三民を受け入れよ】という意味だ。
別に驚いてやるつもりはない。
所詮国家というのは極限まで肥大化した盗賊であり、戦争とは盗賊同士の縄張り争いに過ぎないからだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
河原のムシロに俺が並べたのは大半が王国兵の死骸。
1割弱が帝国兵の死骸。
「まずは同胞の魂を救済してくれた事に礼を述べる。」
将校は淡々と話す。
感情のコントロールに長けているのか、その喜怒哀楽は察する事が出来ない。
或いは、長い軍隊生活というのは心を摩耗し尽くしてしまうのかも知れない。
全ての奴隷がそうであるように。
『では、帝国の皆さんの亡骸を本国へ…』
「いや。」
『?』
「全ての英霊は敵味方の区別なく平等に鎮魂されるべきだ。」
『…。』
「…。」
軍隊語の翻訳に脳が数秒を費やした。
成る程。
【戦死者の遺骸を本国まで移送するつもりはないので、ここで王国兵と共に葬れ】
そういう訳だ。
俺は帝国側のドックタグを纏めて回収し、三方に乗せて将校が腰掛ける大岩に置いた。
将校は軍刀に両手を重ねたまま、それを一瞥する。
「…。」
『…。』
俺と将校は無言で王国兵の遺骸に目を移した。
王国側のタグはどうする?
微かに将校が喉の奥で唸った。
そう、ここからは政治だ。
階級章からして彼は大佐。
年齢から推測するに身分はあまり高くない。
子爵以上の出自であれば、この年齢で佐官止まりであるとは考えにくい。
で、あれば男爵や準男爵のようにギリギリ士官学校への入校が許される階級。
きっと独断で政治が許される立場ではない。
「ウォーカー君と言ったな。
キミの希望はあるか?」
『可能であれば、ドックタグはレッドタウンに送らせて下さい。』
「遺族の元へ返却したいということだな。」
『偉い人達がそうして下さると信じます。』
大佐が愚鈍ではない証拠に、この台詞が皮肉であると看破されてしまった。
《オマエ自身の為にも馬鹿な発言はするな。》
彼の眼が雄弁に俺を諭していたので、感謝も込めて頭を下げる。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
大佐は小一時間掛けて上官の許可を取り、遺骸は纏めて焼却処分されることに決まった。
帝国も王国もなく、ただ無造作に焼かれて、グリーンタウンの空き地に遺灰は埋められる。
そして申し訳程度に戦没者慰霊碑が建てられるのだ。
『承知しました。
焼却用の穴を掘ります。』
「待て。」
『…。』
「君が1人でやるのか?」
声色は尋問用のそれに移行していた。
まあ、そりゃあそうだろう。
これだけの数の遺骸を1人で引き上げ、1人で焼こうとしている。
不自然極まりない。
それどころか作為を感じるし、更に言えば思想の気配がする。
『普段であれば人を集めます。』
「それを聞いて安心したよ。
では、普段を再現したまえ。」
『報酬の払いようがありません。』
「…。」
『これまでは当局に見積もりを提出しておりましたが、今はそれもなく。』
「キミ達にとっての当局は我が軍である。
心得違いをしているなら即座に改めるように。」
『失礼しました、大佐。』
「要は報酬が読めない以上は、黒鍬仲間に声が掛けられないということだな。」
『ええ、流石に無償労働をさせる訳にはいかないので。』
「成る程。
1点を除いてキミの言動は一貫している。」
『…。』
「答えろ。
肝心のキミは何故無償労働をしている?」
『所属する国は違えど人命は等しく…』
「タテマエは割愛せよ。
肝心のキミは何故無償労働をしている?」
『所属する国は違えど人命は等しく尊貴なものです。
この悲劇に立ち会った1人の人間として、誇り高き英霊に…』
「要求を聞かせろと言っている。」
実は俺の目的は既に達成されている。
《現場指揮官と個人的に繋がること。》
兎にも角にも、このスタート地点に立たないと何も出来ない。
帝国側から見て、話を聞く価値のある王国人のリストに載ること。
最初から、それだけが俺の目的だった。
その言動から大佐が高潔型であると分析した俺は、彼の琴線に触れることだけを意識して振る舞った。
「分かっているのか!
私が合図するだけでキミは不審人物として処分されるのだぞ!」
馬鹿な男だ。
余計なワンクッションを一々挟んでくる。
ここは戦場なんだぞ?
1%でも危惧を感じたのなら即座に始末するべきなのに。
何故わざわざ殺さない理由を必死で探すのか。
コイツ、軍人としての適性が乏し過ぎるだろう。
だが、大いに恐れねばならない。
この手の自己抑制的な人情家は現場での絶大な信望を得ているのが常。
周囲の将兵の視線を鑑みるに、これ以上将校を試そうとすると衝動的に斬られる可能性すらある。
『もしも知らずに無礼な態度を取っていたのであれば、深く謝罪致します。』
「…。」
大佐は眼球を動かさずに左右の部下の感情を読む。
「テッド・ウォーカー君は天晴国士也!
全ての英霊に代わって御礼を述べる!」
本音ではない。
理性では俺に違和感は感じているものの、情緒で俺を害したくないと感じたので、敢えて大袈裟に称賛して部下から俺を守っているのだ。
大佐がそう宣言した事により、部下達の俺に対する不審感が急速に鎮まる。
《なるほど、敬愛する大佐殿が称賛したという事は、この王国人を敵性と認識してはならないのだ。》
ひしひしと伝わってくる。
それが軍人の思考。
王国も帝国も大差ない。
冒険者になる直前、軍の荷運びをしていて本当に良かった。
おかげで軍事知識の無い俺であるのに、軍人という動物の習性は何となく理解出来る。
「中尉。
大至急、黒鍬者の報酬基準を教えてくれ。
我が国の基準だけで構わない。」
大佐は傍らに居た白髪の小男に短く命じる。
小男は静かに頷くと小走りで指揮車両に乗り込み、すぐに書類を恭しく大佐に捧げた。
「デッド・ウォーカー君。」
『はい。』
「1人あたり銀貨30枚を日当として支払う。
直ちに黒鍬者を20名集めたまえ。」
『…はい。』
「不満もあるだろうが、ここは帝国領である。
従って賃金基準は帝国法に準拠する。
また、支払いは当然帝国銀貨となる。
異存はないな!」
『異存ありません、大佐。』
こちらが30分で20人を揃えた事に何人かの帝国兵が感嘆を漏らしたが、大佐は退屈そうな目でただ俺だけを眺めていた。
Lesson71 『カモの琴線をピンポイントで突け。』
【名前】
テッド・ウォーカー
【職業】
黒鍬者
冒険者
ウナギの人
【スキル】
食材鑑定
高速学習
ウナギ捕獲
【資産】
銀貨28枚
鉄貨62枚
【所持品】
折り畳み釣り竿
簡易テント
大型リュック
万能ナイフ
ポートフォリオ
騎士用手袋
トラバサミ
ハンモック
業務用肉醤製造セット
荷馬車
討伐チップ (ウナギ)
ゴブリン漁網
ブンゴロド通行証
ドワーフ式の軍用テント
【生産可能品目】
山椒粉
フカヒレ
ラー油
肉醤
ジャガイモ (少量)
ウナ肝
マーガリン
墓穴
【ポートフォリオ】
ホーンラビット
スライム
サンドシャーク
猪
山椒
ドブネズミ
薬草概要
蝶類概要
風琴鳥
ドワーフ
蛇モグラ
廃棄物処理法
ウナギ
ジャム
バター
【仲間】
リコ・クラーク (司書)
ジェフリー・フィッシャー (漁師)
キース・ポーター (運送業)
レオナ・レオナール (受付嬢)
グスタフ・グリルパルツァー (狩人)
トーマス・トンプソン (バディ)
ヘレン・ヘイスティング (冒険者)
ノリス・ノーチラス (修理屋)
ハンス・ハックマン (農夫)
マーガレット・リンドバーグ (油脂製品製造業)
グレッグ・グッドマン (支部長)
テルマ・テイマー (飼育員)
^7@7@:;++ (先導者)
ブルース・ボブソン (漬物職人)
クロード・クーパー (田舎支部長)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
(あとがき)
最後までお読みいただきありがとうございました。
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ご安全に。




