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Lesson70 『可能な範囲で機先を制せ。』

ブンゴロド最長老は随員一騎のみを連れて丘に登って来た。

腰に刀は差していないし兜も被ってない。

彼なりに気を遣っているのだろうか。



「見せちまっていいのかい?」



第一声がそれである。

そりゃあそうだろう。

良い訳がない。

異種族かつ帝国の禄を食んでいるブンゴロドに国境の地形を把握されるのは俺だって怖い。



『ここから観る夕陽が格別なんですよ。』



「ほう、でも日暮れまでは時間がたっぷりあるぜ。」



『ではのんびり眺めて行って下さい。』



「…ふむ。」



俺は最長老と随員にハンモックを勧める。

「これゴブリンが使ってる奴じゃねーか。」

苦笑しながらも2人は深く腰掛けて眼下のグリーンタウンを目に焼き付けていた。



「先にワシらの要求を述べる。」



『どうぞ。』



「現在、帝国側が【居留地】と呼んでいるワシらの領土。

人間種の法においてもブンゴロド領であると確定させたい。」



聞けば、ドワーフ社会では既にあの一帯はブンゴロドの領土として認識されている。

その認識を人間種まで広げる事を最長老は、本家と袂を分かってまで生涯の使命と考え奔走し続けていたとのこと。

(なので彼らはブンゴロド本家からは【西ブンゴロド】と呼ばれて別物扱いをされている。)

12で初陣を飾り、ドワーフ屈指の俊英と呼ばれた彼も齢63歳。

人生の終わりに掴んだこのチャンスを意地でもモノにするつもりだった。



「若い頃は、隣のロキ公と【どっちが人間種をいっぱい殺せるか競争】に精を出したんだがな。

流石にキリがねぇわ。」



  「どうもー♪

  平和主義者のロキ君でーす(笑)」



隣に控えていたドワーフはニヴル族という、ブンゴロドとは別の氏族。

王国北部に居住していたが不正ばかりするので、最近合衆国方面に追放された。

このロキなる老人は悪謀仲間ということで、最長老共々ドワーフ社会で嫌われている。

わざわざ随員にこの老人を選んだこと自体が強い意思表示。

最長老は利益以上に思想哲学に基づいてここに立っているのだ。

それはつまり、俺にも同スケールの在り方を要求している事を意味する。



「ウォーカー。

オマエの要求も聞かせろ。」



『税金のない国に暮らしたいですね。』



「ははは、周りはみんな賛成してくれるだろ。」



『ええ、タックスイーター以外の皆さんは歓迎して下さります。』



「要求は兎も角、オマエという男はよく理解出来た。」



『…。』



不意にグリーンタウンの方角から雄々しい怒号が鳴り始める。

いや、怒号ではないな。

アレは軍歌だ。



「そうだ。

帝国の奴らが軍歌を斉唱し始めたという事は、あの街の掃討が完了した事を意味する。

おっと、オマエから見ればワシも【帝国の奴ら】なのかな?」



『…では、この一帯の村落も帝国の占領下になったという事ですね。』



「そうなるな。」



俺は足りない頭をフル回転させて損得を勘定する。

グリーンタウンを帝国が新領土として確定させてしまうのか、それとも占領は一時的なもので王国軍が即座に奪還してしまうのか?

それを見誤れば皆が破滅する。


俺は軍隊教育を受けた経験がない。

だから最低限の軍事知識もないし、これまでの人生で恥をかき続けて来た。

だが、もはや【分からない】で許される立場ではない。

俺なりに判断する事を強いられているのだ。


要は帝国が勝つか王国が勝つか。

いや、帝国が勝った方が得なのか、王国が勝った方が得なのか。

…違うな。



『両方死ね。』



気が付けば言葉に出していた。

ジェフ、ハンス、トム、最長老、ロキ。

五者五様に無言で俺を観察している。



『王国が勝とうが帝国が勝とうが、どうせアイツらは税金を取るしかしないんだ。』



「「「「「…。」」」」」



『子供の頃からずっと思っていた。

それが地主であろうが盗賊であろうが国家であろうが。

収奪で生計を立てている者は全て敵であると。』



「「「「「…。」」」」」



俺はグリーンタウンを眺める。

今までは最辺境と捉えていたが、それは王国の版図全体から見ての話であって、クラークから教わった世界地図上では真ん中らへんにあるのだ。

帝国にも共和国へも近いし、ブルータウンの港を使えば首長国にだって行ける。

河の両側には農地が広がり、気候も悪くない。

慎ましく生活すれば、本来は皆が食っていけるのだ。


…この土地は誰の物だ?



『最長老。』



「んー?」



『合わせて欲しい口裏があれば聞きますよ。

互いに擦り合わせましょう。』



「…やれやれ、どうしてオマエは遅れて生まれて来たのかね。」



再度トムを後方に走らせる。

現段階で腹案を漏らす気はないが、それでも主要メンバーにはある程度匂わせて察して貰わねばならない。

俺の邪魔をされては困るし、俺が途中で殺されたら俺に全てを被せて貰わねばならないからだ。



『村に降りるよ。』



「出頭か?」



『いや、冒険だ。』



「流石は創業者だな。」



『最長老、ロキ先生。

来られますか?』



「オイオイ、意地が悪い奴だなぁ。

冒険って言われて男が引き下がれるかよ(笑)」



俺はゆっくりと地面を踏み締めて一歩一歩丘を下る。

左右にはハンスが植えたキビがまるで自生しているかの如く繁っている。

俺はドワーフ2人が隠し田に関しては鈍感である事を横目で確かめながら静かに坂を降りた。



「うおっ!

現地人発見!

隊長ー!

村人です!

王国の村人を発見しました!」



当然だが、村にまで降りると帝国兵に発見される。

5人の青年(雰囲気的に新兵っぽい)が弩を持って哨戒していたのだ。

撃たれる事すら覚悟していたが、彼らは弩を構える事すらしなかった。

まぁ、俺は見た目が貧相だし、彼らから見れば地元の貧農以外の何者でもないのだろう。



『あのー。』



声を掛けると彼らはビクッとする。



「ゴメン!

俺にはアンタと会話する権限が無いんだ!

隊長が来るまで、そこで待ってて!」



『あ、はい。』



兵士はそれだけ言うと、口を一文字に閉じたまま弩を完全に降ろした。

まあ、見るからに末端の兵隊だしな。

帝国軍としても勝手に占領民と接触されても不都合なのだろう。

俺も相手を刺激したくないので、前に手を組んで直立不動で時を待つ。


そんな時間が30分ほど続いただろうか。

突然、兵士達が軍靴を鳴らして敬礼をした。

その方向を見ると、数名の初老の軍人。

軍服の意匠から鑑みるに将校。

そりゃあそうだ。

彼らにしたって政治的判断が要求され続ける場面だろうからな。



「やあ、こんにちは。

住民の方ですか。」



口調は極めて柔和だが、視線は猛禽の様に鋭い。

当然だろう。

この状況、俺がゲリラやスパイである可能性は非常に高いのだ。

彼らだって緊張はする。



『はい、この村に住ませて頂いております。』



「…住民ではない?」



将校の声がワントーン下がる。



『新参者なんです。

なので皆の雑用係を務めております。

まだ自分からは住民と名乗りにくいですね。』



気がつけば冗談めかして喋っていた。

これはマズいんじゃないかと途中で思い至る。

もう少し怯えた表情をしないと、疑われるのではないか?



「では、古参の人に伝えて貰えるかな。」



『はい。』



「おめでとう、君達は解放された。」



『解放… ですか?』



「ああ、我々は正義の解放軍だからね。

王国の圧政に苦しんでいた元領民を救いに来たんだ。」



柔らかくなる言葉とは裏腹に、将校の目には一向に感情が宿らない。

そりゃあね、普通は仕事には感情を交えないよね。



「ところでキミは…

何故姿を現したんだい?

普通、他国の軍隊が来たら百姓は震えて山に逃げ込むものだよ?」



『救助です。』



「?」



『河に人が流れているのを見掛けましたので。』



「…この上流で激しい戦闘があったからね。

まだ休戦期間中だったから随分驚かされたよ。」



言わずにはいられなかったのだろう。

我が国の条約破りを指摘する際にだけ、将校の表情に激しい憎悪が宿った。



『救助の許可を頂けますか?』



「流れているのは全て死体だよ。」



『では尚更です。

埋葬をさせて下さい。』



「…。」



『…。』



「良くも悪くも想定外だな。

初日から提案されるのは初めてだ。」



『出過ぎた真似をして申し訳ありません。』



「…。」



『…。』



「キミの名前を聞かせてくれ。」



『テッド・ウォーカーです。』



「ふむ。

分かった、黒鍬作業を許可する。

但し、無断埋葬は認めない。

河から上げた死体は全て我が軍がチェックする。

当然私も立ち会う。

いいね?」



『寛大なご指示に感謝します。』



「…。」



『…。』



俺は無言で河に入る。

夜は気が付かなかったが、近づけば幾つもの死体が流れている。

大半は王国の兵卒。

渡河中に討死したのか、死体が河に放り込まれたのか、俺には想像も付かない。


たまに軍馬が流れてくる。

流石に俺の腕力では引き上げられないので、躱そうとすると、その鐙に中身の入った軍靴が引っ掛かっていた。

流石に胃液が上がってくる。


ジェフ達は背後に隠している。

俺が殺された場合に仕事を引き継いで貰わねばならないからな。



「弟だってオマエらに殺されたよッ!」



頭上からの怒声に思わず顔を上げると、怒鳴ったであろう兵士が同僚からたしなめられていた。

リーダー格であろう下士官と黙礼を交わしてから作業に戻る。

上流で戦場整理が始まったのだろうか、流れてくる死体は徐々に増え、やがて河全体が真っ赤に染まった。




Lesson70 『可能な範囲で機先を制せ。』

【名前】


テッド・ウォーカー



【職業】


黒鍬者

冒険者

ウナギの人



【スキル】


食材鑑定

高速学習

ウナギ捕獲



【資産】


銀貨28枚

鉄貨62枚



【所持品】


折り畳み釣り竿

簡易テント

大型リュック

万能ナイフ

ポートフォリオ

騎士用手袋

トラバサミ

ハンモック

業務用肉醤製造セット

荷馬車

討伐チップ (ウナギ)

ゴブリン漁網

ブンゴロド通行証

ドワーフ式の軍用テント




【生産可能品目】


山椒粉

フカヒレ

ラー油

肉醤

ジャガイモ (少量)

ウナ肝

マーガリン

墓穴



【ポートフォリオ】


ホーンラビット

スライム

サンドシャーク

山椒

ドブネズミ

薬草概要

蝶類概要

風琴鳥

ドワーフ

蛇モグラ

廃棄物処理法

ウナギ

ジャム

バター




【仲間】


リコ・クラーク       (司書)

ジェフリー・フィッシャー  (漁師)

キース・ポーター      (運送業)

レオナ・レオナール     (受付嬢)

グスタフ・グリルパルツァー (狩人)

トーマス・トンプソン    (バディ)

ヘレン・ヘイスティング   (冒険者)

ノリス・ノーチラス     (修理屋)

ハンス・ハックマン     (農夫)

マーガレット・リンドバーグ (油脂製品製造業)

グレッグ・グッドマン    (支部長)

テルマ・テイマー      (飼育員)

^7@7@:;++         (先導者)

ブルース・ボブソン     (漬物職人)

クロード・クーパー     (田舎支部長)



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



(あとがき)


最後までお読みいただきありがとうございました。

このLesson(教訓)が有意義であったと感じていただけましたら、冒険の道標としてページ下部の【☆☆☆☆☆】やブックマークで評価して下さると幸いです。


ご安全に。

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