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Lesson67 『真摯から生まれた厳格にこそ衆は従う。』

さて、帝国との戦争が再開されたらしい。

例によって詳しい戦況は分からないが、いつの間にかグリーンタウンの軍庁舎に戦時旗が掲げられ、それを俺達が呆然と眺めているうちに、辻々に立札が立てられていたのだ。



「悪辣非道なる帝国が条約違反を行った。

我が国の慈悲の心は無残にも裏切られたのである。

不本意ながら我が国は正義の侵攻を断行するもの也。

人民諸兄らの為に聖戦を断固として戦い抜くことを宣言する。


こんなニュアンスです。」



『なるほど。』



南門脇に建てられた立て札をクラーク女史に読み上げて貰う。

内容はいつも通り。

悪いのは帝国で王国は止むなく反撃しているだけ。



「そして言外の意図として…」



クラーク女史は素早く左右を確認する。



『臨時課税や増税が行われる可能性が高いと?』



「ええ、いつものパターンですけど。

【人民諸兄らの為の】というフレーズは、増税への布石として用いられる事の多い言い回しです。」



やれやれ。

平時でも戦時でも結局税金が上がるんだからやってられないよな。



「テッドさん、あくまでこれはサイクルの話なのですが…」



御者台に登ってからクラーク女史がこっそりと耳打ちしてくる。



「政府は七公三民への移行を断行するかも知れません。」



『いやいや、流石にそれは無いでしょう。

7割も取られたら皆が生活出来なくなっちゃいますよ。』



「ええ、平時はそういう常識論が無軌道な増税を抑止してくれるのですが…」



クラーク女史曰く、締結から間もない休戦条約破棄が問題なのだという。

どう計算しても戦争を遂行する予算など国庫に残ってる筈もないのだ。

折角休戦協定を結べたのだから、最低でも5年は国力の回復に費やすべき場面であると彼女達インテリ層は分析している。

だが、休戦期間の満了すら待たずに戦争は再開された。

良い未来は見えない。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「なので♪」



「私達も瓢箪池に来ましたー♪」



「です♪」



正気の沙汰ではない。

クラーク・レオナール・ポゥら冒険者の宿の女性陣が瓢箪池にやって来た。

村々から出向している受付嬢や猫の世話係(それって仕事なのか?)のテルマ・テイマー。

挙句の果てには児童のマーガレットまで居る。



『クラークさん。

貴女はもっと理知的な女性だと思ってました。

全員で野宿でもするつもりですか?』



「うふふ。

テッドさん怒ってます?」



『怒っている訳ではありません。(怒)

ただ、女性が野宿をするのは健全ではないと言っているのです。(怒)』



「反省しまーす♪」



何が楽しいのか女共は楽しそうだ。

とりあえず馬車に寝泊まりさせる訳にも行かないので、ブンゴロド族に軍用テントを売って貰う。

小隊用サイズを5張り。

女性陣はここで何とか凌いで貰うしかない。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「ウォーカーさん、お疲れ様です。」



『あ、村長。

お疲れ様です。』



そして古戦場村の若村長も騎馬で駆け付ける。

そりゃあね、戦争再開となると役職者は忙しくなるよね。



「単刀直入に伺います。

ここのキャパ、何人まで暮らせますか?」



『本音を言えば、もう限界だとは思うんですけどね。

馬車500台以上は…

秩序を保つ自信がありません。』



「700人追加は無理ですか?」



『いやいや、古戦場村の全員じゃないですか…』



「…。」



若村長の目は本気だ。

どうやら村ごと逃散するつもりらしい。



『サバイバル能力がある700人なら何とか瓢箪池に収容可能です。

釣りや狩猟、料理や野営…

後、馬の世話や場合によっては戦闘も含まれるでしょう。』



「ははは、冒険者って万能ですね。」



『食い詰め者の集まりです。』



「ここで農耕は無理ですよね?

地質は悪くないと思うのですが。」



『それは…

もう公然の隠し田になってしまうので…

私と村長だけの処刑では済まなくなってしまいます。』



「申し訳ありません。

言ってみただけです。

…ドワーフの猟区の話はどうですか?」



『いやいや、確かにアガリは2割ですけど…

完全に帝国領ですよ…』



「見るだけ!見るだけ!

私も見学させて貰えませんか!」



相変わらず押しの強い男だ。

どのみち猟区に用事があったので、若村長も同行させてやる。



「おお!

あれがドワーフ砦ですか!

実物を見るのは初めてです!」



『あまりジロジロ見ちゃ駄目ですよ。

かなり喧嘩っ早い連中ですので。』



19歳という年齢がそうさせるのか、若村長は警邏のドワーフに積極的に話しかけ、快くステッカーを買ってしまう。

ドワーフ側も村長という役職者と接点が持てたのが嬉しいのか、歓迎のコメントをくれた。



「ウォーカーさん。

気の良い人達じゃないですか!」



『村長にリスペクトの姿勢があったからでしょうね。

逆にブンゴロドの伸張を警戒している帝国軍には露骨に挑発的な態度を取ってましたし。』



「ああ、なるほど。」



繰り返すが、ブンゴロド族は皇帝のお気に入りである。

皇帝の私有鉱山の採掘を複数任されているし、目覚ましい実績も挙げている。

但し、現場の帝国人はドワーフが我が物顔で闊歩している現状を非常に苦々しく感じている。

俺も垣間見ただけだが、ブンゴロドのあの態度は良くない。



『なので、ブンゴロド族から庇護を受けている現状は必ずしもベストではありません。

帝国側に我々の存在は認知されております。

後は刺激しない事だけを考えていたのですが…』



「そんな矢先に古戦場村が総逃散先にしてしまえば…」



『異邦人が増えるってそれだけで脅威ですからね。

帝国・ゴブリン・ドワーフ、皆を刺激します。

当然、我らが母国も。』



「何とかなりませんか?」



『色々考えたのですが、奇策は無いです。

正直に3勢力に対して流民が増える旨を事前報告しましょう。

王国に対しても…

今期分の年貢はきっちり払いましょう。

今って村請ですよね?』



「ウォーカーさんは真面目ですねぇ。

私は貴方のそういう点がリーダーに相応しいと思うんですよ。」



『もう、歳が歳ですから。

あまり飛躍も出来ません。』



何がおかしいのか若村長はクスクス笑った。

結局、各村には最小限の人員を残し、今年度分の年貢はきっちり払うことを皆と申し合わせる。

但し、刈り入れは冒険者有志も手伝うし、穀物蔵代わりに大型馬車も提供する。



「馬車を穀物庫代わりに!?」



『私だって、そんな馬鹿げた事はしたくありませんが…

この辺が戦場になったら有無を言わさず徴発されてしまいますよ。』



「で、でもこの近辺には帝国軍も居ますよね?

発見されたら帝国に奪われるのでは?」



『…気は進みませんが、ドワーフに上納米を渡して守って貰いましょう。』



「…嫌だなー。

ボッタクられそう。」



勿論俺も嫌なのだが、彼らは全部を取らないとは思う。

何故なら、帝国がドワーフを緩衝帯として活用する事を目論んでいるように、ドワーフも俺達を政治的な駒として温存したがっているから。

ブンゴロドはこの一帯を不可逆的な領土としたい。

だが、帝国が勝ち過ぎてここが最前線でなくなれば、ブンゴロドをこの地で飼っておく必然性が消滅する。

だからこそ、彼らは俺達王国人を巧妙に利用したがっている。

皆それぞれに思惑があるが、このゲームの最弱が俺達であることだけは確定している。

所詮俺達はパワーバランス上の理屈で生かされてるに過ぎないのだ。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「でも、テッドさんはこの状況を活用する方法を考えておられるのでしょう?」



『私1人なら何とでもなったのですが…』



「じゃあ、私と2人ならどうですか♪」



『…無いなりに甲斐性を発揮したと思います。』



何がおかしいのかクラークは口を押さえてクスクス笑う。



「でも千人を養っちゃうのがテッドさんなんですよね♡」



『…私が始めた物語ですから。

放棄は許されません。』



「流石です♪」



調子の良い女だ。

クラークは最近、俺が乞うまで献策をしなくなった。

曰く、自分が発案するよりも俺の悪あがきを見るのが楽しいとのこと。

立場が逆なら俺もそう思ったかも知れないので、もはや責める気もない。

こうやってゴブリン団子を分けてやること同様に、一笑を提供するのも男の仕事なのだろう。



『クラークさん。

ブンゴロド達との調整もあります。

移住希望者の数を正確にカウントしておいて下さい。』



「全員です。」



『え?』



「川沿いの村の全員が逃散を希望してます。」



『まさか、流石に全員なんて有り得ないでしょう。』



「そうでしょうか?

七公三民が見えて来る前から、皆さん嫌気がさしていましたよ。

おまけに帝国軍が攻め込むとしたら真っ先にグリーンタウン周辺が戦場になるでしょうし。」



『まあ、川沿いの村がかつて様に戦争の舞台になるでしょうね。』



「残るメリットがありません。」



『しかし、この辺はドワーフやゴブリンの住処なんですよ。』



「でも、テッドさんは仲良くしてるじゃないですか。」



『ですから、それは私個人の話です。

誰だって自分1人なら何とでもなりますよ。』



「あはは。

ええ、そうです。

テッドさんなら解決できちゃうんです。

だから、皆はテッドさんの恩恵に被りたいんですよ。」



『…恩恵も何も私は奴隷階級ですよ。』



「違います。

貴方はリーダーです。」



『…正気の沙汰ではない。』



「人間は狡い生き物ですから、そこら辺の損得勘定は間違えません。

貴方の指示に従った方が得だから、これだけの規模のキャラバンが生まれたのです。

後、テッドさんは税金取りませんし(笑)」



『たまたま、私は貧乏生活が長くて自活出来るからですよ。

無理に徴収する必要が無い。』



クラークはずっと身体を揺すって笑っている。

彼女に言わせれば、俺の話は極めて面白いらしい。

箸が転がっても笑う年頃なので責めはしない。



「テッドさんはそんな人ですから、皆が指示に従ってるんです。

次はどんな奇抜な方針を出すのかなって、結構みんな楽しみにしてるんですよ♪」



『申し訳ありませんが!

皆の生活を預かっている以上は、面白い案などという不謹慎な事は申せません!』



「っぷ♪」



『笑いごとではなーい!』



「あはは、ごめんなさい♡」



『クラークさん!

皆の存亡が掛かった場面です!

貴女ももっと緊張感を持って下さい!』



「はい♡」



『今は正念場ですから!

私もビシビシ指示を出しますよー!』



「はい♪

私、テッドさんの指示なら何でも従います♡」



『では、明日の朝全員に布告して下さい。

本年度の年貢は完納します!

その為にも刈り入れは全員が手伝うこと!

役所側に隙を見せないよう、粛々と行動しましょう!』



「はい!」



『私はゴブリン・ドワーフの両種族に我々が如何に害意が無いかを伝えに行きます!

言っておきますが、彼らに敵意を持たれたら我々は詰みますからね!

なので、言動には細心の注意を払わせて下さい!

あくまでキャラバンは間借りさせて貰っているだけ!

侵略者と解釈されたら、それで終わりですよ!』



「はい!

皆に厳重に通達します。」



『本当に皆は理解してくれるのでしょうか?

私は不安です。』



「大丈夫ですよ。

テッドさんが強い言葉を使うのは皆を守る為だって…

全員理解してますから。

だから、私達は言いつけを絶対に守ります。」



『ええ、お願いしますよ。

我々が生き残れるか否かは、皆の姿勢に掛かっているのですからね!』



「はい!

絶対にテッドさんに従います!」



『ふう。

貴方がそこまで断言してくれるなら安心です。


おや、もうこんな時間か…

では、そろそろ遅いので婦人用テントに帰るように。』



「嫌です♪」



『え?』



翌日、クラークは各村村長を集めて、見事に連絡系統を作り上げてしまった。

王国・帝国・ゴブリン・ドワーフの4勢力を刺激しない為の行動規範を即興で考案し、全員が負担なく遵守可能なマニュアルに落とし込んだ実務手腕はやはり相当なものだと思う。





Lesson68 『真摯から生まれた厳格にこそ衆は従う。』


【名前】


テッド・ウォーカー



【職業】


冒険者

ウナギの人



【スキル】


食材鑑定

高速学習

ウナギ捕獲



【資産】


銀貨28枚

鉄貨62枚



【所持品】


折り畳み釣り竿

簡易テント

大型リュック

万能ナイフ

ポートフォリオ

騎士用手袋

トラバサミ

ハンモック

業務用肉醤製造セット

荷馬車

討伐チップ (ウナギ)

ゴブリン漁網

ブンゴロド通行証

ドワーフ式の軍用テント




【生産可能品目】


山椒粉

フカヒレ

ラー油

肉醤

ジャガイモ (少量)

ウナ肝

マーガリン




【ポートフォリオ】


ホーンラビット

スライム

サンドシャーク

山椒

ドブネズミ

薬草概要

蝶類概要

風琴鳥

ドワーフ

蛇モグラ

廃棄物処理法

ウナギ

ジャム

バター




【仲間】


リコ・クラーク       (司書)

ジェフリー・フィッシャー  (漁師)

キース・ポーター      (運送業)

レオナ・レオナール     (受付嬢)

グスタフ・グリルパルツァー (狩人)

トーマス・トンプソン    (ひよこ鑑定師)

ヘレン・ヘイスティング   (冒険者)

ノリス・ノーチラス     (修理屋)

ハンス・ハックマン     (農夫)

マーガレット・リンドバーグ (油脂製品製造業)

グレッグ・グッドマン    (支部長)

テルマ・テイマー      (飼育員)

^7@7@:;++         (先導者)

ブルース・ボブソン     (漬物職人)



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



(あとがき)


最後までお読みいただきありがとうございました。

このLesson(教訓)が有意義であったと感じていただけましたら、冒険の道標としてページ下部の【☆☆☆☆☆】やブックマークで評価して下さると幸いです。


ご安全に。

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