Lesson65 『暴力の傘を買え。』
さて、俺が購入したドワーフの猟区。
そこまでの広さはないが街道に面しており、かつ小さな池もある。
なので冒険者の馬車を全台駐車する事も可能だった。
「オイオイオイ。
売ったと言っても、それは使用権の話だ。
所有権は俺達ブンゴロドのものだからな。
そこは勘違いするなよ!」
『ええ、勿論です。
我々はあくまで間借りさせて頂いているだけです。』
「うむ。
分かってりゃいいんだ。
それと前も言ったが、一応シキタリには従って貰うぞ。」
『はい。』
ブンゴロド族の言うシキタリとは
【彼らの領地を頻繁に通行する車両からはミカジメ料を徴収する】
という趣旨。
具体的にはブンゴロドの紋章の入ったステッカーを馬車毎に買わされる。
ステッカーは1枚辺り銀貨300枚なので結構痛いが、初回払い切りでドワーフがケツモチに付いてくれると思えば案外コスパは良いのかも知れない。
(ステッカーは半永久的に効力を持つが、権利の相続や譲渡は不可。)
『え?
農耕してもいいんですか?』
「いいけど。
耕すんならアガリは徴収するぞ?」
『あ、そりゃあそうですよね。』
「収穫の2割は上納させるシキタリだから。
オマエラも耕すんなら、ちゃんと払えよな。」
『え?
2割!?』
「文句あんのか。
仕方ねえだろ、御先祖様が決めたルールなんだから。
ドワーフは1割、他種族は2割。
そういう決まりだ。」
『あ、いえ。
勿論ちゃんと払います。』
「おう、分かりゃいんだ。
分かりゃあよお。」
付き合ってみて初めて理解したことだが…
ドワーフは商売は非常にシビアだが、徴税は妙に寛大。
農耕に関心が乏しいことと何らかの関連性があるのかも知れない。
兎も角、ブンゴロド族の税率が著しく低い事はキャラバンでのトピックスになった。
ここでハンスが賭けに出る。
「なあ、ウォーカー。
前に食わせてやったラディッシュは覚えているか?」
『あ、はい。
俺が地下作業している時に差し入れてくれたピクルスですよね。』
「あれな。
通称はハツカダイコンって言って、名前の通り20日で収穫出来るんだ。」
『え?
そんなにサイクルが早いんですか?』
「俺は実験的にここで育ててみたい。
もし本当に2割上納で済むのなら、面白い運用が出来ると覆う。」
『攻めますねぇ。』
「キャラバンメンバーには大根村の人間が多いし、この企画には乗ってくれると思う。
漬物名人のボブソンなんかは俺とパーティーを組んで人面キノコ狩りをした事もあるし、手伝ってくれるんじゃないかな。」
言いながらハンスは猟区の地質を慎重に吟味している。
良くはないが、何かは作れる地質らしい。
「そんな事よりウォーカー。
この池はどうだ?
随分濁っているが、釣れそうか?」
『うーーん、どうでしょ?
ざっと見たところ、スライムは居なさそうですけど。
あー、アレは鯉ですね。
それもかなり大きい…
つまり天敵がない…
多分、この池。
鯉の天下だと思います。』
「ふーん。
鯉かぁ…
どうせならウナギが棲んでれば良かったのにな。」
『勘弁して下さいよぉ。
どうせ俺が取らされるんでしょw』
「はっはっは、バレたかw」
ハンスと笑い合いながら池を一周。
この水質では水場として使うのは難しいかも知れないな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ブンゴロドにステッカー代を払い終わった馬車が続々と猟区に入って来て、皆で焚き火を組んでワチャワチャと盛り上がる。
早速、サバイバル慣れした者が池の水を煮沸したり濾過したりして活用法を模索。
釣り趣味の者は馬車を畔に停めて荷台に寝転がったまま竿を投げる。
そして漬物名人のボブソンが満を持して到着し、ラディッシュ栽培について討議。
俺は最初不安だったのだが、冒険者には一芸達者が多い所為か長期の野営のビジョンが見えて来る。
反面、家族連れでの長逗留は極めて困難だと感じた。
瓢箪池はまだ村落から近いから良いのだが、このブンゴロド猟区は冒険者の宿からも相当離れており、かつドワーフの監視下で暮らすプレッシャーも鑑みれば…
女子供には酷だろう。
「テントなら張ってくれて構わんぞ。
ただ、家は建ててくれるなよ。
オマエラだって、近所に他種族の集落が出来ちまうのは不本意だろ?」
『ええ、仰る通りです。
皆にも家を建築させないよう注意して回ります。
馬車に住むのはアリですか?』
「うん、アリ。
と言うより、馬車なら追い出し易いからな。
こちらとしてもありがたい。」
『あの家馬車なんかはどうです?
サイズ的には小ぶりの家ですけど。』
「自走可能ならOK。
要は契約期間が切れた時に居座られるのが嫌なだけだ。
オマエが買ったのは2年だけだからな。
当然、同じ場所での更新は認めない。
そこは責任を持って周知しろよ。」
『はい、徹底させます。』
「うむ。
口うるさい事ばかり言ってしまうが…
俺達ブンゴロドにとっても人間種を住ませる事は相当な冒険だから。
オマエラが王国のスパイだという可能性も無くはないしな。」
『ええ、疑われても仕方ないと思います。』
「もうすぐ帝国と王国の戦争が再開されるんだろ?
オマエはどっちに味方するんだ?」
『いえ、私は私の味方です。』
「Good、ドワーフ好みの答えだ。
それが本音か迎合かまでは知らんがな。」
何だかんだでブンゴロド族からは気に入られているのだろう。
ドワーフ式の軍用テントを5張もプレゼントしてくれた上に、ゴブリンの立ち入りも許可してくれた。
(但し銀貨を持たぬゴブリンの為にステッカー代を肩代わりしなければならない。)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
猟区入りも一段落。
久々の自由を得た。
俺はロバのブラッシングを終えると荷台に寝転んで怠惰を満喫する。
他のキャラバンメンバーは火を起こして干し肉を炙り始めたが、億劫なので横臥したままゴブリン団子をクチャクチャと貪る。
「師匠、お疲れ様でーす。」
『やあ、トム君お疲れ様。』
「随分リラックスしてますね。」
『そりゃあ、最近ウナギとマーガリン漬けだったからね。
ようやく解放されて安心してるよ。』
「そんな師匠に朗報です。」
『お、久し振りに良いニュース♪』
「この池にはウナギは居ません。」
『よし♪』
「でもナマズがいっぱい居ます。
この池は鯉とナマズが勢力を2分しているようです。」
参ったなー。
ナマズはゴブリン達の好物だ。
まさか、ウナギの延長上で俺がナマズ係を押し付けられてしまうのではなかろうか。
俺は不安を押し殺しながら池の淵をこっそりと覗き込む。
なるほど、水面近くは鯉、水底にはナマズと棲み分けているののか…
「お、師匠。
次はナマズ名人ですかw?」
『茶化すなよー。
瓢箪から駒って言うだろーw』
「『あっはっはw』」
2人で一通り笑い合ってから、ここでの生活のビジョンを描く。
『相手がキミだからぶっちゃけるけどさ。』
「あ、はい。」
『冒険者なんて所詮は浮浪者じゃない。』
「思ってても言わんで下さいよー。」
『私は放浪生活が長かったから分かるんだけど…
今、浮浪者界の頂点に立ってると思う。
私は世界一成功してる浮浪者だ。』
「師匠って自信家なのか卑屈なのか、よく分からないです。」
『でも、キミも似たような感慨は抱いてるだろ?』
「まあ、俺も就活ドロップアウト組ですけど…
多分、世界一恵まれてるドロップアウト勢です。」
この少年も職人の見習いを挫折したクチだからなぁ。
色々思うところはあるのだろうが…
食うには困ってない訳だしな。
ご両親に義理が立ってるのかそうでないのか、判定に悩むところである。
この日はお互いに意欲が沸かなかったので荷台で下らない雑談をしながら眠りについた。
女の好みとかモテる秘訣とか、そんな話題で盛り上がった気がする。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
さて。
問題は翌日である。
農地の使用申請の為にハンスと共にブンゴロド砦に向かう途中、帝国軍と鉢合わせてしまったのだ。
「うわっ!
王国人だ!」
相手の第一声がそれ。
たちまち帝国兵が湧いて来て囲まれてしまう。
「え?
キミ達、王国人だよね?
何で?」
どうやら帝国兵にとっても完全な想定外だったらしい。
囲む槍の穂先が微妙に震えている。
無論、突きつけられている俺とハンスは生きた心地がしない。
「ここは帝国領だぞ!」
1人の若い兵士が怒鳴る。
俺は首を竦めるが、意外に周囲の帝国兵は同調しない。
古参兵らしき男に連れられて怒鳴った兵士は俺達から引き離されてしまう。
どうやら末端の兵卒が配慮を要求される程度には政治的に微妙な土地らしい。
そりゃあね、帝国だって好きでブンゴロドに土地を与えてる訳じゃないだろうからね。
『あ、あの!
発言いいですか?』
「あ、うん。
どうぞ。」
『まず、我々は王国人です。』
「だろうな。」
『ただ、兵士ではありません。』
「うん、まあ、顔つきを見れば分かるけど。」
『ブンゴロド族の皆さんにおカネを支払って通行させて貰ってます!』
「…。」
ブンゴロドの名を出した途端に帝国兵達は嫌悪感丸出しの表情をする。
俺は馬車の荷台に貼ってあるステッカーを彼らに見せる。
渋い表情で黙り込んでいるということは、このステッカーは有効なのだろう。
但し感情的には大いに気に食わない、といったところ。
隊長らしき男が号令を掛けると兵士達は穂先を下ろした。
「うん、まあ、法律的には問題がない。
勿論、大問題なんだけどさ。」
『なんかスミマセン。』
「要するにブンゴロド租借地に君達が寄宿しているのだな?」
『あ、はい。
仲間と一緒に先日から…』
隊長は下腹を擦りながら俺を睨み付けている。
そりゃあね、兵隊さんからしたら、敵国人が自領に棲み着いてしまうなんて堪ったものではないからね。
「…王国人を見かけたら即座に通報する取り決めなんだけどねぇ。」
ブンゴロド砦を忌々しげに凝視しながら隊長が呟いた。
どうやら、あのドワーフ共は権利主張は1人前な癖に、義務を履行する意思が皆無であり、それが現場の帝国兵達を大いに苛立たせているようだった。
但し、帝国としてはブンゴロド族を抱え込む方針らしく、兵卒達は刺激しない事を厳命されているようだった。
「おーう!
オメーら、何やってんだ!」
「あ、これは戦士長…
ご無沙汰してます。」
「俺達の縄張りで勝手に揉めてんのか!?」
「あ、いえ。
揉めているとか、そういうのでは…」
受け答えを見て、大体の力関係が見えて来る。
帝国にとってブンゴロド族は貴重な捨て駒。
だから露骨に甘やかされているし、現場の兵士達は一番ワリを食っている。
隊長は通報義務について説くが、蒙昧なドワーフ達は「それは努力義務だ。」の一点張り。
どうやらブンゴロド族は【武勇に優れた自分達が国境際に住んでやっている時点で義理は果たしている】と考えているらしい。
まあ、半分は正しい。
王国の正規軍がこの土地を進軍するとなると、甚大な被害を蒙ることとなるだろう。
少なくとも異常に気位の高いドワーフが軍隊の通行を許すとは思えない。
現に味方の筈の帝国兵に対してすら唸りながら威嚇しているのだ。
後から知った事であるが、帝国軍がブンゴロド租借地に立ち入る際は事前通告が義務付けられているし、随伴する兵員は1個中隊以内と決められてるらしい。
戦士長・トルケルは俺達がブンゴロドの傘下にある事を宣言。
横柄な態度でステッカーを指差しながら「俺達がケツモチしてんだ、文句あんのか?」と凄む。
無論、隊長も食い下がる。
何せもうすぐ王国との戦争が再開されるのである。
そんなタイミングで領内に王国人に潜入されるのは困る。
機密保持の観点からも絶対に看過出来ないのだ。
しばらく水掛け論が続いたが、結局は帝国側が引き下がる事になった。
【ここがブンゴロド領なのかブンゴロド租借地なのか?】
【帝国軍にどこまでの立ち入り資格があるのか?】
この2点に関しては双方が立場を譲らないまま保留。
本当はこの場で俺達を逮捕して事情聴取したかったようだが、ブンゴロドの強硬な反発により断念。
やむなくドワーフ立ち合いの元で簡易な口頭尋問に留まる。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「名前は?」
『テッド・ウォーカーです。』
「身分は?」
『農奴です。』
「その割に自由だな。
じゃあ今は農場勤務なのか?」
『あ、いえ。
今は害獣駆除などを生業にしております。』
「なるほど。
軍属ではないのだな?」
『はい、軍隊で荷運びの仕事をしていた時期はありますが…
御存知の通り我が国では農奴階級は兵士にはなれないので。』
「その証言を裏付ける証拠は?」
『えっと、背中に焼き印が押されてるのですけど…
見ます?』
「スマンがこれも任務でね。
見せてくれ。」
『…こんな感じです。』
「…B棟奴隷番号1723。
侯爵ブライアン・ゴールドバーグが銀貨200枚で購入した奴隷番号1721の実子らしき者。」
『…。』
「…服を上げて構わないぞ。」
『ありがとうございます。』
「我が国も色々と国際社会から非難される事は多いが、人間に焼き印までは押さない。
奴隷的な労働環境は存在するが、身分としての奴隷は存在しない。」
『羨ましい限りです。』
「…。」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
隊長はチラチラとトルケル戦士長を気にしながら俺に質問を重ねていく。
トルケルもトルケルでやや緊張した表情である。
自分達の縄張り内で他種族がコソコソと話し合っている状況が不快らしい。
少しでも俺達の声が小さくなると「密談はやめろ!」と怒鳴る。
なるほど、王国と帝国は不倶戴天の敵同士だが、ドワーフの目にはいつ結託してもおかしくないように映るのか。
結局、俺とハンスが【戦争への不参加】を宣誓させられる事で何とか場が収まる。
俺も背中に冷や汗をびっしり掻いたが、帝国の隊長も戦士長トルケルも気難しい顔で唸っていたので、国境と言うのはそれくらいに緊張を孕む要素なのだ。
「それでは、トルケル戦士長。
我々はこれで帰還しますが…」
「王国人の通報か?」
「ええ、先代ブンゴロド族長と皇帝陛下の取り決めです。
どうか順守をお願いしたい。」
「善処するわ。」
「…。」
「安心しろ、王国が攻めて来たら俺達だけで迎撃してやるから。」
「ええ、皆さんの御武勇に期待します。」
結局、話はそれで終了。
このステッカーには銀貨300枚以上の効力があると証明されてしまった。
癪だけど、結局世の中って暴力の大小で全てが決まってしまうんだよなあ。
俺はトルケルに礼を述べ、飲もうと取っておいたテキーラをプレゼントすると思いのほか喜んでくれる。
『ありがとうございます。
全て戦士長のお陰です。
つまらない物ですが、こちらをどうぞ。』
「おお!!
オマエは礼儀を分かっとる!
そこが素晴らしい!!
誰かに絡まれたら俺の名前を出していいからな!」
実はこういうヤクザ者の論理はあまり好きではないのだが、これだけ組織が大きくなると、そしてこれだけ社会から逸脱した生き方をしていると…
真剣にミカジメ料も必要経費に組み込まなきゃならないな。
俺とハンスは猟区に戻り、皆に事態のあらましを語った。
今回の帝国部隊との遭遇はイレギュラーだったが、今後の戦局によっては再発の可能性も十分あり得るとの見解を披露すると、皆が溜息を吐く。
「ウォーカーさん。
これからどうする?
アンタの構想を聞かせてくれ。」
『今後もミカジメ料を払うと思います。』
「ブンゴロドには払い終わっただろ。
じゃあ王国や帝国から正式に支払いを求められたら?」
『逃げ場の無い状況なら払います。』
「なーんか、受け身な構想だな。」
『但し!』
「ん?」
『私はどれだけ自分の立場が強くなっても、誰かからミカジメを取る気はありません!』
「ッ!?」
誰も何も発言しない。
そりゃあそうだろう。
俺だって、この発言の危険性くらいは重々承知しているのだから。
Lesson66 『暴力の傘を買え。』
【名前】
テッド・ウォーカー
【職業】
冒険者
ウナギの人
【スキル】
食材鑑定
高速学習
ウナギ捕獲
【資産】
銀貨31枚
鉄貨58枚
【所持品】
折り畳み釣り竿
簡易テント
大型リュック
万能ナイフ
ポートフォリオ
騎士用手袋
トラバサミ
ハンモック
業務用肉醤製造セット
荷馬車
討伐チップ (ウナギ)
ゴブリン漁網
ブンゴロド通行証
ドワーフ式の軍用テント
【生産可能品目】
山椒粉
フカヒレ
ラー油
肉醤
ジャガイモ (少量)
ウナ肝
マーガリン
【ポートフォリオ】
ホーンラビット
スライム
サンドシャーク
猪
山椒
ドブネズミ
薬草概要
蝶類概要
風琴鳥
ドワーフ
蛇モグラ
廃棄物処理法
ウナギ
ジャム
バター
【仲間】
リコ・クラーク (司書)
ジェフリー・フィッシャー (漁師)
キース・ポーター (運送業)
レオナ・レオナール (受付嬢)
グスタフ・グリルパルツァー (狩人)
トーマス・トンプソン (ひよこ鑑定師)
ヘレン・ヘイスティング (冒険者)
ノリス・ノーチラス (修理屋)
ハンス・ハックマン (農夫)
マーガレット・リンドバーグ (油脂製品製造業)
グレッグ・グッドマン (支部長)
テルマ・テイマー (飼育員)
^7@7@:;++ (先導者)
ブルース・ボブソン (漬物職人)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
(あとがき)
最後までお読みいただきありがとうございました。
このLesson(教訓)が有意義であったと感じていただけましたら、冒険の道標としてページ下部の【☆☆☆☆☆】やブックマークで評価して下さると幸いです。
ご安全に。




