Lesson64 『マーケットの感情を知れ。』
「ふはははは!
気分はどうだ、ウォーカー!
キサマの悪事もここまでだな!」
『あ、はぁ。』
役人の為に掘っていた脱出トンネルも掘り終わったので、瓢箪池でのんびりしたいのだが、グリーンタウンの中央広場に呼び出されてしまう。
そんな義理もないのだが、これ以上商業ギルドを刺激したくないので泣く泣く御隠居(元スノーシンボル乳業会長兼CEO)に付き合う。
経営破綻したものの、社名を【メシアミルク社】に変更して縮小営業しているらしい。
「我々の政治力を甘く見たのが運の尽きだ!!
なーにがマーガリンだ、卑怯な商売をしおってからに!!
だが、その悪謀も今日まで!!!
我らのバターが蘇るのだ!!」
『あ、はあ。』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【緊急マーガリン税制(グリーンタウン都市布告)】
商業ギルドから報告のあった新商品マーガリンについて、市場鎮静化の為に臨時課税を行う。
マーガリンの卸値にバターとの差額分の課税を行う。
税金は卸業者と仕入業者が折半してグリーンタウン行政府に納めること。
規定に基づき、この税収は国王陛下に献上される。
尚、税制の施行は本日本時刻からとする。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ふははははは!!
恐れ入ったか!!
これぞ営業の神髄よ!!
最後の予算を全額ロビー活動につぎ込んでやったわ!!
少しでもバターより価格を下げてみろ!!
ダンピング罪でキサマは地下牢送りだ!!」
地下牢か…
実はこの街の地下牢は軍人や役人の脱出通路になってるからな。
俺は入れて貰えないと思うぞ。
「くっくっく。
ウォーカー、目に焼き付けろ。
キサマのマーガリンが消滅する瞬間をなあ!!」
御隠居がドヤ顔でハンドサインを送ると、背後からビラを抱えた丁稚さん達が駆けて来る。
どうやらバター販促を大々的に行うようだ。
「みなさーん!!
聞いて下さい!!!
この度、マーガリンに新税が適用されました!!
バターと全く同額になるのです!!」
お客さん「マーガリンください」
お客さん「マーガリンください」
お客さん「マーガリンください」
「いいですか!!
もしもバターより低い値段のマーガリンを発見したら!!
直ちに商業ギルドまで御通報下さい!!
それはダンピングという犯罪ですからね!!
通報してくれた方には福引券をプレゼントしますよー!!」
お客さん「マーガリンください」
お客さん「マーガリンください」
お客さん「マーガリンください」
「さあさあ!!
バターはまだまだありますよー!!
芳醇な香り!
柔らかな食感!!
豊富な栄養!
さあさあ皆さん!!
食卓に必須なバターの売り場はここですよー!!」
お客さん「マーガリンください」
お客さん「マーガリンください」
お客さん「マーガリンください」
よく分らなかったのだが、俺も忙しいので冒険者の宿に帰ることにした。
『じゃ、御隠居。
我々はここで。』
「ま、待て!!
まだバター戦争の決着が着いておらんぞ!!」
『いやー。
決着も何も、同じ値段ならバターを普通は買うでしょう。』
「お!?
そう思う?
キサマもそう思う?
思うよなー?」
『そりゃあバターの方が美味しいですし。
値上がりしてしまった以上は…
マーガリンなんて自然淘汰されるでしょ、常識的に考えて。』
「ふははははは!!
少しは世の中の仕組みが分かっているようじゃないか!!
ザマーミロ!!
我々のバターがキサマの偽物なんぞに負ける訳がないのだ!!」
お客さん「マーガリンください」
お客さん「マーガリンください」
お客さん「マーガリンください」
どうやら話は終わったらしい。
やれやれ、やっと帰れる。
実は今週中にブンゴロド族のドワーフ砦に出頭しなきゃいけないんだよな。
ほら、冒険者の宿の予算で猟区を買っただろ?
そのレクチャーを受けなきゃならないんだよ。
人間種とドワーフ種じゃ、法律や習慣が全然違うからな。
早急に把握してメンバーで共有しなくちゃ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ポーターの馬車に揺られて帰路に着く。
地下道仕事以降、随分時間を盗まれてしまったのが悔しい。
「テッドさん。
私は今回の地下通路案件を請け負ったのは良かったと思うんです。」
『そうでしょうか?
随分と冒険者業が滞ってしまいましたが…』
「でも、私達の立場が不安定である以上、役所とのパイプは保持しておくべきです。」
『まあ、確かに。
今回の一件で多くの兵隊さんや役人さんと面識が出来ました。
クラークさんの仰る通りかも知れません。』
荷台の中には俺とクラーク女史。
トムにも中で休憩するように言ったのだが、「馬車の操作を覚えたい」と言ってポーターの御者台に座ってしまった。
最近の若い子にしては、アイツは真面目なのかも知れないな。
『それにしても困りました。
マーガリンを卸す度に税金を取られるのなら…
作る意味もないですね。』
「ええ、今ざっくりと計算してみましたが…
この税額ですと、黒字幅が殆ど無くなります。
10㌔箱1つの納品で銀貨5枚の利益が出るか出ないかですね。」
『ふむ、それじゃあ取り組む意味もないですね。
じゃあマーガレット嬢には気の毒ですが、この企画は手仕舞という事にしましょう。』
ふー、やれやれ。
ようやく、このトラウマ食材から解放されるよ。
早くバターが食卓に戻って来ないかなあ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その翌日に屋台の元締が訪ねて来た。
用件は当然マーガリン対策である。
「え?
ウォーカー君はマーガリンから手を引くの!?」
『だって、扱えば扱うほど税金を取られちゃいますし。』
「そんなの困るよー。
マーガリントースト目当てに屋台に通ってくれるお客さんも多いしさ。
屋台主達から突き上げくらって困ってるんだよ。」
最初は大袈裟に言っているのかと思ったが、どうやら本当にマーガリン目当ての常連が多いらしい。
『気持ちは分かりますけど、出荷に対して税金が掛かってしまいますから…
我々としても製造する意味は無いかな、と。』
「じゃあさ!
税金に関してはこっちが全負担ってのはどう?」
『え!?
いやいや、そんな事したら元締達の利幅が無くなっちゃうでしょう。』
「…値上げする。」
『え?』
「この際バタートーストと価格を逆転させて売ってみようと思うんだ!」
『いやいやいやいや。
マーガリンなんて所詮は代用品ですよ?
値上げしちゃったら、みんなバタートーストを頼むに決まってるじゃないですか。』
「まぁ、私もそう思うんだがね。
でも、顧客の要望に応えるのも屋台の社会的使命だから。
だから何も言わずに在庫を卸して欲しい。
頼むよ!」
『ま、まあそこまで仰るのでしたら。』
元締に強く迫られたので、在庫を幾らか卸した。
流石に税金を全額払わせるのは酷なので、ギリギリまで卸値を割り引く事で彼らの負担を軽減する事に決める。
残りの在庫はどうしよう。
あ!
ドワーフ砦に出頭する予定だったんだ。
ついでに譲渡しよう。
アイツら人間種の珍品を寄越せってうるさかったし丁度いいだろう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「おっ!
新商品かぁ!!
ようやくオメーも商売に色気出してきたかーww」
『そうっすね。
ブンゴロドの皆さんには世話になっておりますし、少しでもお役に立てればと思いまして。』
「わははww
感心感心www
で? これは固形油?」
『はい、マーガリンという獣脂です。』
「ほーん。
何?
人間種はこんなモノを喰ってるのか?」
『バターみたいにパンに塗って食べるんです。』
「は?
獣脂なんて塗ったらパンの風味が飛ぶじゃねえか。」
『ええ、私もそう思うのですが…
何故か街で流行ってしまって。』
ブンゴロド達は乱暴に箱を開けて勝手に試食を始める。
「まっず!」
『スミマセン。』
「いやいや!
人間種はこんなモノをありがたがってるの?
種族間ギャップ感じるよなぁ。」
ブンゴロド共は文句を言いながらもマーガリンをベタベタ塗ってパンを貪る。
客人の俺に勧めるという発想はないようだ。
「まっず、まっず! (ヌリヌリ)」
「人間種は舌がどうかしてるぞ。 (ヌリヌリ)」
「こんなモン喰えねーよ。 (ヌリヌリ)」
結局、無遠慮に1ロット平らげてしまった。
「ふー、マズかったァ。」
「これは無いな。」
「食いモンじゃねーよ。」
『お口に合わなかったようで申し訳ないです。
じゃ、猟区に戻りますね。』
「オイオイオイ、待て待て。」
『え?』
「え、じゃねーよ。
オマエ、売込に来たんだろ?
もっと真面目にアピールしろよ。」
『あ、いや。
皆さんの口には合わなかったようなので。』
「そりゃあ、人間種の食べ物が俺達と合わないのは仕方ない事だろ?
だから俺達から駄目だしされるのは仕方ないことなんだよ。
でもな?
オマエは既に俺達経由でフカヒレを帝国に流してる訳だ。
じゃあ、こっちもワンチャン狙っていかなきゃ。
ラインナップの充実なんて商売の基本だぞ。」
『あ、すみません。
勉強になります。』
「で?」
『はい?』
「いやいや、PRだよPR。
この獣脂をちょっくらプレゼンしてみろ。」
『いやあ、プレゼンと申しましても。』
「長所を言え、商品の長所を。」
『うーーん。
王国ではバターが値上がりしてみんなが困ってたんです。』
「ふむ。」
『それで…
用途の似たこの【マーガリン】を売り出してみた所、置き換わってしまって。
バターよりパンに塗り易いみたいなんですよ。』
「ああ、それはあるな。
スルっとパンに広がった。」
『あ、それと。
このマーガリンを発明したリンドバーグ氏が乳製品アレルギーだったそうなんです。』
「ああ、人間種にはたまに居るよな。
乳製品が駄目な奴。」
『ええ、それで。
アレルギーの人には喜ばれるかな、と。』
「いいじゃねーか。
そういう大事な事はもっと早く言え。
商売ってのはガンガンPRしてナンボだぞ。」
『スミマセン。』
「おっし。
じゃあ、次のフカヒレ取引の時に、このマーガリンも帝国人に売り込んでおいてやる。」
『え、いいんですか?
ありがとうございます。』
ドワーフ達は「マズいマズい」と連呼しながらも、マーガリンを炙ったり熔かしたりして味変して貪っている。
最初は卑しい奴らだと感じたが、よくよく観察していると彼らなりにセールス方法を模索しているらしい。
最後に、彼らが即興で編み出した【マーガリン焼きニンニク】を食べさせて貰う。
『あ、美味しいです。』
「あのなあ、ウォーカー。
こんなモン商売の基本だぞ。
オマエもまだまだ若いんだから、横着せずにもっと真面目に生きろ。」
最後にブンゴロド達は呆れながら土産を持たせて帰してくれた。
何だかんだで俺達は気に入って貰えているらしい。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
マーガリン税の話を聞いて、冒険者達は大いに落胆した。
特に生産仕事を好む者達にとってはショックだったらしい。
ただ丁度、大根村が人参のピクルスを大量に仕込む時期だったので、そちらに吸収されていった。
ポーターは材木運搬に、トムはヒヨコにそれぞれ戻った。
マーガレットは亡父の想い出のシノギが封じられた所為で落ち込んでいる。
「テッドさんは平気なんですか?」
『え?
何がですか?』
「折角の新商売が駄目になっちゃったじゃないですか。」
『ああ、その事ですか。
別に私はマーガリン屋では無いので…
他の注文も溜まっていますし、獲ったウナギをグリーンタウンに納品に行かなきゃ。』
丁度クラークが街に戻る日だったので、ウナギの生簀と一緒に積んで送迎することにした。
自画自賛する訳ではないが、俺の手綱捌きも相当上達した。
街門を潜る際、両脇に陣取っているキッチン馬車の連中に声を掛けられる。
「おーう、ウォーカー!
マーガリン商売潰されたそうじゃねーか。
これからどうするんだー?」
『不本意ながらウナギに戻ります。』
「あはははは!
オマエは食いっぱぐれがないからいいよなあ。」
『良くないっすよ。
ウナギ係代わりましょうか?』
「やだよ、水が冷たいもんww」
『ほらー、全然良くないww』
「『はっはっはww』」
もう少し雑談を楽しみたかったが、労働者の一団が屋台に並び始めたので退散した。
お客さん「マーガリンください」
お客さん「マーガリンください」
お客さん「マーガリンください」
『ねえ、クラークさん。
どうしてみんなマーガリントーストを買うんですか?
今やバタートーストより高いのに。』
「え?
でも美味しいじゃないですか。」
『いやいや、バターの方が美味しいですよ。
比べるまでもないです。』
「口当たりが軽いからじゃないですか?
ほら、屋台って食事の合間の間食じゃないですか。
お腹が膨れすぎても困るからマーガリントーストを頼むんですよ。」
『なるほど。』
お客さん「マーガリンください」
お客さん「マーガリンください」
お客さん「マーガリンください」
『…。』
うーーーん。
理解出来ないなあ。
屋台の値札を覗き込むが、どの店もマーガリンはバターと同額かやや高いかである。
こんなに皆がマーガリンばかりを頼むのは不自然ではないだろうか。
『…。』
「…。」
クラークも違和感を持ったのか、2人で注意深く屋台を覗き込みながら大通りを進む。
お客さん「マーガリンください」
お客さん「マーガリンください」
お客さん「マーガリンください」
「テッドさん、やっぱり。」
『ええ、明らかに顧客が意識してマーガリンを選択しています。
どうしてだろう?』
「今、数えてみましたが…
売れ行きは、バター2にマーガリン8の比率ですね。」
『2割しかバターを選ばないのは不自然だと思うのですが…
クラークさんはどう思いますか?』
「ええ、明らかに異常だと思います。」
2人で首を捻りながら契約店舗にウナギを卸していく。
ウナギをパンに挟んだだけのウナドンもすっかりホットドッグにとって代わってしまった。
最近ではホットドッグを扱ってない屋台も増えたので、愛好家の俺としては非常に辛い。
「あっはっは!
そんなの当たり前だろw」
ウナドン屋の大将にウナギを卸す際、バターサンド不調の疑問をぶつけてみると一笑に付されてしまう。
大将は真顔に戻って俺に耳打ちする。
「みんな商業ギルドのやり方には腹を立てているからな。
オマエだってそうだろ?」
『まあ、昔からああいう連中ですものね。』
大将曰く、商業ギルドの阿漕な商売には皆が不快感を持っていたが、昨今のソーセージ・バターの価格吊り上げ工作で我慢の限界に達したらしい。
「ウナギもマーガリンも所詮は代用品だよ。
そこまで旨いとは誰も思ってない…
でもさ、俺達がそれを食べることで商業ギルドの連中が困るんなら…
なんか嬉しいじゃん。」
『え?
まさか、そんな理由でバターを我慢してるんですか?』
「驚くことか?
怒りは人間の中で最も純粋な感情だと思うが。」
『…。』
「俺達零細飲食業者はさぁ。
ギルドの奴らには泣かされっぱなしさ。
仕返しをしてやりたかったが、手段が見つからなかった。
だが、オマエがウナギとマーガリンを提案してくれた。」
『ま、まさか。』
「一応念を押しておくが…
示し合わせてバターを排除した訳じゃないんだ。
現場の屋台主の1人1人が、顧客の1人1人が…
ギルドへの日頃の恨みを晴らす為に、ウナギやマーガリンを選んだ。
俺達には何の力もないからさ。
屋台主は顧客に【マーガリンが流行ってるよ】と一言添えただけ。
顧客は【最近流行りのマーガリンにしようぜ】と周りに呼びかけるだけ。
…それが、この現状なんだよ。」
お客さん「マーガリンください」
お客さん「マーガリンください」
お客さん「マーガリンください」
『私はそこまでは考えてませんでしたが…
なるほど、共感出来ます。』
「ここだけの話しだけどな。
精肉大手の(株)ホープミート。
来月には経営破綻するぜ?」
『まさか?
業界屈指の老舗じゃないですか。』
「あそこの社長は商業ギルド理事の権限を使って、ソーセージの値段を吊り上げ続けてきた。
ホットドッグを扱ってる屋台は全員恨んでるよ。
そんな時に、オマエがウナドンを提案してくれたからさ…
わかるだろ?」
『ひょっとして皆がウナギを買ってくれたのは…』
「不当に値上げされたソーセージなんか仕入れたくなかった。
不当に値上げされたバターなんて仕入れたくなかった。
だから各屋台がウナドンとマーガリンサンドを前面に出した。
顧客もちゃんと意図を汲んでくれた。」
お客さん「マーガリンください」
お客さん「マーガリンください」
お客さん「マーガリンください」
俺とクラークは再度屋台を観察する。
すると、どこの屋台もマーガリントーストやウナドンのPOPでバタートーストやホットドッグのそれを巧妙に覆っていた。
「下らねえ手口だろ?
でも、俺達にはこんな戦い方しか出来ないんだよ。」
『いえ、私も無力なので…
下らないとは感じません。』
「バターが売れなきゃ多くのギルド幹部が破産するって噂は本当なのか?」
『はい、それは間違いないです。
スノーシンボル乳業の御隠居が言ってました。
商業ギルドの理事達がバター高騰計画に出資してたみたいで。
相当資金繰りが苦しいみたいですよ。』
「おっし、もうひと頑張りだ。」
お客さん「マーガリンください」
お客さん「マーガリンください」
お客さん「マーガリンください」
「なあウォーカー。
1つお願いがあるんだ。」
『はい。』
「ウナギとマーガリンの供給、続けてくれないか?
俺達は高級料亭じゃないから、多少のキズは構わねえ。
貧乏人の集まりだから、買値を上げてやる事は難しいが、皆で配達を手伝ったりして、そちらの負担を減らす努力はする。」
その後、俺はポーターを呼び寄せて一括荷下ろしの可能性を大将と協議する。
結果、これまではポーターが個々に配達していたものを大将と元締めに纏めて届ける事が許される。
(但し、安定した供給量が要求される。)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
俺とクラークは冒険者の宿に戻りマーガリンチームを再結集させた。
幸い、人手には困ってない。
ウナギは志願者が少なかったので駄目元で養魚に長けたゴブリンに相談してみる。
【活ウナギ1匹=鉄半㌔(鉄貨500枚)=麦5合】
粘土板での筆談で色々話し合っているうちに、そんなレートが出来上がった。
流石に麦は余ってないので、余剰の鉄を密かに集めさせて対ゴブリン交易の決裁通貨として用いる事にする。
彼らはラマの背にウナギの泳ぐ水瓶を括りつけて瓢箪池に納品に来てくれることになった。
お客さん「マーガリンください」
お客さん「マーガリンください」
お客さん「マーガリンください」
翌月になると、完全に大勢は決していた。
顧客は示し合わせたようにやや割高なマーガリントーストを買い求め、バターの消費量は目に見えて激減していた。
「見つけたぞウォーカー!
待てッ!!」
『ああ、御隠居。
お久しぶりです。』
「…キサマ何をした?」
『はい?』
「とぼけるな!!!
誰もバターを買わなくなった!!
マーガリンより安いのに!!」
『はぁ…
まあ、買い物は個々の自由ですから。』
「グリーンタウンだけじゃない!!
レッドタウンでも!!
ホワイトタウンでも!!
客はマーガリンばかり食べている!!」
『え?
そうなんですか?』
「…どんな手を使った?」
『いや、普通に製造して納税と納品を行っているだけですけど。』
「…キサマの所為で我々は破滅だ。
私も今月末までに入金しなければならないキャッシュが、まだ用意出来ていない…
残ったのはバターの在庫の山だけだ。」
『ああ、そうですか。
それは御気の毒です…。』
御隠居は生気の抜けた顔でしばらく俺を凝視していたが、最後に絞り出すように問うた。
「一体キサマは何をしたんだ?
マーガリンなんて普通は売れる訳がないんだ。
あんなモノはバターの下位互換なのに!!
どれだけ考えても理由が分からない。」
お客さん「マーガリンください」
お客さん「マーガリンください」
お客さん「マーガリンください」
『みんな本当はバターが欲しいんじゃないですかね?
少なくとも私はバターが食べたいなあ。』
「だから!!!
それならどうしてバターを買ってくれないんだ!!!」
御隠居は目を見開いて咆哮すると、ガックリと肩を落として去って行った。
俺は浅く一礼して背を見送る。
お客さん「マーガリンください」
お客さん「マーガリンください」
お客さん「マーガリンください」
なあ、御隠居。
親から会社と理事職を継いだアンタには分からないかもな。
顧客は本能で知ってるんだよ。
オマエらが破滅してくれた方が最終的にバターが安くなるってな。
お客さん「マーガリンください」
お客さん「マーガリンください」
お客さん「マーガリンください」
アンタには信じられないかも知れないが、普段ギルド連中が馬鹿にしている零細業者や末端顧客にも感情はあるんだぜ。
アンタらは俺達を怒らせた。
きっと理由はただそれだけなんだろう。
お客さん「マーガリンください」
お客さん「マーガリンください」
お客さん「マーガリンください」
ふと朝から何も食べていなかった事を思い出し、屋台に寄る。
ああこの店もだ。
バタートーストのPOPの前に重なるように店の立て看板を置いている。
どうしてもっと早く気付かなかったのだろう。
世論はこうも雄弁なのに。
「おう、テッド君久しぶりー。
今日は何を食べていくー?」
『マーガリンください』
どうしてもっと早く気付かなかったのだろう。
チカラなら俺達にだってあるじゃないか。
Lesson65 『マーケットの感情を知れ。』
【名前】
テッド・ウォーカー
【職業】
冒険者
ウナギの人
【スキル】
食材鑑定
高速学習
ウナギ捕獲
【資産】
銀貨31枚
鉄貨58枚
【所持品】
折り畳み釣り竿
簡易テント
大型リュック
万能ナイフ
ポートフォリオ
騎士用手袋
トラバサミ
ハンモック
業務用肉醤製造セット
荷馬車
討伐チップ (ウナギ)
ゴブリン漁網
ブンゴロド通行証
【生産可能品目】
山椒粉
フカヒレ
ラー油
肉醤
ジャガイモ (少量)
ウナ肝
マーガリン
【ポートフォリオ】
ホーンラビット
スライム
サンドシャーク
猪
山椒
ドブネズミ
薬草概要
蝶類概要
風琴鳥
ドワーフ
蛇モグラ
廃棄物処理法
ウナギ
ジャム
バター
【仲間】
リコ・クラーク (司書)
ジェフリー・フィッシャー (漁師)
キース・ポーター (運送業)
レオナ・レオナール (受付嬢)
グスタフ・グリルパルツァー (狩人)
トーマス・トンプソン (ひよこ鑑定師)
ヘレン・ヘイスティング (冒険者)
ノリス・ノーチラス (修理屋)
ハンス・ハックマン (農夫)
マーガレット・リンドバーグ (油脂製品製造業)
グレッグ・グッドマン (支部長)
テルマ・テイマー (飼育員)
^7@7@:;++ (先導者)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
(あとがき)
最後までお読みいただきありがとうございました。
このLesson(教訓)が有意義であったと感じていただけましたら、冒険の道標としてページ下部の【☆☆☆☆☆】やブックマークで評価して下さると幸いです。
ご安全に。




