Lesson62 『顧客の好みに迎合せよ。』
グリーンタウンの役所から地下道整備依頼を請けれたので莫大なカネが冒険者の宿に転がり込んだ。
そりゃあみんなが公共事業に食い込みたがる訳だ。
今回の地下道整備は言ってしまえば役人達の脱出路確保である。
自分の命が懸っているだけに彼らは惜し気もなく予算を俺に下ろした。
役人達は恩着せがましい言動を繰り返すが、元は人民から奪ったカネである自覚はない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「師匠、ひょっとして開通しちゃったんですか?」
『そりゃあ、ゴブリン勢が優秀だからね。』
今回、助っ人として3名のゴブリンを雇入れた。
前回活躍してくれた^7@7@:;++が引率している。
やはりゴブリンというのは暗所に相当強い種族らしく、真っ暗闇の中を文字通り手探りで進み、手際良く光源を設置してくれた。
そう、現場に投入した途端に失われていた脱出路跡を発見し、その日のうちに城壁の外までのルートを確保してくれたのだ。
無論、彼らの存在が役人にバレると厄介なので、開通と同時にポーターの馬車で瓢箪池まで帰した。
報酬には鉄と穀物、そしてオマケとして大根村のピクルスを1樽支払った。
「でも、まだ報告しないんですね?」
『だって、作業が早過ぎたら怪しいでしょ。』
「ですよね。
この手の公共事業って普通は1ヶ月以上掛かるってハンス叔父さんも言ってました。」
『とりあえず、私は地下道入り口の飯場で寝泊まりするよ。』
「俺もお供します!」
『オイオイ。
子供が寝泊まりする場所じゃないよ。
下水の側で寝かしたんじゃ、ご両親に合わせる顔がない。』
「子供である以前に一番弟子です!」
結局、押し切られる。
この年頃の子って大人の言う事聞かないから辛いよな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
飯場と言っても、地下通路入り口の脇に建てたバラックなのだが、そこに土木や閉所作業に長けた者を集めて寝泊まりする。
流石に埋もれていた地下道を初日で開通させたという事実は周囲に脅威を与えかねないので、最低でも2週間は粘るつもりだ。
(先日、軍の為に整備した地下道と違って殆ど埋もれていたからね。)
あまりに仕事が早すぎるとありがたみを感じて貰えないので仕方ない。
『では、皆さん。
あまり意味の無い作業かと思いますが、この脇に排土を積み上げましょう。
反対側のゴザの上にはモンスターの死骸を並べます。』
「ウォーカーさん。
さっき、リバースネークを仕留めたんだ。
これも並べていいかい?」
『おお!
エヴァンスさん助かります!!
かなり雰囲気出ますよ!!』
眼前のエドウィン・エヴァンスは瓢箪池のキャラバンメンバーの1人。
俺と共にシルバータウンに馬車を仕入れにいった事もあり気心が知れている。
腕が立つ上にサバイバル知識習得に熱心なので皆から頼りにされている男だ。
「要するにアレでしょ?
熱心に仕事をしてる印象を役人に与えればいいんだよね?」
『はい、仰る通りです。
想定以上の額での契約ですから、極力不信感を持たれたくないのです。』
一同が深く頷く。
それから数日、飯場の脇に排土を積み上げ続けた。
遠目から眺めてみるが、確かに頑張って仕事をしているように見える。
様子を見に来た小役人たちも「これで戦争に間に合いそうですね。」と満足顔だ。
どうやら彼らは城を枕に討ち死にする気は毛頭なく、敵が近づいた途端に逃げる算段らしい。
『それなら、開戦前に離脱すれば良いですのに。』
「いやいや馬鹿を言っちゃいけないよ。
ボーナスの支給日前にそんな事をしたら損じゃないか。」
なるほど、予想通りの回答ありがとうよ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
世の中と言うのは奇妙なもので、大袈裟に苦労しているフリをすればするほど役人達の機嫌は良くなっていった。
排土を高々と積み上げ、モンスターの死骸を際限なく並べる度に役人達はキャーキャー喜んだ。
「ウォーカーさん、いつ頃開通するかね?」
『えっとですねえ。』
役人達の表情を探りながら慎重に答えを選ぶ。
「大変かも知れないが、今月中に開通してくれたら非常に助かる。」
『え?
そうなんですか?』
「書類の辻褄とか、色々あるじゃない。」
『なるほど。』
「やっぱり今月中は難しいよね?」
『分りました!!
間に合うか分かりませんが、突貫で行います!』
「いやあ、済まないね。
あ、そうだ!
軍の放出レーション!
本当は処分する規定なんだけど、良かったら冒険者諸君で食べてよ。
資材局に馬車を付けてくれたら譲渡するから。
あ! 勿論オフレコで頼むよ!!」
一事が万事そんな感じ。
役人というのは、こんな辺境でも莫大な物資を抱え込んでおり、日頃人民に還元することなど一切しないが、恩を着せたい場面では惜しげなく振舞ってくる。
自腹でない分、信じ難いほどに気前が良い。
結局、レーションは馬車一杯に貰えた。
全体の2割はゴブリン集落へ追加報酬として支払う。
後は冒険者の宿に預け、【弁当キャンペーン】という名目で依頼を請けてくれた者に支給させることにした。
「師匠、役人がこんなに気前が良いなんて想像もしてませんでした。」
『彼らは働くフリをしてやると喜ぶ。』
「どうしてですか?」
『さあ、シンパシーが湧くんじゃないかな。』
俺も最近、ようやく役所相手の呼吸が分かって来た。
彼らは成果よりも【やってる感】が見たいのだ。
途中、水路で行政官の階級章らしきもの(結構年代物だ)が落ちていたので、役所に恭しく届けたら部長クラスが出てきて、無邪気に喜び握手まで求められてしまった。
まだ言語化は出来ないが、何となく彼らのツボは理解出来る。
『トム君、ゴメンな。
こんな長丁場になって。』
「いえいえ。」
『書類の都合上、3日後に開通したら向こうが喜んでくれるから。』
「2日後じゃ駄目なんですか?」
『駄目駄目、清掃強化期間と被るのはマズいらしい。』
「1日しか変わらないじゃないですか。」
『私もそう思ったけどさ。
でも彼らが真顔で言うんだから仕方ない。
役所には役所の論理があるんだよ。』
「そっすか。
俺、役所勤めは無理っぽいです。」
『うん、私もどちらかと言うと苦手かな。』
「あ!
師匠!!
役人が降りて来ます!」
『よし!!
働いているフリをするぞ!』
「はい!!」
俺とトムは排土の側まで駆けていき、意味ありげにスコップをコネコネする。
2人でアリゲーターの死骸を右にやったり左にやったり。
そして額の汗を拭いながら言うのだ。
『「ふー!
忙しい忙しい!!」』
そんな俺達の姿を確認すると、役人達は機嫌良くニコニコと笑いながら去っていく。
馬鹿々々しい光景だが、お互い仕事なので仕方ない。
『トム君、行ったかい?』
「はい、満足気に帰って行きました。」
念の為、スコップをガチャガチャと鳴らして仕事するフリを続ける。
トムは水路への梯子を掃除するかのように装い、まだ役人が監視してないかを警戒する。
仕事とは言え、若者にこういう不健全な仕事を覚えさせるのは不本意だよなあ。
ちなみに、こんな茶番に対して1日あたり銀貨7000枚が支払われているのだから、世の人がこぞって官吏になりたがる事を責めるのは難しい。
Lesson63 『顧客の好みに迎合せよ。』
【名前】
テッド・ウォーカー
【職業】
冒険者
ウナギの人
【スキル】
食材鑑定
高速学習
ウナギ捕獲
【資産】
銀貨51枚
鉄貨15枚
【所持品】
折り畳み釣り竿
簡易テント
大型リュック
万能ナイフ
ポートフォリオ
騎士用手袋
トラバサミ
ハンモック
業務用肉醤製造セット
荷馬車
討伐チップ (ウナギ)
ゴブリン漁網
ブンゴロド通行証
【生産可能品目】
山椒粉
フカヒレ
ラー油
肉醤
ジャガイモ (少量)
ウナ肝
マーガリン
【ポートフォリオ】
ホーンラビット
スライム
サンドシャーク
猪
山椒
ドブネズミ
薬草概要
蝶類概要
風琴鳥
ドワーフ
蛇モグラ
廃棄物処理法
ウナギ
ジャム
【仲間】
リコ・クラーク (司書)
ジェフリー・フィッシャー (漁師)
キース・ポーター (運送業)
レオナ・レオナール (受付嬢)
グスタフ・グリルパルツァー (狩人)
トーマス・トンプソン (ひよこ鑑定師)
ヘレン・ヘイスティング (冒険者)
ノリス・ノーチラス (修理屋)
ハンス・ハックマン (農夫)
マーガレット・リンドバーグ (油脂製品製造業)
グレッグ・グッドマン (支部長)
テルマ・テイマー (飼育員)
^7@7@:;++ (先導者)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
(あとがき)
最後までお読みいただきありがとうございました。
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ご安全に。




