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Lesson61 『ブラックボックスを持て。』

現在、俺達は地下迷宮をひたすら進んでいる。

元はグリーンタウンでも用いられていた地下牢を増築して作られた脱出通路らしい。


もっとも、役人達は牢も通路も迷路も纏めて【ダンジョン】と呼称している。

普段は言葉の定義にアレだけ役人共が故意に大雑把な物言いをする理由はシンプル。

自分達が直接関与したくない時、彼らはしばしばそういうシグナルを出す。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




地下迷宮(ダンジョン)探索メンバー】



「テッド・ウォーカー」


地下作業経験豊富。

暗所・閉所は嫌いだが適性は高いと評されている。



「ジェフリー・フィッシャー」


腕っぷしが強い。

機転が利く上に勘も良い。



「ケヴィン・コリンズ」


最強冒険者。

コイツ1人で大抵の事は何とでもなる。



「^7@7@:;++」


助っ人ゴブリン。

作戦趣旨を理解しているものと信じたい。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「@p99:^-ッ!!」



^7@7@:;++が短く叫ぶ。

流石にこれだけ繰り返されると嫌でも覚えてしまう。

敵襲合図なのだ。



「皆さん、下がっていて下さい!」



屋内戦用の小型戦斧を構えたケヴィンが一歩進む。

この男だけに戦わせるのは心苦しいが、俺が戦闘に混ざっても足手纏いなだけなので、邪魔にならないように下がる。

ジェフは分担を割り切っているのか、背後・足元・天井に素早く目線を切り替えながら奇襲を警戒していた。



「フンッ!!」



またしても一撃。

ケヴィンの戦斧に頭部を砕かれた爬虫類型モンスターは僅かに痙攣したが、すぐに事切れた。



『ケヴィンさん、お見事です。

貴方が居てくれて良かった。』



「いえ、^7@7@:;++さんが発見してくれなかったら、きっと不覚を取っていたことでしょう。」



相変わらず謙虚な男だ。

ケヴィン・コリンズは俺達冒険者の中で紛れもなく最強であり、数々の大手柄を挙げて来たにも関わらず、それを誇示するところが一切ない。

それどころか、いつもニコニコと物静かに控えているのだ。

だが危険が迫ると誰よりも勇敢に矢面に立つ。

これ程の逸材が冒険者登録してくれた事は俺にとって無上の幸運である。

そしてゴブリン集落が派遣してくれた^7@7@:;++も恐らくはケヴィンの様な立ち位置なのだろう。

明らかに他のゴブリンとは面構えが異なっていた。


迷宮探索を押し付けられた俺は、ゴブリン集落に閉所作業用の道具を求めに行った。

彼らが地下種族らしいと最近理解して来たからだ。

カンテラの様な照明具があれば売って欲しいと思ったのだが、粘土板に絵を描きながら筆談していると^7@7@:;++を推挙された。


どうやらゴブリン達は掘削作業能力を売り込みたいらしく、即興で穴を掘って大岩の下を潜るパフォーマンスを実演してみせた。

要は「穴掘り需要があれば是非雇ってくれ。」という意味なのだろう。

俺は^7@7@:;++の傭兵料として少なくない量の鉄を支払った。

彼らの表情を見るに、満足のいく取引らしかった。


推挙されただけあって、^7@7@:;++の索敵能力は秀逸だ。

危険を正確に知らせてくれるし、小型のモンスター程度なら俊敏な短剣捌きで一蹴する。



『#$%(@@6。 (ありがとう)』



カタコトのゴブリン語で俺が感謝の意を示すと、少しだけ照れたような笑顔を見せてくれた。



「#$%(@@6。」「#$%(@@6。」



ジェフとケヴィンも俺に倣う。

少しでも感謝と畏敬の念が^7@7@:;++に伝わって欲しいと俺達は考えている。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



先週末。

グリーンタウンの役人が冒険者の宿にやって来たのは突然のことだった。

瓢箪池のキャラバンがバレたかと内心焦ったのだが、そういう話ではなかった。

この稼業が咎められる気配すら無かった。

(地元採用のノンキャリ役人は全員この冒険者の宿を知っているとのこと。)



『え?

下水整備ですか…。』



「うむ。

以前から公共事業として入札を募っていたのだがね、誰も挙手しなかったのだ。」



そりゃあ、そうだろう。

下水仕事なんて低賃金でコキ使われて、挙句の果てに皆から蔑まれるからな。



「まあ、厳密に言えば下水道から伸びている地下通路の整備作業だ。」



『地下通路… ですか?』



「元々は地下牢を拡張して建造された隠し通路でね。」



役人はそこまで言ってから黙り込み、俺の反応を観察している。

地下牢? 隠し通路?

ヤバい案件なのか?



『すみません。

地下牢となると、公共インフラですよね?

御存知かも知れませんが、私は農奴身分です。

そもそも関与する資格がないのでは?』



「いやいやいや!

今の時代に身分なんてどうでもいいじゃないか!

引き受けて貰わねば困るんだよ!

もうすぐ戦そ…」



思わず口を噤んだ続きはよく分かる。

【もうすぐ戦争が始まるから前線都市であるグリーンタウンを大至急整備しなくてはならない】

という趣旨の話なのだろう。

帝国軍が王国に侵攻する為にはグリーンタウンを陥落させる必要があり、彼らが第一攻撃目標としているのは明らかだからだ。

そして母親を魔女呼ばわりされた帝国皇帝が怒り狂っている為、帝国軍の攻撃が苛烈になる事は目に見えている。

さて、いつもならば王都から援軍が派遣されグリーンタウンの防備を固めてくれるのだが、どうやら今回は異なるらしい



「国王陛下はレッドタウンを防衛ラインに定めるおつもりらしい。

既に第一師団はレッド砦の修繕に取り掛かっている。」



『え?

じゃあ、グリーンタウンの防衛はどうなるんですか?』



「…私が知りたいくらいだよ。」



あくまで下級役人がソース元なので、どこまで真に受けていいのか分からないのだが…

帝国軍に国境を突破された場合、平地にあって守りにくいグリーンタウンではなく、峻険な地形を活用可能なレッドタウンで防ぐ事を上層部が既に決めているようなのだ。

つまりグリーンタウンは防衛対象ではなく、足止め用の捨て駒とする判断。

軍学的には正しいらしいのだが、捨て駒にとっては堪ったものではない。


兎に角、グリーンタウンの防衛は自主性に任せられてしまったとのこと。

驚愕した駐屯兵達が慌てて脱出の為の隠し通路を掘り起こし始めたのが、今回の依頼(?)の経緯。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



『ジェフ、どうだ?

外には通じてそうか?』



爬虫類型モンスターの死骸の胴に縄を括り、藁ソリに乗せてから小刻みに揺らして合図。

下水道の入り口で待機している予備班がズルズルと縄を手繰って、死骸を回収する。

嘘か真か討伐したモンスターの数と質に応じて補助金が支給されるらしいからな。

きっちり稼いで帰ろう。



「テッド、^7@7@:;++が何かを訴えている。」



見ればカンテラに照らされた^7@7@:;++が、ジェスチャーで斜め上を何度も指差している。

恐らくは地上が近いと言いたいのだろう。

彼は腰に差していた簡易シャベルで目の前の瓦礫をツンツン突いた。

【この瓦礫を掻き分けて地上に出てしまって構わないか?】

という意図であると解釈し、俺は大きく頷いてから^7@7@:;++の肩を優しく叩いた。

そこからはまさしく神業、彼は機敏にシャベルを動かし、みるみるうちに瓦礫を掻き分けて行く。

この矮躯のどこにそんなチカラが秘められているのかと感嘆するばかりである。



「ああ、ウォーカーさん。

理解しました。

これは恐らく城外の井戸に通じる通路ですね。

きっと石壁が崩れていたのでしょう。」



ケヴィンの推測は正しく、20分もしないうちに^7@7@:;++は鉄ハシゴのある地下空間を掘り当てた。



「gg+8>p^k@?」



表情から察するに【これでいいんですよね?】という確認だろう。

俺は何度も頷き、^7@7@:;++に鉄貨を握らせようとするが、はにかんだような笑顔で拒絶される。

恐らくは部族から私的に褒賞を受け取る事が禁止されているのだろう。

俺も強いるつもりはなく、笑顔で^7@7@:;++の手を取り握手する。

やや強く握り返してくれた所を見ると多少は意図が通じたのかも知れない。



「テッド!

間違いない、グリーンタウン北側の駐兵場の井戸だ!」



素早く鉄ハシゴを駆け上がっていたジェフが上から叫んだ。



『よし!

依頼完了だ!!

合図を頼む!!』



「応ッ!!」



俺が投げ渡したホイッスルをジェフが力いっぱい吹く。

^7@7@:;++は聞き慣れぬ音に少し怯えた様子だったが、俺と目が合うとすぐに落ち着いてくれた。

そう、彼が一番緊張を強いられていたのだ。

何せ人間種という故郷を奪った敵性種族に紛れて仕事をしているのだから。


^7@7@:;++にフードを目深に被らせて来た道を戻る。

往路で発光石を設置したので帰りは楽なものだった。

入り口近くでトムが【OK】の合図を出したので、役人が戻って来る前に^7@7@:;++を馬車に隠してポーターに瓢箪池まで送迎させる。

無論、成功報酬の鉄塊と心づけのキビ1石と共にである。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「師匠、お疲れ様です。」



『いやいや、私は大した事はしていない。

全て3人の活躍だよ。』



トムは何も言わずに話を続ける。



「ポーターさんの馬車は無事に城門を出ました。

^7@7@:;++の事は誰にも悟られてません。」



『うん、ゴメン。』



「師匠、謝らなきゃいけない事をしたんですか?」



『法律的には何の問題もない。』



そう、王国法のどこにも【作業にゴブリンを使ってはならない】などという文言は使われていない。

無論、バレたら悲惨な目には遭わされるだろうが。



「つまりリターンが大きいと判断したということですね?」



『そうだね。

商業ギルド傘下の御用業者が逃げた案件を成功させた意義は大きいかな。』



「まあ、あんなにデカいアリゲーターが棲みついているなんて驚きですよね。」



『うん。』



昔はアリゲーターを政治犯の処刑や拷問に用いたという逸話が残っているからな。

きっとあそこに並べられている死骸もその末裔なのだろう。


その後、合流した役人は「こんなバケモノが居るなんて知らなかった」と何度も強弁する。

聞かれてもいないのに、台本でもあるかの如くペラペラと言い訳するという事は、そういう事なのだろう。


ジェフ、ケヴィン、^7@7@:;++、そして後ろでサポートしてくれた皆。

彼らが居なければ俺はアリゲーターの餌になっていた事だろう。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



信じ難いことに約束の銀貨5万枚は即日支払われた。

アリゲーター13匹分の討伐報酬もだ。



「まさか、即日頂けるなんて…」



『いえいえ、ケヴィンさんはそれだけの働きをしてくれましたから。』



無論、ケヴィン・コリンズの驚愕は俺がその場で分配金を手渡した事に対する物ではない。

普段は渋い役所が上機嫌で銀貨を渡して来たことに対してである。



「ケヴィンさん。

役所の連中は厄介仕事を押し付ける相手が見つかって嬉しいんですよ。」



ジェフの補足にケヴィンは苦笑しながら頷き、銀貨袋を大きく掲げてから帰路についた。

ちなみにケヴィンの婿入り先の宿屋・胡桃亭も貨物馬車に偽装した家馬車を最近購入したばかりである。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



グリーンタウンからの帰り際。

俺達の窓口を担当していた下級役人達が駆け寄って来る。



「ウォーカー君。

いや、ウォーカーさん。

今日は本当に助かった。

駐屯軍の連中に急かされてて困っていたんだ。」



聞けば、援軍なき籠城を命じられた駐屯兵達は半分パニックになって城外への隠し通路の復旧を下級役人に命じたらしい。

「予算は幾らでも出すから急げ!」

とのこと。


そりゃあね、自分達の生死が懸っている場面で予算は惜しまないよね。

だが、それは元々俺達から巻き上げたカネだ。



「それにしても、冒険者って凄いね!!

まさか1日で脱出路…

いっけね、この単語を使ったら怒られるんだったw

まさか1日でダンジョンを攻略するなんて。」



『いえいえ恐縮です。』



「謙遜謙遜ww

あんな真っ暗闇を掘り進むなんて…

人間業じゃないよぉww」



御名答。

流石は長年役所勤めをしているだけの事はある。



「あ、あのさ!」



『はい?』



「あの通路は軍隊が独占するつもりみたい。

出入り口に軍の立ち入り禁止看板が掲示されちゃって…

てっきり我々は使わせて貰えると期待してたんだけど、違うみたい。」



そりゃあね。

軍人ってそういう連中だからね。

今更、驚くようなことかね。



「ウォーカーさん!!

古い伝承によると西門の方にも隠し通路があるみたいなんだ!!」



『はあ、そうなんですね。』



「…い、依頼出来るかな?

無論! 予算は惜しまない!!

だって命が惜しいもの!!」



翌週、下級役人達の工作によりグリーンタウン環境局から冒険者の宿に正式に依頼が下った。

洒落にならない金額の随意契約だった。

今までの下請けイジメは何だったのかと強く問い質したい。


表向きは下水道修繕工事。

だが、その実態は忘れられた隠し通路の発見と活性化。


商業ギルド傘下の土建屋を飛ばしての受注となるが、今の所クレームは入ってないらしい。

そりゃあね、暗所・閉所でモンスターと戦闘出来る集団なんて俺達くらいしか存在しないだろうしね。

ましてや、使っているのがゴブリン式の掘削術だなんて、想像も出来ないだろう。

誰も知らないノウハウだから誰にも真似できない。

だから役人達にも強気の価格を提示出来るのだ。

どうせ俺以外にはこなせない仕事なのだから。


俺は下らない人間だ。

芸も能もないから、この歳まで流れ者生活に甘んじていた。


だが、最近になって才覚ある者を集める術を身に着けた。

当然、彼らの詳細は俺だけが把握している。


傍から見れば、テッド・ウォーカーはさぞかし有能な人間にでも映っていることだろうな。




Lesson62 『ブラックボックスを持て。』

【名前】


テッド・ウォーカー



【職業】


冒険者

ウナギの人



【スキル】


食材鑑定

高速学習

ウナギ捕獲



【資産】


銀貨53枚

鉄貨15枚



【所持品】


折り畳み釣り竿

簡易テント

大型リュック

万能ナイフ

ポートフォリオ

騎士用手袋

トラバサミ

ハンモック

業務用肉醤製造セット

荷馬車

討伐チップ (ウナギ)

ゴブリン漁網

ブンゴロド通行証




【生産可能品目】


山椒粉

フカヒレ

ラー油

肉醤

ジャガイモ (少量)

ウナ肝

マーガリン




【ポートフォリオ】


ホーンラビット

スライム

サンドシャーク

山椒

ドブネズミ

薬草概要

蝶類概要

風琴鳥

ドワーフ

蛇モグラ

廃棄物処理法

ウナギ

ジャム




【仲間】


リコ・クラーク       (司書)

ジェフリー・フィッシャー  (漁師)

キース・ポーター      (運送業)

レオナ・レオナール     (受付嬢)

グスタフ・グリルパルツァー (狩人)

トーマス・トンプソン    (ひよこ鑑定師)

ヘレン・ヘイスティング   (冒険者)

ノリス・ノーチラス     (修理屋)

ハンス・ハックマン     (農夫)

マーガレット・リンドバーグ (油脂製品製造業)

グレッグ・グッドマン    (支部長)

テルマ・テイマー      (飼育員)

^7@7@:;++         (先導者)



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



(あとがき)


最後までお読みいただきありがとうございました。

このLesson(教訓)が有意義であったと感じていただけましたら、冒険の道標としてページ下部の【☆☆☆☆☆】やブックマークで評価して下さると幸いです。


ご安全に。

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