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Lesson59 『徒党を組め。』

瓢箪池でキャンプしている馬車は200台を越えた。

今までと異なるのは、農地を捨てた者や家馬車で寝泊まりする家族が加わった事である。

キャンプでは狩猟や採集や漁労(要するに農耕以外)をして暮らしている。

皆、将来が不安なので必死にノウハウを覚えようと努力する。

そして皆、解放感がある所為なのか、こんな暮らしでも妙に機嫌が良い。



『何も田地を捨ててまで、こんな浮浪者みたいな生活を選ばなくても…』



窘める俺に皆は言う。



「ウォーカーさん、浮浪者じゃねぇ。

俺も冒険者だ!」



ここまで断言されてしまうと、それ以上強くは制止出来ない。

それに彼らから聞かされる税率…

ハンスから概要は教わっていたが、産業のある大根村や馬借村は洒落にならない額を巻き上げられており、今まで俺が持っていた本百姓への妬みが霧消する程だった。



「なぁ、ウォーカーさん。

俺は漬物作りしかしてこなかったんだが、役に立てるかい?」



『現時点では何とも言えないのですが、ボブソンさんの漬物が完成したら、ここにいる全員の栄養・精神状態が微増します。』



「じゃあ、魚醤も作らせてくれないか?」



『ここにある材料だとゴブリン式になってしまいますよ?』



「皆が嫌じゃなけりゃ構わないさ。

どうせ暇なんだ。」



一時が万事こんな感じ。

皆が暇を持て余している上に先が見えないので、過度に生産的になっている。



『あ、ボブソンさん。

頑張ってくれてるので、ご褒美のゴブリン団子です。』



「え?

いいの?」



『積極的にキャラバンに貢献してくれる人には何らかの形でプラスαを提供したいじゃないですか。』



「むしゃむしゃ。

いやぁ、すっかりこの味にも慣れたわぁ。」



『もぐもぐ。

1食浮くのは助かりますよね。』



俺にとって想定外だったのは、キャラバンの食生活がゴブリン寄りになったことである。

生活圏が隣接していると、どうしても影響を受けるのだ。

瓢箪池にはゴブリンが普通にやって来るようになったし、言葉が通じないなりに同じ舟に乗って釣りをすることすらある。

俺は彼らにこっそり鉄鉱石を融通しているし、対価として彼らはゴブリン団子やハンモックや猫をくれる。

無論、ゴブリンが苦手な者は社交には加わらないが、それでも攻撃的な態度までは取らない。

それくらいの距離感。


今思えば、このゴブリンとの交流こそが冒険者達に胆力とフランクな世界観を与えたのだろう。

ただ、この時点の俺にそこまで思い至る余裕も知見もない。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



自惚れかも知れないが、世渡りのコツが少し分かって来た気がする。

要は男が這い上がる為には、やはり徒党を組むのが一番てっとり早いという話だ。

念を押しておくが、組まれた徒党に入れて貰うのではない。

自分で一から組み上げるのだ。

問題はその徒党の組み方が分からずに、大抵の男は人生が詰む点。

かつての俺がまさしくそうだった。



『つまりさー。

【どうやって徒党を組むか】って話なんだよ。

これが分からなかった。』



「例えば、ブルータウンの生まれの俺が地元でつるむのとは違う意味なんだよな?」



『いや、地元で上手くやれてるなら、それに越した事はないと思う。

俺は根無し草だから、結果としてこうなっただけだからさ。』




俺とジェフは瓢箪池に釣竿を伸ばしながら雑談に勤しんでいた。

別に遊びではない。

粗鉄2キロと引き換えに仕入れたゴブリン式釣り竿が使えるか否かを実験中なのだ。



『必要性は漠然と理解していたんだけど…

実践出来なかったんだ。』



「ふむ。

今のテッドはちゃんと徒党を組めてるよな。」



『うん、この歳になって

ようやく世の中の仕組みが朧気に見えて来た。』



人嫌いの所為なのか、これまでの俺は何をするのも1人だった。

ただ冒険者を名乗り始めた頃から、人付き合いが増え、気がつけば200台を越える馬車の引率者となった。

今なら分かる。

底辺から這い上がるには、兎にも角にも徒党を組まなければならないのである。

繰り返すが、誰かの組んだ徒党に入れて貰う事とは全く違う。

自分で組み上げなければならない。



『人間はさぁ…

集団になると気が大きくなるだろ。』



「何?

その歳で軍隊批判?」



『いや、うん、そうかも…

昔から疑問だったんだ。

どうして兵隊って自信満々で威張り散らしてるのか。』



「それは軍隊っていう国内最大組織に属してるから態度がデカいってこと?」



『うん。

ってか王国軍なんて下手をしたら世界最強の組織だからな。

帝国軍も精強だけど、規模じゃ王国には敵わないし。』



「オマエの言いたいこと分かってきたわ。」



『…。』



瓢箪池に集まっている連中が妙に生き生きしている理由。

ようやく言語化出来た。



『結局さぁ。

頭数が揃ったから強気になってだけなんだな、俺も含めて。』



「…いや、オマエが頑張っていい環境を作ったからだよ。」



『実は、最初はそんな風にうぬぼれてた…

でも、最近なんか違うなって思い始めて。』



俺は【冒険者】というインフラを作った。

居心地の良い運用も心掛けていた。

その事で皆が喜んでくれているものとずっと思いこんでいたが…

…的外れだったな。

結局人間なんて、少しでも大きくて強い組織に属することで安心感を得る事が出来るだけの生き物なのだ。

だから皆、行政府やら軍隊やら商業ギルドやらに就職したがる。



『でもさ。

冒険者の宿はそれらに比べれば遥かに小さな存在じゃない。

みんなそれでいいのかな?』



「テッドは馬鹿だなー。

今はかなりの上り調子だろ?

瓢箪池も盛り上がってるしさ。

だから、皆が価値を見出している。

実体以上にな。」



俺は再度眼下の瓢箪池を見下ろす。

そう、ジェフの言う通りなのだ。

キャンプを称してはいるが、これは実質的に村だ。

しかも【冒険者】という能動的な連中ばかりが集まっている為、生産力が高い。


例えば朝に話した漬物職人のボブソン。

謙遜しているが、彼はこの道25年の大ベテランだ。

キャラバンに合流する際、秘蔵のピクルスを手土産として振舞ってくれたし。

魚醤製造の許可を俺が出した直後から製造に着手している。

こんな風に勤勉で一芸に秀でた人材が集まっている事が、頭数以上の熱気を産み出しているのだろう。



『なあ、ジェフ。』



「んー?」



『もっと早く知りたかったよ。

底辺から這い上がる方法。』



「何事も遅すぎるということはないさ。」



『…ありがと。』



底辺から這い上がる方法。

やはりそれは徒党を組むことなのだ。


金持ちや権力者はいつだって結託している。

既に有り余る富を持ってる癖に仲良く協調して立場をガッチリ守っている。

俺達貧民はただでさえ無力なのに、その上個々がバラバラに孤立していれば…

そりゃあ、いいようにやられる訳だよな。



『なあジェフ。』



「おう。」



『仲間を楽しませる方法ってあるかな…』



「楽しませる?」



『…。』



「そうだな、組織防衛にはレクリエーションが必要だな。」



『…ゴメン。』



「…いや、俺こそ、迂闊な言葉を使ってしまった。」



俺は、俺達はこの境遇から抜け出したい。

いや、抜け出さなければならない。

その為には【冒険者の宿】をもっと強く大きくするのが恐らくは最適解なのだろう。

但し、これは反逆罪である。

借りに俺達の行動全てが法規に抵触していなかったとしても、瓢箪池を囲む自由人達の笑顔は明白に権力への挑戦なのだ。

俺が王なら、俺達を必ず皆殺しにする。

罪状なんて気の利いた誰かが後から付け足せばいいだけなのだから。



「俺達漁師は。」



『うん。』



「豊漁の時は隣の浜の連中も招いて酒とメシを振舞う。」



『分かった。

俺もそうするよ。』



「待て。」



『ん?』



「何故、俺達がそうするのかをちゃんと理解しているのか?」



『そ、そりゃあ幸運を分かち合うことで結束を高めるっていうか…』



「違う。

嫉妬が怖いからだ。」



『…。』



「漁師が男らしいなんて嘘っぱちだからな。

俺達は常に他の舟を盗み見て、自分より魚を獲ったんじゃないかと怯えている。

【アイツが獲り過ぎたから俺の網に掛からなかったのでは?】

そんな風に猜疑し合っている。

だからこそ、うっかり豊漁に恵まれた時は皆に振舞うんだよ。

自分がいつも他人を妬んでるから、だから他人が自分の幸運をどう捉えるか…

痛い程分かってるんだ、俺達は。」



『ジェフは男らしいと思うよ。』



「そりゃあ漁師だもの。

男性性を要求されるのは当然じゃないか。

過度にそう振舞うようにガキの頃から叩き込まれている。

でも俺達だって人間だよ。

誰かが得をしたら女々しく嫉妬するのも当然だろ?」



『…。』



「でも、酒とか飯とかを奢って貰ったら…

嫉妬するに出来ないだろ?」



『…。』



「網元は俺達漁師の面倒をよく見てくれる。

しょちゅう酒を奢ってくれるし、問題を起こした時も助けてくれる。

だから奢る余裕や助ける余力を恨むのが難しい。」



『…。』



「それが徒党やリーダーシップの本質なんだと思う。」



『…ありがと。』



「ん?」



『いつも言いにくい事を打ち明けてくれてるから。』



「テッド。」



『うん。』



「豊猟祝に鍋でもするか。」



『うん!』



ジェフは馬車の脇で干していた猪肉を丁寧に切って煮込み始める。

俺も出荷用にストックしていたウナギを提供する。



「みんなー!

聞いてくれ!!」



ジェフの通る声に皆が振り向く。



「俺達のウォーカーが鍋を振舞ってくれるそうだ!

ブルータウンの酒も持って来たから、遠慮せずに呑んでくれ!!」



歓声が上がる。

皆、満面の笑顔。

だが、さっきのジェフの告白を俺は強く肝に銘じている。



【振舞う余力が憎まれない訳がない。】



それは大前提。

弁えた上で俺は徒党を組まなくてはならない。

俺達が、いや俺が生き延びる為に。



「テッド、皆が酒を遠慮してるぞ。」



『え?』



「オマエが盃に口を付けることを許可してやるんだ。」



『…。』



「安心しろ。

オマエにはその資格がある。

仮に無かったとしても俺が補ってやる。」



気が付けば、キャラバンの全員が俺を見据えていた。

古参も新参も居合わせたゴブリンも、全員が俺の言葉を待っている。



『乾杯ッ!』



盃を合わせる音は嘘のように高々と響いた。




Lesson60 『徒党を組め。』

【名前】


テッド・ウォーカー



【職業】


冒険者

ウナギの人



【スキル】


食材鑑定

高速学習

ウナギ捕獲



【資産】


銀貨57枚

鉄貨15枚



【所持品】


折り畳み釣り竿

簡易テント

大型リュック

万能ナイフ

ポートフォリオ

騎士用手袋

トラバサミ

ハンモック

業務用肉醤製造セット

荷馬車

討伐チップ (ウナギ)

ゴブリン漁網




【生産可能品目】


山椒粉

フカヒレ

ラー油

肉醤

ジャガイモ (少量)

ウナ肝

マーガリン




【ポートフォリオ】


ホーンラビット

スライム

サンドシャーク

山椒

ドブネズミ

薬草概要

蝶類概要

風琴鳥

ドワーフ

蛇モグラ

廃棄物処理法

ウナギ

ジャム




【仲間】


リコ・クラーク       (司書)

ジェフリー・フィッシャー  (漁師)

キース・ポーター      (運送業)

レオナ・レオナール     (受付嬢)

グスタフ・グリルパルツァー (狩人)

トーマス・トンプソン    (ひよこ鑑定師)

ヘレン・ヘイスティング   (冒険者)

ノリス・ノーチラス     (修理屋)

ハンス・ハックマン     (農夫)

マーガレット・リンドバーグ (油脂製品製造業)

グレッグ・グッドマン    (支部長)

テルマ・テイマー      (飼育員)



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



(あとがき)


最後までお読みいただきありがとうございました。

このLesson(教訓)が有意義であったと感じていただけましたら、冒険の道標としてページ下部の【☆☆☆☆☆】やブックマークで評価して下さると幸いです。


ご安全に。

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呑める奴には酒を奢ってやれ。酒は飲める奴でも好き嫌い呑める呑めないが出てきます。若い頃はビールが呑め無かった。スポーツの後にビールうめぇと言っているが意味分からなかった。 実際には10kmの短距離ラン…
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