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Lesson58 『可愛さは最高の弾避け。』

ゴブリンから猫を貰った。

彼らの集落に鯉を届けた際、不意に渡されたのだ。



「@cpe>>7。」



相変わらずゴブリン語は解析不能だが、表情の変化から彼らの思考は大体推測出来るようになった。

恐らく彼らは「取引にしてはこっちが貰い過ぎている。」と感じているのだろう。


【鯉1匹=ゴブリン団子5個】


俺は公平なレートだと納得しているのだが、こちらが重い水桶をロバで彼らの集落まで運んでいる点を彼らが気に病んでいるのであろう(多分)。



『えっと、これは贈り物と解釈していいのですか?

それとも新規取引?』



俺が大きな動作で自分の鉄貨袋に手を伸ばそうとすると、「6>@<9。」とハッキリと否定された。

これは全面否定を意味するゴブリン語。

俺達人間種が彼らの意図を間違って解釈しそうになった時の訂正に使われる。



『では、これは贈り物? 

私が貰って構わないという意味ですか?』



念を押すとゴブリン達は申し訳なさそうにロバを指さす。



『あ、なるほど。

猫をあげるから、これからもロバで運搬して欲しいということですね?』



俺も必死でジェスチャー。



「5^;m^7。」



よし、通じたっぽい!!

別に猫が欲しい訳では無かったが、彼らの面子を壊したくなかった。

俺は別に汎種族思想を持っている訳ではなかったが、それでも誠意には誠意で応えたいのだ。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



【ゴブリン式の猫運用】


ツリーハウスや穀類倉庫の内部で飼育することで、建物を自らの縄張りと認識させる。

猫は縄張り内のネズミや害虫を侵入者と見做し、これらを捕殺し玄関裏に放り出す。

放り出し先に関しては飼い主が指定する事が可能。

食事が終わった後で残り物を与えることによって、ボスと認識させる事が可能。


夜行性なので殺虫作業は深夜に行われる事が多い。

起床後に()()をチェックしてやると忠誠度が高まる。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「「「キャー♪

可愛いーーー!!!」」」」



受付嬢達が一斉に歓声を上げる。

女は小動物が好きだよな。

…さて、害虫駆除はどの建物でやらせようかな。



「えー?

酒場に置いちゃうんですか!?」



ポゥ女史が勝手に猫を抱き締めながら抗議する。



『いや、ネズミや虫が一番多いのが冒険者の酒場ですし。』



「はんたーい!

宿のカウンターに置きましょうよ!」



『いや、ポゥさんは在宅勤務ですから関係ないですよね?』



「じゃあ宿を替えます!

ここの子になります!!」



最初はいつもの奇行かと思ったのだが、割と本気らしい。

正直、この女は一生在宅勤務で隔離しておきたかったのだが、クラーク女史の後輩なので無下には出来ない。

結局、掃除道具置き場にしようと思っていた屋根裏部屋に間借りさせてやることにした。



『えっと、ポゥさん。

かなり住環境がレベルダウンした訳ですが、大丈夫ですか?』



「シッ!!

猫ちゃんが寝てます!!

大声を出さないで!」



『あ、はい。』



何が楽しいのかさっぱり理解出来ないのだが、ポゥは床に寝転がりながら猫をスケッチしている。

四つん這いになって「ニャアニャア」と鳴き真似をしたり、魚の骨を口移しで食べさせようともする。

いよいよ頭がおかしくなったかなとも思ったのだが、レオナール曰く昔からこういう女らしいので放置する事にした。


まあ、別に構わないか。

ポゥに期待しているのは依頼書作成だからな。

その脅威のスケッチ能力でかなり貢献してくれているので、仕事さえしてくれれば文句はない。



「テッドさん、申し訳ありません。」



『いえいえ、クラークさんが謝る事ではありませんよ。』



クラーク女史は申し訳なさそうな顔をしているが、ポゥがグリーンタウンから冒険者の宿に引っ越したおかげでスケッチの納品量が増えたので、そこまでの不利益はない。

(代わりにレオナール女史がグリーンタウンに毎週で出張し図書館での資料調査に当たるようになった。)



「この子は学生の頃から迷惑ばかり掛けて…」



『ああ、いやいや。

私は迷惑に感じてませんよ。』



無論、迷惑だ。

分別ある年齢の女子が床に寝転がって畜獣の鳴き真似をしている絵面は醜悪極まりなく、冒険者の宿の品位を著しく貶めている。



「せめて、その分働かせますから!」



『あ、はい。

どのみち私では制御不能ですので、クラークさんに全てお任せします。』



やはり、リコ・クラークは秀逸なのだろう。

スケッチ名人のポゥに仕事手順イラストを作成させ始めた。

例えばモンスターの解体手順や薬草の結束方法など。

そしてポゥが書き上げたスケッチを掲示板コーナーの反対側に【冒険マニュアル】という呼称で展示した。



『いや、恐れ入りました。

クラークさんのアイデア、凄く良いです!

皆が喜んでおります!!』



「ありがとうございます。

ポーシャも褒めてあげて下さいね。」



『あ、はい。

前向きに善処しておきます。』



冒険者が食い詰め仕事である以上、俺同様に文盲が多い。

なので、こうやってカラフルなイラストで仕事の手順を説明してくれるのは非常に助かるのだ。

この手法を考案してくれたクラークには感謝しているし…

ポゥも… うん、まあ、いいんじゃない。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「可愛い! 可愛い!」


「猫ちゃん! 猫ちゃん!」


「かわいい! かわいい!!」



猫を飼い始めてから、近所の女性陣が意味もなく集まって来るようになった。

白痴のような表情で猫と戯れては満足そうな笑顔で帰って行く。

内心迷惑なのだが、女が増えた事で男冒険者のモチベーションが劇的に向上しているので文句が言えない。

そりゃあね。

俺達男の子だもん。

女の子が増えれば増える程、気合が入るよね。

(尚、女性陣は猫しか見ていない)



「アタシ、ウォーカーさんを見直しちゃいました。」



派手目の少女に突然声を掛けられる。



『あ、ありがとうございます。』



顔に見覚えはあるが、冒険者の宿で見たのは初めてだと思う。



「ウォーカーさんって、ダサくてイケてないオッサンの典型だったんですよ。」



『…な、なるほど。』



「でも女子の評価点大幅アップです!!」



少女は撫でようとした猫に逃げられ苦笑してから再度俺に向き直った。



『…猫ですか?』



「はい!

猫が可愛いから、ウォーカーさんまで可愛く見えてきました!!」



…うん、正気の沙汰ではないな。



「だから、これからは冒険者登録してあげます!!」



『え?

いや、私は個人的には女性の冒険者登録に反対ではあるのだけど…』



「って言うか、ウォーカーさんはアタシの仲間です!」



『え?

いや、私は結構パーソナルスペース広い人間だから、そこに配慮してくれると助かるんだけど…』



「アタシの名前はテルマ・テイマー!!

役に立ってあげます!」



『え?

いや、君をこの施設で見かけるのは初めてなんだけど、何の役に立つの?』



「アタシは可愛い生き物が好きです!!」



『え?

嗜好ではなく技能を尋ねてるんだけど。』



「だから可愛い生き物に関わる仕事をしてあげます!!」



曰く、猫・兎・ロバ・ヒヨコ・子犬は可愛い生き物らしい。

それらと暮らすのが夢だったようで、実家のある大根村では家業を手伝わず子犬と遊び惚けているそうだ。



「頑張ります!!」



『あ、うん。

それじゃあホーンラビットの解体作業を裏でやってるから、手伝ってきてあげて。』



「ヤですよ!

可哀想じゃないですか!」



聞けば、可愛い動物を愛玩するのが趣味であって、それを狩ったり解体する事は言語道断とのこと。

勿論、醜い生き物も断固拒否らしい。

面倒なので口車に乗せてトムのヒヨコ鑑定業に押し付けておいた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



猫を飼い始めて2週間が経った。

本当にネズミや虫を獲ってくれる。

実に優秀かつ勤勉だ。

トムから返品されたテルマ嬢とは真逆である。


勝手口の脇に寄せられたネズミの死骸を眺めながら改めて感嘆。

いやいや、見事な腕前である。

俺達冒険者も駆除が仕事ではあるのだが、ネズミなどは小さく素早いので捕まえようがない。

だが猫は圧倒的な敏捷性で獲物を仕留めてしまう。

しかも物音一つ立てずにだ。


ネズミは病気や家具破損の元凶だからな。

これを退治してくれるのは本当に助かる。


そして認めたくないのだが、猫を愛玩する為に冒険者の宿に入り浸る女共。

コイツらを愛玩する為に男冒険者が奮戦するので、ある意味では猫が冒険者の戦意を向上させているとも言えなくはない。



「ウォーカーさん。

今日はパーティー内ディスカッションの日にしましょう!」



『ディスカッションも何もテルマさんは人の話を聞いてくれないじゃないですか。

後、貴方とパーティーを組んだ記憶はありません。』



「冒険者の宿の評判を爆上げする方法を発見したんです!!

なのでアタシが教えてあげますよ!!」



『えっと、どうせ猫を増やせとか、そういう話でしょ。』



「ぐ、ぐおおおお!!!

何故分かったぁ!!!

さ、流石はアタシのパーティーのリーダー!!

メンバーの心を読むとは恐ろしい人です!!」



『いやいや、この文脈で分からない方がおかしいでしょう。

後、貴方をパーティーに入れた記憶はありません。』



「まあいいでしょう、許してあげます。

つまり結局、猫さえ増やせば冒険者の宿は必ずやその正当性を確保出来るということなのです。」



『せ、正当性ですか…』



「あー!

その目は疑ってますね!

アタシの学説を疑ってますね!!」



『いや、学説も何も貴方は私と同じ無学サイドの人間じゃないですか。』



「キーッ!!

この権威主義者め!!


まあいいでしょう!

私が世界の真理を教えてあげます!」



で、出たー。

無学者特有の謎の誇大妄想。



『はぁ。』



「聞きたいですか?」



『いや、別に。』



「そうですか、そこまで言うのなら教えてあげましょう。

私が発見した世界の真理をね!」



『いや、別に。』



テイマー女史はドヤ顔で胸を反らす。

話を早く打ち切りたいので反論はしない。



「可愛いは正義。」



『???』



「可愛いは正義ィッ!!!」



『いや聞こえてますよ、意味が分からなかっただけで。』



「いいですかぁ。

まず可愛さはそれだけで大義名分なんです。

ここまでは理解出来ますよね?」



『いや、残念ながら。』



「あー、そこからかー!

そこからなのかー!!」



俺は忙しかったのだがテイマーは隣で御高説を披露し続ける。

ウナギ捌きを手伝ってくれる気配は無い。



「兎に角!!

可愛いは正義なのです!!」



まあ、分からないなりに分かるよ。

世の中にはビジュアル的な好感度が価値基準の全てを占めている人が案外多くて、そういう人種に対しては【可愛さ】を前面に出すのが非常に有効という話。

そして、そういう価値観は妙齢の女性に多い。


まあ、いいだろう。

コイツらの情熱に免じて、機会を見て猫を増やしてやるとするか。

女を利用すれば卑怯者扱いされるが、小動物を介してならば感謝すらされるからな。


街道から見える冒険者の宿のバルコニー。

今までは竹槍や棍棒を並べていたが、全て床下に収納させた。

代わりに猫の溜まり場にした。

そして近隣の猫好き少女達が、その周囲を満面の笑みで取り巻く。


俺は街道反対の丘に登り様々な角度から冒険者の宿を観察する。

Good!

ステルス完了!

怪しさと如何わしさが完全に消えた。

よし、このままバルコニーはずっと猫の溜まり場とする。


え?

竹槍が痛まないのかって?

大丈夫大丈夫、猫は床下にも飼ってるから。





Lesson56 『可愛さは最高の弾避け。』

【名前】


テッド・ウォーカー



【職業】


冒険者

ウナギの人



【スキル】


食材鑑定

高速学習

ウナギ捕獲



【資産】


銀貨61枚

鉄貨5枚



【所持品】


折り畳み釣り竿

簡易テント

大型リュック

万能ナイフ

ポートフォリオ

騎士用手袋

トラバサミ

ハンモック

業務用肉醤製造セット

荷馬車

討伐チップ (ウナギ)

ゴブリン漁網




【生産可能品目】


山椒粉

フカヒレ

ラー油

肉醤

ジャガイモ (少量)

ウナ肝

マーガリン




【ポートフォリオ】


ホーンラビット

スライム

サンドシャーク

山椒

ドブネズミ

薬草概要

蝶類概要

風琴鳥

ドワーフ

蛇モグラ

廃棄物処理法

ウナギ

ジャム




【仲間】


リコ・クラーク       (司書)

ジェフリー・フィッシャー  (漁師)

キース・ポーター      (運送業)

レオナ・レオナール     (受付嬢)

グスタフ・グリルパルツァー (狩人)

トーマス・トンプソン    (ひよこ鑑定師)

ヘレン・ヘイスティング   (冒険者)

ノリス・ノーチラス     (修理屋)

ハンス・ハックマン     (農夫)

マーガレット・リンドバーグ (油脂製品製造業)

グレッグ・グッドマン    (支部長)

テルマ・テイマー      (飼育員)



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



(あとがき)


最後までお読みいただきありがとうございました。

このLesson(教訓)が有意義であったと感じていただけましたら、冒険の道標としてページ下部の【☆☆☆☆☆】やブックマークで評価して下さると幸いです。


ご安全に。

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