Lesson54 『幸福を産み分かち合う者にこそ人は集まる。』
自画自賛する訳ではないのだが、俺の始めた冒険者なる商売は地域社会に大きな恩恵をもたらしたように思える。
「獣害が完全に収まりましたね。
特に猪害です。
ウォーカーさんが来られるまで、猪に荒らされ放題だったのですが…
最近は柵を張っていない芋畑すら順調に運用出来てます。」
ここは古戦場村の若村長宅。
冒険者の宿から数分の距離なので、行き来が多い。
(相手は不動産を提供してくれている最大のパトロンなので無下には出来ない)
『それは良かったです。
最初は自分でも自信がありませんでしたから。』
「後、大きな声では言えませんが、冒険者の皆さんがちょっとした荷物を馬車で運んで下さるのも助かってます。」
『…厳密にはグレーですよね?』
「はい。
なので村人には大ぴらに馬車の話をしないよう釘を刺しております。」
若村長と俺はロバに跨って村を見て回る。
以前との違いは農地を囲むフェンスである。
俺が最初に見た時、この川沿いの村のフェンスはどこもボコボコと穴が開いていたのだ。
悠々と畑を掘り返している猪までいる始末だった。
また脇道をホーンラビットがチョロチョロと走り回っていて、何度か足を刺されそうになったことさえあった。
「最近は村内で害獣を見かける事は殆どありません。
生きている猪なんて、もう何ヶ月も見てないです。
ウォーカーさんのお陰ですよ。」
『いえいえ、恐縮です。
私一人の力など微々たるもの。
古戦場村の皆さんも冒険者登録して頂いてますしね。』
「それですよ。
現金収入の選択肢が増えたのが、非常にありがたい。
ようやく皆が一息吐けました。
…税金、高いですから。」
『減税申請はやはり通りそうもないですか?
村の長老達が亡くなって、村長が継がれてからまだ1年も経ってないんですよね?』
「ええ、残念ながら。
私も最初の1年くらいは、何らかの猶予措置を貰いたかったのですが…」
かつて、村落の代替わりの際は多少の心遣いがあったらしい。
年貢の端数を割り引いてくれたり、納付期日を延長してくれたり。
無論、今は昔の物語に過ぎない。
「さて、お願いなのですが…
ウチの村で更に20台馬車を用立てて下さい。
無論、代金は頑張って工面します。」
『え?
20台!?』
「そのうち半分は家馬車で用意して頂けると助かります。」
『それはやはり…』
「馬借村とも語らって馬やロバの頭数をこっそり増やしてます。
当然、冒険者の皆さんには喜んでお譲りします。」
『そうですか、そこまで。』
「馬車に興味を持っている村人も多いですから、お手隙の時に乗せてやって下さい。」
『…はい。』
驚いたな。
俺はてっきり獣害が減って生活に余裕が出来たら、皆は喜んで農作業に精を出すと思っていた。
だが真逆だった。
獣害が減って浮いた予算は逃散の準備に回されている。
どこの村も示し合わせたようにテントを揃え、住人を積極的に冒険者登録させて野営技術を学んでいる。
以前はいがみ合っていた村々なのだが、最近は妙に親密である。
まるで共通の敵でも居るかのように。
「ヤードも随分充実してきましたね。」
『ええ、村長達のお力添えの賜物です。
くれぐれもお願いなのですが…』
「はい、絶対に目立たないようにします!」
『私も気を付けますので、当局に悟られないようにしましょう。』
一応、廃材置き場には入り口すぐの所に堆肥生成用のスライムプールを設置するなどして、一見して馬車生産工場だと分からないようにしてある。
正門を開けた瞬間に乱雑に積み上げた廃材が視界に入るように工夫もしているので、不意の監査でも一番奥まで入らないと馬車道を発見されない構造には仕上げた。
決め打ちで徹底捜索されたらアウトなのだが、並のチェックではヤードが瓢箪池への中継点になっているとは気づかれないだろう。
「私が危惧しているのは密告です。
怖いのは人間の悪意ですから。」
『…私は村々の皆さんを信じるのみです。』
無論、嘘だ。
俺だって密告は怖い。
何せ主犯だからな。
瓢箪池に溜まっている誰かが当局に通報したら、俺と若村長は間違いなく縛り首である。
『ただ、皆さんにリスクを負わせている自覚もあります。』
「いえいえ!
私達はウォーカーさんをリスクだなんて思ってませんからね!」
『ははは、ありがとうございます。
ただ、ここらで恩返しのターンにさせて下さい。』
「お、恩返しですか?」
『ええ、村々の皆さんのおかげで私共は生活出来ております。』
まあ、実態は運命共同体だ。
村か冒険者。
どちらかが罰せられる時は、もう片方も共犯として厳罰の対象になる。
もうお互い戻れないのだから、戻れないなりのベストを尽くす必要がある。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
密告対策という訳でもないのだが、ここ最近は冒険者の宿主催でBBQイベントを催している。
それも3週連続で。
名目は先祖供養。
皆で野外料理をして先祖代々の冥福を祈るという趣旨をでっちあげた。
まあ、要は人気取りである。
冒険者という存在が皆から愛されていれば、密告される確率は下がるからな。
ブルータウン、溜池村と来て、今週は中州の村でイノシシ肉を振舞う。
俺もピエロに徹してウナギ獲りをコミカルに実演、しっかり笑いを取った。
マーガレットがうるさいのでマーガリンも振舞う。
正直、こんな物は食べ物でも何でもないと思うのだが、案外好評だ。
まあ、バターがあれだけ値上がりしてしまったらな。
嫌でも代替品に注目が行くよな。
そして大本命。
各村々の老婆達に頼んでいた冒険者婚活。
色々と考えた末に、未婚女子と未婚男子を引き合わせる手法を考案した。
《古代では未婚の者が着飾って供物を捧げる事で先祖の霊を慰める風習があった》
という法螺話をヘレン婆さんがでっち上げてしまったのだ。
『いやいや!
ヘレンさん!!
嘘はいけませんよ、嘘は!
そんな風習があったというエビデンスあるんですか!?』
「テッドちゃんは頭が固いねえ。
そんな風習が無かったというエビデンスもないだろ?」
『あ、いや、それはそうですけど。』
「はい、決まりー♪
これで若い子達の見合いパーティーの名目が立った♪」
『えー。』
そんな遣り取りがあり、単なる合コンがもっともらしい神事に昇華された。
この辺田舎だから、王都やゴールドタウンで行われているようなチャラい合コンは嫌がられるからな。
「なーんだ。
テッドさんはお洒落をしないんですね。」
『あ、クラークさん。
お疲れ様です。』
一段落して遠巻きに篝火を眺めていると
小奇麗に装ったクラーク女史に話掛けられる。
さすがに王都のお嬢さんだけあって華がある。
「独身者は着飾るルールだって、テッドさんが言った癖に。」
『申し訳ありません。
ウナギの余興に頭がいっぱいで。』
さっきまでウナギを捌き続けていた。
もう腕がパンパンで痛い。
ウナギを炙り続けていたトムも疲れ果てたのか控室で眠り込んでいる。
「ふふふ。
テッドさんらしいです。
皆さん喜んでましたよ。」
『おお、それを聞いて安心しました。』
「川沿いの村を順に盛り上げて行くってアイデアは素晴らしいです。
皆さん喜んでおられました。
普段は冒険者を避けておられた方も話し掛けてくれるようになったので。」
『おお!!
その一言が何より嬉しいです!』
「そして更に朗報♪
4組目のカップル誕生です。
馬借村のピアソンさん(32歳♂)と中州の村のエリーゼさん(26歳♀)。
以前からお互い顔見知りではあったみたいなんですけど、相手が既婚者だと思ってたらしいんです。
先週の溜池村の祭礼でお互いに未婚者のグループに居たから、トントン拍子に話が進んで…
皆がテッドさんを褒めてました!」
クラーク女史の報告を聞いて胸を撫で下ろす。
よし、思惑通りに事が進んだな。
俺のように危ない橋を渡っている人間が地元を敵に回したらオシマイだ。
常に貢献し続けてヘイトコントロールに努めなくてはならない。
食事と婚姻。
どちらも社会にとっては必要不可欠なものだ。
それを皆に惜し気もなく提供している限り、いきなり背中を刺される確率は減るだろう。
瓢箪池からの街道開拓は洒落にならないペースで進んでいる。
斥候を買って出てくれたビーンズ氏の報告によれば、帝国人orドワーフとの接触は時間の問題とのこと。
そう、もう引き返せない所まで来ているのだ。
人気取りも全力で取り組まなければならない。
それも恩着せがましく映らないように。
繰り返す。
食事と婚姻は社会にとっての必需品だ。
振舞っていれば味方になってくれると思うんだけどなぁ…
人間の心理だけは分からんからな。
「うふふふ。
お祭りの日なのにテッドさんは難しい顔をしているんですね♪」
『ああ、これは失礼。
あ、そうだ。
先程、差し入れのチーズ&フィッシュを貰ったんです。
クラークさんも一緒に食べませんか?』
「ありがとうございます。
でも、私はもう一つの方が欲しいです。」
『え?』
うむ、女の心理は更に分からん。
Lesson54 『幸福を産み分かち合う者にこそ人は集まる。』
【名前】
テッド・ウォーカー
【職業】
冒険者
ウナギの人
【スキル】
食材鑑定
高速学習
ウナギ捕獲
【資産】
銀貨81枚
鉄貨5枚
【所持品】
折り畳み釣り竿
簡易テント
大型リュック
万能ナイフ
ポートフォリオ
騎士用手袋
トラバサミ
ハンモック
業務用肉醤製造セット
荷馬車
討伐チップ (ウナギ)
ゴブリン漁網
【生産可能品目】
山椒粉
フカヒレ
ラー油
肉醤
ジャガイモ (少量)
ウナ肝
マーガリン
【ポートフォリオ】
ホーンラビット
スライム
サンドシャーク
猪
山椒
ドブネズミ
薬草概要
蝶類概要
風琴鳥
ドワーフ
蛇モグラ
廃棄物処理法
ウナギ
ジャム
【仲間】
リコ・クラーク (司書)
ジェフリー・フィッシャー (漁師)
キース・ポーター (運送業)
レオナ・レオナール (受付嬢)
グスタフ・グリルパルツァー (狩人)
トーマス・トンプソン (弟子)
ヘレン・ヘイスティング (冒険者)
ノリス・ノーチラス (修理屋)
ハンス・ハックマン (農夫)
マーガレット・リンドバーグ (油脂製品製造業)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
(あとがき)
最後までお読みいただきありがとうございました。
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ご安全に。




