Lesson53 『女子供を前面に立てよ。』
未だに俺は断固として反対なのだが、冒険者には女が多い。
その比率は実に全体の2割に及ぼうかという勢いである。
何故こんなに女が多いのか?
理由はシンプル。
他に女が働ける職場がないからである。
『流石に全くないことは無いでしょう。』
俺は反論したのだが、村々から派遣されてる受付嬢の冷笑を浴びただけだった。
「女が外で働き口を探すことは本当に難しいんです。
こんな立派な職場を作って下さったウォーカーさんにも分からないのだから、男の人が分かってくれないのは仕方ないですけど。」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【受付嬢達の言い分】
男は女を性の吐け口としか見ていない。
だから、1人前の労働力としては認めたくないのだ。
認めてしまえば、自分は【女にでも出来る仕事】に従事していることになってしまうから。
男が女を職場に入れてくれるのは【お嫁さん候補】としてのお手伝い仕事だけ。
それにしたって、男への好意的態度を露骨に強いられる。
そして、職場内では《誰かの妻となれ》という暗黙のプレッシャーを絶えず掛けられ続ける。
だから!
男達が言う《女にだって職場はあるじゃないか。》という発言は全てが詭弁なのだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
それが彼女達の言い分。
男の俺にだって反論したい事は山ほどあるが、女性陣の主張は何となく理解出来る。
それに、これだけ女性冒険者が増えてしまった以上、俺も迂闊な発言は出来ない。
だから分かったような表情でフンフン頷いておく事にする。
「テッドさん、絶対に分かってないでしょー!」
『いや、うん、まあ、分かってるよ。』
「その反応は絶対分かってないー!
パパと一緒!」
『うん、まあ、その、大丈夫だよ。』
眼前の少女はマーガレット。
父のクルツ・リンドバーグが徴兵に取られて戦死した為、母のシャーロットが生計の為に冒険者となった。
本人は母と共に冒険者になると主張しているのだが、流石に十にも満たない幼女を危険に晒す訳には行かないので、昼間だけ冒険者の宿で預かっている。
「女の子は大変なんだからね。」
マーガレットは必ずそうやって話を締め括る。
まあ、シャーロット女史の苦労を見ていれば自然にそうなるよな。
女が棍棒片手にホーンラビットと格闘する姿など痛々しくて直視出来ない。
だが、彼女がそうやって貞操と娘を守っている事も事実なのだ。
似たような境遇の未亡人冒険者達も子供を預けて行くので、冒険者の宿は一階の1部屋を潰して託児区画とした。
「私達シンママにとっては、ウォーカーさんしか頼れる人が居ないんです!
頑張りますから冒険者業を続けさせて下さい!」
女というのは狡い生き物なので、敢えて人が集まってる状況でそんな嘆願をしてくる。
俺が内心で女冒険者を嫌がっている事を知って言ってるのだ。
断ればこちらが悪者にされてしまうので無難な回答をせざるを得なかった。
それが冒険者に女が多い理由。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
もっとも、俺が忌み嫌っている女冒険者には大きな副産物がある。
男達が彼女達の前では小綺麗かつ紳士的に振る舞うのだ。
そりゃあね。
俺も男の子だから分かるよ。
女の前でダサい所なんて見せたくないものな。
冒険者なんて誰がどう考えても不潔で粗暴になりがちな職業だと思うのだが、女の目が多いせいか殊更皆が紳士的に振る舞う。
お調子者のフーバー翁に至っては街で買った帽子なんぞを被ってお洒落アピールしている程だ。
まあ、動機はどうあれトラブルが減るのなら文句は無いけどね。
「ほらね。
私達だって役に立ってるじゃない。」
マーガレットが自慢気に胸を逸らす。
そうか、ここには女の目のみならず子供の目もあるものな。
普段粗暴な人間でもそういう言動は取りにくいだろう。
「いやー、クレームって訳じゃないだんけどね。」
眼前のスリンガー氏にしたってそうだ。
鳶職崩れの流れ者で、レッドタウンでは短気者として有名だったらしい。
そんな彼ですら苦情を述べる時に言葉を相当選んで喋る。
「いや、別に文句とかそういう訳じゃないんだよ。
たださぁ、パンに付けられてたバターの量が急に減ったから…
どうしたのかなー、と思ってさ。」
このスリンガー氏。
若い頃は相当に喧嘩っ早く何度か暴行罪で逮捕された経験がある。
俺も彼からクレームが入る時はやや身構えるのだが、子供が側に居るせいか実に慎重な態度だ。
『申し訳ありません。
バターとチーズが大幅に値上がりしまして、価格が落ち着くまでは仕入れを自粛しているのです。
一応、宿の掲示板にも告知していたのですが、周知が徹底出来ておりませんでした。』
「そうかい。
また値上げかい。
ウォーカーさんよ、済まねえな時間を取らせちまって。」
『いえ、スリンガーさんにはいつも世話になっておりますから。
アナウンスが遅れて恐縮です。』
「…そっか。
うん、そっか。
いや、済まなかったな。
今から余った依頼を請けてくるよ。
この時期だとブルータウンのサンドシャークか?」
『はい、北の浜に大量に湧いたそうで。
今、討伐チームを募集中です。』
「ん、分かった。
俺もそっちに合流するわ。」
『ありがとうございます。』
こんな受け答えの中でも、ずっとマーガレットの方をチラチラと見ていた。
そして憮然としながらも丁寧に一礼して去って行った。
やはりスリンガー氏の様な乱暴者でも子供の目線は気になるのだろう。
それがシンママとその子供達を受け入れたメリット。
認めざるを得ない。
彼女達の存在が場の雰囲気をかなり丸くしている。
「ねえテッドさん。
バターって商業ギルド?」
『子供は知らなくても良いことだよ。』
「やっぱり商業ギルドの奴らが悪いんだ。
パパもいつも言ってるもん。」
『コラコラ、彼らにも事情があるのだろう。
だから誰かを悪者にしてはならないよ。』
まあ、言うまでもなく商業ギルドなる巨悪が俺達を苦しめてるんだけどな。
でも、君はまだ知らなくていい。
大人のエゴなのかもだが、マーガレットにはもう少しだけ子供で居てほしい。
『クラークさん。
バターの件ですが、街の様子はどうでしたか?』
「私も買い出しに行った時に聞いただけなのですけど…
商業ギルドが突然卸値を上げたらしいんです。
小売りさんも何も聞かされてなかったみたいで…
まさかバターみたいな必需品がこんな事になるなんて。」
『では値段が下がる事は当面なさそうですね。』
「ええ、上がる時は一瞬ですけど…
下がる時は…」
参ったなぁ。
バターは必需品だ。
しかも冒険者の酒場で提供している食事に必ず付けている。
まさか何も付けずにパンを食わせる訳にはいかないしな…
「王都の方ではジャムを塗ってパンを食べることもあるんです。」
『…そうですか。』
やはり王都は洒落てるな。
無論、この貧乏所帯でジャムなんて提供してたらすぐに資金がパンクする。
…いや、もう冒険者の宿で作り始めてしまおうか。
よし、グリーンタウンのポゥ女史に調べさせておこう。
「テッドさん。
バターは専売品ですから安くはなりませんし…
何か代用品が必要ですね。」
『仰る通りです。
大至急代わりが欲しいですね。
食事プレートは皆の士気を大いに上げてますし。』
そんな話をしているとマーガレットがひょっこりと顔を覗かせる。
「ねえねえ。
テッドさんなら何とか出来るでしょう?」
『こらこら、大人の話に口を挟んではならないよ。』
「ぶー。
折角助けてあげようと思ったのに。
ウォーカーさんってパパと同じこと言うんだから!」
そりゃあ、まあ、世間一般の男親なら似た様な躾はしてるだろうな。
気分を害したのかマーガレットはテーブルクロスをイジイジと丸めだした。
子供がスネると雰囲気悪くなるから困るんだよなー。
『ゴメンゴメン。
オジサンが悪かったよ。』
「ぶー。
本当は悪いと思ってない癖に。
口先だけで謝るところ、パパそっくり!」
リンドバーグさん、尊敬申し上げます。
やはり子育てって大変なんですね。
俺には到底出来ないだろうなあ。
『いやいや、心から反省しているよ。
マーガレットちゃんのチカラを是非借りたいな。』
「ふっふーん。
分かればよろしい♪」
助け船を出して欲しいのだがクラーク女史はずっと後ろでクスクス笑っている。
何が可笑しいんだ、まったく。
「あのね?
ウォーカーさんってゴブリンの御飯を毎日食べてるんでしょ?」
『毎日は食べてない。』
「じゃあ週に1度くらい?」
『週に3回くらいはゴブリン団子を食べている。』
「あははは。
それって毎日みたいなものだよー♪」
『そうかも知れないな。』
実は俺は余った塩をゴブリンに提供している。
また彼らが鯉を好む事が分かって来たので、瓢箪池で獲れた鯉を提供している。
ゴブリン団子はその返礼。
最初は気味悪がっていたキャラバンメンバーもいつの間にか食するようになり、食している場面を見たゴブリンが親近感を持ってくれたのか、更に友好的に振舞ってくれるようになっている。
この前などは、一緒に鹿を焼いて食べたくらいだ。
「きっとゴブリンの食事なら安い材料があるわ♪」
『ははは、なるほど。』
所詮子供の思い付きだな。
バターの代わりにゴブリン食なんて出したら、みんなカンカンに怒るに決まっている。
『あのね、マーガレットちゃん。
食事って好みがあるから、変な物を出したらオジサンが皆から怒られてしまうよ。
誰だってゴブリン食よりもバターが好きに決まってるからね。』
「…そうかなあ。
パパはバターなんかよりゴブリンの食事の方を喜ぶと思うけど。」
『え?
クルツさんはゴブリン食が好きだったの?』
「違うー。
パパは生まれつきミルクが飲めない病気なの。
チーズやバターを食べると気分が悪くなっちゃうの。」
『ああ、牛乳アレルギーか。
たまに聞くねえ。
油っ気が取れないのはキツいだろうなあ。』
「それはパパもいつも言ってる。
だから余った油でパンを食べてるの。
オリーブオイルとか、ゴマオイルとか。」
そうだよな。
人間、油脂分は絶対に必要なのだ。
ましてやクルツのような働き盛りの年齢なら、何らかの形でバターの代わりを探さざるを得なかっただろうな。
「後ねえ。
たまに変なのを食べてる。」
『変なの?』
「うん、いつも夜中に台所でコソコソ何かを食べてるの。
凄く変な匂い。
私も一緒に食べたいんだけど、身体に悪いから駄目だって。」
『…ふむ。』
「それがバターみたいなの。
臭いけど。
パパは偽バターって呼んでいつも笑ってる。」
『…。』
「パパが居てくれればねー。
何とかしてくれるんだけどねー。」
『ねえ、マーガレットちゃん。』
「んー?」
『クルツさんの偽バターって、どんな風に臭かった?』
「えー、臭いものは臭いよーw」
『魚みたいに臭かった?』
「あはは、肉みたいに臭かったwww」
『そっかー。』
「?」
『オジサンも偽バターを食べた事があるかも知れない。』
「本当!?」
『多分だけどね。
昔、作ったような気がするんだ。
マーガレットちゃんも食べてみたい?』
「みたーい♪」
さて、ここで俺のトラウマが蘇える。
ある日突然【奴隷解放】の名目で農場を追放された俺達は、地元のチンピラや運送屋にいいようにコキ使われながら最底辺生活を送っていた。
ロクに食事も与えられないまま、運送屋の所有する牧場で朝から晩まで働かされた。
【いいかテメエら奴隷野郎が解放されたのは、テメエらに徳があったからじゃねえ。
ブライアン侯爵様が至尊の座に登られる事が決まって荘園だの農奴だのが邪魔になったからの話よ!!
だからテメエらは正規の解放奴隷じゃねえ、実質的には奴隷だ!!
つまり!! どれだけコキ使ってもバチは当たらねえって寸法よ!!】
こんな暴論を振りかざす職場に囚われていたので、今思えば悲惨極まりない境遇だった。
言うまでもなく、食事状態も最悪だった。
マズいのは当然として、人間が生きるための必要最小限の量を与えられなかった。
俺達は職長の目を盗み廃棄牛脂を炙って喰った。
胃が焼けるようにムカムカして何度も嘔吐した。
それでも生きる為に泣きながら咀嚼した。
「ねえ、テッドさん。
大丈夫?
顔色悪いよ?」
『ははは、気のせいだよ。
少しお腹がすいたのかも知れないね。』
…やはりトラウマは無理に掘り返すものではないな。
もう克服したと思っていたが、あの時の事を思い出すと背中から変な汗が噴き出す。
「じゃあ偽バター作ってよ♪
私もパパと同じ物を食べたーい♪」
『ふふふ、クルツさんに勝つ自信はないなー。』
俺は裏の解体小屋に行き廃棄箱から目当ての物を取り出した。
『マーガレットちゃん。
パパが偽バターを食べる時って、こんな臭いがした?』
マーガレットは好奇心の強い表情でクンクン嗅いでから、大はしゃぎで肯定した。
なるほど、やはり牛脂か。
そりゃあそうだろう。
回りがバターで油分を補給している時に、自分だけが食べられないのだ、廃棄部位とは言え牛脂が気にならない訳がない。
全く油分のない食事に苦しめられた俺だからこそ、よく気持ちが分かる。
『これをさ、火で炙って食べてたんだ。』
平静を装う。
本当は叫び出したいくらいに気分が悪い。
当時の絶望が何度もフラッシュバックする度に慌てて噛み殺す。
だってそうだろ。
目の前のこの子は、こんなに幼い身で父親を失ったんだぞ。
俺も似た年頃に父さんを殺された。
だから、せめて俺くらいは味方になってやらなきゃ駄目なんだ。
トラウマなんかに一々負けてられるかよ。
『こんなモン、周りはみんな気持ち悪がるけどね。』
「…。」
『マーガレットちゃん?』
「パパのとちがーう。」
『おや?
オジサンはてっきりクルツさんが牛脂を焼いていたのかと思ったけど。』
「焼いてないよ!
コネコネしてたんだもん!」
『コネコネ?』
「うん、ボールに入れてガーって混ぜてた。」
『牛脂を混ぜるの?』
「うん! そう!」
マーガレットに言われるがまま、牛脂をガーっと混ぜる。
手が痛くなったので止めようとすると叱責されるので泣く泣く続ける。
クルツさん、アンタ偉い人だなあ。
『牛脂が崩れただけだけど。
クルツさんはコレを作ってたの?』
「違う!
もっとバターっぽい!!
油ももっといっぱい!!」
癇癪を起したマーガレットが古い揚げ油をドバっと掛けてしまった。
『この揚げ油はもう捨てる分だよ?』
「だってパパは揚げ物を食べた日に偽バター作ってたもん。」
…なんだ?
クルツ氏は廃油を使っていたのか?
あの頃の俺と一緒じゃないか親近感湧くわ。
あ、俺は未だに嫁さんもいないんだった。
やっぱり親近感キャンセルで。
「思い出した!
こんな感じこんな感じ!!」
マーガレットは喜び勇んで牛脂と廃油をかき混ぜていた。
「テッドさんがやって!!!」
『はいはい。』
「はいは1回でしょ!」
『はーい。』
「伸ばしちゃ駄目でしょ!」
『…はい。』
何やってんだろうなー、俺。
トラウマと牛脂を必死でかき混ぜてるよ。
ウナギといい牛脂といい、何でオマエらは俺のトラウマをピンポイントで撃ち抜いて来るんだよ。
「あー! あー! あー!」
『あー、なんかバターっぽくなってきたなあ…』
「パパ!! パパ!! パパ!!」
『クルツさん…
よっぽど油分に飢えてたんだろうなー。』
軍の配給食には必ずバターとパンが支給される。
副食なしでその2つしか支給されない日もある。
牛乳アレルギーのクルツ氏にとっては地獄だったことだろう。
『あー、多分これだねー。』
「うん、色が汚いけどこんなのだった。」
油を混ぜて練り固めた牛脂。
恐らくこれがクルツ氏謹製の偽バターの正体。
彼はどんな気持ちでこれを食べていたのだろう。
そりゃあ、妻子には食べてる所を見られたくないよなあ。
だって惨めだもの。
人並みの食事がとれない悔しさ恥ずかしさ…
痛い程分かるよ。
「ねえ、テッドさん。」
『んー?』
「どうして泣いてるの?」
『?
大人は滅多な事では…』
あれ?
俺、何で泣いてるんだろう。
泣いたって何の解決にもならないのに。
『ねえ、マーガレットちゃん。』
「んー?」
『ぼやけてよく見えないけど。
君だって泣いてるじゃない。』
「当たり前でしょ。
涙は女の武器なんだから。」
…シャーロット女史も割とそういう哲学を持っている人だからな。
まあ、その矛先は俺に向かう事が多いんだが。
『食べる?』
「むしゃむしゃ。
…マッズ。」
『だろうね。』
「テッドさんも食べなよ。」
『え?
何で俺?』
「私だけ食べたら不公平じゃない。
ほら、あーん。」
『えー、勘弁してよ。
もがっ!
むしゃむしゃ。』
「どう?」
『マズい上にトラウマが蘇った。』
「これでおあいこね、」
『…私の方が若干ダメージ大きいと思うけどなあ。』
「男の癖につべこべ言わないの。」
…クルツさん。
アンタは偉いなあ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
マーガレットは泣き疲れて寝ている。
普段は気丈に振舞っているが、やはり父親を失った辛さはそうそう薄れるものではないのだ。
あの後、マーガレットは上機嫌で俺に偽バターを作らせた。
新鮮な牛脂と新品の脂で作れば、それっぽいモノは完成した。
ずっと笑っていた彼女は、ある瞬間で堰を切ったように号泣し始めた。
何度も俺の胸を叩いて泣きじゃくった。
自分も通った道なので、何となく心理は理解出来る。
俺も泣き疲れたので眠りたいのだが、そうも行かない。
帰って来る冒険者達を迎えなくてはならないからだ。
受付嬢達と一緒に食材を酒場に運びドブロクの補充をする。
村々から買い込んだ黒パンが届いたので、それも棚に乗せ換えなきゃだよな。
「ウォーカーさんただいまー。」
『おかえりなさーい。』
「レオナちゃんは今日も美人だねー。」
「もー、すぐからかうんだから。」
近場に派遣されていた冒険者達がパラパラと帰って来る。
彼らは軽食プレートで小腹を満たしてから家路に付くのだ。
「ねえウォーカーさん。
ブルータウンも同じなんだってさ。
バターは一斉値上げ。」
『あー、ブルータウンもですか。
困りましたねー。
在庫も尽きたのに。』
「えー、バターなしでパンは食べられないよー。」
『すみません。
他に入手ルートがないか探ってみます。』
「いや、ウォーカーさんを責めてる訳じゃないんだけどさ。
ってバターあるじゃん!!」
『あ、いや。
それは違うんです。
遊びで作った偽物でして。
廃棄する為によけてるんですよ。』
「待って待って。
廃棄ってことは食べていってこと?」
『あ、いや!
それは単なる油の塊ですよ!?』
「え?
バターだって油の塊じゃん。」
『…まあ、それはそうですけど。』
「どれどれ。
おっ、塗りやすいじゃん!」
『そりゃあ、油ですから。』
「もぐもぐ。」
『すみません、そんな物を食べさせてしまって。
頑張ってバターを探しますから。』
「…いや、俺は別に構わないけど。
要はパンに塗る何かが欲しかっただけだからさ。
こんなんでいいんだよ。」
結局、この日は偽バターをみんなに振舞った。
みんなブツクサ言っていたが、何だかんだで偽バターでパンを平らげてしまった。
「「「こんなんでいいんだよ。」」」
歓迎もされなかったが、妥協はして貰えた。
まあ油分が欲しいだけだしな。
「ちょとテッドさん!!
これはパパの料理よ!
それを私が教えてあげたの!!
もっと感謝しないさいよ!」
目を覚ましたマーガレットはいつもの彼女に戻っており、俺を大いに安堵させた。
『分かった分かった。
レディが大声を出してはいけないよ。』
「…パパと同じことばっかり言うからキラーイ。」
やれやれ。
クルツさん、やっぱり俺には子育ては無理だわ。
『まあまあ、皆にはマーガレットちゃんが発明者だって伝えてあるから。』
「ホント!?」
『そりゃあ、マーガレットちゃんの手柄だからね。
皆に知って貰わなきゃ。』
「あ!
いい事を思いついた!!
これを【マーガレット・リンドバーグ偽バター】って名前にしようよ!
これで私もパパも有名人♪」
『バターって名前は商業ギルドしか使っちゃいけないんだぞー。』
「えー。
それじゃあ【マーガレット・リンドバーグ偽】になっちゃう。
なんか私が偽物みたーい!」
女ってたまに謎の自己顕示欲が発動するよな。
まあ、泣いてるよりも幾分マシだけど。
少し先の話だが。
飯を食う時に一々女のフルネームなど呼んでられないので、この後に偽バターは【マーガリン】と皆が呼び始めることになる。
そして俺はたまにマーガレットに呼びつけられてマーガリンを作らされる羽目に陥るのだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
偽バターの初日の好評に驚きながら、俺はソファーに横たわる。
流石に疲れた。
常時発動するトラウマと向き合いながらの1日だったからな。
マーガレットも傍らで寝息を立てている。
シャーロット女史が疲れて寝込んでしまったので、帰宅は明日になることになったのだ。
「大丈夫ですか?」
『クラークさん、ありがとうございます。
この子は強い子です。
きっと立ち直って成長していく事でしょう。』
「私はテッドさんの心配をしているんです。」
『はっはっは、私は既に大人ですよ。』
「…うそつき。」
バレたか。
Lesson53 『女子供を前面に立てよ。』
【名前】
テッド・ウォーカー
【職業】
冒険者
ウナギの人
【スキル】
食材鑑定
高速学習
ウナギ捕獲
【資産】
銀貨88枚
鉄貨5枚
【所持品】
折り畳み釣り竿
簡易テント
大型リュック
万能ナイフ
ポートフォリオ
騎士用手袋
トラバサミ
ハンモック
業務用肉醤製造セット
荷馬車
討伐チップ (ウナギ)
ゴブリン漁網
【生産可能品目】
山椒粉
フカヒレ
ラー油
肉醤
ジャガイモ (少量)
ウナ肝
マーガリン
【ポートフォリオ】
ホーンラビット
スライム
サンドシャーク
猪
山椒
ドブネズミ
薬草概要
蝶類概要
風琴鳥
ドワーフ
蛇モグラ
廃棄物処理法
ウナギ
ジャム
【仲間】
リコ・クラーク (司書)
ジェフリー・フィッシャー (漁師)
キース・ポーター (運送業)
レオナ・レオナール (受付嬢)
グスタフ・グリルパルツァー (狩人)
トーマス・トンプソン (弟子)
ヘレン・ヘイスティング (冒険者)
ノリス・ノーチラス (修理屋)
ハンス・ハックマン (農夫)
マーガレット・リンドバーグ (油脂製品製造業)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
(あとがき)
最後までお読みいただきありがとうございました。
このLesson(教訓)が有意義であったと感じていただけましたら、冒険の道標としてページ下部の【☆☆☆☆☆】やブックマークで評価して下さると幸いです。
ご安全に。




