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Lesson52 『居心地の良い隙間を確保せよ。』

満月草キャンペーンは商業ギルドが買取価格を1本銀5枚に引き上げたことで更なる熱狂を帯び始めた。

例えばグリーンタウンの雑貨屋で背負い籠が品切れになっていた。

今までは棚で埃を被っていたのに。


かなりの額が動いている。

採集を得意とする冒険者の幾名かが、この短期間で小金持ちになった程に。


眼前のドーソン氏などはその最たる例だ。

彼は冒険者仲間では自然薯掘りの名人として知られていた。

駆除依頼の合間に山芋を発見して手早く掘っているのを何度か見たことがあるが、素晴らしい腕前だった。

幸運な事に満月草と山芋は生える場所がかなり近いらしく、ドーソン氏はキャンペーンが開始された途端に、大量の満月草を確保する事に成功した。



「いやー。

何がカネになるのか分からないものですね。

私如きが富を得る日が来るなんて…」



『いえいえ。

全てドーソンさんの御才覚ですよ。

貴方は実力に相応しい収入を得ただけの話です。』



「…あの、それで1つ相談なのですが…」



『あ、はい。』



「折角大金を得た事ですし、買い物をしたいと考えているのですよ。」



『おお、それは素晴らしい。

ドーソンさんはいつも倹約されておられましたからね。

たまには息抜きも必要だと思いますよ。』



「…私も馬車を欲しいと思いまして。」



『ああ、それでしたら廃材置き場でリペア中の車両があります。

帰る前に見学されますか?』



「…どうせなら家族も乗せてやりたいんですよ。」



意味ありげな目線でドーソン氏が俺の返答を待っている。



『えっと、もしかして家馬車の事を仰ってるのなら結構高いですよ。

ただ、今のホワイトタウンなら割安品は多いと思いますが…』



「一緒に選んで頂けませんか?

勿論謝礼は払いますから。」



馬車を持つ者は日に日に増えている。

勿論口に出す馬鹿はいないが、この王国からの逃避を念頭に置いてのことである。

ただ家馬車となると話は別だ。

あれは本来故郷を持たない流浪民が使うものである。

もう逃散すると宣言しているのと同じではないか。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



街道沿いの丘に登り村々の様子を観察する。

よし、俺達の馬車は目立ってないな。

キャラバンを瓢箪池に固めたのは正解だった。

俺は一番高い地点から何度も村々を覗き込むが、馬車は殆ど見当たらない。

廃材置き場が巧妙に死角になってるのも悪くない。


実は修理中の物や2輪馬車も合わせれば、90台を超える馬車が俺達の手の内にある。

流石にここまで数が膨れてしまうと、見つかったら即座にアウトである。

企んでようが企んでまいが、大量の馬車が連なる様はビジュアル的に刺激が強すぎるからな。

なので、どこまで有効かは分からないが、ステルスの意味も込めて街道で車列を組むことは厳禁してある。



『ドーソンさんは家も田畑もお持ちでしょうに。

綺麗な屋敷だと皆が羨んでましたよ。』



「ええ、両親から相続したのですが私などには過ぎたるものですよ。

課税対象で無いのなら自慢して回っていた所です。」



2人で丘に座ってそんな話をした。

俺達はひたすら街道を眺め、馬車が目立ってないかをチェックしている。



「ウォーカーさん。

思っていた以上に馬車が見えませんね。」



『全員分のロバがありませんから。

瓢箪池沿いに荷台だけで停車しております。』



「…私が馬車を買えたら。」



『はい。』



「家族と一緒に伺わせて貰って構いませんか?」



流石の俺もここがターニングポイントである事は認識している。

今までのキャラバンは全員が独身者で構成されていた。

これなら役人に見つかっても、《獣害を防ぐ為に泊まり込みで駆除をしていました》、と苦しいながら言い訳出来る。

ただキャラバンに家族連れが混じりだすと意味が変わってくる。

それはもう家を荷台に置き換えただけの村なのだ。



「駄目ですか?」



『ご家族の方次第ですね。』



「家族とは家計の窮状を共有しております。」



『そうですか。』



「お恥ずかしい話ですが、40年必死で働いて蓄えが全く無いのです。

私は怠けた記憶など無いのですが…」



ドーソン氏の村はグリーンタウンに隣接している事もあり、徴税吏のチェックが厳しいと聞く。

貯金は難しいだろうなぁ。

初めての幸運は逃避の為に費やされるのは、もはや必然なのだろう。



『御屋敷はどうされるのですか?』



「売ります。

妻子は当面アパート暮らしで…

徐々にフェイドアウトさせます。」



普通なら屋敷を処分して馬車暮らしなんて正気の沙汰ではないのだが…

今の年貢率を鑑みれば合理的極まりない判断にすら見える。

ドーソン家は代々5反の田畑を受け継いでいるのだが、それで食えないのなら本人ではなく制度の責任だろう。

縛り首が怖いので黙っているが、とっくに皆が気付いている。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



馬車が増えた事で瓢箪池は実質的な村落と化した。

タテマエ上は狩猟目的のキャンプだが…

そんな言い訳が通るほど世の中は甘くない。

今の所、キャンプに根付いているのは俺のような日雇い労働者ばかりなのだが、近いうちに本百姓階級も合流するだろう。

現にハンスやドーソンは着々と準備を進めている。

農地の課税率が高過ぎる以上、財産は別の形に替えておくのが妥当なのだろう。

でも、土地に匹敵する財産ってなんだ?

農奴の俺からすれば屋敷と田畑なんて、まさしく叶わぬ夢なのだが。



「それを考えるのがオマエの仕事なんだろうな。」



『ジェフは簡単に言うけどさぁ。

俺もそれが分からずに苦しんでるんだよ。』



ドワーフとの密貿易が一段落したので、ジェフも瓢箪池に合流した。

この男は豪快な外見に反して慎重居士なので街道を見下ろせる場所にテントを張って万が一に備えている。

言うまでもなく、官憲が接近した場合に退避合図を出す係を買ってでたのである。

そして俺はロバに酒食を積んで丘頂まで届けに来た訳だ。



「皆がテッドを羨ましがっている。

だから、そのスタイルは正しいんだろ。

財産の持ち方として。」



『俺、手持ちの銀貨100枚を切ったよ?

こんなの羨ましがってどうするよ?』



「ばーか。

意識して受け取ってないからだろ。

今回のフカヒレ代金だって全額バックオフィスに入れちゃうし。」



『流石に大学を出た御婦人をタダ働きさせる訳にはいかないからね。

村々から派遣されて来た受付嬢にも報酬を払わなきゃだし、なるべく資金は宿に置いておきたいんだ。』



人件費だけではない。

宿と厩舎の維持費だって掛かる。

依頼者が報酬を渋ったケースを想定して立て替え用のキャッシュも必要だ。

どう考えてもカネは運営費に回さなくてはならない。



「いやいや、オマエ個人の話だよ。

1番頑張ってるのに無報酬は極端だぜ?」



『うーん、それなんだけどさ。

いつの間にか食えるようになった。

これまでの人生はずっと食い詰めてたんだけどな。

だから、不満よりも感激の方が先立つ。』



「まあ、周囲を冒険者で固めている以上は食いっぱぐれはないか…」



そうなのだ。

これだけ組織が巨大化すると純粋な生産量が増える。

総量が大きいのでオコボレもそれなりの数となり、廃棄するしかしない余り物は何だかんだで俺に回ってくる。

例えば冒険者の酒場。

閉店時間になるとシチューなどの料理が余る。

勿体無いので俺の腹に収める事にした。

冷静に考えれば残飯漁り以外の何物でもないのだが、皿洗いや掃き掃除を行う事で俺なりにバランスを取っている。



『ほら、この握り飯も余り物だ。

遠慮せずに食べろよ。

厳密に言えば余ったピラフをクラークさんが握ってくれたんだ。』



「ははは、生憎ランチを食ったばかりでな。

そいつはテッドが食えよ。

リコちゃんにちゃんと感想も伝えるんだぞ。」



ジェフは愉快そうに笑うと街道を睨んだままハンモックに寝転がった。

お言葉に甘えてクラーク女史の握り飯を頬張る。


寝泊まりは馬車かテント。

山で狩猟や採集をして夜には酒場の残飯をかき込む。

それが俺の仕事(?)だ。

底辺以外の何者でもないのだが、こんなスタイルを羨む人間が少なからず居る現実。

まあ、実際問題楽だしな。

それにキャッシュは得られずとも、いつでもキャッシュを得れる立場に居座っているのが大きい。


現状、俺は給料的なものを鉄貨1枚たりとも受けとっていない。

別に人格が清廉だからではない。

《あの人は無給でやってるらしい》

という評判こそが冒険者という在り方を正当化する最短ルートだと計算しただけの話だ。

逆に俺が給料を取った場合、皆がどう反応するかは想像するまでもない。

1割とは言えマージンを取っている以上、その行方は仲間達から密かに監視されているに決まっているのだから。



『なあ、デッド。』



「んー?」



『オマエはちゃんと得してるの?』



「食うには困らなくなったかな。

前ほどカツカツせずに済むようになった。」



『分かる。』



「何より楽しい。」



『だな。』



楽しさの理由は最下層労働者だった俺が1番知っている。

だって冒険者は1人仕事だから嫌な事をせずに済むもの。

嫌いな奴と無理に付き合わずに済むし、人手が必要なら気の合う友達に声を掛ければいい。

それが瓢箪池のキャンプ場の雰囲気が明るい理由。

カネも無い俺が笑ってられる理由。


この心地良さこそが俺の財産。

銀貨よりも優れている点は、形が無いから分かちあえる点かな。




Lesson52 『居心地の良い隙間を確保せよ。』

【名前】


テッド・ウォーカー



【職業】


冒険者

ウナギの人



【スキル】


食材鑑定

高速学習

ウナギ捕獲



【資産】


銀貨88枚

鉄貨5枚



【所持品】


折り畳み釣り竿

簡易テント

大型リュック

万能ナイフ

ポートフォリオ

騎士用手袋

トラバサミ

ハンモック

業務用肉醤製造セット

荷馬車

討伐チップ (ウナギ)

ゴブリン漁網




【生産可能品目】


山椒粉

フカヒレ

ラー油

肉醤

ジャガイモ (少量)

ウナ肝




【ポートフォリオ】


ホーンラビット

スライム

サンドシャーク

山椒

ドブネズミ

薬草概要

蝶類概要

風琴鳥

ドワーフ

蛇モグラ

廃棄物処理法

ウナギ




【仲間】


リコ・クラーク       (司書)

ジェフリー・フィッシャー  (漁師)

キース・ポーター      (運送業)

レオナ・レオナール     (受付嬢)

グスタフ・グリルパルツァー (狩人)

トーマス・トンプソン    (弟子)

ヘレン・ヘイスティング   (冒険者)

ノリス・ノーチラス     (修理屋)

ハンス・ハックマン     (農夫)



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




(あとがき)


最後までお読みいただきありがとうございました。

このLesson(教訓)が有意義であったと感じていただけましたら、冒険の道標としてページ下部の【☆☆☆☆☆】やブックマークで評価して下さると幸いです。


ご安全に。

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実質的な農奴制がどうなるのかは見どころだなあ
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