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Lesson50 『大変そうな顔をしておけ。』

本来、森を切り開くのは簡単な事ではない。

ましてや馬車の通行に耐え得る道路となると、専門の敷設会社でなくては難しい。


ただ、現在のキャラバンには敷設会社の勤務経験のある者が2人も居る上に、俺も若い頃に軍道敷設作業の飯場に在籍していた経験がある。



「ウォーカーさん。

ここ、見て貰っていいですか?」



そう言って俺を手招きしたのは、勤務経験者の1人アラン氏。



『ええ、ただの木に見えるのですが…』



「根本の曲がり具合…

しゃがんで見た方が分かりやすいかも。」



『心持ち、外側によれてます?』



「コレ、高い確率で道路跡です。」



『え!?

そうなんですか?

森の際にしか見えないんですけど。』



「でも、中を覗き込んで下さい。

僅かに明るいと思いませんか?」



『うーーん。

若干、光が射している?』



「そう、それです。

つまり両脇から生えた植物が時間を掛けて廃道を塞いだ形なので。」



『な、なるほど。

流石は10年在籍されていただけの事はありますね。』



「ウォーカーさん。

多分、少しくらいなら俺一人でも拓けますよ。」



『え?

でも森ですよ?』



「例えば、この茂みを大鉈で払うだけでも…」



言いながらアランは手際よく茂みを刈り取っていく。



『あ!!!』



「分かりました?

これ道路跡でしょ?」



『ええ!

仰る通りです。

いやあ、アランさんは凄いですねえ。』



「いえいえ。

この状態で道路跡だと確信出来たウォーカーさんも素晴らしい眼力です。

多分、このままだと殆どの者は道の存在に気づけないんじゃないかな。」



そこまで話してからアランが質問。

この道を整備するか否か。

俺は再度茂みのあった場所を覗き込む。


これはあくまで勘だが…

数名が丸一日掛けただけで10mくらいの道路は再整備できるだろう。

それを10日続ければ?

100メートルの延長となる…

若い頃の記憶が蘇り、何となく距離感覚が掴めてくる。



『多分、帝国まで普通に馬車で行けるようになりますね。

本気出したら1ヵ月も掛からなさそう。』



「ねぇ、ウォーカーさん。

貴方の独り言を聞きたいんですけど。

帝国、行くんですか?」



『うーん、別に帝国を目指してるって言うか…

税金の安い場所があれば嬉しいですね。』



「帝国だって六公四民ですよ。

王国も帝国も、どっちも糞だ!」



『そうですねぇ。

じゃあ、隙間にでも隠れましょうか?』



ハッとした表情でアランが俺を見る。

しばらく思い詰めた表情で地面を睨んでいたが、天を仰いで一言。



「じゃあ、道路は長過ぎない方が良いかもですね。」



『ええ、慎重に斥候を出し続けましょう。』



その会話はキャラバン全員に共有され、緩やかな開削が選択肢の1つとして増えた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



何気ない生活が続いた。

というより、瓢箪池の周辺がキャラバンの本拠地となり、冒険者依頼がある時だけ街道沿いに戻る生活サイクルが出来た。


畑仕事が得意な者は山を隠し田に変え、猟巧者は周辺の害獣を殺し、工事経験者は森を拓く為の調査を始め、そして俺は池で鯉や鰻を捕らえて干し物を作り続けた。


相変わらずゴブリンは水汲みにやって来て、俺達と物々交換をするようになった。

彼らは俺以外が池に入らないのを見てビジネスチャンスを感じたのか、珍妙な形の漁籠を売り込んで来た。

柄が長い割に取り回しが楽なのが極めて良い。

実演も見せて貰ったが水に浸からずに魚を捕れるのは便利だと思った。

どうやら彼らは俺達が持っていた大型草刈り鎌に興味を持っていたらしく、遠慮がちに指差して来る。



「師匠!

ご理解されてるとは思いますが!」



『分かってるよ。

万が一、この大鎌で人間種に死傷者が発生した場合…』



当然俺は縛り首だ。

異種族に武器を売るなんて利敵行為以外の何物でもないからな。


だが売る。

ゴブリンの編んだ漁網に興味があったからだ。

彼らは俺の供出した大鎌に対して、2個のゴブリン漁網を提示した。

サービスのつもりなのか、そのレートが適正だと彼らが認識しているのか…

残念ながら分からない、現時点の俺には。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



ただ、その時に何気なく交換した漁網があまりに有用だった為に俺の人生は誇張なく一変した。

ゴブリン漁網は誰にでも使える事が判明したのだ。

端的に言えば子供でも鯉や鰻を手軽に獲れるようになった。

クラーク女史に解析して貰って修理方法も確立した。

すると、今まで俺のノルマだったウナギ確保が誰でも片手間に出来る作業となり…


俺は自由を手に入れた。

いや、冒険者の宿が重荷とまでは言わないが。



『ふぅ。

久しぶりに1人になれた。』



久々のグリーンタウン。

ついこの間まで、この街で普通に寝泊まりし遊んでいたのだ。

それが冒険者の宿が軌道に載った事で、いつの間にか拘束されてしまっていた。

いや、ウナギ獲りという作業に拘束されていたのだ。

いざ1人になってみると、やけに風通しが良い。

俺は久々に行きつけの酒場に入りマスターと談笑した。

ここは依頼ボードを置いてくれているから、本当はもっと小まめに通ってカネを落とす必要があるのだ。



「ウォーカー君、聞いたょ。

キミ、冒険者を辞めてウナギ屋さんになったんだって?」



『あ、いや。

別に辞めた訳ではないのですが…

まあ、でも最近はウナギばっかり獲ってました。』



「ん?

今日はお休み?」



『ええ、私以外もウナギを獲れるようになったので…

まあ、もう無理をする事もないかな、と。』



「お、キミもようやく商売の奥義に辿り着いたね。」



『え!?

奥義? 私がですか?』



「ふっふっふ。

ウォーカー君は無意識に境地へと辿り着いたようだね。」



『きょ、境地…』



「いいかいウォーカー君。

その様子じゃあ自覚はないみたいだが、キミはちゃんと正解に辿り着いた。

商売人の目標は多くカネを稼ぐことじゃない。

自分が動かなくてもカネが入る仕組みを作ることなのさ。」



『え?

いや、別に私が動かなくて良くなった訳では…』



「ははは、どの社長さんも最初はそう言うんだ。

でも考えて御覧?

その気になれば毎日酒場に入り浸ってもカネは入って来るんじゃない?」



『…。』



俺は今の自分のポジションを振り返る。

冒険者の宿、馬車キャラバン、フカヒレ販路。

言われてみれば、無理に俺が居る必要もないか…



「おめでとう。

キミはFIRE(ファイア)した。」



『ふぁ、ふぁいあ?』



「働かずに済む御身分ってことさ。」



『あ、いや。

急に言われても…』



「ふふふ、この歳になっても泣く泣くカウンターに立ってる私が言うのだから間違いない。」



マスターが意味ありげに笑う。

あ、この人、俺に何か訓戒を与えようとしているな。



『働かずに済むようになった方はどうされるんですか?』



「おお、よくぞ聞いてくれた。

それでは、ある男の体験を交えて話して行こう。


まずFIREした連中は!

早起きしなくて良いから昼まで寝ている。

そしてお高いレストランでダラダラ食事。

デザートを食べ終わった頃にようやく目が覚めて来る。

アーケードを当ても無く歩いていると、ふと女を買おうと思い立つ。

勿論FIRE身分の連中は夜鷹なんて買わない。

高級娼館で教養ある美女を抱く。

だからこそ、身だしなみも必要だ。

高い美容室へ行って、王都で流行している最新のヘアスタイルに。

髭も綺麗に整える。

そして夜には高級娼館へ。

待合室でギルド仲間の御隠居と鉢合わせ。

女とカネの話に花が咲く。

そうこう言ってるうちに、娼婦が黄金の盆に煙管を乗せて登場だ。

御隠居と一緒にシャンパンを開け、上機嫌で娼婦を抱く。

あー、今日は遅くなっちまったなー。

と女体の余韻に浸りながら馬車で帰宅。

そして最初に戻るって寸法さ。」



マスターは歌うように語る。

…間違いない、これは俺への警句だな。

いや、俺というよりも一般論的な楽隠居への戒めなのだ。



「どう?

ウォーカー君。

キミは羨ましがられる身分になったんだよ。」



『…わた、俺は。

マスターの方が楽しそうに見えるかな。』



「はははは。

そんなに楽しそうに見えるかい?」



『上手く言えません。

勿論大変な事も多いと思います。

でも、人生を選べるなら…

俺はマスターみたいに生きたいです。』



「その心は?」



『カネを持ったからと言って、無理矢理カネ持ちのテンプレに当て嵌まる必要はないと感じました。』



「…ふふふ。」



マスターは機嫌良く笑うとグラス拭きに戻った。

この人は実に楽しそうにグラスを拭く。


いや、違うな。

この人は今、実演して見せてくれてるんじゃないか?

生活が軌道に載った者の在り方を。

さっきの娼館の話、マスターにああいう時期があったのだろう。

でも、アレは明らかに悪例として語っていた。


…更に考えろ。

この店はそこそこの繁盛店だ。

客層も良い。

で、あればマスターにはそこそこの蓄えがあるだろう。

では、何故カウンターに立ち続けているか。


まずはストレスの少なさだろう。

この人は14で夜の世界に入って、29で独立するまでひたすらバーテンダーをしていたと聞いている。

即ち、バーはこの人にとってのホームなのだ。

うん、ストレスは少ないだろう。

また、ずっと働いているように見えるが19時開店の22時閉店なので一日の稼働時間は3時間だけだ。

確か近所に住んでるそうだから、出退勤もさしたる負担ではないだろう。



『社会との繋がりって意味ですか?』



「ん?

さっきの話?」



『あ、いえ。

蒸し返してすみません。

マスターがその歳まで頑張っておられる理由です。

いつもしんどいって仰ってるじゃないですか。』



「奥義2(ツー)

《大変そうな顔をしておけ。》」



『え?』



「しかと伝授したぞ、後輩クン♪」



『…は、はい。』



大変そうな顔…

どういうことだ。


つまり、マスターはそんなに負担を感じてないが、表向きは苦労しているように見せている?

それを伝授したってことは…

俺もそうあるべきだということか…



『マスター。』



「ん?」



『あの、俺。

仕事に戻っていいですか?』



「ははは、優等生過ぎる奴には逆に免許皆伝をやり辛いなぁww」



酒代を払ってから、依頼の話をマスターと交わす。

グリーンタウン周辺の駆除依頼を請ける事のメリット・デメリット。

そして数々のニュース。



「キミは遊びに来たんだか、仕事しに来たんだか分からんなぁww」



『遊ぶときはそう振舞いますよ。

無論、仕事の時は仕事の顔だけをします。』



「ふふふ。

余裕が出来たら女でも連れて遊びに来い。」



『ははは。

まずは相手を探さなきゃ。』



2人で大笑してから別れた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



俺は時間が出来た。

いや、しばらく前から好き勝手出来るくらいの構造的余裕は生まれていた。

だからこそ、こうして街へ遊びに来る事が出来たのだ。


だが、先程の娼館の話みたいに、ずっと遊び惚けているのは好ましくないor好ましくない目に遭った。

だからマスターの様に大変そうな顔をしてなきゃいけない。

無論、自分の負担は極力減らして、である。


つまり、俺にとっては然程苦労ではないが、周囲から見て大変そうな仕事をしておけという事か…

何だろう?

冷静に考えれば今の生活自体が既にそうとも言えるからな。

馬車暮らしなんて、外から見れば大変だが…

ぶっちゃけ気楽でいい。

ロバの扱いも慣れたし。



『さて、と

俺の貸し厩舎は何番だったかな?』



「11番です。」



『うん、ありがと。


ってクラークさん!?

どうしたのですか!?』



「今日は資料纏めで図書館に居たんです。

それで明日の乗合馬車を予約しようと思ったら、テッドさんの札が掛かっておりましたので。

待っていたら逢えるかなーっと。」



『いやいや。

私が街で遊び惚けてたら、ずっと待つつもりだったのですか?』



「ふふふ。

それも楽しいかも知れませんね。」



『…え?

ずっと待っておられたのですか?』



「くすくす。

どうでしょう?」



『食事とかは?』



「明日食べますよ。」



思わず溜息が漏れる。

この女が何を考えているのかさっぱり理解出来ない。



『ちゃんと食事を取らなきゃダメですよ。』



「うふふ、テッドさんが食べさせてくださーい♪

1人じゃ食べられませーん♪」



『何を言ってるんですか、貴女は。』



結局、マスターの下に戻りクラーク女史に食事を採らせることにした。



「おおウォーカー君。

早速女性を見つけるなんて、キミは本当に優等生だなー。

よーし、私が一肌脱いでやる。

今夜は存分に羽目を外して行きなさい。」



『あ、いえ。

彼女は同僚ですので。

ここに来たのも福利厚生とミーティングの為です。

後で北側の村の依頼を彼女に説明してやって下さい。』



「おいおい、ここは酒を楽しむ場だよー。」



『仕方ないでしょう。

私は冒険者の宿の代表なのだから。

結構大変な仕事なんですよ?

あー忙しい忙しい。』



「優等生なんだか劣等生なんだかw」



俺の名はテッド・ウォーカー。

職業は冒険者。

今日の酒は旨かった。




Lesson50 『大変そうな顔をしておけ。』

【名前】


テッド・ウォーカー



【職業】


冒険者

ウナギの人



【スキル】


食材鑑定

高速学習

ウナギ捕獲



【資産】


銀貨334枚

鉄貨5枚



【所持品】


折り畳み釣り竿

簡易テント

大型リュック

万能ナイフ

ポートフォリオ

騎士用手袋

トラバサミ

ハンモック

業務用肉醤製造セット

荷馬車

討伐チップ (ウナギ)

ゴブリン漁網




【生産可能品目】


山椒粉

フカヒレ

ラー油

肉醤

ジャガイモ (少量)

ウナ肝




【ポートフォリオ】


ホーンラビット

スライム

サンドシャーク

山椒

ドブネズミ

薬草概要

蝶類概要

風琴鳥

ドワーフ

蛇モグラ

廃棄物処理法

ウナギ




【仲間】


リコ・クラーク       (司書)

ジェフリー・フィッシャー  (漁師)

キース・ポーター      (運送業)

レオナ・レオナール     (受付嬢)

グスタフ・グリルパルツァー (狩人)

トーマス・トンプソン    (弟子)

ヘレン・ヘイスティング   (冒険者)

ノリス・ノーチラス     (修理屋)

ハンス・ハックマン     (農夫)



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




(あとがき)


最後までお読みいただきありがとうございました。

このLesson(教訓)が有意義であったと感じていただけましたら、冒険の道標としてページ下部の【☆☆☆☆☆】やブックマークで評価して下さると幸いです。


ご安全に。

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この世界の女子は怖い… 胡桃亭じゃないのに、ハマったら抜け出せない…
ご安全に。
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