Lesson48 『形振り構わず味方を増やせ。』
どこの国でも無断で田畑を耕作する事は厳禁されている。
隠し田は計画的な脱税行為であるからだ。
そして、村外に無断で家を建てる行為も禁止されている。
家屋税の脱税に繋がるからである。
但し、猟師がテントで野営する事は禁止されていない。
それどころか、駆除への熱心さを称賛される程である。
そしてクラーク女史が密かに調べたところによると、馬車泊も【仕事熱心】として表彰される事が多い。
無論、それを逆手に取ったハックを当局が歓迎する筈も無いのだが、司法現場においては前例が最重要視されるので、好ましい前例が多くある事は俺にとっては都合が良い。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ここは瓢箪池の畔。
かつて麦畑があったであろう平らな地面。
馬車は38台。
敢えてランダムにバラして停車させた。
まるで皆が偶然に停車したように。
この平地を俺は【キャンプ場】と命名した。
「キャンプ場… ですか?」
『ああ、そうだよ。
要するに、たまたま野営地が重なっただけで村落には発展しない。
という意志表示だね。』
言語化出来てないだけで、トムもロジックは理解出来ている。
「つまり万が一、官憲がやって来たとしても。」
『気配を感じたら全員では逃げずに適度にバラける。
そして取り調べに普通に応じるつもり。』
「…ですね。
害獣駆除の団体が停車して休息しているように見えます。」
『まあ、いい顔はされないと思うよ。』
一応、この近隣の村々は領主に対して害獣駆除を申請している。
無論、返答はいつも通り。
《多忙につき各村の自助努力に任せる。
尚、減税には応じないものとする。》
要するに税金はゴッソリ取るが、その為のインフラ整備は自腹で行えという事である。
本来、この要請に応えて百姓の為に害獣やモンスターを斃すのが騎士階級の仕事である筈なのだが、そのタテマエが実践されている現場を俺は見た事がない。
『いや、私も冷や冷やしているよ。
タテマエがどうあれ、ビジュアル的に怪しいからねえ。』
「師匠!
提案があります!」
『ん?』
「狩ったモンスターを目立つ所に並べませんか?
その方が真面目に狩猟してるっぽく見えます。」
『お!
いいねえ!
トム君のアイデアを是非採用しよう!』
「…後、俺達のご先祖様が珍しい毛皮を当時の領主に献上して褒められた事があるらしいです。
確か村長の家に表彰状が飾っていた筈です。」
『おお!!』
「それ、リコ姉ちゃんに読ませる事って出来ません?
ある程度当時のことを調べた上で、無難な猟果を献上品として…」
『おお!!
トム君どうしたの!!
今日は凄く冴えてるじゃない!!』
「いや、師匠が先へ先へ鞭を入れる人だから、俺は手綱にならざるを得ないんです。」
『はっはっはww
相棒相棒ww』
「もー、調子がいいんだから。
一応念を押しておきますけど、ヤバい橋を渡ってる自覚はあるんですよね?」
『そりゃあね。
こんなに馬車が並んでる光景自体、法律的に問題が無かったとしても事情聴取は覚悟しなきゃだよね。』
「それと、伝言なんですけど。
ウィリーさん達のパーティーも馬車の整備が終わり次第こっちに合流したいってことです。
6台増えますけど、行けます?」
『ははは、大所帯になって来たねえ。』
「笑い事じゃないですよ。
今でさえ怪しい雰囲気なのに。」
『うん、流石に40台越えはヤバいよね。
だから私なりに対策を考えた。』
「はい。」
『馬車は1000台くらい増やそう。』
「は!?」
『あー、でも最終的には1万台くらい必要になるのかな?』
「…。」
『トム君、怒った?』
「いえ、師匠のやりたい事、分かっちゃったので。」
『ふふふ、バレたかーw』
「他の皆は知ってるんですか?」
『どうだろ?
私はあんまり未来の話をしないからねえ。
でも、仲の良い人達は何となく察してるんじゃない?』
「リコ姉ちゃんも?」
『あの人を誤魔化す自信はないなあ。』
俺が遠回しにキャンプ場構想を打ち明けた時、クラーク女史は淡々と瓢箪池までのルート選定をしてくれた。
どこで入手したのか帝国側の古地図スケッチまで見せてくれた。
そう、この瓢箪池の畔はかつて一面の平野であり、王国を滅ぼさんと攻め込んだ帝国軍の最前線陣地が設営されていた土地なのだ。
そして王国が防衛線としたのが、俺がいつもウナギを獲っているあの川である。
川を挟んだ両軍は激しく干戈を交え、敵味方の兵士達の死体が川を堰き止める程に折り重なり、流れる血は河口のブルータウンを越えて海を真っ赤に染めた。
一番広い河原には数年も死臭が染み付き、皆が恐れて数十年は近づかなかった。
新たにそこに村を拓く時も、人々は恐怖を忘れず【古戦場村】と名付けた程である。
「今はすっかり森で覆われてますけど…
この先には帝国があるんですね。」
『らしいね。』
「もー、この辺りの地理は師匠が一番詳しい癖にww」
『ははは、バレたかw
でも、帝国はもう少し先。
今ではこの森はゴブリンが住んでいる。
もう少し西側に行けばドワーフの砦がある。』
「そ、そうなんすね。
じゃあ、これ以上は進めないか…」
『どうして?』
「あ、まだまだ行くんすね。
じゃあ、ゴブリンを討伐するってこと?」
『どうして?』
「…すみません。
師匠のやりたい事、全部分かっちゃいました。」
『…別に謝るような事じゃないよ。』
「ゴブリンやドワーフは敵じゃないってことですね。
後、帝国も。」
『トム君。
キミは回りに合わせていいからな?』
「じゃあ、師匠に合わせます。」
『私以外に合わせなよ。』
「じゃあハンス叔父さん。」
『…同じことじゃない。』
会話はそこで終わった。
トムは挨拶回りと称して、湖畔の馬車を個別に訪問する。
どうやら《ゴブリンに手を出すな》だの《害獣駆除のタテマエを守ろう》だのを触れ回っているようだ。
俺が馬車から降りて周りを見渡すと、皆もこちらを見ていて頷くような仕草をしていた。
そして年長者のオーウェル3兄弟などは、自主的に馬車を車列から離して馬を繋ぎ直した。
どうやら《万が一官憲に目撃された場合》を想定して動いてくれるらしい。
最後に次男のロイ・オーウェルが俺に対してOKのハンドサインを送ってくれる。
冒険者の宿も随分大所帯になった。
そして日々の駆除生活がそうさせたのか、皆が最初に出逢った頃より注意深く研ぎ澄まされている。
愚鈍な俺は感謝するしかない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
夜中、釣り名人のデビット・コスナーが訪れる。
『おお、デビットさん。
こんばんは、お疲れ様です。』
「ウォーカーさん、急ぎ報告したいことが!」
『あ、はい。
どうぞ?』
「丘の上に灯りらしきものが見えます。」
『え?』
「確か今は全員がキャンプ場に居るんですよね?」
『はい、誰も丘には登ってない筈ですが…』
「一応目視して頂いて宜しいですか?
ほら、あっちです。
最初は騎士団の斥候かと思って焦ったんですけど。」
『正規軍のカンテラにしては光が淡いですね。
松明? いや、それにしては…』
「どうします?」
灯りと聞いた時は早速官憲に嗅ぎつけられたかと思って焦ったが、灯りの雰囲気がどうもおかしい。
何か無駄にウロウロしている。
どう考えても訓練された者の動作ではない。
『おーい!』
「ちょ!
ウォーカーさん、もし官憲だったらどうするんです?」
『いや、官憲に見られてるなら、先にこっちから声を掛けなきゃ後々ヤバいでしょ。』
「まあ、そりゃあそうですけど。」
『おーい。
何か用かーい?』
俺は臆病者だ。
かなり焦っているし怯えている。
だが、努めて平静を装いのんびりとしたトーンでの呼びかけに徹する。
恐怖や警戒は鏡だからな。
『どうぞー。
お困りなら伺いますよー。』
しばらく呼びかけて反応が無かったので諦めかけた時だ。
「▽?m9*4◎」
不意に暗闇から聞き慣れない声がする。
「ちょ、ウォーカーさん!?」
内心驚いてはいたが、デビットが代わりに取り乱してくれたので頭がクリアになった。
『デビットさん。
安心して下さい。
彼はゴブリンです。
いや、彼女かも知れませんがね。』
俺が言い終わるよりも先に風が雲を押し流して、月が彼or彼女を照らした。
「}+_?3>>9」
やはり。ゴブリンだ。
性別は不明ながら年齢が若い事は想像が付く。
そして手には水桶らしきもの。
俺は全てを察する。
この近辺のゴブリンは長らく瓢箪池で水汲みをしていたのだろう。
だが、俺がこの地を再活用した事により人間が増え、近づきにくくなった。
だから、こうやって夜にこっそり水を汲みに来たのだ。
『デビットさん、まだ皆さんは寝てはいないですよね?』
「はい、この時間なら全員起きています。」
『大至急、総員に通達。
ゴブリンには絶対に手を出すなと!
そして彼らの水汲み行為を邪魔するなと!』
「…個人的には賛同します。」
『ありがとう。』
「でも、いいんですね?」
『問題が起きたら、私に強要されたと証言して下さい。』
「善行が見つかった時にはそう証言します。」
デビットは小粋にウインクしてから馬車と馬車の間を小走りに回る。
荷台ではうたた寝をしていたトムが目を覚ましたようだ。
『やあ、こんにちは。
私は人間種のテッド・ウォーカーと申します。』
「@>9-&7」
一般にゴブリンには知能が無いと言われている。
当然、それは嘘だ。
知能の無い生き物が松明や水桶を使える訳が無い。
彼らには間違いなく知性がある。
そしてその知性はパン屋の釣り銭を誤魔化すような低劣なそれとは対極の類の物だと、今の所は認識している。
『こんにちは。』
「@>9-&7」
『@>9-&7』
少年(少女?)が目を丸くする。
間違いない。
【@>9-&7】は高い確率で彼らの挨拶言葉。
もしくは謝罪?降伏?
いずれにせよ敵意と対極の姿勢を示す言葉であると確信する。
『@>9-&7』
俺は出来るだけ温厚な表情を心掛けながら開いた右手を挙げる。
「@5@**」
相手は一瞬だけ驚いたように身体をこわばらせるが、笑顔らしき表情を必死に浮かべながら遠慮がちに左手を開いた。
俺は直感的に理解する。
これは多分少年ではなく少女なのだな、と。
ゴブリンには男は右開手、女は左開手で挨拶をする習慣があるのである。
あー、大体理解した。
じゃあ、俺の取る行動は一つじゃないか。
『お嬢さん、水汲みですよね?
お手伝いしますよ。』
「}9{*;e3」
少女はまだ緊張していたが、それでも気丈に俺に付いて来る。
途中、冒険者仲間が全員でこちらを凝視していたので、手振りで距離を取らせる。
デビットが上手く伝えてくれたのか、武器を持っている馬鹿は1人も居ない。
『さあさあ。
どうぞ。』
「*@;/4」
戸惑っている様子だったので、代わりに汲んでやる。
少女の身体ではやや重そうに見えたので水桶も持ってやり、元来た坂を2人で登る。
俺と少女からやや離れた位置をトムが付いて来る。
きっと護衛してくれているつもりなのだろう。
殺気を隠せないあたり、若いよなあ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
別に大したドラマはない。
30分ほど山を分け入った巨木地帯が彼らの集落だったのだ。
樹上や木の根の中にゴブリンが住んでおり、枝の上から俺を凝視していた。
『@>9-&7』
俺がそう呼びかけた事で彼らの緊張と戸惑いは頂点に達したが、少女が皆に事情を話してくれたおかげで敵と誤認されずに済んだ。
『では私はここで。』
背中を撃たれても別にいいや、という気持ちで去ろうとすると遠慮がちに腰をツンツン突かれる。
振り返るとゴブリンの青年。
恐らくは少女の父か兄だろう。
「2:@p}}{{9」
毅然とした声で鉄貨を渡される。
いや、これどう考えても100枚以上あるだろ。
ゴブリン団子100個分のレート?
それは取り過ぎだ。
なので5枚だけを取り出して丁寧に拝む。
俺なんか5枚でいいんだよ、なあポーター社長。
「@66*>>4」
青年は少しだけ考える素振りをしていたが、爽やかに顔を上げてこう言った。
「#$%(@@6」
今日は有意義な日だった。
異種族の挨拶と感謝の言葉を知れたのだから。
『どういたしまして。』
俺は人間式に礼を述べて人間式に手を振って丘を降りた。
Lesson48 『形振り構わず味方を増やせ。』
【名前】
テッド・ウォーカー
【職業】
冒険者
ウナギの人
【スキル】
食材鑑定
高速学習
ウナギ捕獲
【資産】
銀貨388枚
鉄貨5枚
【所持品】
折り畳み釣り竿
簡易テント
大型リュック
万能ナイフ
ポートフォリオ
騎士用手袋
トラバサミ
ハンモック
業務用肉醤製造セット
荷馬車
討伐チップ (ウナギ)
【生産可能品目】
山椒粉
フカヒレ
ラー油
肉醤
ジャガイモ (少量)
ウナ肝
【ポートフォリオ】
ホーンラビット
スライム
サンドシャーク
猪
山椒
ドブネズミ
薬草概要
蝶類概要
風琴鳥
ドワーフ
蛇モグラ
廃棄物処理法
ウナギ
【仲間】
リコ・クラーク (司書)
ジェフリー・フィッシャー (漁師)
キース・ポーター (運送業)
レオナ・レオナール (受付嬢)
グスタフ・グリルパルツァー (狩人)
トーマス・トンプソン (弟子)
ヘレン・ヘイスティング (冒険者)
ノリス・ノーチラス (修理屋)
ハンス・ハックマン (農夫)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
(あとがき)
最後までお読みいただきありがとうございました。
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