Lesson47 『頑張らなくても一番になれる分野を大切にしろ。』
浅薄な俺なので、これまで数多くの読み違えをして来た。
そして、その中でも最も大きな誤算がコレだ。
「ウォーカー君!!
ウナギを頼むよ!!」
『あ、砂金村の。
では冒険者の宿で手続きを…』
「違う違う。
キミ個人へのお願いだ。
だって、そうだろ?
どのみちキミしか獲れないんだから。」
『いや、私以外も頑張れば獲れると思うのですが。』
「でも現に頑張ってくれないじゃなーい。
だからウォーカー君に直接頼むんだよ。」
『ブルータウンの連中が網でウナギを獲ってるじゃないですか。』
「駄目駄目!
網で取ったウナギは身が痛んでるんだよぉ。
ワシは心のこもったウナギが食べたいの!」
砂金村の村長は吝嗇で有名な男だが、自分の欲を満たす時には出費を惜しまないらしく、1匹ウナギを捕まえて捌いて調理してやる度に銀貨10枚をくれる。
俺も忙しいのだが、砂金村は川沿いでも有力な村なので粗略には出来ない。
仕方ないのでズボンの裾をまくって、ウナギを掬ってやる。
「お見事!!」
『あ、どういたしまして。』
岸に上がろうとすると制止される。
どうやら、水槽で飼いたいので後9匹獲れとのことらしい。
俺が渋々川に戻ると、仕事帰りの冒険者達が足を止めて見物を始めた。
「お!
ウォーカーさんのウナギ掬いが見れるぞ!」
「うおおお!!
ノータイムで3匹目行ったぁ!!」
「流石ウォーカーさんはウナギ獲りの名人だぜ!」
おちょくられているようにしか感じないのだが、彼ら曰くウナギ掴みという異能を持っている俺へのリスペクトらしい。
『じゃあ君達も挑戦してみてはどうです?
結構簡単ですよ。』
「ははは、俺ヌルヌルした生き物苦手なんすよw」
「だって水が冷たいじゃないですかw」
「じゃ、俺達は先に帰りますねw」
…結局みんな自分がしたくない作業を押し付けてるだけなんだよなあ。
言い分は分かる。
ウナギは相当ヌルヌルするからな。
慣れてない者や不器用な者だと手掴みは相当な困難を伴う。
しかも今日は大雨の翌日であり、いつもより水温が低い。
『村長。
ご注文通り10匹です。』
「うおおおおおお!!!!
キミはウナギの天才だあああ!!!!」
砂金村の村長曰く、心からの賛辞らしいのだが…
こんなものを褒められた所で、男としての承認欲求は満たされないよなあ。
先週はジェフが巨大な猪を1人で仕留めて皆の英雄になった。
同じ称賛されるなら、ああいうのが男子の本懐なんだよなあ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
前にも少し話したかも知れないが、ウナギは父の死にも繋がっている因縁の魚である。
俺にとってはトラウマ以外の何物でもないのだが、誰にも打ち明けていない以上、皆を責める訳には行かなかった。
辛うじてクラーク女史やジェフが何となく察してくれているが、俺としてはあまり踏み込んで欲しくはない。
非生産的な話題で場が暗くなるくらいなら、【ウナギの専門家】という不名誉な称号に甘んじる方が幾分マシである。
「おいウォーカー。
グリーンタウンじゃウナドンが大人気だぞ!」
『ポーター社長、どもです。
B級グルメってたまに変な方向に火が付きますよね。』
「オマエも一躍時の人だよな。」
『…あんなものどこがいいんでしょうね。』
どういう訳かソーセージの代わりにウナギを挟んだホットドッグがジャンクフード界を席巻しているのだ。
先月、所要があってグリーンタウンに行ったのだが、普通のホットドッグは探しても見つからなかった。
ウナドンの屋台は6つも見かけたのに…
「えー、ウナギは旨いじゃん。
それにシモの精力も抜群になるしさぁww
みんな、女を買いに行く前はウナドンを喰ってるぜww」
『…それは御健全なことですね。』
「で、ウォーカーに依頼が来てるんだけどさぁ。」
『依頼なら冒険者の宿にお願いしますよお。』
「いやいや、だってウナギと言えばウォーカーじゃん。
何せオマエは第一人者だからな。」
『…ははは。』
一事が万事この調子なので、ウナギをトラウマに持っている事が言い出せない雰囲気になってしまった。
まあ、皆がここまで喜んでくれているのに水を差すのも悪いからな。
依頼というのはアホらしい内容。
ウナギの変わった食べ方を考えて欲しいんだってさ。
『いやいや。
もうウナドンがあるじゃないですか。
これ以上、どうしろと。』
「オメーはなーんにも分かってねーな。
流行りの食材が出たら、色々なバリエーションを試してみたくなるモンなんだよ。」
『ほーん。
そんなモンすかねえ。』
「そんなモンだ。
ほら、ビジネス宿チェーンの胡桃亭ってあるじゃん。」
『ああ、レッドタウンにも支店を出しておられましたね。』
「その胡桃亭の女将がウナギの料理バリエーションを考案してくれってさ。
しかもオリジナル料理として売り出したいそうだ。」
胡桃亭の婿のケヴィン氏はかなり腕の立つ冒険者だ。
体格と膂力が群を抜いており、おまけに謙虚で温厚。
俺としては絶対に手放したくない逸材。
だが家業第一の女将は、夫が冒険者の手伝いをする事に対して反対のスタンスである。
『要するに、料理を考案しなきゃケヴィンさんを寄越さないってことですね?』
「まあ、彼も入り婿だからなあ。
あそこの女将はキツい事で有名だし、強く止められれば…
もう来てくれないだろうなあ。」
…それは困る。
ケヴィン氏はサンドシャークすらも単独撃破可能な猛者。
結構アテにしてるんだよなあ。
『分りました。
何か考えてみます。
考えてみますけど、自信が無いなあ。』
「おいおーい。
オマエ第一人者じゃん。
もっとシャキッとしろよ。」
『俺、ポーター社長と違ってウナギ嫌いなんですよ。』
「美味しいじゃん!
俺、オマエが捌いた後のウナギの頭でリゾット作ったくらいだぞ?」
『いやいや、アレはどう見ても捨てる部位でしょ?』
「だってリコちゃんが魚介の頭部は身体に良いって。
旨味のある出汁が取れるんだよ!」
『うっわー。
引くわー。』
「マジマジ!
ウナギは捨てる部位が無いんじゃないかって思ってるもん!」
ポーターとウナギ論争に発展したので、2人で川にウナギを獲りに行くことになる。
途中、馬借村でランチを満喫していたケヴィン氏を発見したので連れて行く。
「ウォーカーさん。
ウチの女房がゴメンねえ。」
『あーいえいえ。
ケヴィンさんにはいつも活躍して頂いてるので。
えっと、胡桃亭の併設食堂で提供可能なメニューを考えればいいんですよね?』
「うん、何か本当にゴメン。
バイトの子にも負担を掛けたくないし、簡単なレシピでお願いするよ。
ロングスネークの討伐パーティーを編成する時になったらボクに声を掛けて。
借りはちゃんと返すから。」
『じゃあ、今から早速獲るんで。
ケヴィンさんも調理側の視点でチェックお願いします。』
「うん、心得た!」
と言っても、ポーターもケヴィンもデカいだけでウナギを獲る事には何の役にも立たないので、俺がチャパチャパと川に入って手掴みで捕獲。
後ろめたいのか巨漢2人もザバザバと川に入って来る。
「お!
今、取り逃したねww
ウォーカーでも失敗する事があるんだなww」
『いや、そんな乱暴に音を立てられたら嫌でも逃げますって。』
その後数分。
オッサン3人でワチャワチャとウナギ取り。
俺は真面目に5匹捕まえたが、2人は途中で飽きたのか鮎を手掴みで捕獲していた。
『2人共、よく鮎なんか捕まえられますね!?』
「え、だってウナギと違ってヌルヌルしてないし。
こんなモン余裕だろ。」
俺も戯れに鮎を狙ってみるが上手く行かない。
「オマエも分からん奴だよな。
ウナギを掴める癖に鮎もロクに獲れないなんて。」
『むー。
結構難しいんですよ。』
ケヴィンもポーターもデカい図体の癖にヒョイヒョイと鮎を捕まえる。
それどころか上流でも食い詰め冒険者のダンが鮎を器用に取っていた。
『ダンさーん。
かなり上手いじゃないですか!』
「そりゃあウナギに比べれば、全然大したことないよ。」
流石の俺も認めるしかないのだが。
どうやらウナギ掴みは俺以外出来ないらしい。
(最初、俺ばかりにウナギ係が回って来るのはイジメの一環かと思ってた。)
他のみんなは冷たい水に入りたくないから故意に出来ないフリをしているのだと認識していたが、それは違うらしい。
本気で獲りに行って失敗しているのだ。
ブルータウンの猟師の様に業務用の網を持っているグループだけがウナギを獲れる。
途中で会ったジェフが教えてくれたのだが、その彼らですら手掴みは不可能とのこと。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
…まだ日も高いし、一応最終確認をしておくか。
『手の空いているみなさーん。
今から特別ミッションを募集しまーす。』
「お? 何々?」
「カネ? カネ?」
「儲け話? 儲け話?」
『はい!
本日のテーマは手掴みウナギです!』
俺が宣言した瞬間、皆から笑顔が消え、一斉に溜息が聞こえる。
『手掴みで獲って下さった方に!
何と1匹あたり銀貨20枚を贈呈します!』
てっきり俺は喜ばれると思ったのだが、半数は肩をすくめて林道敷設依頼に行ってしまった。
残った者達も諦めたように苦笑している。
『どなたか特別ミッションに挑戦して頂けませんか?』
10名ほどがパラパラと俺の元に集まって来る。
雰囲気からして俺への義理立てである。
「俺は前の依頼でケヴィンさんに助けて貰ったしな。」
「ウナギはトレンドだし、一応噛んでおくわ。」
「ウォーカーさんには息子が世話になっとるから。」
そんな雰囲気。
10名は渋々水に入り、そのうちの2名が早々に水温に負けて撤収。
残った8人も結構頑張ったが無理だった。
奇跡的に1匹だけ撮れたが、それにしたって逃げたウナギが偶然服の裾に入り込んでしまった結果だった。
この水域のウナギが難しいのかと思い、念の為に俺も川に入るがやはり普通に捕獲出来た。
何なら片手でも簡単に掴めてしまう。
「才能ですよ、才能!」
『ケヴィンさん。』
「ウォーカーさんが以前ボクに言ってくれたでしょ。
戦闘の才能があるって。」
『そりゃあケヴィンさんは力も強いし度胸もあるし…
戦闘向けの逸材ですよ。』
「それと同じです。
ウォーカーさんにはウナギを掴む才能があるの!」
…く、下らねえ。
俺も男だよ。
弓とか剣とか、そういう見栄えのする才能が欲しかったよ。
それがウナギってなんだよ。
無性に惨めになるが、大人なので現実と折り合いをつける。
『じゃあ皆さん!!
レシピ研究も兼ねて、ウナドンを振舞いまーす!』
「「「いえーい!」」」
俺は河原で焚き火を組み、ウナギを串刺しにして炙る。
いやー、いつもながら臭いよなあ。
「はー?
ウォーカーは何にも分かってねえな。
この匂いが堪らねえんだよ!」
そんな訳あるか、と毎度思うのだが、現に臭いにつられて家々から人が集まって来る。
表情を見る限り、本気で喜んでる顔だ。
俺は当然食べないが、まあ皆が満足してくれるなら一興だろう。
「おいウォーカー。
本当に食べないのか?」
『ははは。
皆さんでどうぞ。』
「オマエって俺と一緒で雑食のイメージあったんだけどな。」
『流石にポーター社長みたいな悪食漢には敵いませんよw』
「なにおー!」
『あはははw』
そりゃあ気持ちは嬉しいんだけどさ。
世の中には喉を通らない食べ物だってあるんだよ。
「なあウォーカー。
ウナギは良いぞー、捨てる部位がない奇跡の食材だ。」
『ああ、その話はまだ続いてたんですね。』
「骨だって食える!」
『ははは、まっさかーw
魚の骨なんてゴミ以外の何物でもないでしょw』
「ほら、あそこの婆さん達を見てみろ!」
『うわっ!
油で揚げてる!!』
「俺らは骨煎餅って呼んでるんだけどさ。
結構旨いぜ?」
ドン引きである。
いやいや、普通魚の骨とか食べないでしょ。
「オマエがいつも捨ててる皮があるじゃん?」
『いや、そりゃあ皮は捨てるでしょ?』
「ほれ、その串貸してみ。
こうやって炙ってだな。」
『うわ、キモ!』
「馬鹿野郎。
こうやって塩を振って。
うんめえ!!」
オイオイ、本当に皮を喰ったよこのオッサン。
飢えた農奴の俺達ですら捨てていたのに。
「皮、食うか?」
『遠慮しときます。』
「…。」
『…。』
「…ウナギに嫌な思い出でもあんのか?」
『…まあ、否定はしません。』
「そんなオマエにしかウナギが掴めないって、もはやギャグだなww」
『ええ、運命の皮肉に頭を痛めております。
もうねー、最近はウナギの臭いを嗅いだだけで血がスーッと引いて気が遠くなるんですよ。』
「わっはっはww
図太いオマエにそんな弱点があるなんてなww」
『笑い事じゃないですよ。』
「安心しろ。
オマエの悩みを解消する秘策がある。」
『え?
どんな?』
「じゃーん!!!
この! ウナギの肝を喰うことだ!!」
『だーかーらー。
ウナギの臭いが駄目なんですってば。』
「まあまあ。
肝は身と全然味が違うから。
そのまま食べるのに抵抗があるのならコンソメにでも入れろよ。」
『うっわ、ゲテモノ。』
「でも身体にはいいんだぜ?
特に貧血対策。」
『そうなんすか?』
「だってウツボの肝は薬じゃん。」
『いやいやウツボとウナギは違うでしょ。』
「でも前にオマエが自分で言ってたじゃん。
ウナギは生物学的にウツボの仲間だって。」
『いや、まあ、あれはクラークさんの受け売りですよ。』
「大学出たリコちゃんが言うんならそうなんだろうよ。
ウツボとウナギは近似種。
ウツボの肝は貧血対策や滋養強壮の薬。
だからウナギの肝も似た様な効果がある。」
『ポーターさんは相変わらず無茶苦茶だなー。』
結局、ポーターに強引に肝焼きを喰わされる。
当然だが苦くてマズい。
『苦い。』
「でも身体に良さげじゃね?」
『いや、まあ、それは…
俺も貧乏生活長いから直感的に薬効は感じますけど。
ケヴィンさんはどうです?
こんなモン胡桃亭では出せないでしょう?』
「いや、いいよ。
身体に良い事が伝わって来る。
酒のツマミに出せそう!」
『えー!?』
結局。
胡桃亭にウナギの肝が採用された。
他店の模倣防止の為にクルミと和えた物を提供するようにしたらしい。
『ポーターさん。
あんなモン、店で出していいんですかね?』
「女将が気に入ったんだから仕方ねーだろ。」
『そんなに良いレシピとは思えないんですけど。』
「…ここだけの話しな?」
ポーター曰く、ウナギの肝を常食するようになったケヴィン氏は前にも増して精力絶倫になったらしい。感激した女将が商店婦人仲間に熱く語って変な普及の仕方をしたとのこと。
おかげでウナ肝の依頼も俺個人に定期的に舞い込むようになった。
ブルータウンの網漁グループに頼めと断ったのだが、手掴みの方が御利益を感じるとのこと。
不本意ながら確信する。
俺は喰いっぱぐれずに済む、と。
今日も俺は生活の為に渋々とウナギを掴む。
皆は【ウナギ名人】と讃えてくれるものの、誰1人手伝ってくれる者はいない。
Lesson47 『頑張らなくても一番になれる分野を大切にしろ。』
【名前】
テッド・ウォーカー
【職業】
冒険者
ウナギの人
【スキル】
食材鑑定
高速学習
ウナギ捕獲
【資産】
銀貨388枚
【所持品】
折り畳み釣り竿
簡易テント
大型リュック
万能ナイフ
ポートフォリオ
騎士用手袋
トラバサミ
ハンモック
業務用肉醤製造セット
荷馬車
討伐チップ (ウナギ)
【生産可能品目】
山椒粉
フカヒレ
ラー油
肉醤
ジャガイモ (少量)
ウナ肝
【ポートフォリオ】
ホーンラビット
スライム
サンドシャーク
猪
山椒
ドブネズミ
薬草概要
蝶類概要
風琴鳥
ドワーフ
蛇モグラ
廃棄物処理法
ウナギ
【仲間】
リコ・クラーク (司書)
ジェフリー・フィッシャー (漁師)
キース・ポーター (運送業)
レオナ・レオナール (受付嬢)
グスタフ・グリルパルツァー (狩人)
トーマス・トンプソン (弟子)
ヘレン・ヘイスティング (冒険者)
ノリス・ノーチラス (修理屋)
ハンス・ハックマン (農夫)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
(あとがき)
最後までお読みいただきありがとうございました。
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