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Lesson46 『ギバーを選別せよ。』

皆は俺を「無欲な人」と讃えるが実は違う。

物欲だって性欲だってちゃんとある。

農奴という身分上、それが叶わない立場に置かれているだけなのだ。


そもそも奴隷階級の俺は王国人としての戸籍を持っていない。

但し、大農園の農奴だったという記録が財務局にも俺の背中の焼き印にも残っているので、境遇からの脱出が非常に困難である。



「ウォーカーさんがその気にあれば幾らでも金貨を懐に入れれますね!」



無邪気な馬鹿は気軽に言ってくれる。

だが、それはあまり意味がない。

農奴が金貨を持つことは厳禁されているからだ。

なので俺は意識して手元にカネを残さないようにしている。

何人かの同階級人が蓄財を頑張った末に、悲惨な末路を辿ったのを俺は何度となく目の当たりにしてきた。

国家が奴隷にカネを持たせない方針を持っている以上、俺も対策せねばならない。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「ねえ師匠、また野営ですか?」



『ん?

東の森の依頼でね。

別にトム君は付き合わなくて構わないよ。

あ、そうだ。

はい、これ昨日の依頼の分け前です。』



東の森までは起伏の激しい獣道しかないので馬車が入れない。

なので皆がここでの依頼を嫌がる。

そういう誰も請けない依頼は極力俺が埋めるように心掛けている。



「…。」



『ん?

どうかした?』



「…師匠。

どうしてそこまでしてくれるんですか?

この銀貨、ひょっとして昨日の採集分の全部じゃないんですか?」



『私とトム君の2人でクリアした依頼だからいいじゃないか。』



「…答えになってません。」



『えー。

そんな事を言われても困るなあ。』



「じゃあ!

俺も師匠と一緒に野営します!」



『いやいや無理しなくていいよ?

キミもちゃんと家に帰って休息しなくちゃ。』



「でないと納得出来ません!」



結局、東の森で2泊。

トムが居たおかげで、依頼のカエンダケが必要量揃った。

大根村が薬問屋から採集を請け負ったはいいが、見つからずに困っていたのだ。

そんな性質の依頼。



『いやあ、流石は若者の脚と目だねえ。

トム君のおかげで依頼が早く終わったよ。』



「師匠、俺は役に立ちましたか?」



『ああ、勿論だよ。

1週間は掛かると思っていたからね。』



「なら、褒美として…

俺のお願いを1つ叶えてくれませんか?」



『あ、うん。

私で出来る範囲であれば。』



「今回のカエンダケの収集依頼。

師匠もちゃんと報酬を受け取って下さい!」



『え?

いやあ、どうだろう。

最近の私は冒険者というより、宿の責任者だからねえ。

私個人が受け取って良いのやら…

解釈に困る所だねえ。』



「駄目です!」



あまりに少年の目が真っ直ぐだったので思わず笑ってしまう。



「笑わないで下さい!

俺は真面目に言ってるんです!」



『ははは、ゴメンゴメン。

トム君を笑った訳じゃないんだ。

気を悪くしないでほしい。』



「まず、今回の依頼報酬は一旦俺が貰います。

それは構いませんね?」



『ああ、問題はないよ。

トム君は大活躍だった。

しかも、出くわしたホーンラビットを一発で仕留める手柄も立てた。

あれは凄かったなあ。

キミの年齢で中々出来る事じゃないよ。』



「その上で!

師匠に分け前をあげます!」



『えー、参ったなぁ。

若者からおカネを貰うなんて、悪い大人みたいだよ。』



「駄目です!

受け取って下さい!

それに師匠は良い大人だから別にいいんです!」



『ははは、トム君には敵わないな。』



そんな会話を交わしながら2人で森を出る。

他の冒険者も馬車で宿に向かう所だったので乗せて貰った。

どうやら、東の森の依頼を敬遠している事は皆も内心気にしていたらしく、大いに恐縮された。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



冒険者の宿の受付業務が終わり、閑散としたロビーで俺は箒掛けを行う。

クラーク女史は休暇でグリーンタウンに戻らせているし、レオナール女史は奥で資料の整理。

古戦場村から出勤している受付嬢も帰宅させた。



『おや?

トム君は手伝わなくても大丈夫だよ?

もう業務は終わったし、のんびりしていなさい。』



「…。」



少年は唇を尖らせて、俺から箒をひったくる。



『あー、困ったな。

箒を取られてしまった。』



「師匠は手伝わなくて大丈夫です!」



『え?』



「もう業務時間は終わりですし、のんびりしていて下さい!」



『ははは、これは一本取られたな。』



少年の意志が固そうだったので、水浴び場で再度身体を清めさせて貰う。

すぐに戻るとプライドを傷つけてしまいそうなので、井戸にもたれてのんびりと月を眺めながらポケットの中の胡桃を摘まんだ。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



俺は奴隷階級だ。

解放されても、それは変わらない。

社会制度上、財産を持つことが許されていないのだ。

なので同階級の者で野心や意欲がある者がギャングになるのは仕方のない事だと内心は思っている。


だが、俺は彼らとは異なるアプローチを選んだ。

倫理からではない、損得勘定からだ。

ギャングは損だ。

人生トータルして得をしているギャングを俺はまだ見た事がない。

しかもその人生は概ね短いときている。


財産保有を許されていない者の多くが暴力を通貨をとして境遇からの脱出を図っているのに対して、俺は皆に着せた恩を擬似債務として保有する道を選んだ。

無論、恩や貸しに形はないので、俺が何をしようと気づきもしない者は多い。


それでも意識して利他的に振舞っていれば、俺の好意に共感したり負い目を持ってくれたりする者が現れる。

実は、その選別を俺は秘かに行っている。

おかげで、返報性のある者で周囲を固める事に成功した。

なので俺のスタッフは皆、人の情緒に敏感な者ばかりだ。

それが冒険者の宿でトラブルが発生しにくい理由。

首を傾げる者もいるが不思議でも何でもない。

組織なんて中枢から下らない人間を排除すれば、幾らでも健全に保てるのだ。



「師匠ー!

レオナールさんが御夜食を作ってくれましたよー!」



『ああ、それは恐縮だねえ。

今、戻るよ。』



窓から覗かせている無邪気なトムの表情を見て改めて確信する。

俺は無形の債務を増やし続ける以外に生きる道がないのだ、と。

無論、心の高利貸しになるつもりもないので安心して欲しい。





Lesson46 『ギバーを選別せよ。』

【名前】


テッド・ウォーカー



【職業】


冒険者

ウナギの人



【スキル】


食材鑑定

高速学習

ウナギ捕獲



【資産】


銀貨141枚



【所持品】


折り畳み釣り竿

簡易テント

大型リュック

万能ナイフ

ポートフォリオ

騎士用手袋

トラバサミ

ハンモック

業務用肉醤製造セット

荷馬車

討伐チップ (ウナギ)



【生産可能品目】


山椒粉

フカヒレ

ラー油

肉醤

ジャガイモ (少量)




【ポートフォリオ】


ホーンラビット

スライム

サンドシャーク

山椒

ドブネズミ

薬草概要

蝶類概要

風琴鳥

ドワーフ

蛇モグラ

廃棄物処理法




【仲間】


リコ・クラーク       (司書)

ジェフリー・フィッシャー  (漁師)

キース・ポーター      (運送業)

レオナ・レオナール     (受付嬢)

グスタフ・グリルパルツァー (狩人)

トーマス・トンプソン    (弟子)

ヘレン・ヘイスティング   (冒険者)

ノリス・ノーチラス     (修理屋)

ハンス・ハックマン     (農夫)



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




(あとがき)


最後までお読みいただきありがとうございました。

このLesson(教訓)が有意義であったと感じていただけましたら、冒険の道標としてページ下部の【☆☆☆☆☆】やブックマークで評価して下さると幸いです。


ご安全に。

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