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Lesson45 『取り巻く民度は己が決めよ。』

さて、冒険者の宿が完全にキャパオーバーだ。

元々、僻地の街道宿にしては不釣り合いに大きかったのだが、それでもこれだけの冒険者を収容する余裕はない。

特に宿を待ち合わせに使おうと試みる連中が多く、混雑に拍車をかけていた。



「ウォーカーさん。

隣の酒場も寄贈しましょうか?」



『え?

いやいや、流石にそこまでして頂くのは…』



古戦場村の若村長は19歳という年齢もあり、こちらが驚かされるほどに大胆である。

立場が人を作ったのか、元々将器だったが故に立場を全う出来ているのか。

…恐らく前者だろうな。



「どうせ廃屋ですよ。

ほぼ隣接しているのだから、改築して合体させてみません?

腕利きの大工さんと仲が良いと伺っております。」



『ええ、以前1日だけ登録して下さったペーターさんの事ですよね?

彼には色々と面倒を見て貰っていて、たまにグリーンタウンで屋台飯をご馳走して下さることもあるんです。』



「なら話は早い。

見積もりだけでも出してみればどうです?」



『酒場も併設となると…

かなり大規模になってしまいますね。』



「あ、すみません。

目立っちゃいますよね。

余計な提案でしたか?」



『いえ、この商売で酒を出してしまうと…

搾取になってしまうので。』



「え?

そうですか?」



『私も最近分かって来たことなのですが…

冒険者稼業って、相手の自尊心や名誉欲に付け込んで危険に送り込むスキームなんですよ。

だから各々は慎重かつ臆病であるべきなのですが…

酒が入ると気が大きくなりますからね。

素面の時には請けない様な難易度の高い依頼に志願してしまうかも知れない。

以前からそれを危惧しておりまして。』



「…。」



『村長?』



「感服しました!」



『わ、びっくりした。』



「そこまで考えておられたのですね。

如何に自分が浅はかだったかを思い知らされました!」



『いや、別に私が思慮深い訳ではなくて…

今まで色々な職場を転々としていたので、そういう悪辣な手を使う雇用主も知っているのです。』



俺が高所仕事をやらされていた時期の話だ。

労働者を酔わせてから危険作業契約を結ばせる卑怯な事業主が居た。

本当に見下げ果てた男だった。

仲間が何人も死んだ。

俺は、そういうアンフェアなやり口が大嫌いだ。



『まぁ、酒に関しては各々の好みですから。

問題が起こらなければ禁止まではしませんよ?

ほら、酔って暴れる人とか居るじゃないですか?』



「じゃあ、棟を繋げる案は諦めます。」



うん、それが妥当だろうな。

最下層の職場を転々として来た俺には分かるのだ。

最下層の人間が酔うとどういう愚行を犯すのかが。

数え切れないくらい嫌な目に遭って来た事だしな。



「そこで代案なのですが。

隣の酒場跡を弊村で運営しても宜しいでしょうか?」



『え?

いや、それは古戦場村の所有物件ですので…

私が口を出す事柄ではありませんし…』



「折角ですので、【冒険者の酒場】という名称を許可して頂けましたら幸いなのですが…」



なーにが《折角ですので》だよ。

最初から着地点に定めていた癖に。



『…。』



「無論!

ウォーカーさんに御迷惑をお掛けしません!

飲み過ぎないように注意しますし、喧嘩沙汰も起こらないようにします!」



『えっと、酒場で飲ませ過ぎないようにするのって、かなり難しいと思うのですが…

具体的にはどうします?』



「あ、いや。

そこまでは、まだ…

申し訳ありません、先走りすぎまして。

恥ずかしい限りです。」



いや、恥じる必要はない。

19歳という年齢でここまで交渉出来るキミは相当の逸材だ。



『では、私から条件を出させて下さい。』



「は、はい!」



『提供する酒は1人1杯まで!』



「えー!」



えー、じゃねーよ。

こっちは経験則で言ってるんだよ。

酒飲んで揉める奴って、最初の1杯からおかしくなる訳じゃない。

(今の所、1杯目から揉める奴は見たことがない。)

寧ろ、最初は上機嫌だったのが3杯4杯と重ねるごとに荒れてきて、その延長でトラブルを引き起こすのだ。



『そして女給の禁止!』



「え、え、え、えーっ!?」



え、え、え、えーっ、じゃねーよ。

酒場の対人トラブルなんて全部女給絡みじゃねーか。

俺がどれだけ多くの醜悪な恋模様(笑)を見せられて来たと思ってるんだ。



「い、いやー。

困りました。

女子の現金収入手段拡大の為の案でもあったのですが…」



『御婦人方には薬草でも摘ませる事を勧めます。』



「あ、はい。」



若村長は上目遣いでチラチラと俺の顔色を伺ってくる。

いや、気持ちは分かるけどね。

駄目なものは駄目。


若くて小綺麗な女は大抵それを換金しようと試みる。

その点は咎めない。

自らの武器を活かすのは努力の範疇なのだから。


俺が問題視しているのは彼女達が顧客の対人トラブルや懐具合に概ね鈍感な点なのである。

また、同性にもマウントを取ろうとして雰囲気を悪くする。

なので、賤業の女をこのビシネスに近づけるのは反対。


もはや論ずるまでも無いだろう。

冒険者の宿で深刻なトラブルが発生するとすれば、酒か女給が原因となる事は無学な俺ですら予見出来ることなのだから。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



結局。

俺の意見がほぼ通った。

【冒険者の酒場】はあくまで【冒険者の宿】が混雑時の待機場。

安価な軽食プレートに茶かドブロクが1杯だけ付く。

女給は居ない。

念の為、賭博も禁止した。



「あ、あの!

ウォーカーさん!」



『ああ、クラークさん。

どうかされましたか?』



「酒場の件であれこれ言っている人も居るみたいですけど…

私は素晴らしいご判断だと思います!

どうかお気落ちなき様!」



『ありがとう。

クラークさんにそう仰って頂けると救われます。』



クラーク女史はしばらく紅潮していたが、一礼して業務に戻って行った。



よし、当初の想定通りだな。

思慮深い者や節度ある者は酒1杯ルールに賛同してくれている。

そして想像通り、強く反発した者は新参のやや素行の悪いグループだけだった。

彼らは酒・女給・賭博の解禁を2度も俺に直訴して来たが、こちらの意志が固い事を知ると悪態を吐いて去って行った。

能力は高い連中だったが惜しいとは感じなかった。

何故なら依頼者達が1杯ルールの制定を大いに喜んでくれたからだ。

真の意味で冒険者の宿が川沿い村落群に受け入れられたのは、このルール制定からではないかと俺は思っている。


俺は1人、山上のテントから眼下の宿・酒場を眺める。

喧騒は程良く、そこに棘は感じなかった。


竹水筒に残ったドブロクをチビチビと啜りながら、飽きもせずに喧騒に身を任せた。




Lesson45 『取り巻く民度は己が決めよ。』

【名前】


テッド・ウォーカー



【職業】


冒険者

ウナギの人



【スキル】


食材鑑定

高速学習

ウナギ捕獲



【資産】


銀貨122枚



【所持品】


折り畳み釣り竿

簡易テント

大型リュック

万能ナイフ

ポートフォリオ

騎士用手袋

トラバサミ

ハンモック

業務用肉醤製造セット

荷馬車

討伐チップ (ウナギ)



【生産可能品目】


山椒粉

フカヒレ

ラー油

肉醤

ジャガイモ (少量)




【ポートフォリオ】


ホーンラビット

スライム

サンドシャーク

山椒

ドブネズミ

薬草概要

蝶類概要

風琴鳥

ドワーフ

蛇モグラ

廃棄物処理法




【仲間】


リコ・クラーク       (司書)

ジェフリー・フィッシャー  (漁師)

キース・ポーター      (運送業)

レオナ・レオナール     (受付嬢)

グスタフ・グリルパルツァー (狩人)

トーマス・トンプソン    (弟子)

ヘレン・ヘイスティング   (冒険者)

ノリス・ノーチラス     (修理屋)

ハンス・ハックマン     (農夫)



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




(あとがき)


最後までお読みいただきありがとうございました。

このLesson(教訓)が有意義であったと感じていただけましたら、冒険の道標としてページ下部の【☆☆☆☆☆】やブックマークで評価して下さると幸いです。


ご安全に。

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