本文3、友達に修道院を出ていくことを伝える(1000字) 『起』終わり
アニェスが部屋を出るとすぐに、院長が入れ替わりに戻ってきて、マルグリットのそばに近寄った。
茫然としていたマルグリットは慌てて立ち上がり、
「修道院長様、主の御加護がありますように」
と言いながら急いで十字を描いた。
「シスターマルグリット、あなたに主の御加護がありますように」
院長もマルグリットを祝福し、後ろを振り返って、
「アニェス様はずいぶん急いでいらしたわね」
と言った。
「すみません。母が失礼な態度を取ってしまって」
マルグリットは、アニェスが院長を立たせて自分だけ椅子に座っていたことをわびた。
「構いませんとも。それより、シスターマルグリット、あなたは三日後にこの修道院を去ることになりました。急な話で、私も驚いていますが、アニェス様がなるべく早くとおっしゃいましたからね」
院長はそう言うと、わずかに身をかがめて、マルグリットの眼の内をじっと覗き込んだ。
あまりに長い間そうしていたので、耐えきれず、マルグリットは目をそらしてしまった。
すると、院長はほぅ、とため息をついて、こう言った。
「いいですか、シスターマルグリット。あなたは誓いを立てて自分の身を神にささげたのですから、還俗することは大きな罪になります。だから、修道院を去る前に、あなたは告解(洗礼後に犯した罪を告白し、神からの赦しと和解を得る儀礼)をしなければなりません。三日後、三時課の後のミサが済めば、告解室へ行きなさい。アニェス様はあなたのために贖宥状を買われましたから、これを持っていけば、償いの仕事は免除されるでしょう。」
そして、院長はマルグリットに贖宥状を手渡した。
マルグリットがそれを受け取ると、院長は打って変わって明るい声色を作り、
「さあ、早く寝てしまいなさい。明日もあなたには仕事がありますから」
と言った。
談話室を出て、マルグリットが寝室の前へ着くと、ボンヌの部屋の扉がほんの少しだけ開いているのが見えた。
入ってきて、という秘密の合図だ。
マルグリットは周囲を見渡し、手燭の火を消して、ボンヌの部屋へ入った。
するとすぐさま、
「ね、なんて言われたの?」
暗闇の中から、興味津々なボンヌの質問が飛んでくる。
「ええと、私、修道院から出られるって……」
「え!!!」
ボンヌは短く叫び、しばらく沈黙した。
マルグリットは、彼女がぽかんと口を開けている様子が、ありありと想像できた。
「つまり……、結婚するってこと……?!」
やがて、ボンヌは吐息まじりにそう呟いた。
「いや、それは、分からないけど」
マルグリットは母からの言いつけを守ろうと、誤魔化した。
「絶対そうよ!ここから出るって言うんなら!!」
しかし、ボンヌは既にマルグリットの結婚を確信していた。
そして、ボンヌは立て続けに
「あなたが出て行ったら、私はまた独りぼっちじゃない!!嫌よそんなの!取り消して!」
と叫び、嗚咽を漏らし始めた。
マルグリットは、体をこわばらせて、立ち尽くしていた。
何か慰めの言葉をかけようと思ったのだが、そうすると、自分が結婚することを暗に認めることになるような気がして、できなかったのだ。
しばらくすると、ボンヌは自分を何とか抑えたらしく、嗚咽が小さくなった。
それから、悲しみを吐き出すように長い息をつくと、ボンヌはマルグリットにこう言った。
「ごめんなさい、取り乱してしまって。結婚が決まったのは素晴らしいことだわ。あなたは心が美しいから、どこでもやっていけるでしょう。じゃあ、おやすみ。院長に見つかったら、それこそ結婚が取り消されるかもしれないわよ。もう行って」
マルグリットがうなずき、部屋を出ようとすると、ボンヌの声が背中越しに響いた。
「喜ばしいマルグリット、さようなら!あなたに主の御加護がありますように!」
7.3:眠くなってきた。明日に回そうかな。以下のように書くつもり。云々。
7.3:マルグリットは大衆の前に出さないようにお願いされてたはずだが、教会には行ってたんだろうか?→解決済。修道院では、全ての宗教儀式ができるようになっているらしい。わざわざ教会に行かなくても、ミサも告解もできる。
7.4:院長がマルグリットの目の内を覗き込むのは、カミュ『異邦人』のラストに影響受けたのかなあ。「貴族は貴族として、庶民は庶民として云々」という、この本のパンチラインも、きっと『異邦人』のラストにインスピ受けてんだ。話の展開は太宰の『斜陽』ぽいとこがある。




