本文4.商人やって来る(2000字) 第二章の始まり
ところで、マルグリットの結婚はどのようにして決まったのだろうか。
まず、その経緯から見ていくこととしよう。
彼女の結婚相手は、クエンティン・マサイスという。
農奴(領主に従属して生産労働の大半をになった農民)の出身だが、父親の代から商売に成功し、今では独立自営農民(土地を所有する、自由で独立した農民)になっていた。
彼は、自分の人生におおむね満足していたが、いかにも成り上がり者らしく、態度は卑屈でありながら、自尊心が極めて高かった。
それで、彼は常々、自分の出身が農奴であることを恥じており、いつか身分を清算したいものだと考えていた。
そんな折、彼はマルグリットの話を耳に挟んだ。
すなわち、「子爵のブルゴーニュ家の娘が、あまりに顔が醜いせいで、幽閉同然に修道院で生活している」という噂を聞きつけたのである。
彼はその話にとても興味を持った。
貴族が隠ぺいを図るほどの顔とはどのようなものか知りたいという欲も湧いたし、それほど醜い女なら、もしかしたら自分のような卑しい身分の男でも娶ることができるのではないかと考えたのだ。
そこで、彼はマルグリットの父、アンリ・ド・ブルゴーニュと交渉することにした。
もちろん、マサイスはそれまでアンリに出会ったことなどなかったし、貴族の集まりに行くこともできなかった。
しかしながら、彼はアンリに接近できる自信があった。というのも、アンリがスール(2チームに分かれて、1つの球を奪い合う競技。)の熱狂的な愛好家であることを知っていたからである。
アンリは、祝祭日になると、決まって庶民に混じってスールを楽しんでいたのだ。
そこで、マサイスは、聖ヨハネの日になると、アンネがスールに興じる教区へ足を運び、住民たちとともに観戦した。
アンネは大柄な男で、最初こそその奮闘ぶりがよく見えたが、あまりに速く駆けるので、すぐに丘の向こうへ姿が消えて見えなくなった。
マサイスはアンネの背中をいくらか追いかけたが、ついに諦め、アンネが帰ってくるまで教会の前で待つことにした。
すると、非常に長い時間を経て、敗戦したアンリたちのチームが、ほとんど怒鳴り合うように会話しながら道を引き返してきた。
その時、マサイスは待ちくたびれてうつらうつらしていたのだが、彼らの帰還を知るや、すぐに頭を起こし、それ来たと言わんばかりに道へ体を乗り出して歓声を上げ、偉大なる戦士たちを讃えた。
そうして、マサイスは抜け目なくアンネを探り出すと、逃さないように目で追いながらついていった。
7.4:おやすみ。
7.5:おやすーみ




