本文2-1.修道院仲間とジプシーの話をする(1000字)
特にマルグリットと親しかったのは、ボンヌ・ド・リュクサンブールという名の22歳の修道女だった。
彼女はエキゾチックな物事が大好きで、異国の文化を記した本ばかりを読んでおり、周囲からは変わり者と認識されていた。
「ねえ、可哀想なマルグリット。私が勧めたアルブレヒトの詩集、もう読み終わったかしら?」
今日もボンヌは、庭仕事の合間に、マルグリットへにこやかに話しかけた。
「ええと、いや、まだ全部は……」
「そう。大丈夫よ、催促なんてしないから。ゆっくり読んで」
ボンヌは石造りのベンチに腰かけ、静かに詩の一節を口ずさんだ。
「『寄る辺ない浮草のように、汝らは放浪を愛する。定まらず、形を成さず。』……アルブレヒトがジプシーのことを歌った詩よ。羨ましいわよねぇ、囚われることのない生活っていうのは!私だって、こんな修道院に入れられてなかったら、今頃外国を放浪して過ごしていたわ」
ジプシーとは、特定の国を持たず、ヨーロッパ各地を旅して歩く移動型民族である。
修道士の中には、ジプシーはイスラム教のスパイだなどと言って警戒する者もいたが、ボンヌは彼らに強い憧れを抱いていた。マルグリットもまた、ボンヌの影響で、ジプシーに対して好ましい印象を持っていた。
「イエス様だって、旅をしながら病人たちを癒したのよ。こんなうわべだけの修道院に閉じこもって生活していたって、罪が清められるわけはないわ。ジプシーのように、形を成さず、清貧に生きなくては。そうでなきゃ、また神がお怒りになって、黒死病の嵐がやって来るかもしれないわ」
ボンヌはそう強く言い、ため息をついた。
対して、マルグリットは、ボンヌの語り口調が熱くなってきた時にいつもするように、四方を見渡して他人が会話を盗み聞きしていないか確かめた。
このような話をしていることが知られれば、こっぴどく叱られてしまうからだが、ボンヌはヘマをしないように常に心掛けていた。
「大丈夫よ。今から時課(特定の時間に祈ること)が始まるでしょう?院長も見張っていられないって」
ボンヌがそう言った途端、祈りの時間が来たことを告げる鐘が遠くから鳴り響いた。
マルグリットは、ボンヌの時間感覚の正確さに舌を巻きながら、礼拝所へ向かった。
わしが坊主の修業した時に感じたことだが、優等な聖職者は手を抜いても良い時間を知っている。どれだけはっちゃけて遊んでいるようでも、監視役の人がいないタイミングを見計らってそれをやっている。要領がいいとはそういうことだ。対してわしのような愚鈍な聖職者は、罰を恐れて始終気を張っているつもりでも、必ず大事なタイミングでヘマをして叱られる。




