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【完結】ド田舎の村娘だけど、是が非でも王になりたい!  作者: 今江彰人
第3部 【王を貫けプリンセス】

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24:いつまでも、こうして

「グレイザー!!」


里を一直線に走り抜け、私達は追い求めていた影を発見する。

因縁深い【決裂の崖】。何故か彼がそこにいる確証があったのだ。


「何用だ」

「はあ、はあっ……ま、まさかっ、そこから飛び降りる気ですか!?」


荷物を手に涼しい顔をするグレイザーに対し、息切れしたエーネが捲し立てる。


「お前ら姉弟も経験したことだ。オレに不可能な謂れはねェ」

「な、何その対抗心────じゃなくてっ!」


強く膝を叩き、少女は真剣な表情で問い質した。



「行っちゃうの……? 一人で……!」



グレイザーは何も言わない。

それが何よりの肯定の意だとわかった時、空気が急に冷たく感じられた。


「ど、どうして。私達、一緒に戦って……!」

「何度も言ったはずだ」


蒼色の長髪を風に揺らし、守護者はこちらに向き直る。


「馴れ合うつもりはねェ。未だオレに足りない力────それを追い求めるのに、お前達は不要だ。いずれ越えるべき敵である以上な」

「敵、か。グレイザー、俺達は……」

「セイヴィア、お前も選んだのだろう。フレイング・ダイナに付いていく道を。ならばそれを全うしろ」


言葉が出て来ず、私達は口を閉ざすばかり。

やっとのことで絞り出されたのは、エーネの涙交じりの掠れ声だった。


「わたしっ……ほ、本当に、感謝してるんです。グレイザーがいなきゃ、全部あの日、終わってたから……!」

「…………」

「だから、さ、寂しい、です……っ! ごめんなさい、変な風に引き留めて。ただ、その」


無論グレイザーは、この程度の言葉で決断を歪めたりしない。それでも虚しさに任せ、言い募っているのだ。


だからこそ彼の提案には、私達は心底驚かされた。


「もう一組通信機を持っていたな。あれはどうする予定だ?」

「えっ? 決まってないけど、片方をエーネのお父さんお母さんに渡すとか?」

「そうか」


グレイザーはしばらく思案顔だったが、



「その片割れを俺に寄こせ。もう片方は、モイスティが持っていろ」



エーネは口を半開きにし、固まった。無論私もだ。

いくら何でも、わからないほど愚かではない。それが何を意味するかなんて。


「ぐ、グレイザー」

「勘違いするな」


変わらぬ表情で、彼は冷たく言い捨てる。


「お前達の近況を知るのに利用するのみ。必ず倒すと言ったはずだ」


かつて放たれた、体の芯まで萎縮させるような怒号を思い起こす。彼を打ち倒すまでの間、定期的に思い出されたあの剣幕。


しかしわかっていたことだ。その裏に隠された、彼の優しさなんて。


「…………ぁ」


ほんの少し。もう少しだけ心が許すのならば、エーネは「是非」と口にしていただろう。



私の意識とは離れた所で……少女エディネアは思い描いていた。


フレイ、ザン、マインド、レトア。そしてグレイザー。

囚われた自分を救い出し、道を示してくれた大切な存在。


皆に頼り切りな自分。何をするにも怯え、中々踏み出せない自分。



そんな風に生きていくなんて、まっぴらごめんだ。



(そっか、わたし)


ここに来て、少女は確信する。



(強くならなきゃダメなんだ)



「グレイザー」


名を呼ぶと、涙が一滴こぼれた。それが最後だと自分に誓い、エーネは顔を上げる。


「折角なんですけど……遠慮しておきます」

「そうか」


彼はさほど意外そうな顔をしなかった。


「ならば、ここまでだ」

「…………」

「礼は言わん。だが、かつて手を下そうとしたお前達に、今度は助けられたのも事実だ」


崖を背負うグレイザー。上り詰めた日光を一身に浴びながら、凛とした声を放つ。


「健闘を祈る」


「わ、わたしっ!!」


これは弱さとの決別だ。だから────


「エ(・)デ(・)ィ(・)ネ(・)ア(・)、なんです」


こうして、最後に。


「それがわたしの、名前……」



わがままを言うくらい、許してほしい。



エーネは俯いた。次の言葉が何であろうと絶対に受け入れよう────ガラスの心で、そんな決意をした瞬間。

大きな何かが髪を揺らした。まるで綿毛のような感触に、息が止まる。


きっとあの時痛がったからだろう。


エーネの頭に置かれたグレイザーの手は。これ以上無いほど、慈愛に満ちていた。



「また会おう、エディネア」



弾かれるように顔を上げた、次の瞬間。



ビートグラウズの守護者は、既にその姿を消していた



「エーネ」


私────フレイング・ダイナは、ひと時の世界から戻り、その場に佇む幼馴染に声をかける。


「ふ、フレイ。わたし……」

「頑張ったねっ」


振り返るエーネにはにかむと、ちょっと泣きそうな笑みが返ってきた。

ザンもマインドもレトアも、無言ながら目で言っている。


きっと、また会えると。


「さー、みんな。これからどうしよっか」


敢えて明るい声を出すと、待ってましたとばかりに仲間達が口を開いた。


「考える間でもない。まずは村に帰るぞ、親に心配かけてるからな」

「えっ、僕は王都に行きたい。修理してくれるのがそこだけだから」

「あたしはママに会ったら、フレイさん達と旅したいなー、なんて」

「わ、わたしは一旦休憩したいかもです……戦いっぱなしだったし」


「バラバラすぎでしょ!!」


とはいえ、正直私も迷っていた。

エーネの言う通り休憩はしたい。だが、義両親に一度顔を見せたい気持ちもあるし、今更レトアと離れるのも辛かった。


というか本当は、もう一秒でも長く────


『フレイ、悩んでいるの?』

「……マインド」


『ふふっ。僕の夢を継ぐ君は、既に何もかもを手に入れているはずなのに』


私の『アドバイザー』が、宙を漂いながら軽やかに告げる。


「夢…………」


「あぁ、炎のお姉さん達。こんな所にいたんだねぇ」


やや耳障りな猫なで声がして、全員で背後を向く。

案の定、悠々自適に仁王立ちするライグリッドがいた。


「身構えなくて良いよ。連絡をしにきただけさ」

「まだ何かあるのか?」

「父さん達と話したんだけどね。僕達が実権を握るといえど、やはりけじめは必要だ。街の主たる方針は、本来の首領であるエーネに従う事になった」


彼が言いたい事を察し、私は少しだけ唾を飲む。

爽やかに言ってのける人外に、おずおずと切り出したのはレトアだ。


「ねえ、今更だけど……どうしてフレイさんの事をお姉さんって呼ぶの? エーネさんと同い年なら、年上なんじゃ」

「こ、ここに本当の姉さんがいるのに……」

「気分だよ。それに、今更君を姉さんって……あはっ、あははははっ……!」

「こ、このっ……!」


「まあ、とにかくさ。そんな首領モイスティは、君についていくんだろ?」


姿を消す直前。少年は私に、姉とはあまり似つかない上目遣いをした。



「より善い世界を期待しているよ? 世界の王様」



まるで色濃い烈嶺の霧に阻まれてしまったかのように。私の世界から、初めて光が届かなくなる。


「……フレイ?」

「────ねえ、マインド」


か細い声で問うた。


「私、約束を果たせたよね?」


それがここにいない者への声かけだったのは、誰の目にも明らかだ。



「辺境とその外を手に入れた。王都は力を失って、ライグリッドを倒した私達に逆らう人は、もういない。私こそが────世界の王なんだ!!」



村を出る時に心に誓った。

仲間達に全てを打ち明けた後。天高く聳える王の間で、共に笑い合おうと。


「やったんだよ、私。前を向いて、みんなと一緒に、最後まで」

「…………」

「できた……はずなのに。何かさ、終わったかと思うと……急に不安で」


胸元をぎゅっと握り締めると、昨日ぶりに視界が霞んできた。



「私、ちゃんと────『偉大な存在』になれた、のかな」



どうしてだろう。勢いで村を出たあの時なら、悩むことも無かったのに。


徐々に霧が薄れていく天空の里を、居心地の悪い沈黙が覆う。



「久しぶりに、フ(・)レ(・)イ(・)ン(・)グ(・)・(・)セ(・)イ(・)ヴ(・)ィ(・)ア(・)を見た気がするな」



突如、ザンが口にした。いつになく楽しそうな声色だ。

不安を押し殺して顔を上げると、眼前に指先があった。


「えっ」


こわはいわゆる、デコピンのポーズだ。


「お前が不必要な事を気に病んでるから、喝を入れてやろう」

「っ、ちょっ────」


身構えるも、結局指が放たれることは無かった。

どれだけ程度が軽くとも、ザンが私に暴力を振るう事なんて無いのだ。


「さっき訊かれたから、僕は答えを言うよ?」


相変わらずの無表情と濁声で、機人マインドはお茶目に肩をすくめる。



「君はもうなってる、偉大な存在に。だって多くの人が、君に救われたから」



「…………私のこの力は、人を傷つけるために────」

「最初がそうでも、フレイさんは間違ってなんかないわっ!」


ずんと前に踏み出したレトアは、瞳をキラキラと輝かせながら、



「生まれ変わった世界で、みんな……こんなに幸せなんだからっ!!」



満面の笑みで断定したのだった。


「昨日の今日でこんな事言うのは恥ずかしいけど……わたしも知ってます。フレイは可愛くて、強く振る舞うけどちょっと抜けてて、温かくて偉大な王だってこと」


最後に隣に立ったエーネは、ふわっと妖精のような照れ笑いを浮かべた。



「だからきっと、大丈夫です! 一緒に征こう、フレイっ!!」


「っ、うん────うんっ!!」



そうか。結局、既に道は示されていたのだ。

記憶に縋るまでもなく。今隣にいてくれる、大切な人達によって。


とはいえ、こういう時にずっこけさせるのもエーネの特徴である。


「で、でも、その……恋愛とかで良い感じになっても、わたしとも遊んでください……!」

「な、ならないよ……! わ、私はまだそういうの早いしっ」

「お前らは本当にそういう話が好きだな────だが、まぁ」


反対側に位置取ったザンは、いつものように苦笑いしつつ。


「そそっかしい義妹を守るのは、俺の役目だろう。どうも肉壁らしいからな」

「そ、そうだよっ。頼りにしてるからね!」

「えへへっ。じゃあわたしは、ずっと隣で頑張りますっ!」

「あたしも、歌以外にも一芸を磨くわっ! 目指せ万能サポーター!!」

「僕は顔と燃費を改善しないと、不審者まっしぐらだよ」


エーネに手を握られた私は、視線を崖下に彷徨わせた。


すっかり霧の晴れたソールフィネッジは、光を遮ることなく、下界を照らし続けている。


私の道しるべを。私達の未来を。


「あぁ、マインド」


義兄ザン・セイヴィアは、潤いを帯びた瞳を陽に向けながら。



「俺達は────誓いを、果たしたぞ」



視線の奥に、得意げな幼馴染の幻影を捉えていた。


「あー、早くみんなで散歩したいなぁ」


今度の私は口に出していた。今更隠す必要も無い。


私は、世界の王たる最強の村娘────フレイング・ダイナなのだから。




「ようやく、この手に掴んだ────王になった私が創る、偉大なる世を!!」




ねえ、みんな。天高く聳える王の間で、楽しくお喋りしながら。




いつまでも、こうして笑い合おうねっ!

★読んでくれた皆様へのお願い★


こんにちは、今江彰人です! 本作を少しでも面白いと感じて頂けたら、


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を是非よろしくお願いします! ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました!!

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