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【完結】ド田舎の村娘だけど、是が非でも王になりたい!  作者: 今江彰人
第3部 【王を貫けプリンセス】

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21:絆

────『改めて僕と戦ってよ。勝利条件は、相手を殺すこと』


「な、何、言って」


────『まだ不利かなぁ……じゃあ、里から相手を突き落とすのも勝利条件だ』


「自分の口で言ったはずです。相手をこの里から『突き落とした』方が勝ちだって」


弟の目が見開かれる。濁った瞳に映るのは虚無だ。


「ずっと疑問でした。勝者が首領になるって話だったのに、何でライが首領をやってるのか。あの日わたしは、『自分から』落ちて……まだ勝負が終わったなんて、聞いてないのに」


きっと、彼にとっては些末な記憶だ。

しかしエーネは覚えている。全てが狂ったあの日に聞いた、一言一句を。


「は、はは。ソフィ、チャンスを上げるよ。今すぐ屁理屈をやめれば、いたぶるのは勘弁してあげる……」

「屁理屈……別に、そう思ってもらってもいいけど」


震えを抑えながら、エーネは顎を引く。


「そっちがどう思おうと、言葉で決めた以上……首領はわたしです、ライ」

「ああ、もう……あああああっ! もうっっ!!」


苛立ちが限界まで達したのか、ライグリッドは頬に爪を立てた。


「突き落とすのも勝手に落ちるのも、同じことだ! そんな言い訳で、この僕が止まるとでも!?」


目を剥き、ぐるりと一回転させる。

一瞬の内に、里の全員を視界に捉えたようだ。


「僕がその気になれば、今すぐ全員を殺すことだってできる! 炎のお姉さんも、剣士さんも、そこに横たわってる彼も、グレイザーも。そしてソフィ、君を!!」

「……本当にできますか? ライに」


フレイが息を呑み、ザンが無いはずの刀を抜く姿勢を取る中。


きっと自分は、勝ち誇った顔さえしていただろう。


「契約、約束────言われたことが全部。ライがそれを無視すれば、確かにわたし達は簡単に殺されます。ライにはその力がある。まごうことなき人外……マニーの言葉は、間違ってなかった」


でも、と一泊置き、エーネは不敵に笑って見せた。


「でも、わたしは首領として────そんな化け物に勝った『強者』として。『弱者』であるライに伝えます。殺すのはやめてほしい、って」

「…………!!」

「もしそれを破れば、どうなるかわかるよね?」


賢い彼が気付かないがない。


「この里の全員の血を浴びたライは、その瞬間から首領なんかじゃない。ただの、大量殺人者です。その先誰を殺しても、誰を従えても……きっとみんな思うはずです!」



人外ライグリッド・モリアデス。


彼こそが、最も契約を蔑ろにし、不徳の限りを尽くす男であると。



「みんなを従える首領モリアデスは、もう死にました。自分で作った信条で……自分にとどめを刺したんです!」

「そ、んな、僕は……僕は、っ!」


今日は少し湿気が多い。しかしあの日同じで、きっと夜は晴れ渡っている。


「今度こそっ、本当に……!!」


仲間を想い、一筋の涙を伝わせたエーネは────深呼吸し、弟に告げた。



「わたしの勝ちです!! ライっ!!」



もう、震えはしない。



「……………………」


ライグリッドは崩れ落ちた。それまでの闘志が嘘のように、無表情に萎んでいく。


「…………は、はは……そうか……」


彼は笑った。今までのどの笑いとも似つかない、寂しく乾いた声だ。


立膝を付き、顔を俯かせるライグリッドが口にした時。



「僕は────負けたのか」



私(・)は(・)、ようやく心から安心することができた。


「ねえ、ソフィ」

「は、はい」

「僕は何で、負けたんだろう」


ライグリッドは突然、沈痛な表情で尋ねる。


「……へ?」


先ほどまでの雰囲気はどこへやら。すっかり糸の切れたエーネが気の抜けた声を出した。


「僕は無敵だ。傷一つ付けられたことがなかった。軍務長官は強かったけど、一対一なんて挑んでくるものだから、結局一撃も食らわなかった」

「……い、嫌味ですか?」

「ううん、違う」


じっとりとした目を向ける姉に、少年は無感情に返す。


「今回だって、大して強い人はいなかった。炎のお姉さんやグレイザーは、特別な力を持ってはいるけど、まだまだ詰めが甘い。剣士さんも機人さんも、個々として見たらそこまでだ」

「…………」

「でもソフィ、君には結局、大した傷を負わせられなかった。君を仕留めてさえいれば……その後、苦労することなんてなかったのに」


ライグリッドは上目遣いに姉を見上げた。そこにあるのは純粋な疑問だ。

敗北を知らない少年の、無邪気な────


「僕は」


「……ら、ライ、血が! 血が止まってません!!」


と、エーネは彼の足元を見ながら遮った。グレイザーに刺された場所から、未だに血が流れている。


「ほんとだ。こういう時、どうすればいいんだろうねぇ」

「あああっ、血の止め方くらい知っといてください……!」


エーネはおろおろしながらグレイザーの方を向いた。最も重症な彼の治療が終わっていないからだろう。

守護者は無言で頷く。逃げ回っていた者達も足を止めていた。


「こっちはこっちで、人外めいた慈悲深さだな」


ザンが苦笑いしながらコメントする。


「ライ、じっとしててください」

「え?」


弟の前に膝立ちになるエーネ。患部に手をかざし、祈るように唇を結ぶ。


「あっ……」


淡い緑色の光が、彼女の指先を中心に生み出された。

万物を包み込むような、誰もが見惚れてしまう優しいオーラ。エーネの持つ慈愛がそのまま形になったような、奇跡を秘めた癒しの魔法。


(何回見ても、綺麗……)


あの温かみと、エーネから感じる思いやりの塊。

それは私に、いつも立ち上がる力をくれる。



「仲間が、いたからです」



徐々に塞がっていく傷口を眺めながら、少女は呟くように応えた。


「わたしのために、戦ってくれる人がいたから。長い時を一緒に過ごしたフレイやザン。出会って間も無いけど、街を救うのを手伝ってくれたマインドに、戦いを通して仲良くなったレトアちゃん。それに、前に殺されそうになったグレイザーも……わたしの仲間が、わたしを信じてくれたから」

「仲間……か」

「ライって、友達がいないでしょ?」


エーネははにかみながら尋ねると、オーヴェン達の方に視線を向けた。


「ふさわしい人もいたはずです。でもライは、仲間を作らなかった。部下はいても、五人がかりで取り囲む私達に対して、そっちはずっと一人だった」

「だって、僕は」

「そう、ライは最強です。でもね……想像してみてっ」


治療を終えたエーネは、少し身を引いて体を起こす。



「最強の自分に人が付いてきたら、もっと最強だと思いませんか?」



ライグリッドは目を見開いた。まるで考えたこともなかったというように、何度も瞬きをする。


「そんな人達がいなかったから……わたし達弱者が力を合わせて、ライを上回れたんです」


みんなの注目を浴びて、ずっとほんのり赤面しながら。エーネは一言一言を一生懸命紡いだ。


そんないじらしい姉に────弟は俯いたまま、少しだけ口元を綻ばせりる。


「僕は、負けたのか」


先ほどと同じ言葉を、自分に言い聞かせるように。


「僕が知らない内に、君が創り上げていた……」

「……うん」



「弱者達の、強固な絆の力に────負けたのか」



静寂に包まれたソールフィネッジに、小さな笑い声だけが響いている。彼を知る人間は、きっと誰もが驚いたことだろう。


「あははっ、あははははっ。そっか、そっかぁ」


それは初めて聞いた────森羅万象を凌駕する恐るべき人外の、人間らしい声だった。


────『ひぐっ、ふええええぇぇ……!』

────『なかないで。だいじょうぶ、だいじょうぶだよ』


きっと、かつてはあったはずだ。



────『ぼくがいるから。ソフィは、ひとりじゃないよ』



私の知らない、想いと絆の物語が。


「ソフィ……いや」


顔を上げたライグリッドは、姉に微笑みかけた。




「立派になったねぇ────エーネ」



「わたしは、ライの姉さんですからっ!!」




運命の姉弟が視線を交わしたその瞬間。



烈嶺ソールフィネッジは、実に八年ぶりの歓声に包まれた。

★読んでくれた皆様へのお願い★


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