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【完結】ド田舎の村娘だけど、是が非でも王になりたい!  作者: 今江彰人
第3部 【王を貫けプリンセス】

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20:約束の代償

「……やっ、た」


精魂尽き果てたエディネア・モイスティは、脱力してその場に崩れ落ちる。

と、がむしゃらに駆け寄ってくる影があった。


「エーネっ!!」


少女フレイに飛びつかれるのに、時間はかからなかった。


「フレイ、フレイッ…………!!」

「良かった……! 無事で、ほんとに!!」

「うんっ。ぐすっ、っ、うんっ!! 来てくれて、あ、ありがとうございますっ……!!」


夢にまで見た、大切な幼馴染の温もり。優しい息遣いが耳の奥まで届き、互いの鼓動が混じり合う。

胸に顔を埋めてくるフレイに、エーネは泣き笑いしながら涙を落とした。


「あ、ごめん。私結構汗かいてて……まあエーネもだけど」

「う、うるさいっ……ずっと頑張ってたんです!」

「えへへっ。でも、エーネの匂い安心する。すぅ~~~~~……」

「ちょ、ちょっと!?」


他愛の無い会話で騒ぐ。以前と変わらぬ日常の証だった。


「み、みんなは……?」

「ザンは────大丈夫そう。だけど、マインドとグレイザーは」


フレイは死んだように眠るザンと、ぴくりとも動かないマインド、そして血だまりの中で伏せっているグレイザーを見やった。


「そ、そんな!? 早く魔法でっ!」

「っ、マインドはどうしたら良いのか……エーネ、グレイザーだけでも!」


「……おい。高い声で、喚くんじゃねェ」


唸るような低音に身をすくませる。

体中を負傷したグレイザーが、鈍い動作で起き上がった。


「オレが、この程度でくたばるか」

「いや、十分くたばりそうな血の量……」

「ああああっ、グレイザー!!」


呆れ声のフレイをよそに、エーネは半ば這いずりながら彼に駆け寄った。


傷だらけの男の顔は、今までよりいっそうやつれて見える。

しかし、達成感に満ち溢れた瞳は、かつてないほど優しかった。


「……グレイザー、ありがとうございます。わたしのために……わたし達のために」

「はっ。オレは奴に借りを返しただけだ。して、モイスティ。その格好で近づく気か」

「えっ? あっ!?」


慌てて前を隠すと、グレイザーは深いため息を吐いた。


「魔力が戻ったらオレの治療をしろ。こう見えて話すのがやっとだ」

「は、はいっ」

「それと、そいつに構ってやらなくていいのか?」


そう話す彼が示す方向には────


「ぴ、ぴピピ」


何だか歪な痙攣を繰り返すマインドがいた。


「マインド!?」


二人で青ざめながら手を伸ばす。すると、半壊した顔で微笑まれた。


「あぁ……ごめ、ん。心配、かけて……今、地熱で、エネル、ギー、を」

「だ、大丈夫なの!? 陽に当てない方がいいかな!?」

「わ、わたし達、何かできますか!?」

「うう、ん……大丈夫…………自動、修、復……できる……」


言い終えると、機人は自力でうつ伏せになって両腕を広げた。

また不規則な動きを始めたので、大いに焦るが……


「……地面、あった、かい」

「あ、これ地熱を吸ってる? だけだ」


胸を撫で下ろした所で、最後の人影が視界の隅で起き上がる。


「……その様子だと、どうやら片付いたようだな」

「ざ、ザンっ! 良かった、やっぱり大丈夫そうで……!」

「ああ、お前らも無事で何よりだ」

「────っっ!! みんな、本当にありがとうございますっ……!」


彼の温かな言葉に、無性に涙が込み上げてきた。それはフレイも同じなようで、手の甲で目を拭っている。


そっと手を繋ぐと、年下の幼馴染は珍しくはにかんだ。


「あんたにも世話になったな」

「全くだ。セイヴィア、その女は精神的に脆すぎる。もう少し鍛えてやれ」

「い、言い返せないっ」

「てかさ、エーネ。すっごい聞きたいことあるんだけど、良い?」


和やかな雰囲気から一転。フレイが不審そうな目を向けてきた。


「さっきの技名、何?」


「……え?」


技名? 何だか記憶が曖昧で────


(あっ)


背筋が寒くなった。もしかしなくても、勢いで叫んだあれのことだろうか。


「ん、んー……フレイ、えっと、その話はまた今度で……」

「待って! いつも私の技にケチつけられるから、絶対これだけは言わせてほしい!」


断固として譲らないフレイは、一際大声を張った。


「技に自分の名前入れるのは、個人的に絶対無し!!」

「っ、うぁっ!?」


顔から火が出そうになって、変な声を上げてしまう。


「う、嘘だろエーネ、お前も『そっち側』なのか!?」

「ち、ちち、違うっ、違うんですザン、あの、あの時は、何か、感極まって……っ!」

「エーネ、ほんっとにあれは人のこと言えないからね! そんな、え、エロい服でさ……! すっごい腕上げて、モイスティ・グラ────」

「あああああああっっっ!! 聞こえない聞こえないッ!!」


肩が壊れているのも忘れ、エーネは耳を塞いで金切り声を上げた。


「エーネ、僕は、そういう、の……好き」

「くだらん、と言いたいところだが……そういう年頃もあるだろう。それこそ、モリアデスのようなおかしな奴でなければな」

「や、やめてっっ! グレイザーにまでそういう感じで言われると、ほんとに消えたくなりますからっ!!」


しばらく夢に見そうだ。真っ赤になってうずくまっていた折、


「エーネさーーーーんっ!! みんなーーーー!!」


正気を取り戻させてくれる甘い声が、遠方から響いてきた。


「レトア!!」

「レトアちゃんっ!!」


先頭を走るレトアの背後には、多くの人間が連なっていた。

両親やオーヴェン達はもちろん、牢に捕らわれていた者もいる。


「お前ら……!」

「グレイザー! やったんだな、ようやく!」


ライグリッドの独裁政治から解放されたカイルは、それはもう満ち足りた顔をしていた。


「家畜も無事で何よりだ。今は我々の家の前に繋いでいるが」


やや血色の良くなった父が言う。母も里を見渡し、儚い表情で続けた。


「突然隕石が降ってきたと聞いたわ。これほどの規模の戦いに参加できず、不甲斐ない」

「う、ごめんなさい」


フレイが気まずそうに謝罪する。

皆の無事と恐ろしい話題が逸れた事で、胸を撫で下ろしていたエーネだが、


「それで、モリアデスはどうなったんだい?」


それはエーネ達を激励してくれた、あの勇敢そうな女性の問いだった。

穏やかだった腹の内に、ずんと冷たいものがのしかかる。


「ライグリッドは……この里の首領は……」


それは、無意識のうちに心の隅に追いやろうとしていた事だった。


しかし、もう現実を見る時である。



「わたしが、殺しました」



場の喧騒が静まり返った。潰れんばかりの重圧を感じながら、エーネは必死に言葉を紡ぐ。


「わたしの魔法で、あいつを押し流して。この里の崖から……!」

「違うよ」


力強く遮ったのは、他でもないフレイング・ダイナだ。


「エーネはライグリッドを殺したんじゃない。あの人を崖から落とすことで、この里にいるみんなの命を守ったんだよ」


ここから落下すれば、彼とて無事でいられるはずがない。そう知った上で、フレイは確信に満ちた眼差しをしていた。


「……ありがとうございます、フレイ」

「エーネ……」

「でも、わたしは────」


「待て」


ドスの効いた声だった。全員がグレイザーに顔を向ける。


対する彼はその場の誰でもなく────己の足元を見ていた。


「モイスティ」

「……? は、はい」

「任せたぞ」


「…………!!」


直接エーネの過去を聞いた彼だけは知っていた。

自分の『本当の思惑』。そうなったら良いと願っていた事象。


それが今、現実になろうとしている。


(来る……!)


「何だ!? じ、地面が!」

「と、とりあえずマインドをっ!」


烈嶺の地表そのものが揺れていた。異変に気付いたフレイ達が慌てる中、エーネはじっと目を瞑る。


激しい動悸と、真なる決着の時を予感して。



「パンパカパーン!」



広場の床を突き破った少年は、空中で錐揉みしながら片足で着地した。


土や泥にまみれ、体中を水で覆われていても。根源たる恐ろしさは変わらない。



「ラ、ライ……グリッド……!!」


「あははは、ははっ……ハハハハハハハッッッ!!!」



ライグリッド・モリアデスは、両腕を広げ声高に笑う。

群衆が蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う中、怒り交じりの濁声で。


「やるじゃないかっ! 良いね、君の気概を感じたよ、ソフィ!!」

「…………」

「初めてだ、こんな痛み、屈辱────そして高揚感!!」


未だ刺さっていたナイフが引き抜かれる。飛び散る鮮血を気にも留めず、彼は厳かに刃の側面を舐め取った。


「それにしても危なかったよ。とっさに壁を破壊して内部に侵入しなきゃ、頭から落ちてた」

「は? そ、そんなことって……」

「わけないよ、炎のお姉さん。だってそこから、一直線に天井を突き破ってここまで来たわけだからねぇ」

「ま、マジ……かよ」


ザンが後ずさった。口元を押さえたフレイは、敵意と動揺に揺れている。


「嘘。噓でしょ……だって、あんなにっ、頑張って……!」

「嘘なものか。だって僕は、こうしてピンピンしてるよ」


ライグリッドは里全域を見渡し、改めて支配権を確認した上で────



「さあ、殺してあげるよ」



確かな殺意を漲らせ、嘲りの表情を浮かべた。


「この里の人間にも容赦はしない! 弱者の分際で首領たる僕に逆らうなんて、許されないことだからねぇ!!」

「ライ、お前は!!」

「あぁ父さん? 安心して、二人は最後に回してあげるよ」


少年の視線は、まっすぐに姉を捉えていた。


「見るがいいさ。愚かな約束の代償に、大切な一人娘が死ぬ瞬間を!!」

「エーネッッ!!」


フレイとザンが同時に叫ぶ。身動きの取れないマインドも、必死に手を伸ばしていた。


ライグリッドの拳が迫る。皆が絶望に打ちひしがれる、その一瞬前に。



「ライ、何言ってるんですか?」



エーネは静かに、たしなめるように問うた。


「……は?」

「首領って言ってるけど……何の権利があって、わたしを殺そうとしてるの?」


我ながら、やや無理のある低音だ。正直言って心臓が爆発しそうである。

この高鳴りも発汗も、普段ならすぐさま看破されてしまうだろう。


しかし、今の彼には気付くことができない。


「何が言いたいの、ソフィ? 最期だってのに随分図が高いじゃないか……みっともなく命乞いでもしたら、楽に殺してあげるってのに」

「…………ふっ」


守護者グレイザーが鼻で笑った。ライグリッドはこめかみに青筋を立てる。


「図が高い?」


エーネはゆっくりと復唱した。


「それはこっちのセリフです。こ(・)の(・)里(・)の(・)長(・)に向かって、ど、どういう口の利き方なんですか?」

「……長?」

「さっき何が起こったか、忘れたわけじゃないですよね」


崖の方角と、ライグリッド交互に指差す。


目を細めたエーネは、慈愛を込めて言った。




「ライはさっき、負けたじゃないですか。八年前、自分で仕掛けた決闘に」

★読んでくれた皆様へのお願い★


こんにちは、今江彰人です! 本作を少しでも面白いと感じて頂けたら、


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