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【完結】ド田舎の村娘だけど、是が非でも王になりたい!  作者: 今江彰人
第3部 【王を貫けプリンセス】

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19:水神エディネア・モイスティ

「まだ、負けてない。わたしは諦めないって、言ったじゃないですか」

「エーネ……!」


「わ、わたしに考えがあるの……っ!」


エーネは力強く言った。

眩暈が治まり、徐々に真っ直ぐになっていく彼女の立ち姿は、いつになく堂々たるものに見える。


「みんなお願い。ライに……わたしの弟に、一回だけ大きな攻撃を食らわせてください。致命傷じゃなくて良い。ただ、立(・)っ(・)て(・)ら(・)れ(・)な(・)い(・)く(・)ら(・)い(・)の強い攻撃を……!」

「ふふっ、みんなそれをしようとして、ボロボロになってるんじゃない」


嘲笑するライグリッド。少女は目を閉じ、懐かしむような顔になる。


「覚えてないですよね────あの日の、取るに足らないやり取りなんて」

「はぁ?」

「これが最後です」


どこまでも慈悲深く、争いごとを好まないエーネ。


今ここに来て、そんな彼女の放つ眼光は────この場の誰よりも鋭かった。


「フレイ、ザン、マインド……グレイザー!! もう一度、わたしに力を!!」


「……はっ。言ったはずだ」


無数の民の未来を背負う男の、決意そのものがそこにあった。


「言われるまでもねェと!!」


「!!」


猛獣のような動作で、ライグリッドに斬り掛かるグレイザー。

まさかすぐに動くとは思っていなかったらしい。彼は若干反応が遅れた。


「俺も援護する! せめて、わずかな隙でも!!」


光銃はバラバラだ。それでも落ちていたナイフを手に取り、ザン・セイヴィアも最後の力を振り絞る。


「これだけヤバいとこまで来たんだから……今度俺達に奢れよ、エーネ!」

「うんっ……よく考えたら、結局それ旅のお金だけどっ!」


瞬間移動と見まがうほどの人外の動き。晴れた視界にそれを捉えながら。

私は、静かに思い返していた。


────私の炎は、地面も伝うよ? もうこのタワーに逃げ場は無い!!


グレイザーとの命のやり取り。


あのハッタリを実現するならば、自分の出番は多分もう少し後だ。


「ぜえあああっ!!」

「そんな投げやりな攻撃……!」


魂のこもった刺突。ライグリッドは辟易したように、なおも躱し続ける。


「この人が投げやりなものか。お前にはわからないだろうがなッ!」

「君こそわかった方が良いよ、剣士さん。もう立ってられないはずなのにさ」


ザンの凄みに対しても、相変わらず飄飄とした態度だ。


しかし徐々に────本当に少しずつだが、その動きが鈍くなってきていた。


「食い下がることを知らない男は、いつか必ず心で敗北する。お前にとっては、それが今だ!」

「口だけは一丁前だね。この僕が、一度だって負けたことがあるのかい!?」

「行こう、グレイザー!!」


ナイフを携えたザンは、里全域を振動させた。



「エーネのために……モリアデスを終わらせるぞッ!!」



突如、彼は捨て身の特攻を行った。敵の動きを予測し、胸を目掛け一直線に。


「血迷ったね!」


腕を広げ、万全の受け入れ態勢を取るライグリッド。このままでは、ザンは首ごとへし折られてしまうだろう。


「────頃合いか」

「!」


悲劇の直前。グレイザーは人外の瞳に向け、不意の銃(・)撃(・)を放った。

顔を逸らして避けるライグリッド。マインドの一撃が効いていたのだろう。


「け、拳銃!?」

「覚えておくが良い」


守護者は隙を見逃さない。


「どれほど強くとも、人の想いを理解し切ることはできねェ。それでもオレ達は、悲しみを越え……守ると決めたもののために、敵を討つ」


そこには私の知らない、決して軽くはない葛藤があったのだろう。


それでも守護者として、民のため戦う彼の背は────誰よりも大きかった。



「その想いを欠くお前に、夜明けは決して訪れない!!」


「なっ!?」

「くたばれ!!」



グレイザーは飛び込んだ。文字通り頭から、人外の足元に向けて。


一瞬。私やエーネのような非肉体派にとっては、瞬く間のことだった。

逃げ遅れた彼に向け、最後のナイフを手にしたグレイザーは────



「ぐああああっっ!?」



全てを賭けて、その右足に刃を突き立てた。


「うっ、う、あああっ!!」


ライグリッドの鋼鉄の肌が、次第と抉られていく。守護者の執念の一撃が、ついに彼に人間の証を流させた。


真紅だ。私達と、同じ。


「は、放せ、邪魔だっ!!」

「……もう少し、だっ!」


ライグリッドの上半身に、同じくナイフ突き立てようとするザン。凄まじい握力で押さえつけられてもなお、未だ離れずにいた。


「逃さないぞ、決して!!」

「いい加減にしろっっ!」


ザンのナイフが折れる。と同時に、彼の胴を剛撃が揺らした。

悲鳴を上げることすらできず、そのまま横方向に吹き飛ばされるが、


「ザンっっ!!」


顛末を予想していた私は、彼が飛んで来る方角に待機していた。

……炎の壁を張るわけにはいかないので、受け止めるのは素手だけれど。


「うぐうっ!!」

「がはっ……」


共に倒れ込んだ私に、体格差のある少年がのしかかる。


「はは……ありがとな、フレイ。受け止めて、くれて」

「うん、ご、ごめんね……エーネの水は、今は温存中で」


衝撃に目が眩みながらも、互いに顔を見合わせて笑った。


「……後は、頼んだ」

「うん、きっと」


義兄は気絶した。そっと彼の頭を寝かせ、私は再び体を起こす。



「おおおおおおおおおおッッッ!!!」


「この……このッ!!」



無敵のはずの人外の肉体に、鋭いナイフがめり込んでいく。腹這いになり、鬼気迫る雄叫びを上げるグレイザーに、彼は何度も渾身の打撃を加えた。



意識が遠のいていく。しかし負けるわけにはいかない。


彼女と約束したのだから。履き違えたこともあったけれど、今────



この男を倒さずして、最強の街は訪れない。



「ぐ、ぐっ、折れろ……! 折れろッ! モリアデスッ!!」

「くッッ!? お、折れるのは君だっ! 良い加減やめろ!!」

「がっっ……! リ……ア…………」


人外の右足が貫かれる。

無防備な彼の背に致命的な一撃が入ったのは、それと同時だった。


ついに力尽きたグレイザーは、ナイフを手放し動かなくなる。


「何なんだ……何なんだよ、君達は!!」


左足だけで後ずさりながら、ライグリッドは忌々しそうに吠えた。


「そんな無様な姿になってまで、どうして!! 世界の王には勝てないとわかっているのに! 何故受け入れない!?」

「無様なもんか。勝てない、もんか……!!」


もはや動ける者はわずか。そんな状況下、私は膝立ちで、地に手のひらを被せていた。


今こそ、エーネの想いに応える時!



「大切な人のために戦って……後悔なんて、あるはずがないよっっ!!」



エーネとグレイザーが教えてくれた。この下が空洞なら、やれるはずだ。


全てを出し切るつもりで、私────フレイング・ダイナは叫ぶ。

忘れかけていた夢を、思い出しながら。



「それと……王(・)に(・)な(・)る(・)の(・)は(・)、(・)こ(・)の(・)私(・)だ(・)!! 【煌炎(フレイム)────龍煉獄(ドラゴニクス)】!!」



熱される地面。異様な振動を始めた空間。

身を焦がすほどではないにせよ、その違和感をライグリッドは確かに感じ取ったのだろう。


瞬間、地表全域から、うねる火柱が飛び出してきた。意思を持ったかのごとく移動し、極太の体で家屋の残骸をも飲み込むそれらは────



もはや火龍とも形容できる、正真正銘の怪物だった。



「なっ……!」


負傷した身で里を飛び回りながら、ライグリッドが息を呑む。

私も無視できない倦怠感を覚えた。炎を限界まで使用するのは初めてだ。


しかし、もうひと踏ん張りで全てが片付く。


「────溜まった」


仲間の懸命な攻撃の最中。少女エーネは、ついに魔力の全快を実感した。


「これで、終わりです。わたし達の勝ちですッ!!」

「……もう、炎のお姉さんは動けない」


空中にいたライグリッドは、私の生み出した龍に追われながら。

遠方の姉を標的に定め────


「後は君だけだっ!」

「っ……!」


「終わりだよ、ソフィ!!」


飛び掛かるライグリッド。エーネの胴の中心を寸分違わずに捉えている。こちらの攻撃は、間一髪間に合わない。


彼女が覚悟を決め、目の前に水壁を張ったその時。



「エレク、トリッ……ク、マグナ……ム」



どこからともなく放たれた光線が、ライグリッドの瞳へ直進した。


「…………!!」


「いだあああっっ!?」


悲鳴を上げたのはエーネだった。回避のため体を逸らした彼の拳は、身を守る水壁をものともせず、彼女の肩に直撃したのだ。

骨が歪な音を立て、じんとした痛みが腕の先まで走っている。


しかし────


「ちっ!」


最後の敵を仕留め損ねたライグリッドは、勢いそのままに落下していく。

視線の先には、真っ直ぐに発射口を構え、煙を上げて微笑む機人マインド。


「エーネ、よか、った」

「マインド、だ、大丈夫なんですか!?」

「ふ、ふっ。仮に、この身を、裂かれても…………」


私の炎で一時的にエネルギーを得ていたらしい。

今度こそ全ての力を使い果たしたマインドは、温かな濁声で告げた。



「僕は、決して……友を見捨てない……!」



ソールフィネッジを火炎が覆う。ライグリッドは足を庇いながら、私の決死の攻撃から逃げ回っていた。


(みんな、ありがとうございます)


エディネア・モイスティは涙をぬぐい、片腕を空に掲げる。


(もしあの時、みんながいてくれたなら……もしかしたら、違う未来があったのかも)


それでも今、皆でこうしてここにいる。

大切な仲間達が────エーネのために、命をかけてくれている。


(だから、わたし。やってみせます)


しがらみだらけのモリアデス家に生まれ、もうすぐ十八年。


これまでの全てを払拭するべく、エディネア・モイスティは世界に叫んだ。


「今ここで、みんなに報いますっ!!」

「……まさかっ!?」



「押し流してっ……! わたしを阻む過去を、全部ッッ!!」



次々と浮き出る淡い文様。それは、エーネ史上最大クラスの水流だった。


幼馴染に倣って名付けるなら、そう────




「【わたしの最強必殺技《モイスティ・グランドウェーブ》】ッッッ!!!」




もはや逃げ場は無かった。


家屋の残骸を交えた濁流が、弟を含む全てを食らい尽くす。


「フレイっ、お願い!!」

「行くよ、エーネ!! 【炎の防壁(フレイム・バリア)────EX】!!」


蠢く龍は消え失せ、再び巨大な炎の壁が生まれた。

エーネ以外の四人を取り囲み、世界を押し流す水流を懸命にはじき返す。



「はあああああああああっ!!」



誰もいない天空へ吸い込まれていく、私とエーネの気合の咆哮。

それが届いた相手がいるとすれば、ただ一人。


「……ぐう、うっ……」


呼吸もままならない水世界で。少年はくぐもった呻き声を上げた。


(やってくれたね……)


もはやこの水が、どうにもならないことを察しながら。



(ソフィっ!!)



人外、ライグリッド・モリアデスは────



誰にも看取られることのないまま、【決裂の崖】を飛び出した。

★読んでくれた皆様へのお願い★


こんにちは、今江彰人です! 本作を少しでも面白いと感じて頂けたら、


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を是非よろしくお願いします! 強いモチベーションに繋がります!!

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