17:彼方からの光線
「フレイさん……っ!!」
僅かに光差す地下通路にて、レトア・ロベインは聞いた。
果てしない暗闇から救い出してくれた恩人が、懸命に自分を呼ぶ声を。
「今の女の子、あんたの仲間か!?」
「うん、そうよ……ついにこの時が来たの」
託された通信機を胸に抱きながら、一回り年上の少年達に応える。
「あたしは罪を犯したけど……その中で生まれた絆が、大事な人を助けてくれる! あたし、信じてるからっ!!」
滲んできた涙を拭いながら、少女は、
「行くわよ、マニーさん! ピューレさんも! 準備できてる!?」
『全く……負けたばっかのあたし達に、無茶要求するんだから』
文句を垂れつつも、友人の言葉は自信に満ち溢れていた。
『仕方ないから、見せてやるとしましょう。天と地を分かつ、毒刃少女の無敵のマシーナリーをねッ!!」
*******
「レトア・ロベイン……あぁ、哀れな少女がどうかしたのかな?」
「もうすぐ、吠え面かくことになるよっ!!」
「ふふっ。今度は何を企んでるか知らないけど」
ライグリッドは引き笑いをしながら、ギラりを目を剥いた。
「君達が右往左往している間に────また、死が近づくのさ!!」
瞬く間に彼が視界から消える。ほとんど残像だが、目が慣れたせいだろうか。かろうじて、どこに移動しているかは分かった。
狙いは────私だ!
「あはははははははっ!!」
「【炎の防壁】っ!!」
押し潰すような衝撃が、炎の壁とぶつかり合う。まるで雷そのものだ。
(これ……やば、保たない……っ!)
防壁はガラス細工のように細やかに崩壊する。しかし────
「ぜああああッッ!!」
守護者グレイザーが、在らん限りのスピードで彼に接近していた。ナイフが首元を掠める。ライグリッドは半身分後ずさった。
すかさず、光銃部隊の怒涛の連撃が襲う。
「ん?」
移動した先でザンが放った一撃が、見事胸部に命中した。光は効くというのは事実らしく、はっきりと被弾の跡が残った。
もっとも、全くダメージが入っているようには見えないけれど。
「押し切れエーネっ、総攻撃だ!!」
「う、うんっ!!」
数々の暴力がライグリッドを取り囲んだ。
幼馴染の水と光線、私の炎、守護者による打撃。超人的なスピードでも避け切れない猛攻だ。それらが、ほんの少しでもかすり傷を増やしていく。
けれど、そんな陣形も長くは保たない。
「そこだね」
「ぐっっ……!?」
グレイザーはついに、正面からその突きを受け止めてしまった。体格差など飾りだと言わんばかり。彼はもんどり打って後方に吹き飛ばされる。
「グレイザーッ!?」
「浅いよ、ソフィっ!」
「ううぅ……! やっぱり、これじゃ……!」
水流を腕で弾き返し、ライグリッドは姉へ凄む。その威圧感と物理的な風圧で彼女が揺らぐのと、魔力残量が危うくなるのは同時だった。
「エーネ、また着地してっ!」
「っ……ごめんなさい!」
「心配しないで! 【火焔裂槍】っ!!」
出し惜しみはしていられない。たとえ効かなくとも、せめて抑止力にしなければ。
もう少し────もう少しだけ耐えれば、『必殺技』が炸裂するのだから。
「ザンっ、グレイザーも! 大丈夫!?」
「ちいっ……そう何度も、ガキに翻弄されてたまるか!」
「ま、まだ傷が痛むが……撃つだけの仕事だ、フレイこそ気を付けろよ!!」
「ふふふっ、うふふふ……!!」
人外は予測不能な動きで光線を躱す。近接を仕掛けてくるグレイザーを、汗一つかかずに捌き切る。そろそろ彼の速度に追いつけなくなってきていた。
(やばいっ、もう……!!)
「………………」
その時だった。
倒れ伏していた少年の指先が、かすかに持ち上がる。ギシギシと奇怪な音を立てながら────ほとんど聞き取れない声が地を這った。
「……僕、が……500、番以下、な、ら…………」
体を起こした機人マインドは、半壊した顔面を揺らし、定まらない声で。
「じど、う、修復、プログラ、ム……無かっ……」
「ま、マインドっっ!?」
「あぁ、フ、レイ……」
立つのもやっとで、視界が機能しているかすらもわからないのに。
その銃口は、真っ直ぐにライグリッドを捉えている。
「見て、て…………」
名も無き光線が宙を焼いた。私には、それが今までで最も疾く見えた。
何せ、満身創痍の身から放たれた一撃は────寸分狂わず、ライグリッドの瞳を射抜いたのだから。
「うぐっ!!??」
それは初めて聞いた、彼の人間らしい呻き声だった。右目を押さえて後ずさる少年。グレイザーを相手取るのをやめ、広場の中心部へ移動する。
「き、効いたっ!?」
「すごいねぇ……何でその距離から目を。普通は無理だよ……」
「き、決まってるじゃないですかっ!!」
三度目の飛翔。光銃を構えたエーネが、上空から大声で叫んだ。
「マインドこそが、リアル人外なんだからっ!!」
「…………!!」
すかさず放たれた彼女の光線を、ライグリッドは素手で握りつぶす。離れた位置にいた私にも、ふつふつと煮えたぎる怒りが伝わってきたが……
かすかな血が流れ出す目元は、それでも醜く嗤っている。
「ああ、油断したよ……軍務長官とのタイマンでは無かった脅威だ。でも、機人さんのエネルギーも、精々あと一発────」
「ううん、十分だよ」
私は嘘偽りない言葉を述べる。
「マインド……ギリギリでも、生きててくれて良かった。私を守ってくれて────それと、やっぱり光は効くんだって証明してくれて、ありがとう」
「……?」
「もうすぐ致命傷だよ、ライグリッド!!」
例えどれだけ速くとも。里全域を覆い尽くす光線から逃れる事は、不可能。
間も無く準備は完了する!!
「ああ、わかった。あの女達のブレイン砲だねぇ!! シュレッケンに砲台があったのを見たよ。あれじゃ全然威力が足りないけどさ」
「……………………」
「第一、不可能だ。天高く聳える烈嶺ソールフィネッジ。その地表に光線を浴びせられる場所なんて────」
ライグリッドの言葉は、最後まで続かなかった。
私は有頂天だ。さっきの負傷に引き続き────
初めて、エーネにちょっと似た、動揺の表情を見られたのだから。
「まさか……『ノーブルタワー』か!?」
*******
「あたしは、諦めない」
崩壊した群都市のシンボルは、はるか彼方に霧の絶界を映し出す。
街のどこからでも認識できる大砲台の隣で────マニー・エーションは、かつての青春に想いを馳せた。
「絶対に、あの人とまた共に歩む。あいつを倒して、王都で幸せな日々を!」
「ぜえっ、はああっ、っ、げほっ」
「ちょっとピューレ! 決め台詞が台無しじゃない!!」
「だ、だってお姉ちゃん……この街にワープするなり、一日で頂上にこれ作れとか、無理難題だよっ……頂上も、足場悪いし……!」
それでも、言われたからにはやり遂げなければならなかった。
この世の地獄で戦うかつての敵と、幼い友人のことを思えば。
『二人共っ、いける!?』
「ええ、レトア。待たせたわね」
「ふーっ。じゃあ、恩を売ろっか、お姉ちゃん」
スイッチを入れる。以前とは比較にならない威力の砲台が、街中を揺らす振動と共に起動した。
「衝撃に備えなさい。文字通り、天を穿つ光線だからね」
『……ねえ、二人共。その、あたしも一緒に叫んでいい?』
「レトア、何だかんだそういうの好きだよね」
姉妹は顔を見合わせ、屈託なく笑った。
「もちろんよ。今も昔も、あたし達は三人で毒刃少女だから!」
『ありがとうっ! よし、行くわよ────!!』
ちょっとばかり距離が離れていても、描く未来はそっくりだ。
『【エル・ブレイン砲────ver2.5】!!!】』
*******
「っ、まずい……!!!」
「終わりだな、ライグリッド!!」
「エーネ、飛んでっ!! 【炎の防壁────EX】!!」
目を瞑りながら、必死な表情で上昇する幼馴染。対する私は、未だかつてなく分厚い壁で仲間達を守る。
迫り来る轟音。炎越しにも目を焼くような光。
刹那、烈嶺を覆う地表の全てを────
「おのれっ……!! 君達ごときが!!」
世界最強の光線が、貫いた。
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