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【完結】ド田舎の村娘だけど、是が非でも王になりたい!  作者: 今江彰人
第3部 【王を貫けプリンセス】

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16:疾風迅雷

いつだって、エーネの身体はとても脆く。ライグリッドは凄まじく堅い。

もしかしたら八年前以上に、二人の実力はかけ離れている。


しかし────


「エーネ……空をっ!」


エディネア・モイスティは宙を舞っていた。体に取り付けた文様から水を発し、地表の炎を飲み込みながら。天高く烈嶺を見下ろしている。


それは人外の攻撃すらも届かない、彼女のための絶対安全圏だ。


「……うっ、わっ、っとと……っ」


何度ふらつき落下しかけても。変わり果てたマインドの姿を見て、泣きそうになっても。


「モイスティ! 援護を頼む!」

「は、はいっ!!」


エーネは決して、魔法を止めない。


グレイザーがナイフを放った。ライグリッドは体をしならせ、蜃気楼の如くそれを避ける。


「遅いなぁ」


すぐさま、彼の姿は消えるが────


「────そこか」

「ん……!」


背後に迫る強烈な蹴りを、グレイザーは片腕で受け止めた。


「へぇ、よくわかったねぇ」

「一度戦った相手だ。何度も下せると思わねェことだな!」

「それで? ナイフにも限りがあるってのに、どうするつもり?」


グレイザーは明らかに軽装だった。エーネが彼の外套を羽織っている理由は何となく察したが、武器も少なければパワースーツも無い。


しかし、守護者は勝てない戦いはしない。


「だからこそのわたしですっ!!」


エーネは高らかに叫び、バランスを取りながら片手を頭上に掲げる。

手首から先が水色に輝き、地表に巨大な文様が多数出現した。


「受けてみて、ライっ!!」


うねり踊る水流が、無防備な少年に襲い掛かる。

ライグリッドは全てを片腕で払った。が、戦闘のプロはその隙を見逃さない。


「捉えた!!」

「おっと」


虚をつかれた少年は、乱暴に攻撃を弾いて後退する。ようやく攻勢の時が────


「!! グレイザー、気を付けてっ!」

「っ!?」

「安全圏から隙を作るか。考えたねぇ、ソフィ」


私が叫び終えた時には、彼はもうグレイザーの頭上にいた。

蝶のように優雅に舞いながら、嗜虐に満ちた針を剥き出しにする。


「でも、君には無理だ!!」


ナイフと拳とが激突する。風圧で、また一つ家屋が崩れた。


装備も無いのに、ライグリッドはほとんどダメージを受けない。鋼の拳はナイフの先端をものともせず、光線や私の隕石でも、軽く傷を負う程度だ。


「っ、相変わらず信じがたい強度だ……!」

「それが、僕の『人外』たる所以の一つさ!!」


間髪入れずグレイザーに猛攻が仕掛けられる。


「強靭な肉体、攻撃そのものを通さない硬度。もちろん訓練で手に入れたんだ。僕って頑張り屋さんだろ?」

「ちっ、化け物めが……!!」


戦いと並行して、ライグリッドは迫り来る水流も器用に払っていた。それは彼の注意を引きつけてはいたが、決定的な隙を作るには至らない。


「ダメだねソフィ、その程度じゃ圧力にもなりはしない」

「…………!!」

「あははっ、そんなに激しく撃っちゃダメだ。ほら、そろそろ……!」


心無しか、エーネを支える水の勢いが弱まった。遠目に見ても、若干焦った顔をしているのがわかる。


「モイスティ、一度退避しろ! 魔力が回復するまで防御に徹する!」

「わかりましたっ……!」


エーネはバランスを崩しながらも、一度広場から遠のく。半壊したモリアデス邸の屋根に、倒れ込むように着地した。


「さーて、いつまで保つかな!」

「随分と余裕そうだな、モリアデス!!」


恐るべき洞察力をも見せつける彼に、グレイザーは果敢に肉弾戦を挑み続ける。


しかし彼も、徐々に苦しそうな表情を見せるようになっていた。武術に死角が無くとも、ライグリッドの攻撃を捌き続けるなど無理難題だ。


「グレイザー……!!」


彼に加勢したい。しかし、あまりの速さに割り込むチャンスも無い。

どうにかして、奴の「弱点」を探さなければ。


(……弱点?)


────『あぁ……光は効くんだよねぇ』


「…………自分で言ってたじゃん」


愚かな。油断して自らを追い込んだか。



やはり『あの人達』は、間違ってなかった。



「グレイザー、君もしんどそうじゃないか」

「くっ……!」

「一応認めるよ。君は学習が早い。一級品の戦士だ」


上目遣いに言ったライグリッドは、予備動作無く首を180度回転させる。


その先には────体を小さくし、気配を消して休息を取るエーネがいた。


「でも、あっちのお姫様は違うよねぇ!」

「っ!? しまっ────」


ライグリッドは戦線から離脱する。残像を残しながら、一直線にモリアデス邸へ。


「ひっ……!?」


驚愕し、すぐさま飛び立とうとするエーネ。

しかし、まだ彼女の魔力は回復しきっていない!


「エーネ、堪えてっ!!」


遠方の幼馴染の言葉に従い、エーネはその場で身を固くする。

怪物が迫り来る仲、それでも逃げ出さないなんてことは、以前までの彼女なら無理だっただろう。



「【走れ炎よ(ラン・フレイム)────彼方へ(ディスタント)】!!」



放たれた炎の波は、鋭く尾を引いて突き進む。まだ余りあるエネルギーをふんだんに使った、強力な遠隔攻撃だ。


「相変わらずしつこいね」


その細腕で、当然のように攻撃をかき消すライグリッド。しかし、彼が背後を警戒して足を止めるには十分だった。


「フレイ……! ありがとうっ!!」

「私は無傷だから、まだやれる!!」


未だにショックで振動する足腰を奮い立たせ、私は怨敵を見据えた。



「ライグリッド! これ以上、好き放題させてたまるかっ!!」


「いいよ、そうこなくっちゃねぇ!!」



更に、機を見計らったように、私の真後ろから純白の光線が放たれる。


「げほっ。俺も、まだ……やれるぞっ」


愛刀を砕かれてなお、光銃を手にしたザン・セイヴィアは立ち上がった。

例えその視界に、屍となった仲間が映ったとしても。


「この時のための光銃だ! エーネ、引き続き頼むぞ!!」

「ま、任せてザンっ! そろそろ……飛べる!!」


奮起したエーネが、再び宙に飛び立つ。安全圏へ、透き通る水を纏いながら。


「例えどれだけ強くても。攻撃が速くてもっ……」

「っと、危ない危ない」

「水に濡れれば動きは鈍って、ちょっとずつでも遅くなる……!!」


水流が、彼をモリアデス邸から追いやる。この間に体力を回復させたグレイザーと、再び向き合う形になった。


「いつか必ず、攻撃は効きます! わたしは諦めないからっ!!」


「だからソフィ、それは夢物語なんだよ!」


ソフィ。もはや彼女をそう呼ぶのは、この世界でライグリッドただ一人かもしれなかった。


「魔法だけ乱発してたら、すぐに魔力が切れるさ。君が死ねば他の士気も下がる。いつまでも逃げ切れると思ってないよねぇ!?」

「それはどうかな……ザンッ!」

「ああ!」


私に呼応し、ザンが別の光銃を放り投げた。毒刃少女(ポイズン・ガールズ)が複数犯だったことに、初めて感謝する。

正確な投球ならぬ投銃により、魔力を要しない最強格の飛び道具が、エーネの手元へ────


「えっ?」


決め台詞を吐き、真下に注力してそれどころでなかったエーネは。


眼前を横切る光銃を、見事にスルーした。


「おいアホっ!!」

「ああああああッ!! や、やらかしましたーーーーっ!!」

(あ、相変わらず反応が鈍いっ……!)


致命的なミスに絶望しているエーネだが、下に降りようものなら一撃死だ。私も球技はイマイチなので人のことは言えないが、気付きすらしないのはどうなのか。


全員で頭を抱えていると、その失態を見事にリカバリーした人物がいた。


「本当に鈍臭いやつだ……!」


反応速度はライグリッドに及ばないはずである。

にも関わらず、何故グレイザーが先に対応できたか────それはある程度、「現在の」彼女の人となりを理解していたからに違いない。


「あっ、と、と」


蹴り上げられた光銃を何とか手にしたエーネは、恥ずかしそうな顔で引き金に手をかけた。


「……読めなかったよ。まさかこんな盤面でキャッチし損ねるなんて」

「う、うるさい……」


状況は以前より好ましい。しかし、人外にとっての脅威は依然一つも無い。

私は前に進み出て、グレイザーを補助できる位置に立った。起き上がったザンも、光銃で彼の額を捉えている。


「うふふっ、ジリ貧だねぇ」


それは世界を舐め切った、恍惚とした表情だった。


「君達がこうして時間をかける間に。僕の操り人形《ソウル・オブ・モリアデス》は、王都方面へ進軍していく。個々の強さは到底僕には及ばないけど……あれだけ鍛えてやったんだ。王族の首一つくらいは取ってくれるさ」

「…………」

「どうしたの? ものも言えなくなっちゃった?」


────そろそろ明かすとしよう。


私はザンと顔を見合わせた。何かを察したらしいグレイザーが、静かにほくそ笑む。


「はっ。引きこもりのお前には、この決戦の全貌はわからねェか」

「ん……?」

「もっとも、こんな事を考えそうなのはあの爺さん(ゼノイ・グラウズ)くらいだが」


ライグリッドも気が付いたようだ。真っ白な顔に笑みが広がる。


「なるほど。ハンガーズ(飢えた群衆)か……!!」

「第一王女の魔道具は、マニー達も持ってたからね」


瞬間移動魔法(テレポーテーション)を駆使すれば、予め敵軍の進路を塞ぐのは容易い。


今頃、王都への侵攻を食い止めているはずだ。エルドとレイティ率いる────二つの街を想う、新生ハンガーズが。


「ははっ、そうか。そうかぁ」


ライグリッドはさほどショックを受けていない様子だった。


「なら、君達を殺して加勢に向かうとしようか」

「……私達が、逃がすとでも?」


まだ終わりではない。


そう、この総力戦の本当の切り札は────!



「出番だよっ!! レトア!!」

★読んでくれた皆様へのお願い★


こんにちは、今江彰人です! 本作を少しでも面白いと感じて頂けたら、


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