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ド田舎の村娘だけど、是が非でも王になりたい!【毎日投稿】  作者: 今江彰人
第1部 【偉大なるキラー・ガール】

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5:王を討て

「ふ、フレイ……っ!」


ザンの怒声が耳を付く。けれど構っている暇は無い。


「そうやってみんなを虜にしようとするの? 街の人みたいに、私達も手に入れようとするんだ?」

「…………」

()()()()()()()()()()()()


グレイザーの氷のような眼差しに射抜かれながら、私は吐き捨てた。


「……先ほどの暴言は水に流そう。だが────最後のは聞き捨てならんな」

「グレイザー、落ち着いて……!」

「オレが、誰かを見捨てたと?」


エルドを押し退けるように、机が叩きつけられる。部屋まで振動したような気がした。


「ダイナ、お前に何がわかる……ッ!!」

「市長、申し訳ありませ────」


「ふ、フレイは、ち、違うんですっ!!」


冷静に弁解を始めた義兄に被せるように。

誰よりも臆病な少女が、涙ながらに金切り声を上げた。


「ふ、フレイには夢があって……! それは多分、だ、誰かに仕えることじゃ成し遂げられなくて……急なことだったから、き、きっとあんな言い方にっ!」

「エーネ、私は……!」

「お、お願いしますっ、わたしがちゃんと後で言っておきますからっ! だ、だからフレイを、フレイを怒らないで……っっ!!」


エーネの絶叫は、少なくともエルドには届いたようだ。

グレイザーも、やや毒気を抜かれたように呟く。


「モイスティといったか……」


その時の彼は、とても複雑な表情をしていた。

何かを思い出すような、そしてそれに囚われているような────


しかし一転、その表情に激昂をたたえたかと思うと、


「出ていけ」


地鳴りのような声を発した。


「!?」


グレイザーは目にも止まらぬ速さで、懐からナイフを取り出す。


空を切る音。気付けばナイフは、私の背後のドアに突き刺さっていた。鈍い金属音と共に、金具を抉られたドアが外へ向けて倒れる。


「契約は破棄だ。二度と、ここへ戻ってくるな!!」

「そ、そんな……!」


二人が動揺する。

ここまで怒らせて、直接攻撃されなかったのは奇跡だ。エーネの叫びが効いたのかもしれない。


それでも私は動かない。



ただ、静かに。彼に手のひらを向けた。



「! フレイっ!」

「……何の真似だ」

「…………」

「おい、フレイ!!」


目の前にいる。守護者グレイザーが。私が越えるべき相手が。


殺さなければ。

この手で仕留め、王にならなければ。




あの日の約束を、果たさなければ。




「【走れ炎(ラン・フレイ)────



「フレイング・ダイナ!!」



全てを振り払うように、私の義兄が吠えた。

十五年を共にした、その瞳は────


「頼む……フレイ……」


「っ…………わかっ、た」


自分ではない何かに心を預けながら、か細い声で返事をする。


聞き届けたザンは、私と、未だ泣きじゃくるエーネの腕を掴み、出口へと引っ張っていった。

怨敵を見るような視線を背中に浴びて、それでも彼は何も言わなかった。




怖がらせて本当にごめんね、二人とも。本当に……ごめん。


でも、せっかくここまで来たんだもん。どうしても考えちゃうんだ。



きっとまだ、チャンスはある……って。



********



「どの道、決裂してたさ」


大都市の夕暮れは、昼間とはまた違った趣があった。数多の建物から伸びる影が、私達を囲うように陣取っている。

隙間から漏れ出る夕日を浴びながら、ザンが儚むように笑った。


「あの人に仕えることはできない。俺達には帰る場所があるし……お前の気持ちもわかる」

「……私は」

「ただ、もうちょっと言い方はあっただろって思うけどな」


それはその通りだ。絶好のチャンスだったことは否定しないけれど、私は確かに冷静さを欠いていた。


「ごめんね……二人とも」


ふと見ると、エーネの背中が震えていた。

もしやトラウマになって────


「エーネ……」


声をかけられた彼女は振り返る。その直後、



「────何故ですっっ!!」



激昂した幼馴染は、明後日の方向に向けて叫んだ。


「あ、あんな条件、どの道……!! 交渉なんて元々無理だったんですッ!! わ、わたし達だって事情があるのにぃ!」

「えっ、えっ……!?」

「でもっ、ふ、フレイが無事で良かったーーーーっ!!」

「ええええっ!!??」


凄い勢いで抱きついてくるエーネは、明らかに情緒不安定だった。

私より少しだけ背が高い。柔らかい感触に包まれた私は、大慌てだ。


「ちょ、エーネ! エーネ、人が! 人が見てるって!」

「も、もうあんな事言うのやめてっ! わたし、本当に泣きそうだったから! 二人に何かあったら、い、生きてけないですっ!!」

「いやずっと泣いてたし!? ねえ、は、放してよーーーー!!」


奇異の視線が突き刺さる中、私はどんどん赤面していく。


その後、しばらくして。


「……ごめんね、フレイ。ザンも……その、取り乱しちゃって」


ようやく落ち着いたエーネは、多分さっきの私と同じくらい赤くなっていた。


「安心しろ。お前は大体いつも取り乱してる」

「うっ……」

「ちょっとザン、そういう時は……っふふ」

「悪い悪い。ははっ」

「え、な、何笑って……!?」


感動と共に緊張の糸が切れたのか、何故か笑いが止まらない。

私は涙を拭い、居心地悪そうにする少女に向き直った。


「エーネ、ありがとうね。グレイザーに言ってくれたこと。ほんとに、嬉しかった」

「わ、笑いながら言わないでください……!」


誕生日的にこの中で最年長のエーネ。一応はお姉さんのはずだが、臆病で鈍いのはご愛敬だ。

等身大で誰より心優しい彼女は、いつも私達に安らぎを与えてくれる。


しかし、いつまでも和んではいられない。


「……こうなった以上、あの人には近づけないよね」


当てもなく歩いていると、大通りを外れた。群都市といえども寂れている場所はあるようだ。細い風が吹くたび、やや肌寒く感じる。


「何か手を打つか、もしくは」

「村に帰って、わたし達のできることをするか……」


私は覚悟が足りなかったのか?


あの時彼を殺せば、恐らく部下達と戦闘になった。

血を見るのは想定内だ。二人もきっと味方してくれる。


力も覚悟もあったはずなのに。ザンの切ない頼みを聞いた時。どうしても決意が鈍った。


(一応、家族、だもんね)


「そこのお三方」


と、いきなり背後から柔らかい声がした。

反射的に振り返ると、白髪交じりの男性が路地の前にいる。


「えっ?」

「こんな時間に何をしている。君達が来た方角から、大声が聞こえていたよ」


エーネがまた赤くなった。柔和な声に反し、男性は精悍な顔つきだ。


「君達、ここの者じゃないね。村から来たのかな」

「ま、また見抜かれた……!?」


私達、そんなに田舎くさい!?


「そうじゃないよ。この街には今、戒厳令が出ている。それを知らないのは外部の者だけだ」


まるで心を読まれたみたいだ。

男性は頬を緩めると、探るように目を細める。


「どうも訳ありみたいだね?」

「貴方こそ何者ですか。その口ぶりだと戒厳令は、全住民対象みたい、です……が……」


私達を庇うように立ったザン。しかし何かに気付いたのか、言葉が尻すぼみになった。


「いかにもだよ少年。だがね、私達にも使命があるのだ」

「えっと……?」

「君達、グレイザーを見たんだろう。彼についてどう思ったかね」


講演場でのパフォーマンスと、獣のような剣幕が脳裏に浮かぶ。実際に話をしたなんて、この人は夢にも思わないだろうが……


答えを聞く前に、男性はふと笑みをこぼした。


「先に質問に答えようか。私の名は、ゼノイ・グラウズ」


まさかという予感に、二の腕にサッと鳥肌が立つ。

一際強い風が吹く中、男は物々しく言った。



「群都市ビートグラウズ……その名付け親にして、前市長だ」

★読んでくれた皆様へのお願い★


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