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ド田舎の村娘だけど、是が非でも王になりたい!【毎日投稿】  作者: 今江彰人
第1部 【偉大なるキラー・ガール】

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4/30

4:変わらぬ男

守護者グレイザー。辺境を統べる群都市ビートグラウズ、その絶対的王者。


「グレイザー! こっち向いてーーーっ!」

「この街を救ってくれーーー!!」


誰もが拳を振り上げ、黄色い声援を送る。

私が息を呑んでいると、隣のエーネが呆けたように生唾を飲んだ。


「……もしもし、エディネアさん?」

「えっ? あっ」


はっと我に返った幼馴染は、少し恥ずかしそうにしている。

まあ実際格好良いし、圧倒されたけれど。私はもっと優しそうな人が────


「ここ一か月の、突発的な人口増大」


グレイザーが切り出すと、一転、場が静まり返った。


「流入元は、王都方面にある大都市『シュレッケン』。かの街の指導者が、とんでもねェ事態を引き起こした」

「シュレッケン……?」

「確か、音楽と観光業が盛んな街だ」


訝し気な表情で奥を眺めるザンが、補足してくれる。


「まだ詳しい事情は言えん。だが、件の()は……ほとんどが真実だ」


途端、講演場に凄まじい恐怖の波紋が広がった。泣き出す者すらいる。

凄まじい喧騒の中────彼は、どこまでも冷静だった。


「明日の正午、広場で重大発表を行う。現在、補佐のエルドと最終調整に入った。既に我が軍……『ハンガーズ(飢えた群衆)』には概要を通達してある」


まさか。


まさか彼は、()()()なのだろうか?


「だ、大丈夫なのかよ、グレイザー!?」


ステージ前の男が声を張り上げた。


「いくらあんたでも、あんな『魔法使い』みたいな相手……!」

「…………」

「あんたが負けたら、辺境は……シュレッケンから逃げてきた俺らも含めて、全員終わりだ!!」

「負ける?」


守護者グレイザーは、星の如き眼光を放つ。



「この、オレが?」



瞬間、彼の背面の床から、一斉に火柱が噴き出た。

続いて左右の壁からもだ。何かしら、私の知らない類の装置があるらしい。


「っわあああっ!?」

「何だ!?」


炎は意思を持ったようにアーチを描き、民衆を囲う。

蒼だ。魔法とは違う、真っ青な炎。最強の群都市に相応しい、技術の結晶。


エーネとザンの悲鳴を聞きながら、私はその光景に魅入られていた。


「負けることなどありはしない! このグレイザーと、ハンガーズが共にある限り!」

「あ、ああっ、グレイザー……!」


「燃え上がれ、ビートグラウズの焔よ!! オレ達の街に栄光を!!!」


狂信者達の歓声が講演場を破裂させる。タワー自体が震えているかのようだ。


(……いいなぁ)


誰もが彼を崇拝し、無条件に従う。まさに()()()()()()()だ。


「あっ!」


飛び交う蒼炎から視線を外した私は、奥へ去っていく彼を見止めた。

ひとまずは、行かなければ。


「二人とも、追うよ!」

「追うったって……まさか」

「あ、アレやるんですか!?」


もちろん、そのまさかだ。

私が床に手を這わせると、二人の顔が引きつった。


「流石に危険だろ! 火が飛び交ってるし、もしバレたら……!」

「だからこそ、でしょ!」


逆に今だからこそバレない。この超絶危険で、エキサイティングな行為が。


苦い顔の二人が、私の体に左右から掴まる。エーネはもはや半泣きだった。


「いくよ?」


呼吸を整え、腕から先に神経を研ぎ澄ませる。

そして想像した。空を駆ける、己の姿を。



「【火炎跳躍(フレイム・バウンド)】……っ!!」



内臓が持ち上がる浮遊感。風を切る音に加え、後方に強い熱を感じる。


ほんの僅かの間。私達は、身体から放たれる炎を糧に、ステージへ向けて強く「跳躍」していた。


「よっ……あだっ!?」


ザン以外はぎこちない受け身で着地する。


「だ、大丈夫そう。誰もこっち見てないよ」

「し、死ぬかと思ったぁ……」

「フレイ、また出力が上がったか?」

「どうなんだろ……でも、エーネと違って遠隔で出せないのがね」


とにかく、市長は奥だ。


三人で身をかがめ、入口に漕ぎ着ける。

滑り込んだ通路には、ほとんど明かりはなかった。ただ薄暗く細い道が、無限にも思えるほど続いているだけだ。


「今更だがこれ、不法侵入だよな」

「本当に今更ですね……」


やがて、前方に薄らとドアが見えた。ノックするも返事は無い。


「ここじゃないのかな?」

「脇に階段もあったが、気は進まないな」


覚悟を決め、ノブに手をかけたその瞬間。


「────鼠が、三匹」


「っ!?」


地を鳴らす低音が聞こえた。硬直した私をよそに、ドアがひとりでに開く。


そこはまたしても薄暗く、不安になるような蒼黒い部屋だった。およそ自然とはかけ離れた、無機質な香りのする室内には────



「ぐ、グレイザー……!?」



守護者グレイザーは、ドアの方を向き悠々と腰かけながら。


全てを見透かした瞳で、私達を捉えていた。


「あァ、前置きはいらねェ」


近くで見る彼の存在は、「威圧感」と同義である。


「さっきから『見えてた』からな」

「え、見えてって……?」

「その髪は目に付くぞ」


グレイザーは頭部を指で叩いた後、猛禽類の眼差しを浴びせてくる。


「お前ら、余所者だな? シュレッケンの関係者でもねェ。ここに侵入するのは重罪だが、承知の上か」


エーネがわかりやすく喉を鳴らした。ザンが顎を引く。

私はただ────グレイザーから目が離せない。


「……だが、そうだな。今回は不問にしてやる」

「えっ?」

「大義を果たす前に、人助けってのも乙なものだ。なァ? エルド」

「ふふ、そうですね」


側に控えた部下が、柔らかい笑みを作る。焦げ茶の髪を切り揃えた若々しい女性だ。

私達が自己紹介を終えると、彼も少し居住まいを正した。


「グレイザー・ザ・フェンダー、ビートグラウズの守護者だ。こちらはエルド、オレの補佐を務めてくれている」

(あ、守護者って正式な呼び方なんだ)


どこか上の空で考えながら、私はずっと彼の隙を窺っていた。

他の配下も武器も無い。ザンとエーネには後で説明すれば良い。


ただ、どうする。今すぐに攻撃するか? それとも────


「おい」


そこで守護者が凄んだ。三人を捉えているようで、意識は私の方にある。


「わかっていると思うが、妙な気は起こすなよ」

(……牽制、されちゃったか)

「市長。此度は近隣の村から、お願いしたい事があって参りました」


剣呑な空気を払拭するように、ザンが声を上げた。


そうして私達は事情を説明する。

まあ、私はほとんど話さず、エーネも終始怯えていたけれど。


「あの、そこまで怖がらずとも。取って食ったりは致しません」

「えっ? あ、ごめんなさいっ……!」


エルドさんにも気遣われてるし!


「話はわかった。見ての通り我らは余裕が無いが……」


唸るグレイザー。エルドの表情を窺うと、少しだけ表情を緩めて、


「どの道、しばらくここは手薄になる。お前らの勇気に免じ、要求を呑むとしよう」

「……! 感謝します……!」

「ただし、提案がある」


まるでそれが本題かのように、グレイザーは口角を上げた。



「お前ら、オレに仕える気はねェか?」



幼馴染達がその場で固まった。エルドもだ。


「つ、つ、仕えるって……わ、わたし達が……!?」

「二度も言わせるな」


狼狽するエーネ。グレイザーは詰めるように身を乗り出す。


「そっちの男は見るからに腕が立つ。銀髪の娘は、戦闘は無理でも気立てが良さそうだ。仕事はいくらでもある。そして────」

「…………」

「ダイナと言ったか。お前からは、底知れない何かを感じる」


私は守護者を見返した。焦点の合わない瞳で、ただじっと。

そして理解する。きっと彼は、何も変わっていないのだ。


()()()()()()()()()


「私が、群都市に仕える……?」

「ああ、それなりの待遇を約束しよう。今は少しでも人手が欲しい」


私は口元を緩める。不安そうな仲間達の視線を浴びながら、半目で。


叫んだ。



「……バカじゃないの? 誰が従うか────グレイザーなんかにッ!!」

★読んでくれた皆様へのお願い★


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