13:機人マインド
「【煌炎────破壊砲】!!!」
最大出力で炎を放つ。
ブレイン砲を穿ったあの日よりも強く、ずっと強く。
「わお」
ライグリッドはおどけながら、私の渾身の一撃を真正面から受け止めた。
地を抉るような爆音。里全体が揺れる衝撃に、確かな手応えを感じる。
「はあああああっっ……!!」
ライグリッドは速い。普通に戦ってもスピードに翻弄されるだけだ。
ならば最初から、圧倒的物量で押しつぶしてしまえば良い。
「ど、どう!? これならっ!!」
「いや……!!」
マインドが腰を低くする。そこで、撫でるような笑いが聞こえた。
「んふふっ。いいじゃないか、お姉さん」
「────!?」
「ソフィの友には、似つかわしくない力だ」
広場を埋め尽くす炎が、瞬く間にかき消される。煙が晴れた先にいたのは────
「そ、そんなっ!?」
変わらぬ立ち姿の、ライグリッドだった。
「ちっ! だが、まだだ!」
「じゃあ行くよ?」
人外が視界から消える。瞬間、風を切る音がした。
「っ、ぐうっ……!!」
「ザンっ!!」
私の眼前に迫っていたライグリッドの一撃。それを、ザン・セイヴィアは刀で受け止めてくれた。
力のこもった腕に筋が浮く。対するライグリッドは、拳を押し付けるのみ。
「させるものか……フレイには、指一本触れさせないっ!!」
「格好良いじゃない、剣士さん」
「覚悟しろっ!!」
腱と素手の、目にも留まらぬ打ち合いが始まる。
エルドやレイティを打ち破った男の怒涛の連撃を、彼は事もなげに捌き続けた。
「っ、フレイ、アレを!!」
「う、うんっ!! ────【火炎跳躍】!!
彼の意図を組み、私はその場から離脱する。
マインドが狙いを定めたのはほぼ同時だった。
「【雷電裂手】」
ライグリッドの額を目掛けて突き進む、光の塊。
距離はほとんど無い。命中すれば彼とてただでは済まないだろう。
しかし────
「甘いよ、機人さん」
ライグリッドは首をあらぬ方向に曲げた。刀を振りかざしていたザンは顔を引き攣らせる。
軌道はそのまま、光は奥のモリアデス邸に直撃した。
天井が音を立てて崩れるも、住民の悲鳴は聞こえない。きっと彼女がやってくれたはずだ。
「ねえ、何か企んでる?」
「くっ……!!」
「見たいなぁ、君達の全力。でも君の剣技は、僕に届きそうもない」
「ザン、諦めないで。【破散電砲】」
マインドが複数の弾を放つ。一か所に留まらない彼を捉えるための散弾だ。
「好機ッ!!」
「【煌電破壊砲】!」
岩をも砕くザンの剣撃。それを囮として、マインドが放った必殺光線。
ライグリッドの腹部が弾けた。閃光で視界が遮られる。
「んっ」
「────!!」
「あぁ……光は効くんだよねぇ」
黒煙と煙が晴れ、状況が明らかになっていく。
彼の服は破けていた。脇腹から腰にかけて、ごっそり布地が無い。
そして肝心の肌は────軽い火傷の痕がある。ただ、それだけだ。
「信じられない」
腕から煙を発するマインドが、無表情のまま後ずさった。
「このままじゃ、エネルギーが」
「ところでさぁ、剣士さん」
刀を押さえつけるザンの顔を、ライグリッドは下から覗き込んだ。
「いつまでこの『おもちゃ』に付き合えばいいの?」
「────は……?」
小気味良い音がした。とはいっても、大抵は良い思い出の無い音だ。
例えるなら、皿を割ってしまった時だろうか。
ザンの愛刀が、今この瞬間────同じ音を立てて砕け散った。
「馬鹿、な…………っ……」
「消えなよ」
突きがみぞおちに直撃する。声を上げる間も無く、ザンの体は直線状に吹き飛ばされた。民家の壁が受け止めてくれなければ、更なる惨事になっていただろう。
「ザンッ!」
マインドの濁声。ザンの身を案じつつ、私は自分に言い聞かせた。
無駄ではない。彼らが時間を稼いでくれたおかげで────
「準備、完了……っ」
「ん?」
「受けてみろっっ!! 【無限の焔よ────!!」
雄叫びを上げ、天に左腕を掲げる。
最大限の集中をもって。森羅万象を破壊する────全身全霊の攻撃を!
「────────星を穿て】!!!!!」
エーネ、待っててね。
民家が密集している所にはなるべく着弾しないよう、気を遣った。
それ以外の全域を飲み込むつもりで、私は終末の隕石を降り注がせる。
もはや逃げ場など無い。
「マインド、来てっ!!」
「うん!」
二人でザンが飛ばされた方に走る。彼もしっかり意識はあるようだ。
全員を壁で囲み、最大級の衝撃に備える。
「【炎の防壁EX】!! よしっ、いけえええええっっっ!!!」
ライグリッド・モリアデスは、里を覆い尽くす火焔の雨を見上げていた。
そしてただ、誰にも聞こえぬ声で。
「面倒だなぁ」
夥しい炎の塊が、爆音と共に降り注ぐ。無尽蔵に思えた私の力────初めてその消耗を実感した時、信じられない出来事が起こった。
ほとんどの隕石が、着弾の直前にかき消されていた。特に建物に当たりそうなものは、残らず消滅する。
全てが終わったのち、私は見た。本能が拒否する、恐るべき光景を。
「君は運が悪いねぇ」
ライグリッド・モリアデスは、ほとんど負傷した様子も無く。
唯一変わらない青天の中、悠々と仁王立ちしていた。
「…………あ、あっ……あ……」
衝撃のあまり、バリアが解ける。
ザンが倒れ込んだまま光銃を構えたが、引き金を引けていなかった。
「連絡通路の扉に当たったみたいだよ? 仮に君の仲間がいても、出て来れないかもね」
「嘘、で、しょ……」
愕然として、もはや涙すら流れない。マインドが支えてくれなかったら、背面に倒れ込んでいただろう。
勝てない。
これだけ本気で戦ったのに。
絶大な犠牲を糧に手に入れた、絶大な力も────彼には届かない。
「嘘なんかじゃないよ」
ライグリッドはゆっくりと近づいてくる。
もう攻撃を繰り出そうとする者はいなかった。視界が真っ白になった私は、ただ後ずさるのみ。
「君たちは選択を誤った。余計にソフィを悲しませる結末を選んだんだ。残念ながら、お姉さん……」
眼前の少年は、微笑みながら腕を振りかざす。
「報いを受けないとね」
「待って」
しずしず立ち上がったのは、エネルギーもあまり残っていないマインドだ。
「フレイ怪我はさせられない。当然、ザンにも」
「へぇ、ならどうする?」
「…………」
機人はただ両腕を広げ、人外の前に立ち塞がった。
「ま、マインド!?」
「……君達は、甘い世界に慣れすぎなんだ」
ため息交じりに掲げられた拳の先は、マインドへ変わる。
幻影と彼が、まさにこの瞬間重なった。
「だっ、ダメっ────ダメっっ、マインドっ!!」
「フレイ、ありがとう」
今はもう、濁声さえも澄んで聞こえる。
「僕を信じてくれて。君といられて、僕は自分を確立できた」
「やだっ! やだっ、ねえっ!! ライグリッド、やるなら私をっ!!」
「出るな、フレイ!!」
「ああ……きっとそうだ」
造り物の瞳から、涙が伝った気がした。
「一度死んだ僕は。君を守るために、また蘇っ────」
彼が言い終えることは無かった。
ライグリッドの雷の如き攻撃が、その顔面を貫いたからだ。
右目が粉々になり、多数の部品が飛び散る。残った方の瞳も、一切の色を無くした。
マインドが脱力し、ライグリッドの体に体重を乗せた瞬間。
「…………っ、は……え………………ま……」
フレーは初めて、仲間の「死」を実感した。
「マイン、ド……マインドーーーーーーーッッッ!!!」
「あははははは、あはっ、はは、あはははははははははッッ!!」
自分でも知らない絶叫が空気を裂く。
「やっぱり機人も人間と同じだね! そうだよねぇ、誰だって頭を砕かれたら終わりだもんね!」
機人は力無くずり落ちた。もしもこれが人間なら、しばらくは動くのかもしれないけれど。彼にそんな常識は通用しない。
惨たらしくも静かな、成れの果てがそこにはあった。
「よくも……っ、よくもっっ!!」
「……………………殺して、やる」
再び光銃を構え、怨嗟の呻き声を発するザン。
私は顔を涙濡れにしながら、それにも勝る怨念の怒号を放つ。
「殺してやる、この手で殺してやるっ!! ライグリッド・モリアデス!! 私は、絶対にッ……!!」
「絶対に?」
冷ややかな視線。
決死の身代わりで一度は逸れたはずの拳が、再び私に向けられていた。
(あ……)
避けられない。防壁も間に合わない。
何度目かの死の予感は、かつてなく色濃くて────恐ろしかった。
「もう飽きたんだ」
人外はしとやかに嗤う。
「さようなら、炎のお姉さん」
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