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【完結】ド田舎の村娘だけど、是が非でも王になりたい!  作者: 今江彰人
第3部 【王を貫けプリンセス】

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12:消えろ

「王都に、侵攻……!」

「あれぇ。驚きが薄いなぁ。結構ビッグニュースだと思うけど」


事実を受け止めるために復唱する私を、ライグリッドは面白そうに眺める。


「もしかして、知ってた?」


やはり、ゼノイ・グラウズの言う通りだった。

連続誘拐とどう結びつくかはわからない。だが、王国が完全に弱体化した今、危機に見舞われるのは必定。


そしてその最たる候補は、他でもないモリアデスだ。


「なら、彼女達に『合図』する?」

「……バレていたか」

「当然さ。何をやっても無駄だけどね」


そこで、ライグリッドはマインドに顔を寄せる。


「ねえ、機人さんはどう思う? 王国軍の兵として許せない? それとも────彼女の怒りに同調してる?」

「決まってるよ。フレイの考えが、大体僕の考え」

「うわお、すごいね! 機人って基本国の所有物だろ? どうやって言いなりにしたの?」

「い、言いなりじゃないっ! あなたに関係無いわよっ……!」

「あはは、そうだよね。でも君達に関係無くとも、僕は教えてあげるよ」


ライグリッドは広場の中心へ歩いていく。

外套を翻して振り向いたそれは、形容し難いほど凶悪な「奪う者」の顔だ。



「支配や名声に興味は無い。僕はね────ただ、完全な王になりたいんだ」



心臓が跳ね上がる。少年が自分と重なる感覚に、眩暈がした。


「だってそうあるべきだから。王は最強で、誰も逆らわない。せいぜいこっちから利用するだけ。王国との停戦の際、僕が第一王女に魔道具を要求したようにね────あ、そうそう」


ライグリッドは思い出し笑いをした。


「あの時は傑作だったなぁ。最後まで僕に反発していた第一王子に、ちょっとした脅しをかけたんだよ」

「えっ?」


とても嫌な予感がした。私の隣で震えるレトアも同様らしい。


「それ以上僕に仇なすなら、一(・)番(・)大(・)切(・)な(・)も(・)の(・)を(・)奪(・)う(・)って。罰として相応の態度を取れって。そしたら彼、どうしたと思う?」

「ま、まさかっ!!」

「何と恋人を捨てたんだよ! そうまでして守りたかったんだろうねぇ。でも隣国の姫とは相容れなくて、同盟も上手くいってないらしいんだ。僕の一言のせいでさ!!」


嘘だ。こんなの、現実じゃない。起こっていいはずが無い。


「マニーさん、こんな奴にっ……!!」

「本当にすごいよね、僕って」


彼は軽やかに一回転する。その内に、里の全てを見渡したようだった。


「あの日、両親は二人がかりでも僕に敗れた。歯向かってきた大人はみんなぶっ飛ばされて、哀れな彼女は、里から身を投げることを選んだ」


八年。ソフィが高所恐怖症になった理由を知るまでに、これだけの年月がかかってしまった。


「でもね、炎のお姉さん。僕は約束を果たさせただけさ。しきたりを変える責任と言って、僕すら長の候補から外し、自らの信条を汚した奴らに。最強の者が長になるって話はどこいったのかなぁ?」

「え、エーネはそれ知ってるの……?」

「さあね。でも僕は誰よりソフィを想っていたよ。常に気遣って、いじめっ子からも守ってあげた。それでも父さん達が裏切るんだから仕方ないよね!」


形成されていく────歪んだ価値観が。その変遷を今、私達は見ている。


「弱者に価値は無い。その言葉通り、弱者たるモリアデス家をみーんな、排除したんだ!!」


ライグリッドは笑いを噛み殺すように肩を揺らした。


「徹底的に作り替えたよ。外部の影響の温床たる連絡通路は塞いだ。逆らう者は新しく作らせた牢屋に入れて、学校も自給自足を担う機関として改造した。父さん達の築き上げたものはみんな奪った。そこは間違いなく、僕だけが力を持つ世界だった……!」


でもね、と彼は小さく指を立てる。


「日に日に乾いていったんだ。満足できなかった。ソフィの遺体は見つけられなかったし……まさか辺境にいるなんて盲点だったよ」

「…………」

「可哀想に。全て父さん達のせいだ。彼女を無意味に縛るから、里にもいられなくなってしまった」


彼は天を仰ぐ。

曇天と星のノーブルタワー。光の届かぬ避難豪と来て────


今日は、憎らしいほどに青天だ。


「僕は考えた。どうすれば満たせるか。自分だけの王国が成るか。そして決めた。少しでも僕に歯向かいうる強者を、みんな手元に置いてしまおうって」


恍惚としたその表情は、エーネと同じ顔ながら、一度も見たことないものだった。


「道行く強者に話しかけ、勝負を挑んだ。ちょっとは期待してたけど、みんな弱かった。命乞いまでするやつもいたよ」


あっ、と手を叩くライグリッド。


「でもグレイザーは凄かった。流石は群都市の守護者だ……まあ、今となっては同じことだけど」

「やはりあの場所で……!」

「うふふっ。彼があそこを通っていなかったら、もっと早く君達に出会っていたかも。そんなこんなで最終的に、シュレッケンの事態が動いたのを察知して……僕はソフィを見つけた」


彼女が最後に見せた表情は至高だったと、ライグリッドは語る。

積年の恐怖が爆発した、この世の終わりのような顔だったと。


「っ、このッ……!!」

「そうだ、最後にこれも教えてあげよう。捕らえた者達と、ソフィをこれからどうするか」


私はごくりと唾を飲む。どうか対処できる内容であってほしいと、切に願って。


しかし────



「何もしないよ」



それはシュレッケン以来の────希望が打ち砕かれた瞬間だった。


「は…………?」

「何もしない。一生僕の手元に置いておく。それが、僕の王国の礎なんだ」


ライグリッドは両腕を広げて嗤う。

誰にも咎められない、彼の独壇場で。


「見知らぬ強者も家族も、全ては僕の足元さ! 誰もが死に絶えるまで、僕は王として居続ける! 独裁? 専制? 呼び名は何だっていい。いずれにせよ、最高だろう?」


ライグリッド・モリアデスは、まごうことなき人外であった。


子供の頃から彼の成長は止まっている。ただ、そのおぞましい力だけが……分不相応な精神に宿り、先行し続けているのだ。



「数多の人間の無念の上で、僕は今日も生きている!! 他者が築いたその何もかもを! 最強たる僕が、この手で握っているんだ!!」



彼の高笑いは何だか懐かしかった。

エーネがツボに入った時、稀にこんな激しい笑い方をするのである。


────『あはは、あはっ、あはははっっ……!! フレイ、ほ、本当に何やってるんですか……!!』

────『う、うるさいなぁ、そんな笑わなくてもいいじゃん!』

────『いや、流石にこれは笑うだろ。見ろ、エーネが窒息しそうだ』


(……私は)


拳に爪が食い込んだ。噛み締めていた唇に、少し血が滲む。


(私は、エーネのために)


────『良い? あたし達と約束して。限界の限界まで、モリアデスとの交戦は控えること』


このまま過ごせば、私達はどうなるだろう。少しして、はっきり答えが出た。

きっと無事に帰されるのだ。何故なら彼は、約(・)束(・)を(・)破(・)ら(・)な(・)い(・)か(・)ら(・)。


里の良さを伝えてほしいなんて、当然方便だ。虚偽の噂が流れることにより、新たな獲物の訪れを待っているのである。


そして今ならわかる。わざわざ私達がその役に選ばれた理由が。


(ただ、それが気持ち良いから……)


仲間が捕らわれているとわかっていながら、里を後にすることしかできない私達を。最強の王として見届けたいからだ。


もし今、何もしなければ────



『それが、『偉大な人間』って言える?』



「あ……っ」

「フレイ?」

「どうしたの、お姉さん」


『君の夢は叶う? このまま逃げて、それで果たされるの?』


消えたはずの幻影────ではない。


本来愛した彼の影が。今、私に寄り添ってくれている。



『僕は信じてるよ、フレイ。ずっと信じてる。僕の分まで、君が必ず────』



「────偉大な存在に、なることを」



私は俯いていた。じっと手のひらを見つめ、思い浮かんだ言葉を反芻する。


「フレイ、おい、しっかり……」


私は履き違えていた。また間違った。

一度は逸れた道だとしても、私の中には、『私自身の誓い』があるのに。



────『偉大な存在に────君(・)が(・)な(・)る(・)ん(・)だ(・)、(・)フ(・)レ(・)イ(・)』




今ここでこいつを逃せば。きっと、永遠に後悔することになる。



「レトア」


自分でも驚くほど、肝の据わった声が出た。


「里の人達を、全員避難させて」

「えっ……えっ!?」

「レトアならできる。私、信じてるから」


少女は愚かではない。私が通信機を手渡すと、まるで泣き出す寸前の赤子のような顔をした。

それでも、レトア・ロベインは。


「わ、わかったわっ!!」


かつて街を背負った一人として、確固たる足取りで踏み出していく。


「フレイ、君は」

「ザン、マインド」


ライグリッドは気付けば遠くにいた。銀髪と外套を風に靡かせ、興味深そうにこちらを見ている。


「私さ、いつも無茶ばっかで……結構失敗続きだよね。迷惑かけてごめん」

「……そうだな。グレイザーの時も、最初ピューレに会った時も。お前には毎回ハラハラさせられる」

「とりあえず、僕はいけるよ」


一足先に声を上げたマインドは、くりくりとした可愛らしい瞳で。


「エーネには笑っていてほしい。彼女と一緒に、フレイが見る景色を見たい」

「全く。こんな無茶な旅になるなら、是が非でも止めるべきだったか」


額を押さえるザン。気苦労のあまり皺ができないか心配だ。

しかし次の瞬間、義兄は徐に刀の柄を掴む。


「だが、俺にも約束がある。征こう……かけがえのない、幼馴染のために」

「うん……っ!」


「ふふふふっ、うふふふふッ」


この距離から既に、ライグリッドの姿がブレて見える。全てを刈り取る四肢が、今にも伸びてくるような気さえした。


「あぁ、殺気を感じる。嬉しいよ。こんな目をする人間がまだいるなんて」


「首領ライグリッド・モリアデス。エーネの……私の大切な人の、宿敵!!」


火の粉を纏った腕を突き出す。もう止める者はいなかった。


殺すためでも、見知らぬ誰かを救うためでもない。

ただ、私達の未来のために。



「今ここで────消えてもらうッ!!」


「あはっ……!!」



彼女とよく似た人外は────友愛の欠片も無い笑みを貼り付けた。

★読んでくれた皆様へのお願い★


こんにちは、今江彰人です! 本作を少しでも面白いと感じて頂けたら、


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