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ド田舎の村娘だけど、是が非でも王になりたい!  作者: 今江彰人
第3部 【王を貫けプリンセス】

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11:生きていてくれて

今日に始まった話ではない。

彼に啖呵を切り、その過去を知り────再会するに至るまで。


グレイザーはソフィの瞳越しに、別人の影を視ている。


「話を聞いた時は、自分に似てるって思わなかったんですけど……もしかして、見た目とか?」


何故問うのか。それはひとえに、彼がどこか無理をしているように思えるからだ。

自他ともに厳しいグレイザー。しかし要所から溢れる気遣いに、彼の後悔のようなものが感じられる。


「もしわたしの存在が、グレイザーの柔らかい部分に刺さってるんだとしたら……ごめんなさい」

「自惚れるな。リアンのことなど、お前に関係無い」

「じゃあどうして、そんな辛そうな顔するんですか」


グレイザーは目を伏せる。ここで退いてはいけないと思った。


「グレイザー、話してくれませんか? それで心が軽くなるなら、わたしは何だって聞きます」

「…………オレは……」


外套の裾を握りながら、ソフィが懸命に待っていたその時。


「! 誰だッ!!」


グレイザーが目を剥く。通路の奥で、何かが割れる音がしたからだ。

彼はソフィを庇うように立ち塞がるが────


「ソフィ……?」


眼前に現れた人物に、ソフィネア・モリアデスは息が止まった。



「父……さん……?」



見紛うはずがない。例えどれほど見すぼらしく、かつての威厳が欠片も無くなっていても。


「ソフィ、生きていたのか」

「っ……!!」


それはこっちのセリフだ────言葉を飲み込み、魔法の構えを取る。


「知らない! あの日わたしを殺そうとした、父さんと母さんなんて……!!」


グレイザーもまた臨戦態勢だった。多くは没収されたようだが、まだ無数に武器を隠し持っているらしい。


「邪魔をするなら切り刻む。そこをどけ、モリアデス」

「……聞けない相談だ。こうして再び、娘に会えたのだから」


落とした料理皿を踏み越え、一歩ずつ近づいてくる父。

瘦せこけた頬と顔についた傷が、鮮明になっていく。


「やはりライの話を信じているんだな。ソフィ、あの日は」

「う、うるさいっ! 今更二人の言葉なんて、き、聞きたくない!!」

「……そうだろうね。我らはもう、取り返しのつかないことをしてしまった」


父は悲しげに告げると、ふと踵を返した。


「だが、もしお前が良ければ……来てほしい。妻もそこにいるんだ」


そのまま去っていく父。ソフィはグレイザーと顔を見合わせる。


「どうする。この距離なら殺害は容易だ」

「…………っ」


この先は通り道だ。もし両親が立ちはだかるのであれば、下さねばならないだろう。


(でも……)


彼の顔、声、足取り。それら全てが一切の敵意を感じさせない。もはや戦うことも忘れてしまったような、変わり果てた姿だった。


「ついていっても、良いですか」


ソフィは消え入るような声で。


「父さんと母さんが、待ってるって……わ、わたしは……」

「はっ。どうせ避けては通れん」


グレイザーは初めからわかっていたかのように、ぶっきらぼうに言った。


「手短に済ませろ」


歩くと一際大きなフロアに出た。縦や横幅だけでなく、天井も高い。地表との隙間からは日が差し込んでいる。

驚くべきことに、中心には建物があった。大きくは無いが、日々暮らすには申し分ない住居だ。小さな畑と水汲み場もある。


両親が並んで立っていたのは、玄関の前だった。


「ソフィ」


懐かしく忌まわしい母の声。ソフィはすぐに返事をすることができない。

以前より縮んだ二人。やはり、つぎはぎの衣服では隠せないほどに古傷だらけだ。


「おかえりなさい。また会えて、何よりだわ」

「母さん……」

「大きくなって、随分背も伸びた」


どの口が言っているのだろう。

ソフィは歯を食いしばり、精一杯の敵意を向ける。


「生きててどう思った? あの晩わたしを殺そうとしてたくせに……!」

「違う、ソフィ。改めて言うが、そのことは────」

「何が違うっていうんですか! しきたりなんか無ければ、いつだってわたしを捨てたいと思ってた! その決心がついただけだったんですよね……!」

「そうではない! 我らはお前を、跡継ぎから外そうとしていたんだ。断じて、殺そうとなどするものか!」


父の剣幕に少し圧される。眼力だけは昔と変わらない。


「しかし、もう手遅れだった。ライの言う通り、最初から『すべきこと』はわかっていたのだ。なのに世間体を気にして、お前達の……ソフィの気持ちと、ライが信じていたものを蔑ろにした」

「何を……何を、今更……!」


ペトレの事が思い起こされた。全てを見限っていた彼女が、母に抱かれて涙を流すのを見て、心から安堵したものだ。

しかし自分が似た状況に置かれると、彼女の気持ちが痛いほどわかる。


切に語る両親を見ても────喉に何かがつっかえて、言葉が出てこない。


「ライは言った。我らは二人を欺いたのだと。首領は最強でなければと無理な教育を施し。弱者に価値は無いと、歪んだ価値観を押し付けた。そして責任の取り方を間違えた我らは、あの子に糾弾され……全てを失ったのだ」


父はとても苦しそうだった。対する母は、涙すら浮かべている。


「八年経った今でも、私は反論が思い浮かばないわ。道を踏み外した……その結果、あのような怪物を生み出してしまった」

「ソフィ」


二人は居住まいを正す。同時に首を垂れ、弱々しい声で。


「すまなかった。お前の大切な時間を奪ってしまった事。心から悔やんでいる」

 

「う……う、っ……」


絶対に泣くものか。その一心で、ソフィは再び歯を食いしばる。


自分も抱き着くことができたなら、どれほど良かっただろう。こうも心の傷が深かったことを、改めて思い知る。


「黙って聞いていれば」


突然、無言だったグレイザーが一歩踏み出した。そのまま父の胸倉を掴む。


「毒にも薬もならん事ををぐちぐちと! お前ら家族は、本当に無駄話が好きだな!」

「ちょっ……! ぐ、グレイザー!!」

「昔話は不要だ! 戦士なら、謝罪なんぞ手早く済ませて状況を分析しろ!!」


低く吠えるような怒声にも、両親はあまり反応は見せなかったが、やはり打ちひしがれているように見えた。


「何故捕虜となったオレ達がここにいるか、考えたらわからねェか? 突っ立ってる暇があったら、こいつに食料でも渡してやれ!」

「……ああ、そうか」


母が得心したような顔で、初めて少し口角を上げた。


「今こそ。少しだけでも、報いる時なのね」


建物に招き入れられる。二人で小さなテーブルに座ると、大きなパンが運ばれてきた。


「すまない、野菜はもう切れていて」


これはきっと二人の食事だ。階下の捕虜と違い、何年もここで暮らしていながら、限界まで質素な暮らしを強いられているらしい。


「……良いの?」

「もちろんだ、ソフィ。腹が減っただろう」

「昔みたいにご飯は作ってあげられないけど……せめてこれだけでも」


ソフィはしげしげとパンを眺める。八年ぶりに親から受け取った食事。


手が震えて、思わず取り落としそうになった。


「こんなに、食べれない」

「入る分だけで良い」


何かを誤魔化すように言う。実際、全部は入り切らなそうだ。

対する父の言葉はやはり違和感があった。以前なら、強くなるためと言って、残すなんて許さなかっただろうに。


「……いただきます」


グレイザーと両親が見守る中。ソフィは恐る恐るパンを頬張る。


(変なの……)


自分の感情が、見つからない。



(味なんてほとんど無いはずなのに……すごく、しょっぱい)



黙々と食事をする娘に、両親はこれまでの経緯を語ってくれた。


あの後、ソフィの治癒の甲斐あって一命を取り留めたこと。

しかし、もはやライの世界に二人の居場所は無かったこと。

見せしめとして地表を追われ、地下に住まわされるようになったこと。


そしてこの一か月強……次々と捕らわれる人間達を見ながら、見張りの目を盗んで食料を届ける以外、何もできずにいたこと。


「嬉しい」


母はしんみりと言う。


「例えそう思う資格が無くとも。こうしてソフィが生きていてくれたことが、たまらなく、嬉しい」


半分まで食べ終えたところで、ソフィはパンを置いた。


「……もう無理かも」


固く身の詰まったパンは、胃に溜まる。


「とりあえず、ご、ご馳走様でした」


ソフィはグレイザーを見上げた。できることなら彼にも────


「それで終わりか」

「え、は、はい……だから」

「なら、オレに寄こせ」


グレイザーは一切遠慮せず、食べかけのパンを指し示す。


「や、やっぱちょっとは空腹だったんじゃないですか……」

「黙れ」


グレイザーの睨みは本当に捕食者のようだ。元からそのつもりではあったが、ソフィは縮こまったままパンを差し出した。


今からグレイザーが残りを食べる────その事実を咀嚼した時。


(あ、あれ……?)


脳裏に、いつかの少女の言葉が蘇った。


────『え、だって……間接……』


「いただく」


律儀に言ったグレイザーは、パンに口を────


「あっ、ま、待って……!」

「何だ?」

「…………い、いや」

「なら黙っていろ」


彼の一口は自分の倍以上あり、パンはみるみる減っていく。


「ソフィ、どうした」

「え? あ、その。何でも……ないんですけど」

(な、何で? わたし、急に……フレイが変なこと言うからっ!)


嫌な汗出てくる。無性にその場から逃げ出したくなった。

そうして悶々と過ごし、しばらく経った頃。


「! 伏せろッ!!」


突如、グレイザーがソフィの肩を鷲掴みにし、テーブルの下に押しつけた。両親は状況を察したのか、皿を自分達の方へ寄せる。


一方のソフィは、衝撃のあまり絶賛消化中のパンを吐き出しかけた。


「良いか、合図があるまで動くな」

(ああああああ……っ!!)


ごつごつした手が、華奢な肩をすっぽりと覆う。痛いのに、心臓が早鐘を打ってそれどころではなかった。


(お、落ち着いてエーネ。じゃなくて、今はもうソフィ。これは、びっくりしてるだけで、ザンにだって触られたこと……あ、あったっけ? あれ? 思い出せないっ)

「おい、呼吸が荒いぞ。気配を消せ」

「は、はいっ!?」

「声を上げるな!!」

「ご、ごめんなさいいぃっ……!」


緊張し続けること十数秒。両親が頷いたのを見て、グレイザーは体を起こす。


「見張りだ。奴らが戻ってきた」


その言葉は、惑う少女を一瞬で現実に引き戻した。


「時間は残されていない。モリアデス、地上に上がる方法は?」

「一応出入口がある。ただ鍵が無いと開かない上、持っているのは────」

「なるほどな」


グレイザーはしばらく思案顔になり、


「鍵を手に出来れば良いが……出来なかった時はお前の出番だ、モイスティ」

「え?」

「考えがある。ここを発つぞ」


足早に出口へ向かうグレイザー。ソフィも慌てて後を追った。


「ソフィ」


優しい声色に振り返ると、両親は微笑をたたえている。


二人を足して二で割ると自分の顔になるのだと、何となく実感した。


「健闘を祈る」


「……行ってきます」


まさにその瞬間だった。



ソールフィネッジの地表から、地鳴りの如き爆音が轟いたのは。

★読んでくれた皆様へのお願い★


こんにちは、今江彰人です! 本作を少しでも面白いと感じて頂けたら、


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を是非よろしくお願いします! 強いモチベーションに繋がります!!

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