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ド田舎の村娘だけど、是が非でも王になりたい!  作者: 今江彰人
第3部 【王を貫けプリンセス】

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9:霧のソールフィネッジ

「おはよう、お姉さん」


ぬるい日差しの朝。

不眠を取り戻すべく爆睡していた私を、起こしに来た者が一人。


その人物は探し求める幼馴染によく似ていた。彼女より短いが全く同じ質感の髪に、良く似た鼻、口元。唯一色違いの瞳。


「ん……エー、ネ……っ!?」


飛び起きた私は、拍子にベッドから転げ落ちた。


「あはは、慌てすぎだよ」


エディネア・モイスティにそっくりな顔で、ライグリッドは笑う。


「君達は大切な客人なんだ。丁重に扱うに決まってるだろう?」」


昨日とほぼ変わらぬ装いだ。ゆったりした衣装が好みなのは、姉弟共通か。


ここは旧モリアデス邸。昨夜、ソールフィネッジの地表で、私達はエーネの全てを聞いた。彼が両親と決別した肝心の経緯は、濁されたままだけれど。


痛いほどわかる。エーネがこの男を頼り、愛したこと。そして最終的に、言葉にもできぬ恐れを抱いた理由が。


「さあ、下に降りてきて。剣士君や機人さんはもう準備万端みたい」

「……もう一人の子は?」

「さあ。僕が起きた時には既にいなかった」


レトアの事が心配だが、今は従うより他ない。


「……マニー」


決して聞かれぬよう、私は通信機を口に当てる。ゼノイ・グラウズの「最高の作戦」は、既にこちらにも伝わっていた。


「……色々早まっちゃった。すぐ準備して」

『は!? あたし達着いたばっか────』

「お願いっ、頼みの綱だから!!」


ライグリッドと共に階段を下ると、居間に大きなテーブルが見えた。


「あそこで父さん達に思い知らせたんだ。いわゆる、報いってやつさ」


彼はひそひそ声で言う。脳裏に、エーネが見たおぞましい光景が浮かんで来るようだった。


「フレイ」

「あっ、おはよう」

「おはよう。よく眠れた?」


玄関口には、警戒姿勢で立ちすくむザンと、相変わらずの無表情で手を振るマインドがいた。


「レトアについてだが、心配するな」


私の疑問を先取りして、ザンが耳打ちしてくる。


「最初に目が覚めて、今は里を探索してる。女子の方が警戒されにくいだろうって話だ」

「……ザンが言うなら、良いんだけど」

「ねえねえ、ちょっと」


ライグリッドが割って入った。不服そうな顔だ。


「何でそんな暗い感じなの? 君達もこれから未知を探検するんだよ?」


もしかして、と彼は間を置く。


「昨日の話がショック? 大切な仲間の正体が」

「っ、エーネをどうする気? あの子はどこ!」

「だから、会わせられないよ。どうするかなんて、ねぇ。ふふっ」

「このっ……!」

「フレイ」


ザンが細かく首を振った。私は落ち着くために唾を飲む。


「じゃ、僕は色々仕事があるから。案内はするけどね」


ライグリッドは文字通り、瞬く間に姿を消した。

揺れる空気も風を切る音も、何一つ感じない。


「……今のが、魔道具の力?」

「違う。ライグリッドは、()()()()()()。里を出入りする時にしか魔道具は使ってない」


マインドは目を伏せ、肩を揺らす。多分人間なら溜息をついている動きだ。



「どんな機人でも追いつけないよ。彼の人間離れした動きには」



実質的にライグリッドの支配下に置かれた今、私達の任務は二つだ。


まず、エーネとグレイザーの身柄をどうにか回収すること。

そして脱出経路の確保だ。最悪の場合、彼の目を盗んで逃げることになる。


ただ、未だにライグリッドの目的は不明だ。強者を監禁するのは何故か。私達に接触した理由。捕らえた者達を……エーネを、どうするつもりなのか。


「エーネ、ちゃんとご飯食べてるかな……」

「奴の口ぶりからして、無事ではあるはずだ。飲食店で情報収集するぞ」


道すがら、レトアが合流してきた。


「ごめんなさい、エーネさんの居場所はわからなかったわ。怪しい地下通路の入口は見つけたけど」

「十分だよ、ありがとうねレトアっ」

「えへへっ」


入った店は、質素ながらも綺麗にまとまっていた。

余所者に対する奇異の視線を感じながら、店員からメニューを受け取る。


「すまんマインド、電気は無さそうだ」

「日光を吸収するよ。最新型なら、本格的な太陽光発電があったのになぁ」

「マインドさんも大変そうね……」

「それで、どうする? とりあえず店員さんに捕虜の居場所を────」


「そんなの、僕に聞いてくれればいいのに」


私はメニューを取り落とした。いつの間にか正面に座っていたライグリッドに顔を覗き込まれる。


「捕虜達はこの下だよ。かつての連絡通路に牢獄を作ったんだ」

「な、何でここに!?」

(でも、レトアお手柄っ……!)

「ふふ、美味しいメニューを伝えようと思ってさ」


臨戦態勢に入る私達。しかし当の本人はどこ吹く風だ。


「やっぱこれだよね。ソフィも好きだったんだ」


彼が頬張るのは、トマトソースを使った色艶の良いパスタ。村の三人は誰も料理が得意ではなかったが、思えばエーネは酸味のある物を好んでいた。

あとはオニギリという、マインドくらいしか食べなかった米料理だ。


少し口に入れすぎな状態で咀嚼する姿は、姉とあまり変わらない。


「あ、下には行かないでね。通れはするけど、綺麗な場所じゃないし」


食べ終えた彼は姿を消した。食欲を失った私は、自分の料理に目を落とす。

彼が食べていたものと同じだ。薦められたからではなく、エーネが好きだったという理由で頼んだ。


「フレイ、ゆっくり食べて。今の君は空腹だ」


マインドが諭すように言う。


「きっと大丈夫。どうにかなるよ」

「……うん」


その後、私達は一際大きな建物を目指した。大体どこでも、外観のイメージは共通のようだ。


「あっ、学校に来たの?」


当然のように現れたライグリッド。邪魔をしているようにさえ思えてきた。


「ここはねぇ、未来の戦士達を育てる場だったんだ」

「今は違うのか?」

「ううん、今も僕の部下を育ててる。ただ────」


ライグリッドは校舎の端にある畑に目を向けた。


「現状は、食料生産を担う側面が強いかな? どうしても必要だから」


やがて、校舎から子供達が出てきた。確かに皆、頑丈な体付きだけれど、その顔はどこか浮かない。


というか先ほどから、大人がほとんど見当たらなかった。


「ねえ、ライグリッド」


私は慎重に話しかける。


「ご飯って全部ここで作るの? 外の物を買ったりとかは……」

「外の物?」


意味がわからないといった顔をされた。


「そんなの必要無いよ。第一、不可能だ」

「え?」


「この里に、出入り口なんて無い」


さも当然のように、ライグリッドは言ってのける。


「無意味だろう? 外部の影響を受けたら、里の在り方が揺らいでしまう」

「じゃ、じゃあ……この里の人は……!」

「もう八年になるかな。ソフィの捜索以外では、久しく外に出てないよ。まあ今は故あって────大人達が遠征中だけど」


彼は懐から魔道具を取り出す。球体の中に、白いもやが蠢いていた。


「安心してよ、出る時はこれで送ってあげるから。何人でも転送できるんだ」


笑い声は少女のようだ。高めの声と、エーネと同じ容姿が、余計にそう思わせるのだろうか。


無性にそこから逃れたくて、私は思わず走り出した。


「ふ、フレイさんっ!?」


突然のことに狼狽しながら、三人も後に続く。


里の端はそれほど遠くなかった。烈嶺を覆う濃霧は、光を全て吸収するかのようだ。頼りない柵を少し超えた先は、本能で恐れを抱かせる断崖絶壁。



「嬉しいよ、【決裂の崖】に興味を持ってくれて」



ザン達より早く隣に来た少年は、崖を見下ろし感傷に浸る。


「僕が名付けたんだ。ここは僕ら双子の、互いの運命が定まった場所さ」


場の記憶、と言うのだろうか。

モリアデス邸での光景よりも鮮明に、弟と向き合うエーネの姿が浮かんだ。


「どうかな、僕の世界は。住み良いだろう?」

「……そうかな。大人達がいないのはやりにくそうだけど」

「ふふっ、知りたいの? ()()()()()()()()()()()


全てを見透かす少年は、甘ったるい声で。



「あと僅かだね。烈嶺が誇る私軍────僕の操り人形ソウル・オブ・モリアデスが。()()()()()()()()()()()()()()()()()

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