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ド田舎の村娘だけど、是が非でも王になりたい!  作者: 今江彰人
第3部 【王を貫けプリンセス】

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7:目覚める人外

「ただいま。父さん、母さん? ライ?」


ドアを叩いても返事は無かった。明かりは消されているようだ。

どれほど込み入った話なのだろう。胃が痛くなる思いでノブを回す。


「……鍵が開いてる!」


一歩踏み込み、ふと息を吸ったその時。


本能で嫌悪感を抱くような異臭がした。


(こ、これっ、もしかして……!!)



間違いない。()()()()()()()だ。



「あ、ああっ、みんな!!」


不審者がまだ潜んでいるかもしれない、などと心配をする余裕は無かった。


そしてソフィは見つけることとなる。ぐったりと力尽き、テーブルにその身を横たわらせた────



父と、母の無残な姿を。



「────っっ!! はっ……!!??」


呼吸ができない。頭が真っ白になり、荷物を取り落とす。


「父さんっ!!?? 母さんっっ!!!」


床を這いながら近づくと、手にべっとりと血が付いた。胃から全てが逆流しそうになりながらも、ソフィは無我夢中で二人に手を当てる。


「な、何がっ、どうなって……!」


未熟な治癒では、満身創痍の彼らを完全に癒すことは叶わない。

それでも涙声で呼びかけていると、やがて父の指先が動く。


「そ……ふぃ……」

「と、父さんっ! な……何があったの!? ライはどこです!?」


彼は指で何かを示そうとしていた。それが不可能だと悟ると、脱力し、浅い呼吸をしながら。


「……ろ……」

「え……?」


「…………に、げ……」


ソフィが反射的に父から体を離した、その瞬間。



「こちょこちょ~」



相も変わらず陽気な声だった。驚きのあまり、吐きそうになる。


「っぎゃああああっ!!??」

「なーんて、今回は触ってないじゃないか。相変わらず怖がりなんだから」


窓際に座り、月明かりに照らされた少年が、視界の端に浮かび上がった。


ソフィは一目で理解する。この事件の犯人が、誰であるかを。



「おかえり、ソフィ」



ライグリッド・モリアデスは、全身血濡れになりながら────見たことのない満面の笑みをたたえていた。



「驚かせちゃった? でも安心して、決着はついたんだ」


物も言えず後ずさる姉に、口元を歪めたライは、徐に右目に手をかざす。



「これからは僕が首領だ。祝福してよ、ソフィ。約束を果たす時が来た」



まるで楽しくて仕方がないというように。


「な、ん……で……」

「二人はね、僕達を裏切ったんだよ。ソフィを縛り付けておきながら、結局ポリシーを破ったんだ。許せないだろ?」

「!? な、何言って」


ソフィは壁にもたれかかった。正常な思考が働いていない。


けれど、助けなくては。

憎くて恐ろしい両親だけれど。命を救わなければ。


「ああ、でも」


朦朧とする意識の中、再び治療に取り掛かろうとしたソフィに、ライは思い出したように言った。


「一つ仕事が残ってたね。さっきの話は父さん達だけの決定事項だし……このままじゃ、僕が首領だって認めてもらえないかも」


ライは舌なめずりをする。


「まだ残ってるよね、本来の首領が」

「…………え」

「みんなの中で、後継者はソフィのままだ。僕は決闘に勝ったけど、信じてもらえないかも。ねえ、ソフィ」


弟は血濡れの手を差し出した。



「改めて僕と戦ってよ。勝利条件は、相手を殺すこと」



また一歩、彼は踏み出す。

ソフィは潰れそうな声で泣くしかない。


「化けっ……物……!!」

「失礼だな、僕は嘘を本当にしてあげようとしてるだけさ」


彼の吐息まで血の臭いがするような気がした。


「君が勝てば、君が首領だ。何にでもなるといい。でも僕が勝ったら……父さんたちの言葉の()()()()、君を殺さないといけない」

「う、嘘……と、父さん達が、そんなっ……!!」

「ふふっ、怯えた目が一番可愛いよ」


もう何も信じられない。何一つ考えたくない。


「哀れなソフィ。そんな君に、僕が最後のチャンスをあげるよ。三十秒数えるから、戦いやすい場所に移動してごらん?」


三十秒。

……三十秒……?


(え……?)


三十秒経てばどうなるのか。

視界に物言わぬ両親が映る。カウントを始めようと、指を立てる弟が映る。


────『ライ。わたしはいつか……この里を出たい』


自分は何を言っていたのだろう。

もう全部、終わりじゃないか。


「どうしたの? 動かないの?」


けれど、本能が叫んでいる。


死にたくない。


そうだ、まだ死にたくない。死にたくない……!



「────ッッ────!!!」



だから、逃げなければ。


それは基本鈍重なソフィの、人生最高の走りだった。数秒で玄関に辿り着き、勢いそのまま魔法でドアを吹き飛ばす。


「あぐっ!!」


足を取られて頭から転ぶも、水の流れに乗って敷地の外へ。

いつもと変わらぬ夜の里。大人はまだそこそこの数が往来していた。


刃物のような殺気を背後に感じながら。ソフィは喉が枯れるほど叫んだ。



「だ、誰かっ……誰かあああああっっ!!」



「!? あれは、モリアデスさんの!」

「ソフィネア!? ち、血がっ……! 一体何が!」

「ら、ライがっ! と、父さん達を……わたしを!!」


その時、全住民が見た。


木っ端微塵になるモリアデス邸。中から稲妻の如く飛び出してくる少年を。


「ら、ライグリッド!?」

「ふふ、うふふふっ」


広場に降り立った死神は、遠くに位置する少女を捉えていた。


「ここでいいんだ?」

「ひっ!?」

「まだ不利かなぁ……じゃあ、里から相手を突き落とすのも勝利条件だ。生きては戻れないし、これなら水で何とかなるかもね?」


手についた血を舐め取ったライは、まるで友人を遊びに誘うような口調で。



「じゃあ始めよう。今度こそ……勝者が、世界を統べる王になる」


「────皆、ライグリッドを止めろ! ソフィネアを守るんだ!!」



大人達が、一斉に彼に掴みかかる。


「ソフィネア、急いでモリアデスさんの所に!」

「ち、違うっ、父さん達は、もう……!!」

「ぐああああっっ!?」


悲鳴が上がった。一人が塵のように吹き飛び、近くの塀に激突する。


「う、嘘だ……」

「邪魔するの? この僕の」

「うぐうっ!?」

「見えないよ。ソフィ、そこにいるよね……?」


一人、また一人と倒れていく。



「ソフィネア、逃げなさいっ! 遠くに……この里の外にっ!!」


「っっ!!」



ソフィは再び脱兎のごとく駆け出した。

目指すは里の端にある、たった一つの連絡通路だ。


「に、人間じゃない……!」


誰かが言った。今にも消え入りそうな声で。


「こいつっ、視界から消え────ぐっ!?」

「飛び道具だ! 遠くから攻めろ!」

「邪魔だよ、ねぇ……これは僕とソフィの戦いなんだ!!」


ライが腕を振るうだけで、矢や槍も弾かれる。

群がる誰もが、彼に傷一つ付けられない。


「ぎゃああああっ!!」


「ソフィ、どこに行くの? 逃げられると思ってないよねぇ?」


ついに包囲網を突破したライグリッドは、姉に向けて侵攻を始める。


一方。助けの甲斐あり、ソフィは連絡通路まで辿り着いていた。


(こ、これで……っ)


自分のために傷ついた住人が気がかりだ。誰もこちらに来てはいない。

けれど、逃げなければ死ぬ。皆の犠牲が無駄になる。


覚悟を決めたソフィは、床に設置された鉄扉に手をかけ────


「外になんか頼らないでよ」


玉を転がすような声がした。ひゅっとか細い息が漏れる。


彼が隣にいた。ソフィが振り返り、再び前に向き直ったこの一瞬の間に。


「僕達は、最強でなければいけないんだよ?」


ライは五指を扉に突き刺した。凹んだ入口は、もはや使い物にならない。


「さあ、雌雄を決しよう」

「う、うっ……うああああっっ!!」


やぶれかぶれだった。力の限り水の魔法を放ち続ける。


「ふふ」


渾身の攻撃を、ライは歩きながら平行移動して避け続けた。

そこには予備動作も無い。残像だけを残し、着実に進み続ける。


「あぁっ……!」

「弾切れかな? 次は?」

「ッ!!」


残りの魔力を総動員し、大きな水流をぶつける。

しかし彼は微動だにしない。何もかもが足りていないというように、水は存在しないかの如く扱われる。


「そ、んなっ……!!」


策を失い来た道を戻ると、案の定絶望的な光景が広がっていた。


倒れ伏す数多の大人と、呆然とする子供達。

皆息はあるようだが、立ち上がることもできない様子だ。


「安心してよ。この人達は殺さない。僕の大切な部下になるんだ」


ライは正面に移動していた。ソフィの背後には、里を囲む断崖絶壁。

そこは奇しくも、かつて弟に願いを伝えた場所だった。


「た、たす、けて……」


じりじりと後退する。背中が柵と隣り合ったタイミングで、へたり込むオーヴェン達と目が合った。


「……っ、ソフィネア……」

「あ、ああああっ……」


ソフィは一人だ。名家に生まれ、多くの人間が自分を知っていても。今や一人なのだ。


「違うよ、ソフィ」


心を読んだかのように、ライグリッドが口角を上げる。


「生まれた時から、君はずっと一人だ。理解者なんていなかった。僕が一番、君のことを思いやっていたよ」

「…………」

「魔法が使えると知った時、みんなが期待した。でも誰よりも君を見ていたから……僕は一番最初に気が付いたよ」


姉の頬を伝う涙を見て、ライは嗤った。


それは今まで見た中で、最も醜い笑顔だった。



「ああ、愚かなソフィ……君には無理だってわかっていたよ」



ここまでだ。もう、何もかもおしまいだ。


「ライ」


弟を呼ぶ。髪の隙間から見る顔は、自分と良く似て、まだまだ幼い。


「ライのこと……愛してました。大切な家族だって、思ってた」

「僕は今もそう思ってるよ」

「……きっとこの里は生まれ変わる。前よりずっと強くなって、誰にも負けない場所になる……」


ソフィは無防備に立った。喉元に迫る攻撃を、受け入れるかのように。


「でも……わたしはそんな里を見ることはない」

「当然だ。君は今から死ぬ……父さん達がそうさせた。嘘付きは要らない」

「ふ、ふふふ」


固まった唇で無理に笑い────ソフィは右目に手をかざした。


「ライの作る里なんて、こっちから願い下げだから」

「!!」

「里のみんな……今まで、ありがとうございました」


それは、ライグリッド・モリアデスによる唯一の油断だった。

臆病な姉にできるはずがないと、たかをくくっていたのだろう。


彼に殺されるくらいなら。


最期くらい、勇気を出して見せよう。



「永遠に、さよならです」



力を振り絞り、水で体を浮かす。ソフィはそのまま後ろに倒れ込んだ。


「しまった!!」


人知を超えた動きでも間に合わない。自らとどめを刺さんと伸ばされた手は、姉の体に届くことは無かった。


浮遊感。視界に映る夜空。今宵は星が綺麗だ。



「ソフィーーーーっっ!!」



霧の漂う戦闘民族の里、ソールフィネッジ。


その地を冠した名を付けられながら、最後まで力の及ばなかった少女────ソフィネア・モリアデスは。



歯ぎしりする弟の顔を見届けて、無限の闇へ落下していった。

★読んでくれた皆様へのお願い★


こんにちは、今江彰人です! 本作を少しでも面白いと感じて頂けたら、


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